今ブリグジット問題で揺れているイギリス全体とポンド相場ですが、このポンドと言われる通貨の特徴や注意点、そして今後の見通しについて解説していきたいと思います。

ポンド円とはどんな通貨?

ポンド円はFXの世界でもボラティリティが激しい通貨として有名であり、「殺人通貨」とも呼ばれる通貨ペアでもあります。

値幅が大きいことからこのように言われていますが、具体的になぜ値幅が出やすい通貨なのかというと、そもそもの通貨ペアの絶対値が大きいということが一つの理由として考えられます。

また現在では高金利通貨と呼びにくいですが、リーマンショック前、ポンドは高金利通貨として、キャリートレード(高金利通貨を買って、低金利通貨を売ることで毎日のスワップポイントと呼ばれる金利収入を得るトレード)が盛んに行われていました。

一方で円というのは、リスク回避通貨と呼ばれています。そのためキャリトレードが行われてポジションが傾いている中で株が暴落したりすると、円が急騰し一気に円高に振れることから、値幅がポンド円は出やすいと言われています。みなさん買う時はジワジワ買うものの、ポジションを危ないと思って外す時はすぐに逃げたくなる衝動に駆られると思いますが、その心理的な側面を考えたらこの動きも理解しやすいかと思います。

では実際にどのくらいここ10年程度で動いているかというと、リーマンショック前の2007年にはポンド円が250円手前まで上昇していた時期もありました。

しかし2007年のサブプライム問題から世界経済に黄色信号が灯り、2008年にリーマンショックが起きると、あっという間に2年程度で115円付近まで下落しています。

この値幅はなんと135円程度とFXで1lotポジションを取っていても、135万程度損益が発生するということになりますね。

このように、恐ろしいくらい値動きが激しい通貨ということは覚えておいたほうが良いでしょう。

ちなみに日本では「ドル円」と呼ばれる通貨ペアが一番取引されており、世界で一番取引されているのは「ユーロドル」となります。

もちろんどの国の人が取引するかによって、メインで取引を行う通貨ペアも異なりますので注意してください。

特に欧州時間は、ポンド円を取引するにあたり「ユーロポンド」の通貨ペアの動きも一緒にみておくことが大切です。

「ユーロポンド」はヨーロッパの人々における日本人の「ドル円」のようなものであり、この動きをチェックすることによって、ポンド円が動いた時、ポンドが要因で動いたのか、円が要因で動いたのかが一目でわかるようになります。

是非チェックしてみてください。

イギリスという国の特徴は?

ここからはファンダメンタルズ的な要素を踏まえて、ポンドのトレードに活かせて頂けたらと思い説明していきます。

まずイギリスの特徴は「金融大国」ということです。

EUでは欧州圏内であればどこにいても営業をして良いという自由な取り決めがあり、金融機関はイギリスのロンドンの中心部、シティと呼ばれるところにEUの本拠地を置いて構えています。

金融機関がイギリスのGDPに占める割合は、世界の先進国でもトップの10%台です。

一つのセクターがこれだけの割合を占めているのは、どれだけイギリス経済に金融機関が必要なものか理解できるかと思います。

ロンドンだけで見ると25%の割合を占めているというデータもあり、人口の4分の1の方が金融機関で働いていると言っても過言ではないデータとも考えられますね。

ちなみに日本は6%台ということを考えると、イギリスの金融セクターへの依存度がわかると思います。

続いて貿易関係ですが、EU圏内ということで最大の貿易国であるEU圏であり、その中でもドイツがトップの大きな割合を占めています。その後はアメリカ、中国が続きますが、4位にはまたフランスが続く等EUとの関係構築が大事なことがデータからもわかるでしょう。

現在イギリスが2016年の国民投票を経て真っ先にEUと交渉したことも、どれだけEUとの貿易関係が重要かを表しています。

イギリスは特に国土から見てもわかるように、自国のみで必要な物資を国内で生産、供給することはできません。そのため輸入は必須であり、3月EU離脱の可能性が高まった時には、トイレットペーパー等輸入に依存しているものが国内のスーパーマーケットから消えたという現象が起きました。

イギリスは4月13日までの短期的なEU離脱延長はEU議会で承認されたものの、当初依頼していた6月末までの延長は叶わなかったことから、現在のEUとイギリス政府で合意した内容を受け入れるか(2度否決済み)、ハードブリグジットに突き進むかの2択になりつつあるようです。

ポンド相場の見通しは?

ここからはポンド円の見通しについてファンダメンタルズ、そしてチャートから解説していきたいと思います。

個人的には、シナリオを二つで分けて考えるべき状況のためシナリオに分けてご説明します。

①ハードブレグジットが起きた場合

まず最悪のケースですが、EUと合意なしの離脱となった場合はリーマンショック後につけた115円辺りまでの下落を想定すべきでしょう。

しかしながら全員が悲観的なムードになるのは間違いなく、最悪のシナリオを急激なスピードで織り込みにいくため、そこは買い場と捉えていいと考えています。

これは一般的な予想とは異なりますが、相場というものはみんなが思っている場合は長続きしないものであり、後はテクニカルを見て行き過ぎた相場でエントリーすることがベターでしょう。

もちろん急激と言っても数か月はトレンドが続くと考えており、焦ったエントリーは禁物です。

政策金利の動向、悲観的なムードの中これ以上悪い材料が出ることがあるのかというマーケットのバイアスをウォッチすることが、エントリーするための見極めとなるでしょう。

そこまで判断できれば、後はテクニカル分析によって細かいエントリーポイントを探っていけば問題ないといえます。

②EUと合意した場合 or 再度国民投票の上EU離脱がなくなった場合

これは完全に今まで起きたことがなしになるため、まずは国民投票前の水準である190円越えがターゲットになります。

ここまでは勢いよくトレンドは続くと想定しているため、強気で攻めていって問題ないでしょう。

また190円越えのポイントにリーマンショック以降にできた窓があるため、そこを埋めに行く動きが出ると想定されます。

そのため押し目は拾う形でポジションを淡々と構築することがベストです。

次に156円辺りに戻り高値が出来ています。もしも130円を割れずに推移した場合はこの156円が最初のターゲットとなり、そこを超えてくるようであれば、ダブルボトムを形成するため、やはり190円を目指す展開が予想しやすいでしょう。

結論はハードブリグジットの場合115円を視野に入れながらも、行き過ぎの場合はロングでエントリー。

EUとの合意または再度国民投票を行い離脱をなしという結果となると、まずはポンドを買っていくべきとなるため、方向性はどちらにしても上方向で見ておくべき状況と考えています。

※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。

ポンドを取引するにあたっての注意点

最後にポンド円を取引する際は注意することをお伝えします。

まずは最初説明した通り「殺人通貨」と呼ばれるくらい値動きは大きいものであり、証拠金維持率には余裕を持って取引を行いましょう。

方向性は出やすい通貨のため、一喜一憂せずにトレンドに乗ることを心がけてください。

スプレッドは他の通貨と比較して広いように見えますが、現在はボラティリティから計算したスプレッドは広いわけではありません。数字の絶対値だけでスプレッドは判断せず、値動きからポンド円の良さを理解するようにしましょう。

最後に、値動きが大きい = メンタルコントロールを維持することが難しいということになります。一喜一憂せずに淡々と機械的にトレードすることを心掛けて取引をしましょう。

ポンド円は慣れてくれば強い味方になり、資産運用の良いツールとなることは間違いありません。癖もありますので、勉強してから挑戦してみることをおススメします。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト