今年の4月以降、仮想通貨の上昇が急激に強まっています。4月上旬と比較してすでに価格は2倍以上となっており、2ヵ月で100%の上昇率を見せている仮想通貨のマーケットですが、背景としてはどのような理由があるのでしょうか。要因は色々言われていますのでその理由を1つ1つご紹介したいと思います。

ビットコイン上昇の背景は?

今回ビットコインが大きく上昇したのは、どのような背景からか、5つのポイントから見ていきましょう。

1.レンジブレイクによるストップロス発動

まず昨年末にビットコインが3,000ドル付近まで下落した際、大きなポイントであった4,000ドルを割れたことで、一旦ロングポジションのストップロスが発生し、大きく下落する動きとなりました。

その後下落方向を見る動きが強くなるものの底堅く推移しており、1月から4月まで3ヶ月間ボラティリティが小さい動きが続いています。

4,300ドル付近に上値の抵抗線があり何度も叩かれており、逆に下は3,000ドル前半でロングポジションを構築する動きも出ていたことから、両サイドどちらにも方向感が出ませんでした。

しかし、4,300ドルを突破したタイミングで一気に相場が動き始めます。

まずは昨年の大きなトレンドについていっているトレンドフォロワーのショートポジション、そして急落後戻り売りを仕掛けたショートポジションが溜まっており、その最初のストップロスの注文が溜まっているラインが4,300ドル越えにあったため、相場が一気に動きました。

そこからの上昇トレンドも、それまでショートポジションを持っていた投資家のギブアップ的な売りが継続したことから上昇圧力に起因したと考えられます。

2.米中貿易戦争からのEM通貨売りビットコイン買い

これは時期によって相関係数が高まったり低下したりするため一概に言えませんが、一般的に言われている理由です。

教科書的に言うと、最大の発行量が確定しているビットコインは、ある意味リスク回避時に選好される金や銀等のコモディティと似ていると言われており、リスク回避時には買われやすいと言われてます。

特に今回、米国が中国に対して急遽、追加関税を発動するというニュースが出た後、株が急落し為替は円高に動く局面でビットコインは上昇しました。

これは理由として複雑なのですが、米中貿易摩擦は先進国の景気に悪影響なのは周知の事実です。そして新興国の成長は先進国の景気に影響を受けざる得ないため、このようなことが起きると金利の高い新興国通貨が売られ、リスク回避資産と呼ばれる円や債券が買われます。

そしてビットコインも今回はリスク回避資産として使われていたと言えるでしょう。

また実は自国通貨を信用していない新興国というのは多いのが現状です。一例としてはトルコの国民は給料を全て別の資産に変える動きが現地で起きています。

それはトルコリラで保有していても年々下落しているため、トルコリラで持つよりは米ドルや他の通貨で資産を防衛する動きが出ている状況だからです。

今回のビットコイン上昇の局面でも、トルコリラ売りビットコイン買いや、ブラジルレアル売りビットコイン買い、アルゼンチンペソ売りビットコイン買いと、自国通貨の信用がない国々の通貨を売ってビットコインを買うという動きが出ていました。

しかしリスク回避資産として認識されて動く場合もあれば、株が上昇するタイミングでビットコインも上昇することもあるため、一概にリスク回避資産とも言えないのがビットコインです。

今後ビットコインがどちらの資産として認識されて動くかわかりませんが、いずれはその価値の認識の仕方は統一されることでしょう。

3.ドミナンスの変化

ドミナンスとは仮想通貨市場全体の時価総額から1つ1つの通貨がどのくらいの割合を占めているのかをチェックする指標です。

上昇した4月まではビットコインのBTCドミナンスは低下していました。つまりアルトコイン買い、ビットコイン売りが継続していたということです。全体の時価総額はアルトコインの割合が徐々に上昇しており、ビットコインは相対的に売られている環境が継続していました。

