前回の記事では、退去時の修繕費用負担についてご紹介いたしました。今回は、入居中のお部屋のお手入れの手順や注意点などをお伝えします。こういったことを賃貸借契約時に入居者に説明しておくことで、室内の設備機器などの寿命をより長くする事が可能です。ひいては建物全体の資産価値向上につながるので、是非参考にして下さい。

設備機器各種は、基本的にそれぞれの機器メーカーが発行した取扱説明書をご参照頂くのが前提となります。取扱説明書は、インターネットで品番やメーカーを検索すればダウンロードが可能な事が多いです。 次の項目から、主な手入れをする中心部分ごとに説明します。

玄関回り

(1)共用廊下

共用部分ですが、入居者全員が自ら掃き掃除をすることが大切です。私物をむやみに置いておくと避難時の妨げになったり、廊下部分の早期劣化にもつながります。オーナー支給のホウキ・チリトリなどを常備しておくと便利です。

(2)ドア周辺

ゆるみのあるネジ・ボルト等はしっかり締め付け、鍵穴以外の丁番(ちょうばん)などの金物は市販の油性スプレー等で滑りを良くしておきます。

鍵穴および鍵は、油性スプレーなどを使用すると詰まりの原因となりますので厳禁です。専用のメンテナンススプレーを使用するか、鉛筆の黒鉛部で鍵の凹凸部分をこすって何度か鍵穴に抜き差しをしましょう。湿気が溜まりやすい場所でもあるので、室内側の枠周りを拭き掃除することも忘れずに。

お風呂

(1)水栓回り、シャワー

ステンレスにキズがはいるので、目の粗いヤスリや金物のタワシは使えません。樹脂製のブラシやメラミンスポンジなどでこすりましょう。水垢にはクエン酸などの酸性洗剤で対応します。※塩素系洗剤と酸性洗剤は、併用すると塩素ガスが発生して大変危険です。各洗剤の成分をご確認ください。

(2)鏡

色んな磨き方がネット上で紹介されていますが、オススメは新聞紙や綿素材の布で乾拭きする方法です。しつこい水垢には、クエン酸を吹き付けてラップし、半日程度置いた後水洗いして乾かします。※クエン酸は、曇り止め性能がある鏡には向きません。

(3)入口ドアその他

パッキンや目地材(白やグレーのゴム質のもの)にはカビ取り剤を定期的に吹きかけて、一定時間つけ置きした後に水で流します。アクリルパネル(すりガラスのような透明な部分)には石鹸などの成分が残りやすいので、重曹やメラミンスポンジでこすります。

(4)タイル貼りの場合

タイルの場合もクエン酸やカビ取り剤で良いのですが、タイル自体や目地部分にヒビやキズが入った場合はそこにカビ・汚れが溜まってしまいます。市販の補修材などで対応できなければ、すぐ管理会社やオーナーに相談しましょう。

トイレ

(1)手洗い部

トイレの利用後に水を流すとき、タンク上部の水が流れ出る部分です。吐水口の先端(手を洗う水が出てくる部分)は汚れが溜まりやすく、放っておくと流れる水が弾けて周辺に飛び散るようになります。定期的に軽く拭き取りましょう。

(2)陶器部分

タワシ、ヤスリなどで思いっきりこすります。キズは入らないので、気にせずピカピカになるまで磨きましょう。

(3)ウォシュレット

いったん電源プラグを抜き、取扱説明書の手順通りに清掃します。写真のようにノズル部分を拭き取ることで、早期故障を防ぐことができます。水回りにある電化製品ですので、プラグ周りや配線周辺などに溜まる水分やホコリには注意して、こまめに拭き取ります。

キッチン

(1)キッチンパネル、タイル

キッチンパネルは手入れが簡単にできるように設計されていますので、多くの場合パネルやコーキング部を中性洗剤や重曹などで拭き掃除をすれば済みます。パッキン部分はカビ取り剤をつけ置き、もしくは拭き掃除をします。タイルはお風呂と同様ですので省略いたします。

(2)シンク、ガス台(ステンレス部分)

一般的なステンレス製キッチンの表面は、薄いステンレスが貼ってあるのみの仕上げです。サビやステンレス部分が剥がれて下地が表面化したら清掃では対応できないので、こまめに中性洗剤・メラミンスポンジ・クエン酸などの酸性洗剤で拭き掃除をしましょう。

