親族が亡くなることで、ご自身が相続人になることがあります。また、ご自身が亡くなってしまったら、所有していた財産は相続によって相続人に引き継がれることになります。

このように相続税は身近な税金でありながら、その「しくみ」が難解で理解しにくい税金だと多くの方に思われています。しかし、「しくみ」を紐解き、順を追って一から学ぶことで相続税の計算方法は理解しやすくなります。今回は相続税の計算方法を一から徹底解説していきます。

相続税計算の事前準備:相続財産はいくら?

被相続人の死亡時に、被相続人が所有していた財産が相続財産となります。

相続税の計算するための事前準備として、相続の対象となる財産は一体いくらなのかを把握する必要があります。相続税の納税額は相続財産の金額によって変わってきますので、相続財産の金額がいくらになるのかということは大変重要なことなのです。

相続財産の対象となるもの

被相続人が死亡時に所有していた財産で、金銭的に見積もることができ、経済価値が認められるもの全てが相続財産となります。相続財産の対象となる具体例としては、次のようなものがあります。

現金・有価証券

現金をはじめ、預貯金のほか、株券、手形、小切手、債券、商品券などの有価証券などが相続財産の対象となります。また、売掛金、貸付金も相続財産の対象となります。

不動産

不動産は宅地や農地などの土地、居宅や店舗などの建物といった実物不動産のほか、借地権、借家権などの不動産に付帯する権利も相続財産の対象となります。

動産

自動車や船舶などの輸送機械をはじめ、家財のほか、骨とう品、宝石、貴金属、絵画や彫像といったような美術品などの動産は相続財産の対象となります。

そのほか

電話加入権、ゴルフ会員権、著作権、慰謝料請求権、特許権などで金銭に見積もることができるものは相続財産の対象となります。なお、運転免許証や職業資格など被相続人の一身に専属する権利は相続財産の対象とはなりません。

生前贈与された財産のうち相続税の対象となるもの

相続税対策として、相続税の対象となる財産を生前に贈与することがありますが、贈与された財産のうち一定の条件に当てはまるものは相続税の対象となります。

死亡前3年以内に贈与された財産

暦年贈与は、贈与を受ける方一人当たり、1年間110万円まで非課税となる制度を利用して、相続税の対象となる財産を減らしていく相続税対策の1つの方法です。

しかし、被相続人が死亡する前の3年以内に行われた贈与によって取得した土地や現金などの財産は相続税の対象となります。贈与した財産のうち該当する財産を相続財産に含めなければなりません。

相続時精算課税の適用を受けた贈与財産

相続時精算課税制度とは、贈与額の2,500万円までは贈与税を非課税とする制度です。

この制度によって被相続人から贈与された財産は、相続財産の価額に加算して相続税の計算を行うことになります。

相続時精算課税制度の適用に当たっては、年齢などの要件があるほか、定められた期間に一定の書類を用意して申告書を税務署に提出する必要があります。また、この制度の適用を受けると、適用を受けた年度分以降も継続してこの制度が適用されることになりますので、適用後は暦年課税を受けられなくなることに注意が必要です。

相続税計算①:実際に課税される部分はいくら?

相続財産の全てが課税対象となる訳ではありません。また、マイナスの財産はプラスの財産から控除することができます。相続財産のうち実際に課税される部分はどのようにして求められるのでしょうか。

課税されない控除対象の金額を差し引く

金銭的に見積もった相続財産から、課税の対象とならない控除対象の金額を差し引いたり、相続税の対象となる贈与財産の価額を加算したりするなどして正味の遺産額を求め、これから基礎控除額を差し引き課税遺産総額を求めます。

非課税財産

非課税となる財産で主なものを例示すると次のものが挙げられます。

・墓地や墓石、仏壇、仏具といった日常礼拝の対象となる物

・宗教、学術などその他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが、相続などによって取得した財産のうち、公益を目的とする事業で使用することが確実な物

・被相続人の死亡により給付されることとなった保険金や死亡退職金などのみなし相続財産のうち、それぞれ500万円に法定相続人の人数を乗じた金額

葬儀費用

葬儀に要した費用は相続財産から控除することができます。

ご遺体の運搬、遺骨の回送、火葬、納骨などに要した費用、僧侶などに支払う読経料、お通夜などの葬式の前後で必要に応じて支払った費用なども葬儀費用に含まれます。

しかし、初七日などの法事に要した費用、香典返し、被相続人の死後に購入した墓石や墓地のための費用は葬儀費用として認められませんので注意が必要です。

債務

債務などのマイナスの財産は、相続財産から控除することができます。

ただし、控除が認められる債務は、被相続人の死亡時に既に発生していた債務で、支払うことが確実と認められるものでなければいけません。

金融機関などからの借入金、水道光熱費などの未払費用、買掛金などが該当するほか、所得税、固定資産税などの公租公課も該当します。

ただし、墓地購入などの未払金は控除の対象となりませんので注意が必要です。

基礎控除額を差し引く

正味の遺産額を求めたら、基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出します。

基礎控除には税額を軽減させる効果があり、正味の遺産額が基礎控除額を上回らなければ相続税の申告・納税義務は発生しません。

基礎控除の算出方法

相続税の基礎控除額は、法定相続人の数によって変わり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の計算式で算出することができます。

法定相続人とは、民法によって定められた相続する権利を有する者のことで、被相続人などの意思によって増減させることはできません。被相続人に配偶者がいれば配偶者は必ず法定相続人となります。

配偶者以外では、被相続人の子どもや孫が第1順位、父母や祖父母が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となり、優先順位の高い者がいると下位の者は法定相続人となることはできません。また、基礎控除額の計算では相続放棄をした相続人がいても、相続放棄は無かったものとして計算されます。

法定相続人に養子がいる場合には、養子縁組の内容により基礎控除の計算における法定相続人の人数が変わってくることがありますので、注意してください。

 

基礎控除の具体例

被相続人の法定相続人が配偶者と子ども3人で合計4人であれば、
基礎控除額は「3,000万円+600万円×4人=5,400万円」となります。

例えば、正味の遺産額が1億円の場合には、
課税遺産総額は「1億円-5,400万円=4,600万円」となり、4,600円に対して相続税が課税されます。

一方で、正味の遺産額が5,000万円の場合には、課税遺産総額は「5,000万円-5,400万円=-400万円」となり、マイナスとなるため相続税の申告・納税する義務はありません。

相続税計算②相続税の総額はいくら?

それでは具体的に相続税の計算を行っていきます。

相続税総額の算出方法

相続税は課税遺産総額を基に算出をします。

課税遺産総額を法定相続分で分けたと仮定して計算

相続税は課税遺産の金額に税率を乗じて得た金額から控除額を差し引いて求めますが、課税遺産総額に税率を乗じるのではなく、課税遺産総額を各法定相続人が法定相続分に応じて分けたと仮定して求めた金額に税率を乗じて計算します。

法定相続分の具体例

法定相続分は法定相続人の属性や人数によって変化します。

配偶者の法定相続分は、配偶者以外の法定相続人が第1順位の者であれば2分の1、第2順位の者であれば3分の2、第3順位の者であれば4分の3となり、配偶者以外の法定相続人は配偶者の法定相続分以外を等分に分けることになります。

具体例を挙げると、法定相続人が配偶者と子ども2人であれば、配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1ずつとなります。

各法定相続人の税率と控除額

相続税の計算は、各法定相続人の相続税額を計算し、これを合計して相続税の総額を算出します。

各法定相続人の相続税額を計算

遺産課税総額を法定相続分で取得したものとし、各法定相続人の取得金額に応じた相続税の税率を乗じ、控除額を差し引いて各法定相続人の税額を算出します。

【参考】国税庁 相続税の税率:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

相続税計算の具体例

3億円の課税遺産総額を配偶者と子供3人の法定相続人のケースで各法定相続人の相続税を計算してみます。

配偶者の法定相続分に応じた取得金額は1億5,000万円となり、これに対応する税率は40%、控除額は1,700万円です。
配偶者の相続税は「1億5,000万円×40%-1,700万円=4,300万円」となります。

子ども3人の法定相続分に応じた取得金額はそれぞれ5,000万円となり、これに対応する税率は20%、控除額は200万円です。
それぞれの子どもの相続税は「5,000万円×20%-200万円=800万円」となります。

各法定相続人の相続税額を合計

相続税の総額は各法定相続人の相続税額を合計して算出します。

課税遺産総額3億円で配偶者と子ども3人の場合における相続税の合計額は「4,300万円+800万円×3人=6,700万円」となります。

相続税計算③それぞれの相続税はいくら?

相続税の総額が求められたら、相続人が実際に負担する相続税の金額を算出します。

遺産分割しそれぞれの相続税を算出

相続財産の実際の分割は、遺産分割協議によって、法定相続分と異なる割合で決められることが多々あります。

遺産分割協議による分割割合に応じて相続税の総額を按分し、各相続人は按分して求めた相続税額分を負担することになります。

各人に応じた税額控除がある

相続財産の実際の分割割合によって按分した税額を求めた後は、それぞれの法定相続人に応じた税額控除の適用があれば、これを控除して納税額を求めます。

相続人が被相続人と婚姻関係にあった配偶者である場合には、負担する税額が1億6千万円までであれば、軽減制度の適用によって配偶者の相続税負担は無くなります。また、負担する税額が1億6千万円を超えている場合であっても、法定相続分に対応する税額の範囲内であれば税額控除によって相続税負担は無くなります。

また、配偶者の税額の軽減以外にも、相続人が相続発生前の3年以内に行われた贈与について贈与税を納税していた場合や、相続人が未成年者の場合、障害者の場合などは一定の要件を満たすことで相続税の税額控除を受けることができます。10年以内に相次いで相続が発生している場合にも、相次相続控除の制度適用により税額控除が可能な場合がありますので、要件を満たしているかどうかの確認をしましょう。

遺産分割は10か月以内に

相続税は申告を行うことによって納税額が確定する税金です。

課税遺産総額が基礎控除を上回らなければ申告を行う必要はありませんが、配偶者の税額の軽減などの適用によって納税額が0円となる場合には申告をしなければいけません。これは申告することで税額控除が適用となるためです。

相続税の申告と納税の期限は、相続の開始を知った日から10カ月以内と定められています。配偶者の税額の軽減などの適用を受けるためには、期限内に遺産分割を完了させて、申告を行わなければなりません。

最後に

相続税の計算方法について、簡潔に手順を追いながら解説をいたしました。相続の開始から申告・納税までを10カ月で行わなければ、配偶者の税額の軽減が受けられないなどの不利益を受けることもあります。まずは正味の遺産額を把握することから相続税対策を始めてみるのはいかがでしょうか。

監修者:添田 裕美(税理士)