こんにちは。元3メガ系証券会社でFXのスポットディーラーをしていたスイーツ大好きの中島 翔です。前回は、仮想通過マーケットのメインプレイヤーが個人投資家から機関投資家に変化してきているというお話をさせていただきました。今回は、消費税増税後の為替の値動きについて解説していきたいと思います。

10月1日から消費税増税が予定されています。やはり日本株やFX等で投資されている投資家の方にとっては、トレード判断にインパクトを与える内容になると思います。

この消費税増税後の為替の値動きはどのようになるのか、皆さん考えたことはあるでしょうか?基本的な金融ロジックを理解している投資家であればあるほど、この記事の内容を知っておいて損はないことでしょう。

理由としては「かなり大きなイレギュラーな動きをする可能性があるから」です。

ではまず消費税増税後に一般的に予想されやすい値動きから整理し、実際過去どのように動いているのか、その動きからどのように動きやすいと想定されるかを解説したいと思います。

消費税増税後に考えやすいシナリオ

最初に消費税増税後に想定しやすいシナリオ、ロジックをご紹介したいと思います。

まず消費税増税により消費税を10%まで引き上げた場合は、日本全体としては収入が変化しない中、価格が全体的に上昇することになるため、消費は鈍化すると想定されます。

消費の鈍化は景気に悪い影響を与えるのは想像に難くないと思います。そのため日本株全体が下落しやすいことも連想できることでしょう。

通常、日本株が下落した場合、外国為替がどのような動きになるかも想像しやすいと思います。

もちろん日本株は輸出企業が多いことから、円高=悪という動きで形成されているため、今回の場合も円高を連想することでしょう。

そして金利の動きは低下、金価格はリスク回避の動きから上昇というのが通常のロジックで考え得るシナリオであると思います。

では次に、過去消費税増税があった場合の外国為替の動きを確認してみましょう。

過去の消費税増税後の動き

1989年:消費税導入時期

最初は1989年にスタートした消費税導入時です。

この時の経済的背景は、1985年のプラザ合意を受けて円高不況に陥った日本経済が立ち直っていく過程に生まれたバブルの中で消費税が導入されました。円高不況により政府は大きな財政出動を行い、日銀は金融緩和を行いながら反転していくことになります。

為替の動きは、ドル円が1985年のプラザ合意の前は260円でしたが、その後急落。1988年1月には120円という史上最大の安値を更新する動きとなりました。

そして景気回復の過程で、消費税が1989年4月1日に導入され、その時のレートは132円77銭でしたが、円安が進み1990年には160円台まで円安が進行する動きとなります。

次に消費税が5%になったタイミングをチェックしましょう。

1997年:消費税5%への引き上げ

5%まで引き上げたタイミングは、消費税を導入してから8年経過した1997年4月1日です。その時のドル円のレートは121円93銭でした。 その後、1997年6月にはいったん111円台前半までドル安円高となりましたが、1998年1月には一時134円台となり、5%への税率引き上げ時から見ると約10%のドル高円安となりました。

最後に5%から8%へ消費税が引き上げられた時をチェックしましょう。

2014年:消費税が5%→8%への引き上げ

消費税が5%から8%へ引き上げられた日にちは2014年4月1日になります。その当時のドル円のレートは103円台半ばでした。

一時的にドル円に大きな動きはなく、株の動きがドル円の上値の重たさに繋がっていた様子で推移していましたが、4ヶ月後くらいから一気にドル円は上昇方向へトレンドが始まり、2014年12月には121円台まで上昇することとなります。

つまり税率を引き上げてから、8ヶ月程度でドル円は17%前後の上昇をすることになりました。

このように過去の消費税増税時から1年程度の値動きをチェックすると、全て円安方向で推移しているというのは覚えておくべきでしょう。

なぜ消費税増税が円安に繋がるのか?

ではここで、なぜ消費税増税をすると円安方向にいくのかと疑問に思う方もいるのではないでしょうか?答えは「円の実質的な価値が低下するから」ということになります。

消費税増税をするということは物価がその増税分値上がりすることとなります。言い換えると、今までは100円で買うことが出来ていたものが突然買えなくなるということです。これは円の価値が下がったことから買える量が減少したということになります。

これが円安の背景であり、基本的に他国では当たり前の動きとなっています。

しかしなぜ日本だけは他国と同様に自国株の下落→自国通貨や自国通貨安という動き方とならないのか?

それは日本の構成されている産業構造」がポイントとなります。

日本の産業は輸出企業が多く海外売上高比率の大きい企業も多い状況であり、かつ日本の高度成長期では輸出企業が日本の成長を牽引してきた背景があります。

輸出企業は海外の通貨で売上を得ることができ、その海外の通貨に関しては決算時の為替レートで円建てにより計上することから、円高になると1ドルあたりの売上が減少してしまうことになります。

そのため輸出企業としては円安=善となっており、その産業が日本を牽引してきたことから、株の下落が円高にいくというのが日本の基本的な動き方となっています。

これは日本の変わった特徴として捉えておくといいでしょう。

消費税増税を控えた資産運用方法

では今年のイベントと消費税増税も踏まえて、どのように資産運用すべきか考えてみたいと思います。

まず8月はお盆休みがあり、それまでに株のポジション等を整理する機関投資家が増加することから、需給環境は悪化する時期になります。

つまり円高に行きやすい時期ということです。

しかしながら9月には企業決算があり、企業の想定為替レートは108円台が多くなっています。

そして10月には消費税増税があることを考えると、8月のお盆までの円高がスワップポイントも含めた中期的な運用のタイミングとしてはとてもいいタイミングと考えることもできると思います。

このように短期的なイベント、そして中期的なイベントを考慮しながら投資するタイミングを考えるというのは資産運用を行う上で必要となります。

もちろん当たる、当たらないはありますが、繰り返しフィードバックしながら何が予想通りにならなかったのか?、そしてなぜ自分自身が考えたシナリオ通りにならなかったのかを繰り返し考えて精度をあげていくことが重要です。

FXをする投資家にとっては、円キャリートレードを行うにあたって、これだけ過去のアノマリーから予想しやすいイベントも少なく、また消費税増税のようなイベントはなかなかないイベントであるため、しっかりと内容を理解してトレードチャンスを逃さないようにすることが大事でしょう。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト