不景気の株高とはファンダメンタルズの悪化が進行する中、株の上昇が継続するという動きを示しています。このような動きは初心者の投資家の方にとっては理由がわからないと頭を悩ませるものであり、背景や理由を上手く整理できていない方が多いです。

ここでは不景気の株高についての背景や理由、そして対応法や考え方について解説したいと思います。

不景気の株高の動き

米国と中国の貿易戦争が再燃し、ファンダメンタルズが悪化する中、投資家も株の下落に対する備えや、為替市場では円高に対して備えを講じている動きが続いています。

大阪で開催されるG20で、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が会談するという話から、一旦リスクオフの巻き戻しが足元では起きている状況ですが、日本のファンダメンタルズが悪化していることは言うまでもなく、米国でも経済指標が昨年よりも悪化しているのは言うまでもありません。

しかし株が下落していない動きを見て、初心者の投資家の方は

「ファンダメンタルズが悪化していて貿易戦争も起きているから株はあとで下落する」

と考えてドル円をショートにしたり、日経平均先物でショートポジションを構築したり、米株の先物でショートポジションを構築したりする投資家が多いと思います。

そして現在の株の上昇の動きを信じずにそのまま評価損を抱えるということになりかねません。しかし冷静に考えて、この行動は短期的には勝てる考え方なのかを振り返ることが大切です。

例として上記の今年の動きを説明したいと思います。

米中の貿易戦争については株安材料であり、マーケットは当然ながら株安で反応していました。しかしながらFRBパウエル議長の利下げ示唆発言や、日本では黒田総裁の緩和の可能性を示唆する発言から、株は反発する動きとなっています。

通常なら貿易戦争とファンダメンタルズの悪化から株安を見込んでおり、その方向に賭けることが一見すると正しいように見えますが、今年は日本で夏の参議院選挙、そしてアメリカでは来年大統領選挙が行われることから、株安によって票が集まらなくなるリスクを無くす動きが出るため、ファンダメンタルズに関係なく景気刺激策を想像させる動きが必ず出るものです。

この動きは必ず予想出来るものであり、マーケットの動きが全員下落方向で見ている時ほど危ないものはありません。不景気の株高はセンチメントの動き、ポジションの傾きが重なって景気とは反対の動きが出ると言うことになります。

今回の「不景気の株高」が起きている要因を整理します。

ショートポジションが積み上がっていることからのポジション調整の買い戻しフローが上昇圧力に起因

選挙というイベントを考えていない投資家が多かったこと

政策金利の引き下げを株安要因と判断してトレードしていること

特に①が②と③の材料から作られたポジションのため、②と③を理由に①のポジションを作ったもののショートカバーのフローから株高が起きているということになります。

③については景気刺激策の1つであるため、株安要因ではありません。

しかし景気が悪化しているためこの行動を取っていることから、投資家は長期的に株価指数のショートポジションを作る動きが出ています。

不景気の株高に対応するには?

不景気の株高が起きる背景は上記の説明で理解できると思います。では今後起こり得る同じような局面をどのように考えてトレードに活かすべきなのかをご紹介したいと思います。

まず不景気の株高を予想するには下記の考え方が必要です。

現状のファンダメンタルズは悪いのか

景気が悪化している中で景気刺激策をすぐに打つためのイベントが残っているのか

景気悪化は短期的な要因なのか長期的な要因なのか

この3つは把握しておくべきでしょう。今回の米中貿易戦争とファンダメンタルズの悪化から不景気の株高を予想するために、上記の3つのポイントを見ながら考えてみたいと思います。

現状のファンダメンタルズは悪いのか

現状の経済指標をチェックすると、まず日本ではDIが大幅に悪化しており、企業の業績見通しも悪化しています。

米国でも中国との貿易戦争を受けて経済指標が全体的に悪化しており、底堅く見えますが、2017年辺りからジワジワと悪化の数字が出始めています。

つまり①の判断としては全体的に悪化していると認識すべきでしょう。

続いて②についてご説明します。

②景気が悪化している中で景気刺激策をすぐに打つためのイベントが残っているのか

①でファンダメンタルズが悪化していると認識した場合に行なってはいけないのは、その予想通りに株価指数先物等でショートポジションを構築することです。

①で認識した後に行うべきことは、「この状況が続いた時に近々で景気刺激策等、何か下支え手段を講じてくる可能性があるかどうか?」をチェックします。

今回であれば日本では夏の参議院選挙であり、アメリカでは来年の大統領選挙です。もともと大統領選挙の前年度は株価が下がらないと言われています。これは株が票の獲得に直結してしまうことから、選挙に勝つためにファンダメンタルズに関係なく景気刺激策を行い、株価を押し上げる行動を取る傾向が強いということです。

ファンダメンタルズは悪いため、中期的に見ると、徐々に効果が薄れてしまい、根っこから悪化している景気の悪化に対応できる訳ではないですが、短期的な株価の下支えにはなり、選挙までは景気刺激策の効果が持続するということです。

これを行なってしまうとファンダメンタルズとは関係なく、株価は今回のように反発したり上昇が継続したりすることからこの動きをトレードで取りに行くことが賢明とも言えるでしょう。

「③景気悪化は短期的な要因なのか長期的な要因なのか」

最後にこの景気の悪化は短期的な要因なのか長期的な要因なのか判断する必要があります。

これは中長期的なトレンドは上昇する中、米中貿易摩擦のような短期的なイベントで下落しており、かつ②のような景気刺激策を打つ可能性がある場合は、確実に上方向に賭けることが勝算が高いということになります。

では現時点でこれを判断するとした場合、現在のファンダメンタルズの悪化は2008年のリーマンショック以降に行なった日本の非伝統的大規模緩和(ETFの購入やマイナス金利)や米国のQEプログラム(資産買い入れプログラム)によって上昇した作為的な相場とも言えます。

これが持続性のあるものかどうかを判断しないといけません。アメリカのQEは現在止まっており、利上げ方向へFRBが舵を切っていました。

そして景気のサイクルを考えた場合に、10年程度で一旦景気のサイクルは転換すると言われており、リーマンショックから11年目となる中、歴史から考えたサイクルとしても一旦の株の調整は必要とも言えるでしょう。

そのため③の結論は「中長期的にファンダメンタルズの悪化は継続する」と判断できます。

このように整理して判断できることは、③の要因から中期的な株価指数のロングのポジションは保有出来ないものの、選挙絡みもあるため短期的に株を下押しする圧力はないため、下落した局面はロングで拾っていくという判断ができ、これが不景気の株高のトレンドに乗る考え方になります。

正確にいうと、トレンドの判断を行うと、実はマーケットのコンセンサスとは逆の判断になり不景気の株高が予想できていたとも言えるでしょう。

冷静に考えるととてもわかりやすい中期的な手法でありますが、不景気の株高は投資の初心者の方には周りの意見と逆に動いていることから結構引っかかりやすいマーケットの罠とも言える動きです。

もしも今後景気の悪化がニュースで出始めた場合は、一度上記の3つを頭の中で整理してみましょう。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト