初心者の方がいざ投資を始めようとする際に、テクニカル分析の本を読んだり、ニュースをチェックしながら相場に対してどのように影響するのか、色々な専門家のコメントを参考にしたり、ツイッターなどで情報収集したりと勉強されると思います。

もちろんこのような努力は必要なことであり、継続すべきものですが、それ以前に投資では学ぶべきことがあります。
それは、トレードをしているときに陥りやすい人間の心理的行動を学ぶことです。

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その心理的に陥りやすい状態や行うべきではない行動をまとめたバイブルがあります。
それは「ギャン理論」と呼ばれるものです。

ギャン理論とは、20世紀初頭に相場師として名を馳せたウィリアム・ギャン(William Delbert Gann)が独特の方法で数々の投資法を編み出し、考えたルールブックのようなものです。ギャンはこの理論を実践して大きな富を築きあげたと言われています。

「ギャン理論」「価値ある28のルール」などと呼ばれる相場格言集は、米国の金融マンの世界でもよく言われた格言や投資ルールを彼が自身で編纂したものです。
ウォール街の格言はわかりやすく覚えやすいものが多いことから、現在でも様々な書籍やトレーダーの世界でも参考にされています。

では内容について重複している箇所もあるため、28項目のうち抜粋してご紹介したいと思います。

資金を10等分。1回の取引額は全資金の10分の1を守ること

これはリスク管理を徹底させるための重要な行動です。自分を戒めるためでもあり、利益が乗ってきたらポジションを増やすスタイルで行えば大きな損はなく、大きなリターンを望めるため必ず実践すべきでしょう。

この格言の意味は「全資産の常に10分の1しか使ってはいけない」という意味ではありません。

この言葉の背景には「ポジションの積み増し(ピラミッティング)」を行うことが考えられており、利益が出始めてトレンドにポジションが乗れている場合は焦らずゆっくりポジションを積んでいき、利益の最大化を狙いましょうということを意味しています。

 ストップ・ロス・オーダー(逆指値注文)をきちんと利用し、損失を最小限に

これも投資の基本中の基本であり、「損切りは早く利食いは遅く」を守るための損切りの手段です。

つまりエントリーした時点で、その取引における損失額はストップオーダーを入れることで確定させ、損失をコントロールすることを目的としています。
先ほど説明したピラミッティングにより利益の最大化も含めて、損失と利益の幅をしっかり自分自身で計算しながら比率をしっかりつけておくことも重要と言えます。

迷った時は手仕舞い、ポジションを解消しトレード厳禁

これはむやみにトレードを行ったり、理由なくエントリーしたりした時に思い出すべき格言と言えるでしょう。

トレードの世界で「ポジポジ病」という言葉があります。この「ポジポジ病」は、「なんとなく上」だとか、「なんとなく暇だからポジション持ってみた」のような初心者トレーダーが数多く存在します。

この行動に思い当たる節がある方がいたら、それは恐らく「ポジポジ病」で、いずれ負ける運命にあると言えるでしょう。ルールから逸脱してたまたま利益が上がったとしても、評価益や評価損で悩んだ場合は手仕舞いを行いきちんとやり直すスタイルを貫いてください。

1銘柄に全力投入なんてしない。2~3銘柄でリスクを分散する

これはリスク分散の観点で重要な格言であり、ポートフォリオ分散の効果を指している言葉でもあります。

ギャン理論の最初の項目で「投資する金額は最初10分の1から」という格言がありますが、それを銘柄分散し、よりリスクを分散しながら効率的な運用を行いましょうということです。また1銘柄のみに投資を行うと、人間はどうしても自分が投資したものだけに目を奪われがちであり、さらに1銘柄の値動きによって自分の資産が上下することになってしまいます。

それは心理的な不安を増大させることになり、不安定な心理状態でトレードをしているため、2〜3銘柄は取引を行うようにしましょう。そうすることで常に心理的に安定した状態でトレードに臨むことができ、損益のブレも小さくなります。

充分な理由なくして手仕舞うな

これはトレード中に評価益が出ているときに、心理的な不安から理由なく利益確定してはいけないことを意味しています。

人間はどうしても利益が出ていると早期にその利益を確定させたい衝動に狩られますし、逆に損失が出ているときは「いつか戻ってくるから損失が0になったらやめよう」という特に理由のない楽観的な考えに陥りやすい生き物です。

必ず利益確定も当初ターゲットとしていた位置までしっかりと我慢し、不安に耐えるようにしましょう。利益を確定させると安心感と同時にトレードに勝ったと思えますが、中期的に見たら完敗と考えてください。

そのくらい利益の最大化は中期的に勝ち続けるためには重要なことです。

ナンピンは禁止

これはみなさんが知っていることかもしれませんが、絶対行なってはいけません。
よくナンピンをすることで平均取得単価のコストを良くするという解説をした投資本もありますが、理由なきナンピンは資産を失うスピードを早めているだけと心得てください。

ナンピンする投資家が一番問題なのは本質的な問題に気づけていないからです。
その問題とは「なぜそこで負けを認めてやめることができないのか?」という重要な自分自身の弱さに気づけていないことです。

しかし1つナンピンについては例外があります。
それはストップロスをきちんと決めておいて、ナンピンも計画的に行う場合です。つまり現状でどちらに行くかわからないものの、少しだけエントリーしておいて、トータルの損失は調整しながら、逆方向にいけば、残った予定している投資額でエントリーする方法です。

これは計画的な戦略であるためナンピンを否定するものではありません。重要なことは「予想外の動きで損切りできずに負けを認めず行うナンピンなのか」、「当初から計画された戦略の一環で行うナンピンなのか」ということになります。

値ごろ感で取引しない

これは初心者によくあるミスで、大きく下がったから水準としては少し戻すのではと考え、なんとなくポジションを持つことを意味しています。見ているチャートで急に大きく下落したり、逆に大きく上昇したりすると、その後少し戻す局面というのは必ずあります。

その大きく下落した水準で買った位置や、逆に大きく上昇した水準で売った位置というのが、何かしら自分のトレードルールの中で意味があり、取引を行なっていればいいのですが、慌ててそのトレードをしている場合は大きなミスと心得てください。

チャートの値ごろ感で入ってしまうと自分で気づいている場合は、まずチャートの時間軸を変えて、もう少しそのプロダクトや商品全体を俯瞰しながらマーケットを冷静に分析すべきと言えるでしょう。

ギャン理論は基本中の基本

以上ギャン理論の重要な部分を抜粋してご紹介しました。

読んでみると心当たりのある方や、やる気はなかったけどやってしまっていた方、など色々反省する部分も出てきたことでしょう。しかしこのような人間の心理というものは不変であり、そこを克服しないと、知識があっても勝てないのが投資の世界です。

たまにギャン理論の格言だけでも読み直して自分の行動を見つめ直すのもいいかもしれません。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト