前回、株やFXについてのアノマリーをご紹介しましたが、今回もアノマリー第二弾として相場の癖をご紹介していきたいと思います。アノマリーはあくまで相場の癖という位置付けですが、そのように動きやすいということは背景に何かある場合ももちろんあります。

また相場というのは、みんなが意識して信じるようになれば、嘘も本当と言われるような動きになるため、意外と無視できないものでもあります。1つでも頭に入れておき、相場に臨むと今まで以上に効率的なトレードができるかもしれません。

是非楽しみながらここで勉強していただけたらと思います。

【前回のアノマリーはこちらから】
相場のアノマリーについてどのくらい知ってる?ジブリの呪いとは?

満月の買い 新月の売り

このアノマリーは天体の動きから相場を予測するアストロロジーであり、占い等でも月の満ち欠けが使われているため、何かしら関連もありそうですね。天体の周期は人間や生き物の行動にも影響しているという科学的な結果も出ていることから、あながち間違いとも言えないでしょう。実際に出生数が、新月や満月で増加する傾向があると発表もされています。

このアノマリーは元々FXの世界で有名になっていたものですが、現在は株や他の金融商品等、色々なプロダクトで当てはまると考えられています。

特にリーマンショック以降に、株の天井や底が、ある周期で一定しており、ある程度合致していたことから一時話題となりました。実際にリーマンショック後にこのアノマリーに沿って取引をすると期待値がプラスとなっている結果も一部出ていたため、「満月で買って新月で売る」というトレードを試してみても面白いかもしれません。

稲穂相場

次に株のアノマリーについてご紹介します。「稲穂相場」と言われる9月下旬から10月にかけて株が下落しやすいというアノマリーです。

確かにパフォーマンスを見ても、この時期の株の上値は重く推移しやすいことが多いため、実際の値動きからついた名前のアノマリーでしょう。この時期に上値が重くなりやすい理由はいくつかありますので、その背景をご紹介します。

①ファンドの決算、そしてポジション調整が控えているため

以前に「Sell in May」のアノマリーで45日ルールというものをご紹介しましたが、ファンドは11月にも決算を行なっています。半年に一回ファンドの解約を受け付ける時期であり、この45日前のスタートが9月下旬に該当するというわけです。

この時期にファンドを解約するかどうかを決定し、ファンドに通知する必要があり、通知を受けたファンドは現金の支払いのためにポジションを清算します。基本的には現物をロングしているファンドが多いため、その現物の売却フローが出やすいことから、この時期に株の上値は重くなりやすいと考えられています。

②決算絡みの投資家様子見姿勢

日本企業も同様ですが、年度末が3月の企業は9月に上期決算となります。9月はよく決算セールが行われていますが、投資家としては決算発表を見てから投資をするかどうかを検討したいため、この時期は大きくポジションを取りに行く姿勢にはなりません。

そして決算を控えていることから、ポジションの調整フローだけは入りやすくなり需給が一時的に崩れやすい時期が9月下旬になります。

③9月や10月は悪材料のイベントが出やすい

これは過去の歴史的なイベントを振り返ると、何かが起きやすい月として認識してしまうのは必然であり、なんとなく投資を渋ってしまいやすい月でもあります。

振り返ると「リーマンショック」、「9.11テロ」、「ブラックマンデー」、「ルーブル危機」等、株が急落する材料がなぜかこの9月や10月に出やすくなっています。

この背景をロジックで説明することは難しいですが、最初に紹介した周期と一緒でなぜか何かが起きやすい時期として認識しておくことは大事と言えるでしょう。

TOM効果

次に毎月起こりうるアノマリーをご紹介します。

それは「TOM(Turn of the Month)効果」と呼ばれており、月末月初は株高になりやすいというアノマリーです。

これは機関投資家の動きを背景として説明がつくためご説明します。

まず毎月のファンドの評価は月末基準で行なっているファンドが多く、ファンドとしては、一時的でも評価日に株が暴落したりすると、見栄え的にパフォーマンスは悪くなり、ファンドからの資金流出につながりかねません。

そのため月末にはファンドの評価を上昇させるために、買いに入る場面が多くあります。

ファンドはいくつもあり、それぞれがそのような動きを見せると、自ずと株高方向にフローが集まりやすくなり、またその癖を理解している投資家が月末にインデックスの先物等をロングにして先物から上昇し始める等、一部でそのアノマリーに沿ったトレードが行われることもあるため、信ぴょう性は高いと言えるでしょう。

よく「お化粧買い」「ドレッシング買い」と呼ばれるものがありますが、それがファンドの評価を上昇させるフローを指しています。またサラリーマンも給料日が25日に集中することが多いため、個人の資金流入が毎月のこのアノマリーに寄与しているとも言えます。

魔の水曜日

これも株についてのアノマリーとなります。「SQ値の算出がある週の水曜日は相場は下落しやすい」というアノマリーです。

まずSQとは何かについて説明します。

SQは「Special Quotation」の頭文字を取ったものです。日本語に変換すると「特別清算指数」と言われています。先物取引やオプション取引は、決済期日が限月ごとに決められています。つまりその限月までのポジションは決済期日までに決済する必要があるということです。

例えば、2019年6月限の期日は、6月13日の木曜日です。したがって、2019年6月限のポジションが取引できるのは、6月13日木曜日の先物取引の取引が終わる、15時15分までとなります。

その時限までに決済しなかった場合は、自動的に清算される時の計算のベースとなるのがSQ値となります。つまり、SQ値というのは先物ポジションの動向が反映されるため、現物の価格の値動きにも自然と影響するということですね。

SQ値の中でも、メジャーSQというのがあります。3月、6月、9月、12月を差し、この月が最も売買が多くなります。

その先物と現物の価格差を利用してアービトラージ(※)を行う投資家がいることから、SQ値判定の時間になると売買が活発になります。

※アービトラージ(裁定取引):先物と現物に一時的な価格差が生じた際に割高な方を売り、割安な方を買って、両者の価格差が縮まった際に反対売買を行うことによって利益を得る方法

では水曜日になぜ株は下がりやすいのかという理由ですが、明確な理由がありません。水曜日は買いに回る投資家も多くいるため、このアノマリーが発生した背景は特に見当たらないというのが現状です。

しかしこのアノマリーを信じる投資家もいまだにいるため、メジャーSQの月くらいはチェックしても損はないでしょう。

アノマリーの有用性

ここまで2回に分けてアノマリーを紹介しましたが、アノマリーは相場の癖を表しており、アノマリーの種類には、ロジックとして説明がつくもの、つかないもの色々あります。全てのアノマリーを並列で見るのではなく、なぜそのアノマリーが出てきたのか?という背景を知ることで、アノマリーを信用していいかどうかの判断をつけることが大切です。

「ジブリの呪い」や「魔の水曜日」はロジックがないため信用せず、「TOM効果」は投資家の動きがアノマリーとして存在しており、その動きに説明がつくため信用する等、ご自身で取捨選択しながら、覚えておくのがいいでしょう。

特に一年間の各月の動きに関するアノマリーは役に立つので覚えておいて損はありません。是非チェックしてみてくださいね。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト