EU離脱問題で揺れているイギリスですが、日々イギリス議会の採決の動向や高官の発言が色々とヘッドラインで流れています。2019年3月29日が交渉期限となる中、ホットトピックとして世界が注目しています。

今回は、なぜここまでイギリスとEUとの離脱交渉が揉めているのか、そして今後の動向についてまとめて見たいと思います。

BREXIT(ブレグジット)はなぜ起きたのか?

イギリスは2016年6月23日に行なった国民投票で、EUからの離脱を国民の意思によって決定しました。投票結果は、離脱支持51.9%、残留支持48.1%という僅かな差で勝敗が決しました。

世界の首脳陣(当時のアメリカのオバマ大統領や国際通貨基金、世界銀行の高官等)がこぞって残留を支持する中、イギリス国民はまさかの世界を驚かせる決定を行なったのです。

ではなぜ世界が反対する決定を国民が下したのか、背景をご説明します。

まず2013年にイギリスのキャメロン首相がEU離脱の是非を問う国民投票を約束したことから始まります。当時はリーマンショックから波及して発生した欧州債務危機、ギリシャ問題、ポピュリズムの浸透等、反EUの感情がEU全体で高まっていました。

それはもちろんイギリス国内でも同様であり、イギリスの下院では与党の保守党議員である欧州懐疑派の議員が、EU離脱の是非を問う国民投票の実施を求める動議を提出、EU離脱と反移民を掲げる右翼政党「英国独立党」が、囲い込みを始めていました。

そこでキャメロン首相は「国民投票実施」を決めて、早期に反EUの感情を抑制しガス抜きを図ったというわけです。

キャメロン首相は今回のEU離脱の国民投票について、世論調査で7割弱の国民は「EU残留」を支持するとの数字が出ていため勝利する目算がありました。

しかしキャメロン首相はこの点を見誤り、EU離脱の国民投票の結果を受けて辞任、その後、元々は「EU残留派」であったメイ首相に離脱交渉の手綱が引き継がれました。

ちなみにEU離脱派の中心人物であったロンドン市長ボリス・ジョンソン氏は、外務・英連邦大臣に任命されるも、メイ首相の穏便な離脱方針に反発しまさかの辞任するという逃げ腰のような辞任劇を迎えます。結局は残留派がEU離脱交渉を行なうという滑稽な状態が生まれてしまいます。

ブレグジットの離脱派の主張は?

元々EU離脱派は何を主張して支持を集めたかというと、「EUからの移民受け入れ阻止」、「EUに対しての巨額の拠出金を取り戻すこと」の2点でした。

まず「EUからの移民受け入れ阻止」というのは、EU圏内では人の往き来は自由と定められており、基本的に貧しい国の人々が社会福祉の手厚い国に流れていき、その国で労働しながら生活するという動きが盛んになっていたことが理由です。

イギリスはEU圏内で福祉が充実しており、移民が流入していたことから、離脱派の主張としては「移民によりイギリス国民の労働が奪われている」、「移民による低賃金が影響して物価が上昇しない」との主張を繰り返していました。

しかしながら、安い労働力が流入していることでイギリス国内の農業従事者の9割はEUからの移民で賄われていたということを忘れてはいけなかったのかもしれません。

ブレグジットの問題点とは?

現在EUとの交渉で難航しているのは「関税問題」です。

EU圏内では貿易は全ての国で非課税となっています。離脱派としては、EUから脱却し独立国家としての貿易主権を取り戻すことを声高に主張していましたが、やはりイギリスの最大の貿易国はEUであり、このEUとの貿易交渉は最重要課題でした。

さらにそこで大きな問題となったのが「アイルランドの国境問題」です。

アイルランドとイギリス領である北アイルランドの国境は、当然ながらEUとの貿易の枠組みに従っているため、貿易は自由に行われており関税もありません。そして北アイルランドはイギリスのEU離脱後もEUの単一市場に従うとしていますが、イギリスとしては国内にEUの単一市場に従う地域とそれ以外という2つの種類を設けるのは得策ではないと考えるのが普通であり、メイ首相もそれに反対していました。そのためEUとイギリスは「バックストップ条項」というものを設けて合意することにしました。

「バックストップ条項」とは、イギリスとEUの貿易同盟の詳細が決まるまで、イギリスはEUの単一市場に留まるというものです。

この期限を「無期限」としていることが現在解決しない一番の問題点となっています。

「無期限」ということは、今後EUと貿易交渉において合意がない場合は、事実上EUに留まることを意味する可能性もあります。ここに明確な期限を設けない限り「離脱派」としては納得できないということになります。

また関税同盟に留まるということになった場合、移民の流入だけ抑えるためには国境に国境管理を行なう仕組みを作らなければならず、「自由な貿易」と「移民の抑制、管理」の2点を一緒に行なうということはハードルが高い状況です。

今後のブレグジットのシナリオは?

現在イギリス議会は「無期限」という内容のメイ首相の合意案は議会で否決されるも、「EUとの合意なき離脱(ハードブレグジット)を行なうか」という採決はNOという結果となり、ポンドは足元上昇しています。つまり、何らかのEUとの合意がないとイギリス経済にはよくないと、離脱派ですら考えているということが議会の採決で明確になったということです。

次は3月20日までにメイ首相が再度EUとの提案内容を作成し議会に提出、採決を行ないます。

まず「YES」という結果となった場合は、その合意案をイギリスが履行するための時間が必要なことから、6月末までの離脱延長をEUが認めると考えられています。

しかし「NO」となった場合は、EUが特に中身のない離脱延長(交渉引き伸ばし)に対して応じるかどうかが焦点となります。

すでにEU首脳の間では、無意味な先延ばしは如何なものかというコメントも出ており、予断を許さない状況になりそうです。

EUが離脱延長に応じれば「長期の離脱延長 or 数ヶ月の離脱延長(メイ首相も延長は数ヶ月程度を支持)」となる可能性があります。もしも応じなかった場合は「ハードブレグジット確定」となります。

応じなかった場合が最悪のシナリオとして考えておくべきでしょう。こうなった場合、ポンドは急落し、世界的な株安も考えておかないといけません。

「NO」となった場合にEUがイギリスの離脱延長に応じるかどうかは21日〜22日に行なわれるEU首脳会議において決定されます。

つまり、3月29日までに何らかの結論を出さないといけないEUとイギリスには時間が全くなく、良くも悪くも結果を出さないといけない状況であるため、「離脱引き伸ばし」or「ハードブレグジット」のどちらかがまず決定されるのは間違いなさそうです。

相場への影響は?

上記で記載したように最悪のケースが起きた場合は「ポンド急落」、「欧州株急落」、「世界の株安」、「円高」等が影響として考えられますが、果たしてこうなるのかと言われると、離脱派ですら何らかの合意がないといけないという危機感を強く持っている様子で実際にどうすればいいのかわからないという雰囲気が出ていることから、大きく揉めるというよりは、痺れを切らした離脱派の一部が、メイ首相の提案の方向に歩み寄っていくと考えるのが自然ではないかと考えています。

これは余談ですが、イギリス国内では物価が上昇し、個人消費が強く、第一四半期のGDPの統計にいい数字が出ていました。しかしながらこの「良好な数字」というのはいい意味ではなく、とても悪い意味ということを覚えておくべきです。「国民がハードブレグジットに対して備えるため、輸入品を買い漁っていた」ということが個人消費の数字の押し上げ、そしてGDPにまで波及したことで、決してイギリス景気が良いわけではないということを覚えておくべきでしょう。

【記事筆者】

中島翔
中島翔
学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト