今年10月末に任期が満了となる注目のドラギ総裁。

ドラギ総裁はECB(欧州中央銀行)で量的緩和策やマイナス金利と呼ばれる非伝統的金融緩和策をスタートさせ、ドラギマジックとも呼ばれ、マーケットにインパクトを与えるための方法を考え実行してきた人物です。

11月からのECBでは新総裁としてラガルドIMF理事が就任します。

今回は、これまでのECBの金融政策というのは何を行ってきたのか、そしてラガルドECB新総裁はどのような人物なのか考えながら、相場の行方を考えてみたいと思います。

ECBが行った金融政策とは

2014年マイナス金利導入

2014年6月にECBは、下限金利-0.10%というマイナス金利を導入し世界を驚かせました。

これまでは金利の下限は0というのが常識であったため、ある意味下限がなくなったとも言える政策でした。

この頃、EU圏では、リーマンショックから回復しきれず物価上昇の伸びも鈍化していたことから、ドラギ総裁は早めに思い切った政策を打ち出してきたと言えるでしょう。

そして9月には矢継ぎ早に下限金利を-0.25%まで低下させマイナス幅を拡大させます。

しかしながらマイナス金利の効果というものも疑問視されており、景気が浮揚してこないことから新たな政策を2015年に行います。

2015年1月量的金融緩和策を決定

ECBは2015年1月22日に量的緩和策を行うという声明を公表し、マーケットが大きく揺れ動きました。内容としてはユーロ建ての国債や機関債を買取対象とするものです。

この狙いは1つで、マーケットから国債を買い取ることで巨額のお金が流れることになるため、お金の巡りがよくなり景気回復につながることを意図したものでした。

これは現在の日銀が行っている年間80兆円の国債買取オペと同様と言えるでしょう。ECBは2014年にも、カバードボンドと呼ばれる債券の買い取りを行っていましたが、あまり効果はありませんでした。

この2015年の決定で特徴的なのは

①月額600億ユーロと設定し、期間を2016年9月までは行うと明示したこと
②消費者物価上昇率が前年比で2%を超えていない場合は資産買取プログラムは延長することを示したこと

です。

つまり、物価が上昇するまでは債券を中央銀行が買ってお金はどんどん供給するから使ってねということになります。ゴールのないオープンエンド型の量的緩和策であったため、市場は株高に反応しユーロは売られる動きとなりました。

この時の値動きは下記のようになっています。

この緩和策を打ち出したことで株は回復していますが、ユーロはマイナス金利の影響もあり、下落しています。

この時、ドイツのような輸出産業中心の輸出国はユーロ安の恩恵を受ける一方で、他の輸入国の国々は痛手を受けたため、EU圏内で格差が広がったとも言われています。

2016年3月量的金融緩和拡大

量的金融緩和がスタートしてから1年以上経過し、物価上昇が鈍化し始めたため、ドラギ総裁は毎月買い入れを行っている債券の金額を拡大することを決定しました。

これまでは毎月600億ユーロでしたが、200億ユーロ増加させ800億ユーロに設定しています。また同時にマイナス金利幅を拡大させ-0.40%としました。これにより再度EU圏の景気は持ち直し始めることになります。

2016年12月量的金融緩和縮小

物価上昇が安定し、世界のファンダメンタルズも金融緩和の影響が出たのか安定し始めたことから、毎月買い入れていた800億ユーロを600億ユーロに減額することにしました。

ここからマーケットでは出口戦略が聞こえ始め、いつ買い入れを終了させ利上げモードに転換するのかという話が出始めます。

しかしここでのポイントは

「マーケットに緩和が終了すると思われないよう、かなりセンシティブに発言していた」

というところです。

緩和の終了が意識されると、株が急落したり金利が急騰したりするため、量的緩和の金額が減額することは緩和縮小ではないということを前面に押し出す形となりました。そして2017年にはさらに月額300億ユーロまで減額することなります。

これらがECBの行ってきた金融政策であり、行ってきた理由である大きな目標は「物価目標の達成」ということになります。しかし、イギリスのEU離脱の話やファンダメンタルズの悪化から急速に経済指標が悪化しており、再度緩和ムードが出始めます。

7月のECB政策会合のポイントと次回の予想

では、先日行われたドラギ総裁最後のECB政策会合の結果を簡潔に記載します。

ポイントは以下の3つです。

①景気の見通しは悪化している
②悪い状態が継続した場合は追加緩和を実施する可能性
③追加緩和に含みは持たせたものの、マーケットが期待している強力なコメントではなかった

マーケットではECB政策会合前の動きは利下げの可能性も踏まえて織り込んでいました。

しかしながらマイナス金利拡大とはならなかったことや追加緩和を確実に行うようなコメントが出なかったことから、ユーロが買い戻されるなどの動きが出ています。

そして米中関税問題が再度悪化しそうな局面であることも踏まえ 、世界経済のファンダメンタルズの悪化によりECBは9月に利下げする可能性が高まっていると言えるでしょう。

次期ECB総裁のラガルドIMF専務理事はどんな人物?

次期ECB総裁となるラガルドIMF専務理事はどんな人物かまとめてみたいと思います。

経歴は弁護士と元フランス財務相を歴任しており、IMF内の評判は上々の方だったようです。

ECB総裁というのは、EUの国々を管轄する中央銀行のような立ち位置となるため、金融知識や手腕もさることながら、各国中央銀行総裁と関係を築く政治能力も問われるポジションと言われています。

元々はドイツ中銀のバイドマン中銀総裁が候補に挙がっていましたが、政治能力の面を踏まえるとラガルド専務理事が適任ということになったようです。

次に金融政策のスタンスですが、ドラギ総裁のスタンスを踏襲する形になりそうです。どちらかと言えばハト派の人間であり、バイドマン総裁と比較するとECBの政策決定に対しての不透明感は後退したと言えるでしょう。

次期ラガルド総裁を意識しながらのトレードアイデアは

では次にECBの政策の方向性や次期新総裁のスタンスを意識しながらトレードに活かす方法を考えてみたいと思います。

まず次回9月のECB政策会合では利下げの様相が強くなってきました。しかしながら米中貿易問題の状況悪化や米国の金利低下につられ、ドル安ムードも強まっています。

そのため基本的にはユーロをショートにする方向でポジションを取ることがベターと想定されますが、しっかりみておくべきポイントはユーロ自身の「ポジションの傾き」と言えるでしょう。

マーケットは需給が一番大事なポイントでもあり、ユーロ売り材料がニュースで出ていたとしても往往にして先に織り込まれていることから逆に買い戻されることも多々あります。

そのためCMEの先物ポジション、クリック365のユーロのポジションというのはチェックしておくべきでしょう。方向性は次回のECB政策会合まではユーロ売り方向ですが、ユーロ円で取引を行うのか、ユーロドルで取引を行うかによって大きくポジションの取り方は変化する状況です。

買い戻しには十分注意しながらのポジショニングが大切と言えるでしょう。

次に新総裁のスタンスを考えると、急激な政策変更を好む方ではなく、ハト派バイアスが若干強い総裁となります。そのため急激にタカ派に転じることはないため、ユーロ高に大きく振れるということはなさそうです。

また景気が持ち直す過程でECBが政策変更を行うとしても、徐々にマーケットと対話をしながら政策変更を実施していくと想定されるため、新総裁のコメントや物価指標辺りはチェックしておくと良さそうです。

ECBが9月に利下げした後はユーロの方向感も少しなくなると想定できることから、心理的に負担のない金額でトレードすべき環境と言えるでしょう。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト