シアトルを含むワシントン州キング郡は、ここ10年程で不動産の価格が急騰しました。新聞の報道によれば、2018年は一昨年よりは下がったということですが、それでもかなり高い水準のままです。昨日、シアトルでも日本のように敷地いっぱいに建つ小さな建売住宅が流行りだしたというニュースも目にしました。シアトルに住むなら小さな家、しかしそれでも手が届かない人が多くいるという現実があります。

シアトル不動産価格の現状

まずは現状を把握していきましょう
以下、12月の不動産の販売状況です。キング郡(King County)というのはシアトルのある郡になります。

https://www.seattletimes.com/business/real-estate/seattle-home-prices-down-nearly-100000-in-seven-months-eastside-market-falls-too/

【参考】シアトル周辺部の過去の価格と今後の予測(出典: Zillow)
https://www.americacashflow.com/blog/2019-seattle-forecast

ワシントン州の他の郡と比べると、シアトルのあるキング郡の価格がとても高いことが分かります。2019年は価格が落ち着いてくるとの予想ですが、それでもかなりの値段です。

この不動産価格と比例して、シアトル市民の給与水準も上昇すれば何も問題は無いのでしょうが、そんなことはありません。一部の方はかなり高額な給与を受け取っているかもしれませんが、大多数の方はそうではありません。給与水準の上昇と不動産価格上昇分とのギャップは年々広がりつづけています。

目安となる給与水準です。
ワシントン州の貧困ラインとされる水準は毎月の世帯収入が約40万円程度、中流家庭と呼ばれる世帯月収はおよそ70万円程度になります。そしてシアトル市内の家賃の平均は毎月25万円程といわれています。

Mega Commuter(メガコミューター)になってしまう

不動産がとても高いので、シアトル市内には家を買えず、少し離れた所に家を買ってそこから通勤するしかない、というのがキング郡の方の現状です。

毎日家から職場まで通勤することをCommute(コミュート)すると言います。その中でも、通勤に片道90分以上かかる人のことをMega Commuter(メガコミューター)と呼びます。これは車で通う人、公共の交通機関を使う人、全てです。筆者もその一人で、私の自宅はワシントン州のキッツアップ郡というピュージェット湾を挟んだシアトルの対岸に位置します。毎日バスとフェリーでメガコミュートをしています。

 Mega Commuter(メガコミューター)の上昇率

2010年から2015年までの間のMega Commuter(メガコミューター)の人口は、シアトル(ベルビュー、タコマを含む)では73%上昇しました。この上昇率はアメリカ国内では3位です。(1、2位はカリフォルニア州)

【参考】シアトルタイムズの記事一部抜粋:
https://www.seattletimes.com/seattle-news/data/seattles-mega-commuters-we-are-spending-more-time-than-ever-traveling-to-work/

 不動産価格高騰の背景

アマゾン等の世界でも有名な大企業の急成長に伴って、これらの社員の給与水準にあわせるようにして不動産価格も高騰していきました。また彼らの中には投資目的で不動産を購入する人もいるため、価格急騰に拍車をかけることとなりました。

ビットコインの利益で家を買う

これは、筆者の職場の上司の話です。彼女の住んでいるシアトル市内の住宅地に、ある日20代と思われるご夫婦が引越して来たそうです。彼女の話によると、そのご夫婦は、ご主人は基本的には毎日在宅で、奥様も一見すると普通の会社員のように思えたそうです。

現在のシアトルの不動産価格の高騰を目の当たりにするちょっとお節介なご近所さんは、皆不思議に思っていたそうです。あんなに若くして、しかもご主人はほぼ在宅で、この家がどうやって買えたのだろう?と。
そこで、ご近所さんで定期的に開催されるパーティーにそのご夫婦を招くことになり、皆でご本人に聞いたところ、ビットコインで大きく利益を出したのだと聞かされたそうです。

という話からも分かるように、20代、30代の若い家族がシアトルで家を買うということはほぼ不可能になっています。

キング郡を去っていく中流家庭

不動産価格の高騰によって、中流家庭とされているシアトル在住の家族が他の郡に移住を始めています。私の住むKitsap郡も少しずつ人気が出てきました。ここ数か月で新聞にKitsap郡など他の郡に移り住む人の記事が数回載っていました。

日本人の集まるベルビューエリア

キング郡ではベルビューも人気です。ここには多くの日系企業があり、日本からくる駐在のファミリーは皆さんほとんどここに住んでいます。このエリアもシアトル中心部程ではないですが、高いです。

