土地や住宅などの不動産を購入する時は、売主と買主とで売買契約を結び、仲介する不動産会社の用意した「不動産売買契約書」に署名・捺印します。

この「不動産売買契約書」は、不動産売買の詳しい契約内容が記載されている大変重要な書類ですので、契約締結日よりも前に不動産会社から契約書の写しをもらい、事前にしっかりと確認しておきましょう。

なお、通常契約は不動産会社の事務所で行いますので、当日不動産の細かい状況を確認してもその場では分からないこともあり、そうなると確認を諦めるか、場合によっては契約日の延期ということにも。

さて、この売買契約書の内容ですが、法律的な正確さが求められますのでお世辞にも分かりやすい・読みやすいとは言いづらいのが現状です。

そのため、今回は不動産売買の契約締結日当日の簡単な流れをご説明するとともに、不動産の売買契約書でここだけはチェックしておいた方がよいという13のポイントをご紹介していきます。

不動産売買の流れ

 

契約日当日は大きく分けて二つのことを行います。一つは不動産の重要事項の説明、もう一つは今回詳しくご紹介する不動産売買契約の締結です。それでは順番にご紹介していきます。

契約前の重要事項説明

重要事項の説明とは、契約内容や不動産自体に対する重要な事項を説明するもので、不動産会社は必ず重要事項説明書という書面を交付の上、口頭で説明しなければなりません。

不動産のマイナスな情報もきちんと書かなければならないので、不動産売買契約書と同様、締結日よりも前に写しをもらっておき、しっかりと内容の確認をして当日を迎えましょう。

不動産売買契約の締結

重要事項の説明が終わったら、次はいよいよ不動産売買契約の締結です。

*署名と捺印

不動産会社より契約書の原本が渡され説明がありますので、問題がなければ売主用と買主用の契約書に双方署名・捺印をします。事前に受け取っていた写しと内容に変わりがないか確認しながら説明を受けましょう。また、聞き忘れていたことがあった場合は、ためらわずにきちんと確認しましょう。

*手付金の授受

契約書に記載されている額の手付金を買主が支払い、手付金を受け取った売主が買主に領収書を渡します。

契約時に用意する物

契約日に必要なものはあらかじめ不動産会社より指示がありますが、当日朝になって探すといったことがないようにしっかりと準備しておきましょう。

*売主側

手付金領収書:買主の手付金に対する領収書。売主が個人の場合領収書に印紙不要(※不動産会社が準備してくれる場合も)
本人確認書類:運転免許証、健康保険証など
印鑑:一般的には実印を持参する
印鑑証明書:印鑑に実印を使用した場合求められることがある
印紙:売買契約書に貼付する。印紙の金額は不動産会社に要確認
不動産会社へ支払う仲介手数料:契約時に半額の支払いを求められることも。決済時にまとめて支払うケースも多い
登記済権利証もしくは登記識別情報:売主が買主に真の所有者であることを示すため提示することも。不動産会社によっては契約時に不要なこともある

*買主側

手付金:契約書に記載してある手付金額。売主に支払い、代わりに領収書をもらう。
本人確認書類:売主側と同様
印鑑:売主側と同様
印鑑証明書:売主側と同様
印紙:売主側と同様
不動産会社へ支払う仲介手数料:売主側と同様

不動産売買契約書について

不動産売買契約書は、冒頭でお伝えしたように不動産の売買を仲介する宅地建物取引業者の用意する契約書のことで、売買契約の詳しい内容が記載されており、契約締結日に売主・買主双方で記名・捺印し、お互いに一通ずつ受け取ります。

一般的に売買契約の内容は売主と買主が合意すれば自由に決めることができ、契約書の作成さえも任意です。ただし、不動産の売買で、かつ不動産業者が仲介する場合は少し事情が異なります。

宅地建物取引業法第37条に基づき不動産売買契約書(37条書面)に必ず記載しなければならない事項が決められており、不動産会社はその必要事項が記載された契約書を売主と買主に交付しなければならないと定められているのです。これは事後の争いを防止するために、一定の記載をした書面の交付を業者に義務づけているためのものです。

以上のように不動産会社の作成する契約書は法律を踏まえて作られるため、どの会社でもある程度共通した項目について書かれています。ここでは不動産売買契約書に記載されている一般的な項目をご紹介していきます。

不動産売買契約書に記載される一般的な項目

上記の理由から通常契約書に記載される一般的な項目としては、以下のものあります。

・当事者の氏名、住所
・売買目的物の表示
・売買代金および支払い時期、支払方法等
・手付金、手付解除
・土地の登記簿面積と実測面積と相違の清算に関する事項
・所有権の移転と登記申請の時期
・不動産の引渡し時期
・危険負担
・契約違反による解除、違約金支払い
・ローン特約
・租税公課等の分担
・瑕疵(かし)担保責任
・付帯設備等の引渡し
・抵当権等の抹消
・反社会的勢力排除条項

不動産売買契約書の内容は決まっている訳ではない

上記に一般的に不動産契約書に記載されている項目を記載しましたが、基本的には民法や公序良俗に違反さえしなければ、契約内容は本来、当事者の合意で自由に決められます。
たとえば当事者同士で合意があれば中古戸建の売買時に、瑕疵(不具合)の責任を負わないとする建特約を定めることができます。

売買契約書を誰が作成するか確認する

不動産売買契約書は売買を仲介する不動産会社が作成します。
売主・買主共に同じ不動産会社に仲介を依頼している両手取引の場合、その不動産会社が作成することになります。

その他に、売主と買主がそれぞれ別の不動産会社に仲介を依頼している片手取引の場合には、不動産の情報について詳しい売主側の不動産会社が売買契約書を作成することが多いです。買主は自身の不動産会社にもしっかりと確認してもらいましょう。
また、売主が宅地建物取引業者で売主側にも買主側にも不動産会社が介在するケースでは、仲介する売主買主双方の不動産会社だけでなく売主の宅地建物取引業者も契約書を確認、記名・押印する義務がありますので、全社に確認してもらいましょう。

印紙税について

不動産売買契約書には売主側、買主側双方に印紙を貼る必要があります。なので、契約書一通分ずつ印紙代を負担することがほとんどです。印紙代は国税庁のホームページに載っていますが、不動産会社が金額を教えてくれますので、確認しておきましょう。

不動産売買契約書で気を付ける13項目

(1)売買物件の表示に間違いはないか

不動産売買契約書の最初のページに、売買する不動産の所在地等が載っています。土地の場合、所在地や地目(現状の利用状況:宅地、田など)、面積などが記載してあります。
建物の場合は所在地のほか、種類(現状の利用状況:居宅、店舗など)、構造(木造や鉄筋など)、床面積などが記載されます。

原則としてここに記載された土地や建物が売買の対象となりますので、売買の対象だと思っていた不動産が抜けていた場合トラブルの原因となります。しっかり確認をしましょう。

(2)土地、建物の面積

土地、建物の登記簿面積・実測面積と、売買契約書に記載されている面積が一致しているか確認します。また実測面積での売買の場合、測量面積と登記簿面積とに差異が生じた場合には、差額の代金を後日清算するケースも。

契約締結後は、清算単価の訂正・変更はできないためしっかり確認しておきましょう。

(3)売買代金の額

売買代金の額を確認します。支払時期については、買主はローンの準備、売主は荷物の整理や引越しなどが必要なため、日程の確認とすり合わせをしっかりしましょう。

支払方法については、現金や預金小切手で支払う旨と、手数料がかかる場合は誰が負担するか記載されています。買主が残代金を銀行振り込みで支払う旨が記載されていることもあります。支払時の手数料については買主側が負担することが多いようです。
なお、預金小切手とは買主の預金を担保として振り出される小切手で、不渡りの危険性がないため現金と同等の扱いとなります。

(4)手付金の金額と支払日

一般的に手付金額は売買代金の10%~20%程度と言われます。設定した金額が適当かどうか確認しましょう。

また手付金の支払日は通常契約日ですが、新築マンション購入時や、支払いが銀行振り込みで契約日が土日といった場合、契約日前に支払うこともありますので確認が必要です。なお、手付金は特に何もなければそのまま売買代金の一部に充当されることが一般的です。

(5)手付解除について

手付には、証約手付、解約手付、違約手付といった3種類の性質があり、一般的に不動産売買で手付というと2番目の解約手付になります。
解約手付は、売主の場合、買主に受け取った手付金を返還した上でさらに同額を支払うことであらかじめ定めた日(手付解除期日)までなら自由に契約を解除できます。

買主の場合は、売主に支払った手付金を放棄をすることで手付解除期日までならどんな理由でも契約を解除できます。
解約手付以外の可能性は低いですが、念のため手付の種類と手付解除期日を確認しておきましょう。

なお、特に手付について定めがない場合は解約手付として扱われます。また、売主が不動産会社の場合は法律上、解約手付となります。

(6)所有権の移転と登記の時期

所有権移転と登記申請の時期が記載されています。
基本的に手付金を差し引いた残代金を支払う日になりますが、通常住宅ローンの正式な申し込み及び本審査は売買契約を締結した後となるので、支払い日もこの時点では不明です。

