株式投資で使われるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標が、REIT(不動産投資信託)にもあります。REITを選ぶ際の参考になるのでどのような指標があるのか、6つの指標を確認していきましょう。

株式とREITで使用する用語の比較は以下のようになっています。

それでは、1つ目の指標のFFOから見ていきましょう。

FFO(ファンズ・フロム・オペレーションズ)倍率

FFO倍率は、株価指標の「PER」に似ている指標です。FFOは、不動産賃貸から得られるキャッシュフロー(賃料キャッシュフロー)で、純利益から不動産売却益を引いて、減価償却費を加えて算出します。一口当たりのFFOで投資口価格(株価)を割ったものがFFO倍率です。

計算式は以下のようになります。

● FFO = 純利益 ― 不動産売却損益 + 減価償却費
● 一口当たりFFO = FFO ÷ 発行投資口数
● FFO倍率 = 投資口価格 ÷ 一口当たりFFO

減価償却とは、建物などの資産が、使用するにつれて財としての価値が減ずるのを費用として配分する会計上の手続きです。

FFOの計算において減価償却費を加えるのは、減価償却費という費用は本来発生する費用ではなく、建物の価値減少という非現金支出だからです。また、不動産売却損益を引いているのは、REITの賃料キャッシュフロー以外の損益だからです。

FFOはREITの「収益力の大きさ」と見ることができます。

FFO倍率は低いほど割安

FFO倍率は、株価指標PERと同様に低いほど割安と判断されます。収益性が高いのに、「投資口価格(株価)が低い」と市場で評価されていると見ることができるからです。

NAV(Net Asset Value)倍率

NAV倍率は、株式投資におけるPBRです。NAVは、REITが保有する時価ベースでの純資産(保有する不動産の時価ー負債)で、NAV倍率の計算式は以下のようになります。

● NAV倍率 = 投資口価格 ÷ 1口当たりNAV

NAV倍率が1倍を割っているということは、現在のREITの純資産よりも市場の評価が安いということなります。ただし、NAV倍率が高すぎると割高になりますが、不動産の値上がり期待がでるとNAV倍率は上がっていきます。

NAV倍率が高くなると、増資しても希薄化(1口当たりの価値が低下)の影響が少なくなるため、資金調達がスムーズにできるようになります。新たに不動産を購入するために頻繁に増資をするREITは、NAV倍率が1倍以上ある方が有利と考えることができるのです。

REITの増資

純資産ベースではNAV倍率が低ければ割安と判断されるものの、増資を考えるとNAV倍率は高い方が有利となります。それでは、REITにおける増資とはどのようなものなのでしょうか。

実は、増資はREITが成長するためには不可欠なものなのです。REITでは、増資は頻繁に行われていて、半年に1度1という銘柄もあります。REITは利益の9割以上を投資家に分配すれば法人税がかからないので、利益の100%を分配金に回す銘柄が多く、内部留保がないので、不動産を買うには借金を増やすか増資で資金調達するしかないのです。

増資をして新たに不動産を買えば、分配金を増やすことができます。NAV倍率では、PBRと違って1倍以上あるかどうかが目安となります。NAV倍率が1.2倍以上なら希薄化の影響は受けにくいと判断します。

J-REIT全体の直近10年間のNAV倍率の推移と10年間の平均は以下のようになります。青のラインがNAV倍率、オレンジのラインが10年間の平均です。

【NAV倍率】

【出典】不動産証券化協会

分配金利回り

REITは基本的にインカムゲインを狙う投資商品なので、分配金利回りが重視されます。株式投資では、配当利回りに該当します。計算式は以下のようになります。

● 分配金利回り = 年間分配金 ÷ 投資口価格

REITは半年ごとの決算なので、年間分配金は2期分を合計します。現在の分配金利回りは4%前後となっていますが、分配金利回りは高すぎても安すぎても注意が必要です。あまりにも高い利回り(6%以上)は、駅から遠い、築年数が古いといった質の低い物件が多いなど、問題を抱えていることがあるからです。一方、分配金利回りが低いと価格が割高なうえ、もらえる分配金が少なくなってしまいます。

過去10年間の分配金利回りの推移は以下のようになっています。J-REIT、長期金利、東証1部の配当利回りと比較しています。青のラインがJ-REITです。

【分配金利回り(10年間)】

【出典】不動産証券化協会

LTV(Loan To Value)比率

LTV比率は、資産総額に対して借入金などの有利子負債が占める割合です。株式の負債資本倍率(D/Eレシオ)に相当します。計算式は以下のようになります。

● LTV比率 = 有利子負債 ÷ 純資産 × 100

その銘柄がどのくらい借り入れしているかを表している指標で、低い方が金利上昇により悪影響を受けにくく、運用が安定すると考えられます。また、LTV比率が引き下げ傾向にある銘柄なら、財務状況が安定していると判断できます。

特に、不動産価格が高騰している時には、借入を使って積極的に物件を購入しているREITより、借入比率を下げている銘柄の方が安心感はあります。J-REIT全体のLTV比率は43.90%となっています。

J-REIT全体のLTVの分布は以下のようになります。

【LTV分布】

【出典】不動産証券化協会

REITの時価総額

REITの時価総額は、投資口価格に発行済み投資口数を掛けた値(株式の時価総額は株価×発行済み株式数)で、この値が大きいほど規模が大きいということになります。株式市場でも時価総額は大きい方が評価されますが、REITでも規模が大きい方がいいと判断します。

時価総額が大きいREITは、それだけ保有物件数やテナントの数が多く、分散効果が効いています。加えて、時価総額が大きい銘柄は、安定株主となる地銀など金融機関の保有比率が高くなる傾向があり、価格の下支え要因となっています。

2019年1月現在の時価総額上位銘柄は以下のようになります。(単位:百万円)

1 8951 日本ビルファンド投資法人 975,692
2 8952 ジャパンリアルエステイト投資法人 874,068
3 3462 野村不動産マスターファンド投資法人 652,160

J-REIT全体の時価総額と上場銘柄数は以下のようになります。上場銘柄数は60銘柄を超え、時価総額は12.5兆円を超えています。

【J-REIT時価総額と上場銘柄数】

【出典】不動産証券化協会

REITの上場時期

株式市場では新規上場(IPO)の人気はとても高く、公募価格の2~3倍になる銘柄もたくさんありますが、J-REITでは公募割れすることもあります。上場時期が早い方が有利だからです。REITは値上がり益を期待するのではなく、資産価値が評価されます。

上場が早ければ実績が豊富にある上、不動産市況が良くなかった2000年代前半や、リーマンショック後の2009~2011年頃の割安に取得した物件を持っていることが多いからです。現在のように不動産価格が高騰している環境では、新規のREITは評価されにくいのです。

まとめ

今回は、以下の6つの指標を株式と比較しました。カッコ内は株式指標

①FFO(PER)
②NAV(PBR)
③分配金利回り(配当利回り)
④LTV(D/Eレシオ)
⑤時価総額
⑥上場時期

株式と同じように使える指標もありますが、評価が逆の指標もあります。REIT投資において最も注目するべき指標は分配金利回りです。しかし、長期で安定した分配金を得ていくためにも、NAVやLTVなど他の指標もチェックするようにしましょう。

【記事筆者】

山下耕太郎
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業。証券会社でアナリスト、ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴は20年以上。現在は、日経225先物を中心に現物株・FX・CFDなど幅広い商品に投資しています。
保有資格:証券外務員1種