不動産価格の高騰による治安悪化

不動産価格の高騰で家を失った方が増え、シアトルのホームレスの数が年々増えています。また、治安の悪化が著しく、私の職場のあるシアトル南部のエリアは過去1年で犯罪発生率が25%上がりました。つい先週の日曜日にも職場の建物に強盗が入り、今週は警察が来ていました。こういうことは初めてではないそうで、同僚は「ああ、またか」という反応でした。街中のホームレス、ドラッグユーザー、廃墟のようなトレーラーなどが深刻な社会問題となっています。

実際のCommute(コミュート)

私は毎日、自宅→徒歩→バス→フェリー→徒歩→バス→徒歩→職場という流れで通勤しています。朝は自宅を5:30出発、勤務開始は8時頃、退社は16:30という流れで、片道の通勤に2時間程度使っています。

シアトルタイムズの新聞の記事によると、水路を使ったコミュートには長い歴史があり、1850年頃から1930年頃までは小さな船を使ってシアトルダウンタウンまで通う人たちがいたそうです。現代でもあまり変わっていないようです。

【参考】シアトルタイムズ記事:
https://www.seattletimes.com/opinion/a-mosquito-fleet-for-todays-puget-sound/

シアトルのバスは本数が少なめ

個人的には、バスの本数はとても少ないと感じます。筆者は福岡市中心部出身で、バスと言えば西鉄バスがそこら中を走り、5分も待たずに目的地まで行くバスに乗れる生活を送ってきましたのでシアトルのバスは不便に感じます。

シアトルは人口が70万人程です。ほとんどの人が自家用車で通勤するのでバスはさほど重要でないという現状があります。シアトルの中心部でさえ、日本と比較するとバスの本数が少ないと感じます。しかし、どんなにラッシュアワーでも、座る席が確実にあるので、これで十分な本数なのかもしれません。

シアトルまで通うフェリーには2種類ある

筆者の住むキッツアップ郡ブレマートンからシアトルまでのフェリーです。

1.ワシントン州フェリー(片道1時間)

<メリット>
広く、ゆったりとすごせます。ソファー席にテーブルがあり、2階には食堂もあります。軽食やアルコールもあります。運賃は、ブレマートンからシアトルまでは無料です。(車や自転車で乗船する場合は有料)シアトルからブレマートンまでの運賃は8.5ドル(900円程)です。

<デメリット>
後述するファストフェリーに比べると、運航時間が倍になります。また、先日からの政府閉鎖の影響で、今週はスタッフ不足で25分の遅れが出ました。

2.ファストフェリー(片道30分)

<メリット>
速さです。その名の通りあっという間に着きます。

<デメリット>
運賃がシアトルまでの便でも無料では無いことと、ワシントン州フェリーと比べ、少しだけ運賃が高いことです。また、席に限りが有る(118席)ため、座席予約をしなければ乗れる可能性がほとんどありません。
毎月1日だけ、1か月分の座席予約(80席程)のオンライン窓口が開きますが、開始後1分で全て売り切れます。かなりの競争率です。予約をしなくても早めにフェリー乗り場に並べば、先着28人分座席は確保してありますが、かなり厳しいです。

フェリーの楽しみ方

フェリーでの過ごし方は、寝る、携帯やPC、タブレットで動画を見る、読書、編み物など様々で、まるで家にいるようです。
ワシントン州フェリーの方は、女子トイレが特に興味深く、10畳ほどの広さにソファーがおいてあるパウダールームのようなスペースがあり、ここで毎朝女子会が繰り広げられています。コテ持参で髪を巻きながら、メイクしながら、楽しそうです。ほぼ毎日同じメンバーがいます。

まとめ

シアトルといえば、エメラルドシティと呼ばれるほど美しく、全米で住みたい街ランキングに度々登場します。しかしながら、現状は噂とは少し違ったようです。相変わらず不動産価格は高いままで、ここ10年程は住宅の供給不足に陥っています。これからはシアトルへのコミュートを余儀なくされる方が増え、メガコミューターがさらに増えるかもしれません。

日本の通勤ラッシュをイメージすると、2時間も通勤に使うなんて、とうんざりしますが、フェリーでの通勤は実はとても快適で、自由にリラックスして過ごすことが出来ます。筆者は子供が小さいので、ひょっとしたら、フェリーに乗っている時間の方が家で過ごすよりもゆっくりできているのかもしれません。毎日4時間を通勤に使っていますが、なかなか有意義な時間を過ごしています。