そのため、予定日もしくは「売買代金全額の受領と同時に行う」といった形で記載されます。

(7)物件引渡し時期

不動産の引渡しの時期が記載されています。所有権移転や登記申請の時期と一緒ですが、売主の引っ越しが売買代金の支払日に間に合わない場合、時期をずらすことがあります。ただし、引渡し日の遅れが長期化しないよう新しい引渡し日までの猶予期間を決めておき、契約書に記載しておきましょう。

(8)抵当権の抹消について

不動産に抵当権や地上権など、買主が不動産の完全な所有権を行使することを阻害する権利は、引渡しまでに売主が抹消しなければならないのでその旨が記載してあります。この条項がないと「売主以外の第三者の権利が残っていて困った」なんてこともあり得ますので、確認しておきましょう。

(9)建物の付帯設備等の引渡し方法や時期について

不動産には思った以上に設備が多くついています。例えばキッチンだけ見てみてもIHクッキングヒーターや食器洗浄機などがあります。その他に照明、エアコンや敷地の庭木・灯籠などさまざま。

買主側からするとそれらは当然置いていってもらえるものであり、また故障もしておらず使えるものと思いがちです。ただし、売主からすると売買するのはあくまで不動産であり、持って行けるものは持って行くと思っている場合があります。

そういった際に必要になるのが「付帯設備等の引渡しに関する条項」と、別紙の「付帯設備表」となります。この付帯設備表は、建物に付属する設備の有無や故障状況、撤去する予定かどうかが記載してあり、売買契約に先立ち、不動産会社が売主に依頼して作成してもらいますので、買主はその写しをもらっておきましょう。

付帯設備表を確認することで設備の状況を把握することができますので、もし状況が不明な設備や付帯設備表に載っていない設備がある場合は不動産会社を通して売主に確認しておきましょう。

(10)公租公課の精算方法について

不動産に関わる税金には固定資産税、都市計画税などがありますが、これらはその年の1月1日の不動産所有者に対して請求されることが一般的です。
すでに売主が年間額を支払っている場合、1年分全額を売主が負担するのは不公平という観点から、一般的には不動産の引渡し日以降から12月31日までの金額を日割りなどで按分計算して清算します。

また、同様にマンションの管理費・修繕積立金も日割り清算を行います。

(11)ローン特約の有無

買主が住宅ローンで家を購入する場合、通常ローンが組めなかったときに買主が無条件に契約を解約できるローン特約を付けます。このローン特約がない場合、住宅ローンに落ちても取引を進めなければなりませんので、特約の有無はしっかり確認しましょう。

なお、このローン特約は買主の経済状態が急に変化するなど、買主が手続きを怠っていないにもかかわらず本審査に落ちてしまった場合、支払い能力のない買主を救済するためです。そのため、買主がローンの手続きを怠ったたり、契約解除を目的として故意にローンを組まなかった場合はこの特約では契約を解除できないので注意しましょう。

(12)瑕疵担保責任について

瑕疵(かし)担保責任とは、不動産に買主だけでなく売主も認識してなかった隠れた瑕疵(欠陥)が見つかった場合に売主が負う責任です。

*一般的な中古一戸建ての売買契約書では売主が負う責任

・雨漏り
・シロアリの害
・建物構造上主要な部位の木部の腐食
・給排水設備の故障

上記の四項目に限定し、責任期間は3ヵ月程度に限定している場合が多いようです。
上記の瑕疵が見つかると売主はこれを修理する義務を負い、程度によっては契約解除や損害賠償請求につながることもあります。

ただし、売主が個人の場合、この瑕疵担保責任を負う期間は売主と買主の合意によって決められるため、買主との合意があれば売主は瑕疵担保責任を負わない旨の特約を付けることもできます。
なお、売主が不動産会社の場合は、責任期間を2年未満とする特約を定めても無効となりますのでご安心ください。買主が売買契約前に詳しい物件の瑕疵等の状況を確認するには、物件状況確認書(告知書)の写しをもらうとよいでしょう。

この物件状況確認書(告知書)とは、付帯設備表と同様に、不動産会社が契約に先立って売主に作成してもらいますので、あらかじめ告知書の写しをもらっておきましょう。売主が把握している瑕疵は一通りその告知書に記載してあります。

(13)契約違反による売買契約の解除について

相手方が契約に定めた内容に違反した場合、その相手方に一定の手続きののち契約の解除と違約金の支払いを請求することができます。ここにはその一定の手続きと違約金の金額が記載されています。