仮想通貨のマーケットは外国為替の世界と同様に通貨ペアで売買しており、対BTCでアルトコインを売買するプレイヤーが多く存在します。これは法定通貨と呼ばれる米ドルや日本円、ユーロ等の国の通貨を交換することは規制上難しいため、BTCを担保に売買をする取引所が世界各地で存在します。

つまりBTCを担保として入金し、「BTC売り〇〇買い」というポジションを取るということです。

このような取引がされるとドミナンスはビットコインに傾いているのか、アルトコインに傾いているのか全体のバランスを把握することができます。つまり中期的にもビットコインが売られにくい環境が整いつつあり、4月の動きでアルトコイン売りビットコイン買いの動きに転換したということが見て取れます。

このように仮想通貨市場全体のバランスを把握しておくことも中期的なトレードには必要なこととなります。

4.そもそもの流動性が低い市場

これは今回の動きに限らず仮想通貨全体に言えることですが、仮想通貨は、外国為替と違ってかなり取引量の少ないマーケットです。

ビットコインも仮想通貨では取引量が大きい方ですが、それでも他の投資商品と比較すると流動性が低いことは変わりないでしょう。流動性が低いと、大きな注文が市場に与えるインパクトは大きく、相場の値動きというのも大きくなりやすいと言えます。

流動性で一番意識しておくべきことは「売るときに売りたい値段で売りにくい」ということです。このようなリスクも仮想通貨のマーケットは内包していると言えるため覚えておきましょう。

またチャート上で見えている価格というのはあくまで参考値です。よく、すごい高値まで上昇したりしているような時もありますが、100円でも売買が成立していたらチャートとしては表示されるため、チャートの動きも参考値として見做すことがとても大切です。

大事なのは本当にその価格で大きな取引が成立していたのかを見極めることが重要です。付随して覚えておくようにしましょう。

5.チャート分析から転換と判断

最後にテクニカル分析から判断できることは、上値抵抗線をブレイクして下落相場から反転したと言えることです。

ファンダメンタルズ分析があまり機能しないマーケットと言われており、仮想通貨のトレーダーはテクニカル分析を重要視しています。その各トレーダーが着目しているテクニカル分析でトレンドが転換したとなるとポジション動向も一気に転換した状況です。

特に今回は米国、欧州の投資家のどちらからも大きな買いが淡々と入っていた様子で、大口の投資家が動いているのは相場のトレンドを作り出す重要な動きと言えます。

動向を把握するのはなかなか難しいですが、ニュースサイト等でも色々出ていることもあるためチェックすることは必須でしょう。

現状のマーケットで注意すべきこと

ここまで上昇した要因をいくつかご紹介しましたが、直近で注意すべきことは何なのかを最後簡単にご説明します。

米中貿易摩擦や景気後退懸念が収まるかどうか注視

上昇した要因に挙げた米中貿易摩擦ですが、これが一要因やきっかけとなり新興国通貨売りビットコイン買いの動きが続いています。つまりこれが収まる動きを見せた時はその反動がくるということです。ロングポジションを保有している場合はチェックすることをおすすめします。

先物ポジションがロング優勢となっていること

今まではトレンドがショートだったこともあり、先物ポジションではショートポジションが作られることが多かったですが、4月からの上昇以降、ショートポジションがなくなり、ロングポジションが作られています。

これは逆にいうと、ロングポジションを解消する売り注文が出やすい環境になっているということです。

トレンドは継続しやすいが深追いも禁物

ビットコインは一度200万円以上突破し大きな利益を出せた商品でもありました。いまだにそれを夢見ている個人投資家も少なくない様子です。しかしプレイヤーは個人から大口の機関投資家に変わってきています。

また先物の商品等まで誕生しており、値動きも収斂しやすい状況です。ボラティリティが低下するのは間違いなく、これを踏まえて機動的な売買を行うことが大切でしょう。

またこのように急に上昇すると再度300万円という予想が出たりするので、このような根拠ないロジックに惑わされず、冷静にルール通り取引を行うことが一番大切です。

その冷静さを失わないように気をつけてマーケットと対峙しましょう。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト