相場という世界では「一寸先は闇」と言われたり、予想外のことが起きたりするのが常ですが、やはりある程度人間が行なっている投資行動が値動きの変化の要因になるため、相場の癖と言うものが存在します。

この相場の癖のことを投資家の間では「アノマリー」と言われており、年間のアノマリーやイベント毎のアノマリー等色々な癖があるため、ここでは代表的なアノマリーを解説していきます。

相場のアノマリーとは?

まず最初にアノマリーとは何なのか?についてご説明します。

アノマリーとは簡単に言うと、「相場の癖」ですが、具体的には「理由が不明なものの、なぜか決まったタイミングで同じように動く傾向」というものです。

ではどのようなアノマリーがあるのか紹介していきたいと思います。

日本株の1年間のアノマリー

まず最初に1年間の中で月によってあるアノマリーをご紹介します。

3月の株式市場は上昇し、為替は円安方向にいきやすい

まず3月のアノマリーは株式市場が上昇しやすく、為替は円安方向に向かいやすいと言われています。

この傾向の理由として、まず3月は配当の権利確定の企業が多く、株式を保有することによって配当を得ることができるため、配当取りのフローが流入しやすいということです。この動きは株式市場にはプラスとなります。

次に3月決算の企業が多く、日本全体として大きく株価を落とすことはできないことから、政府関係者から株式市場を下支えするようなコメントも見られることがあります。

為替については、日本は輸出企業が多く、円高にいくと3月決算で為替差損が発生してしまい決算に影響することから、日銀や政府関係者から円高にいくと為替を下支えするような発言が出ることが多いです。

為替については、株が上昇しやすいことで、為替もドル円をメインに円安に振れやすい環境となっています。

5月は売れ(sell in may)

これはとても有名なアノマリーです。株式市場は5月で一旦天井をつけ下落しやすいというアノマリーがあります。

しかしこのアノマリーも、日本株やドル円で見ると足元数年間は当てはまっていないようなデータになっていることなど、「buy in may」ではないかと言われるくらいアノマリーは薄れています。

8月の株式市場は下落しやすい

次に8月ですが、8月は「夏枯れ相場」と言われており、基本的に海外勢が休日に入ったり、日本はお盆の休日だったりと、売買自体の取引量が大幅に低下することから、このように呼ばれています。

具体的にどのような行動が起きるかと言うと、

「長期休暇に入る前には一旦ポジションを閉じておく」

という行動を投資家は取るため、株式のポジションも一旦手仕舞いすることが多いため、上値が重く推移しやすいです。

9月の株式市場は上昇しやすく為替は円安方向へ(8月後半が仕込み時期)

次にお盆明けのアノマリーです。

お盆までは上述の通り、一旦ポジションをフラットにして休んでいますが、9月には日本の企業は中間決算を迎えます。

そこで8月一旦解消したポジションを作りにいく機関投資家が増えてくるため、自動的に買いフローが生まれやすく、9月決算を意識した悪材料を出さないような動きが見られ始めることから、株式市場は底堅く推移して、為替も日本株につられる形で円安方向で推移しやすくなっています。

12月の株式市場は下落しやすい

最後に年末の動きですが、この時期は外国人投資家はほぼお休みに入り、証券会社のトレーダーもクリスマス等でプライベートが忙しくなることから基本的に長期休暇を取得し始めます。

そのため11月後半から12月にかけて休暇に向けたポジション調整のフローが入ることから、上値が重く推移しやすいと言われています。

もちろん年末は当てはまらないことも往往にしてあるため、注意しましょう。

ジブリの呪い

これはマーケット界隈でも有名なアノマリーで、金曜日にジブリの映画が放映されるときは、週明けの月曜日は円高になりやすいというものです。

例としては、2011年7月8日の金曜日に「魔女の宅急便」が日本テレビの金曜ロードショーで放映されました。

その金曜日には米国雇用統計も同時に公表され、予想を86%下回る雇用統計が発表され、ドル円は1.2%下落する動きとなりました。さらに週明けの月曜日には、日経平均が前週末比0.7%安の下落をしており、「ジブリシリーズ放映翌週の月曜日は気をつけろ」と機関投資家や証券会社のトレーダーの間でも有名になりました。

相場は怖いもので、みんながアノマリーを信じると本当に関係なくてもそのように動くため、頭に入れておいて損はないでしょう。

またこのように動くのか見ておくのも楽しいものですね。

アメリカ大統領選の前年は株が上昇

2020年トランプ大統領が再選されるか注目が集まっていますが、その前年度が今年となっています。

つまりトランプ大統領が再選のためにリップサービスを行なったり、景気対策を行なったりして、ファンダメンタルズが弱まっていたとしても力ずくで上昇させ、株価下落をさせないようにしながら、大統領の再選を目指すための動きとなります。

今年も確かに振り返ると、年初から米中貿易摩擦、米国経済指標の悪化、長期金利の低下やFRBの利下げ観測等、景気がいいとは言えない状況が続いていますが、NYダウやNASDAQは年初来高値を更新しており、ファンダメンタルズから乖離したような動きが続いています。

これはトランプ大統領のツイッターでの発言や、株式市場にポジティブな政策を打ちそうになる等の話題が耐えないことからこのような動きになっていると考えられ、アノマリーとして当てはまっていると言えそうですね。

ゴトー日は円安

これは1ヶ月の中での外国為替の動きのアノマリーです。

ゴトー日と言うのは5日、10日、15日、20日、25日、30日等を指しています。

ではなぜこの時に円安に向かいやすいのかというと、海外への売上代金の支払い等のため、円から外貨へ変えるフローが出やすいからです。

日本の企業は外貨調達のために銀行に為替の依頼をします。銀行が行うことは企業の外貨の注文をまとめて朝9時すぎに集計します。

その集計して必要になったドルやユーロ、イギリスポンド等の外貨を9時55分までに調達するためのオペレーションを行います。

そのため日本時間の朝9時半から9時55分までに外貨を買いに行くので、このアノマリーが生まれていますが、アノマリーというよりは至極当然の動きです。

実需に基づいた買いフローのため、買われた外貨が利益確定で売られることはないので、その点も安心感となり、トレンドがこのフローをきっかけに作られることもあります。

SQ算出日は株価が上昇

先物市場ではSQ値というものがあり、そのSQ算出が重なる3月、6月、9月、12月には日経平均が上昇しやすいと言われています。

上記の各月のSQはメジャーSQと呼ばれており、特にこの傾向が強くなります。

このアノマリーは先物と現物の価格差が生じているところにポイントがあり、この先物と現物の価格差を収斂する過程で値動きが荒くなると言われています。

SQ算出日の前日に指数を買っておく等のトレードを行なっている投資家も多いです。

アノマリーはあくまで癖

ここまでアノマリーについていくつか紹介しましたが、結局は癖でしかなく、常にこの動きが生じる訳ではありません。

しかし確率的に生じる可能性が高いものであればトレードに取り入れることもいいでしょうし、年間のアノマリーは投資家の行動を表しているため、投資行動を理解するという意味ではとてもアノマリーは有用な情報と言えるでしょう。

アノマリーの中には関係なさそうなものから、ロジックとして理解できるものもあるため、取捨選択をして自身のトレードに活かして見ると楽しいので、是非アノマリーも勉強してみてください。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト