こんにちは。不動産・一級建築士事務所にて不動産部の責任者として勤務している隅倉です。前回は、入居者様から寄せられる苦情やお申し出の中から代表的なものをご紹介いたしました。今回は、賃貸物件において、オーナーの収益を大きく左右する入退去時のチェック。管理会社として、何に注意して、どんなポイントをチェックするのか?項目ごとに解説していきます。

退去後の確認ポイント

まずは退去後の確認ポイントから見ていきましょう。

管理会社が退去後の物件で確認するのは、

「必要な修繕・改修工事の種類、数、それらの工期」
「修繕工事の費用負担はオーナーと退去者のどちらか」

上記2つが大事なポイントです。1つ目は、次の入居者がいつから入居可能かを決定するために、修繕・改修工事業者に依頼する施工内容と日時、及び施工順を決めます。2つ目は、修繕が必要になった原因により決定します。

前提として、通常はどの管理会社でも清掃(ハウスクリーニング)業者に室内清掃を依頼しますので、室内の汚れやシミのチェック関しては、清掃後にも残るかどうかを予測・判断して、一部塗装など追加工事が必要かどうかを判断します。

 

①ポストや玄関前

まずは室外の様子から見ます。郵便物や退去者の荷物などが残ってないかを確認し、ポスト本体や玄関ドア周辺に不具合がないかをチェックします。

②匂い、湿気

ここから室内のチェックです。匂いは特にタバコを意識して、ヤニの臭いがする場合、次でご説明する③の天井・壁確認の段階でクロス張替などをどの範囲までやるか、各部屋の臭気の有無を確認しながら精査します。

湿気は特に鉄筋コンクリート造はこもりがちです。アパート等では、一階角部屋の、さらに建物全体の外側に位置する部屋に集中することがあります。ちなみに、タバコは100%退去者の故意過失です。湿気は例外もありますが多くの場合、換気不足として退去者の故意過失にあたります。

③天井・壁

この項目は、仕様別に解説します。

クロス(壁紙)

キズや汚れがないか、くまなく見ていきます。張替及び補修の費用負担がどちらになるか、一番トラブルになりやすい項目かと思います。判断が難しいのはキッチン回りや玄関の入り口付近でしょう。日常的に料理をすれば横の壁に油跳ねもしますし、毎日玄関を出入りすれば靴のスリ傷もやむをえないでしょう。担当者の判断に委ねられるところです。

板張り

大きな修繕が必要になることは稀です。しかし長年の劣化や深い切り傷、広範囲のスリ傷などがあれば数日~2週間前後ほど(業者のスケジュールによります)の日程を割いて張替工事が必要となります。簡単な補修に留めるのか、該当箇所の面全てを一新するのかを見極めます。

砂壁・キッチンパネル・その他

これらは、基本的には目立つキズや汚れがあれば張替になります。砂壁などは、その性質から張替やクロスの上張りなどができないため、下地から造り直す必要がありますので大規模な工事になりがちです。もちろん、美観や構造上問題なければ、比較的安い費用で済むシートの上張りや補修キットなどでの補修でやりすごしても良いでしょう。その場合は短期間の工事で済みます。

④フローリング・畳・CF

フローリングについては、③の板張りと同様です。畳は種類も様々で、丸ごと交換するか表替えにするかなども管理会社によって異なります。

表替えできるタイプであれば、入退去の度に表替え及び縁(へり)の交換を実施すれば揉め事も少ないでしょう。CF(クッションフロア)は、フローリングに比べて弾力性があり、防水性にも優れているので、賃貸物件では利用頻度が高いです。しかし、へこみや幅数cm以上の切り傷などがあれば補修が困難であるため、張替で対応することが多いです。

⑤建具(シューズボックス・ドア・階段・柱など)

フローリングと同様、③の板張りをご参照下さい。一つずつ挙げるとキリがありませんが、材質の種類としては金属・木製・ゴム質などがあります。それぞれに合った補修や交換をする場合、あらかじめ費用と期間の目安があれば一覧にしておくと便利です。

⑥水回り

まずは水・湯が出せる水栓のハンドルを全開に回して、水漏れがないかを確かめます。シンクや洗面台、バスルームだけでなく、各排水部の配管回りも水が漏れていないか確認します。水道設備と壁面との間にあるコーキング部分も、黒カビ・赤カビがないかを見ます。

やっかいなのは、キッチン表面のステンレス部分にサビや物を置いた跡があった場合でしょう。見た目では清掃で落ちる汚れやサビなのかも判別しづらいですし、清掃で落ちなければキッチン丸ごと交換が必要なことが多いです。その交換費用の負担はどちらがするかという点でも問題が起きやすいです。

トイレも、ハンドルを一度回して水を流してみます。手洗い部分から問題なく水がでるか、座面のフタに亀裂など入ってないか、タオル掛けやペーパーホルダーはグラついてないかを触って確かめます。温水洗浄便座があれば、ちゃんとノズルから水がでるか(バケツを用意しましょう)、便座は温まるかもチェックします。

⑦窓ガラス・サッシ・網戸

ガラスには割れがないか、サッシは開閉に支障がないか、網戸は破れや穴がないかを注意して見ます。

⑧ベランダ・バルコニー

スリッパ・物干しざお、ゴミ等がないか確認します。

⑨退去者への聞き取り、最終確認、写真撮影

ここまで担当者が確認した事以外に、退去者にも情報を求めます。退去時の手続きには、担当者と退去者が待ち合わせをして、室内の確認を一緒に行う立会方式と、それ以外の方式があります。管理会社によってやり方に違いがありますが、基本的に確認事項はおおむね同じです。担当者が確認した箇所以外にも水漏れや建具のぐらつきはなかったか、近隣で騒音や問題のある住民がいたか?など、次の入居に支障があるような事があれば、その対応も考慮します。

同時に、退去者のやるべきことが済んでいるかも聞きます。カギの返却が済んでいるか、駐輪場に自転車やバイクを置いたままにしてないか、電気・ガス・水道の停止手続きは行ったか、郵便物の転送届は郵便局へ提出済みか等…。転居先や連絡先も聞いておきます。

最後に大事なのは、修繕などする箇所は全て退去日当日に写真を取っておくことです。原状回復に関して必要な費用請求をする際は、話し合いがうまくいかず最終的に裁判になった場合まで考慮します。写真データは大切に保管し、適宜プリントアウトして利用します。

以上で退去後チェックは完了です。

⑩入居前(引渡し前)の確認ポイント

つづいて入居前の確認ポイントを見ていきましょう。

無事に次の入居者と入居日が決まり、退去後に発注した工事が終わったら、担当者が入居日直前にチェックをしにいきます。発注した工事は問題なく完了しているか、担当者自身でやっておくべきことが残ってないか、本当に次の入居者に引き渡して良い状態なのかを隅々まで見回ります。

万が一、見落としがあって修繕などが必要な場合、次の入居者に連絡を取ります。ケースバイケースですが、仮に床のキズが残ってしまっている場合、「入居後に修繕業者を訪問させたいので、都合の良い日程を教えてほしい」「きれいに直すのが困難なので、管理会社で写真を撮って保管する。入居者が退去する際には、その写真を根拠にして修繕費用を退去者負担にしないようにするので了承頂きたい」などを伝え、その後に必要な対応も素早く行います。入居直後はクレームや設備の不具合が起こりやすいので、なるべく入居者より先手で動くように心がけます。

水回りに関しては、退去~入居までにある程度期間が開くと、水栓内部の部品に使われてるパッキンなどのゴム質のものは水分が飛んで収縮してしまいます。その後、再度水栓を利用すると、そのパッキンなどが急に膨張するため、目に見えないほどの細かな亀裂が生じ、結果的に水漏れをすることがあります。退去時に水漏れがなくても、次の入居直後にこのような事態を考慮すれば、やはり入居前のタイミングで水栓全ての水漏れチェックを行うべきでしょう。

清掃から一定期間が経つと、ホコリや虫などが室内に散っている事があります。担当者自身で掃き掃除などをするか、室内全体の状態によっては業者に再清掃を依頼します。

最後にカギ交換が済んだのを確認したら、室内の窓や玄関を施錠して、入居前チェックは終了です。

まとめ

今回の記事では、管理会社の担当者が行う実務に近いポイントをまとめさせていただきました。

この記事にあるチェック項目を全て実施するには相応の時間がかかるので、管理物件が多い管理会社や担当者では100%行うのは難しいでしょう。しかし、オーナーの皆様が上述の内容を把握しておけば、ご自身でチェックを行うことも可能ですし、管理会社に求める業務レベルの向上に寄与できるのではないでしょうか。是非参考にしていただければと思います。

【記事筆者】

隅倉 広樹
隅倉 広樹
建設会社グループの不動産・一級建築士事務所の不動産部責任者として勤務中。業務内容は賃貸物件の仲介・管理がメインで、売買や土地活用など多岐にわたる。グループ会社の建築・土木・舗装業のノウハウを生かし、社内カスタマーサービス部門にて2年連続満足度No1。
【保有資格】
宅地建物取引士、管理業務主任者、FP技能士2級、賃貸不動産経営管理士、少額短期保険募集人