(3)排水口

目皿やトラップ、封水部分の掃除をします。写真のように取り外せる部品は全て取り外し、たわしや歯ブラシなどで掃除をします。除菌スプレーも忘れずに。

(4)収納部

まな板や包丁の収納部は特に念入りに、水分が残らないように拭き掃除をします。排水パイプ周辺に物を詰めすぎると、パイプ自体が壊れたり外れたりしますので気を付けましょう。 上記以外にも、キッチン周辺は特に壁や床に水分・油分の飛沫が発生しやすいです。見かけた都度拭き取りましょう。これらを放置すると落ちにくい汚れやサビになります。

洗面所

お風呂、キッチンと同様です。シャワー付きであれば、写真の指先位置からシャワー内部に水が浸入することに注意します。洗面化粧台下部収納に「水受けトレイ」というものがあれば適宜水を捨てます。

洗濯機(排水口)

キッチンの排水口と同様です。除菌スプレーはよほど汚れてなければ必要ありません。

各換気扇

ここではキッチンの換気扇の清掃についても合わせて説明します。

(1)フィルター周り

まずはフィルターやフタを外し、中性洗剤やブラシなどで汚れを落とします。

(2)フィン

各機器の説明書に記載されている手順に従って取り外し、清掃します。フィルター等もそうですが、ひどい油汚れは中性洗剤のつけ置きや油汚れ用の洗剤を使用しましょう。

天井埋め込み型の換気扇などはフィンの取り外しができない場合がありますので、それらは手の届く範囲で歯ブラシや綿棒などで汚れを拭き取ります。これも電気機器にあたりますので、清掃後は完全に乾いてから元通りに設置しなおします。

床・壁・押入・クローゼットなど

基本的には拭き掃除・掃き掃除を実施します。落ちないキズや汚れは、DIYショップや百円均一店などで販売している便利グッズを利用することで修復可能な事もあります。利用するグッズを適切に使用しなかったことが原因で、キズや色シミなどが発生してしまう可能性があることにも注意しましょう。

湿気対策として、定期的に換気も怠らないようにします。特に角部屋やアパート等の一階は湿気がこもりがちなので、気を付けるようにしましょう。

ベランダ・バルコニー

(1)窓、網戸

全ての窓や網戸は室内およびバルコニーから取り外しができるように設計してあります。取り外せない場合は、ゴミなどのつまりや窓サッシ枠のゆがみなどが原因ですので、力任せに外さないようにしましょう。ブラシ、布、スクレーパーなどで清掃します。

(2)エアコン室外機周り、排水マス

汚れやゴミが溜まりやすい場所です。室外機を動かし、設置場所と排水マス周辺の汚れをデッキブラシなどで清掃しましょう。

総括

ここで挙げた項目は代表的なものばかりですが、いざ自分で実施しようとすると、尻込みするほどに作業が多く感じるかと思います。そんな方々へ説明するポイントとしては、

①汚れ・カビ・シミなどを見かけたら、すぐ拭いてみる、落としてみる
②室内全体の手入れを、無理なく定期的に実施することを決める(月単位や、年に〇回など)
※定期的に実施することで、毎回の手入れ時間が少なくなります
③清掃方法や手入れの仕方で困ったら、管理会社またはオーナーへ相談すること

これらに慣れれば、手入れや掃除の楽しさに気づいて頂けるはずです。 ご自身の住まいをきちんと管理できれば、「賃貸物件に住んでいる実感」と「快適な暮らしの爽快感」を同時に受け止めることになるでしょう。それは多くの場合、入居者の方の喜びにもなり、ひいては長期の入居にも繋がる事となります。

【記事筆者】

隅倉 広樹
隅倉 広樹
建設会社グループの不動産・一級建築士事務所の不動産部責任者として勤務中。業務内容は賃貸物件の仲介・管理がメインで、売買や土地活用など多岐にわたる。グループ会社の建築・土木・舗装業のノウハウを生かし、社内カスタマーサービス部門にて2年連続満足度No1。
【保有資格】
宅地建物取引士、管理業務主任者、FP技能士2級、賃貸不動産経営管理士、少額短期保険募集人