契約締結時の注意点

ここまで、一般的な不動産売買契約書の項目と内容、気を付けるポイントをご紹介してきましたが、ここでは売主・買主の合意である程度自由に決められる部分、価格や特約などについて注意点をお伝えします。

公序良俗違反や強行法規違反は無効

これまでお伝えし通り、契約内容や特約はある程度自由に決められますが、公序良俗に反するものや強行法規に違反するものは無効となります。たとえば売主が不動産会社(宅地建物取引業者)の場合、瑕疵担保責任を免責したり、責任期間を2年未満とする特約は強行法規に違反し、無効です。

公募取引と実測取引

公募取引とは実際の面積に関わらず登記簿の面積をもとに売買を行います。それに対して、実測取引は土地の面積を測量し、実測面積によって売買を行います。

なお、実測取引の場合には測量をしますが、その際隣地所有者に立ち合いなど協力を依頼し、境界を確定する必要があります。将来の紛争を予防することができる反面、測量時に隣地所有者と境界について意見が対立して測量作業がストップする場合があります。どちらが良いかは売主、買主、不動産会社で相談して決めましょう。

土地と建物、それぞれの売買代金の決め方

ここでは、土地と建物の売買代金を決める際に使用されるデータをご紹介します。

*土地

・公示地価(国)、基準地価(都道府県):市場取引でも良く参考にされる数値です。ただし、公表される場所が多くないため、最寄りの公示地価をもとに立地等で価格を補正する必要はあります。

・相続税路線価、固定資産税路線価:公示地価をもとに計算されており、また、公示地価よりも広範囲で価格が出ているため、公示地価の公表場所から離れている場所でも価格の計算できます。おおよそですが〔相続税評価額=公示地価×0.8〕、〔固定資産税路線価=公示地価×0.7〕程度と言われています。固定資産税路線価は毎年送られてくる固定資産税評価額のもととなっています。

・実勢価格:近隣の不動産の成約価格です。ただし、売買は個別の事情の影響を強く受けますので、大体の相場の参考程度にとどめておいた方がよいでしょう。

・鑑定評価額:不動産鑑定士に評価を依頼すると出してくれる価格です。公示地価や近隣の住環境も含めて複合的に評価するため、客観的な評価額となります。

*建物

・固定資産税評価額:毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されている建物の固定資産税評価額です。経年劣化も考慮した価格になっていますが、それでも時価とやや乖離があり、概ね時価の6~7割程度で評価されるようです。

・実勢価格:近隣の不動産の成約価格です。土地と同様、売買は個別の事情の影響を強く受けますので、大体の相場の参考程度にとどめておいた方がよいでしょう。

・鑑定評価額:不動産鑑定士に評価を依頼すると出してくれる価格です。建物の原価や近隣の住環境も含めて複合的に評価するため、客観的な評価額となります。

事前に売買契約書をよく確認すること

不動産売買契約書の内容は多岐に渡ります。気を付けたほうが良いポイントとして挙げたものでも13項目ありましたが、さらにそこから個別の特約なども加わると、とても契約日当日の説明だけでは把握できないかと思います。事前に不動産会社より売買契約書の写しをもらい、時間をかけて確認しましょう。

売買契約締結当日の流れ、時間、場所をよく確認する

契約日当日は、売主、買主、不動産会社で一か所に集まります。大体は不動産会社の事務所となるかと思います。当日の流れをみていきましょう。

(1)重要事項の説明

不動産会社の宅地建物取引士から買主に対して不動産の詳細な情報が記載されている重要事項説明書の説明が口頭であります。事前に聞き忘れていた点、気になる点があった場合、しっかり確認しましょう。また、瑕疵や特約がある場合はここで再度説明がありますので、自身の認識と違いがないか注意しながら聞きます。

(2)売買契約書の確認

不動産売買契約書の内容について説明があります。重要事項説明書と重複している個所もありますが、最終確認なので気になる点を無くすつもりで説明を聞きましょう。

(3)契約書、重要事項説明書への署名・捺印

不動産売買契約書、重要事項説明書に署名・捺印します。

(4)手付金支払いと領収書の受け渡し

買主は手付金を支払い、それに対し売主は領収書を交付します。

最後に

不動産売買契約の流れと売買契約書の内容、チェックすべきポイントについてご紹介しましたがいかがだったでしょうか。法律用語が所々で使われるため、戸惑うこともあったかと思いますが、分からないまま契約を結んでしまうと思わぬトラブルを抱えてしまうことになります。事前に不動産売買契約書の写しをもらって内容をしっかり読み込み、納得のいく契約をしましょう。

監修:三上 隆太郎(宅地建物取引士)