長年助け合って暮らしてきた夫婦が、夫が死んだために妻が多額の相続税を支払わざるを得なくなったら不条理ですよね。夫婦の財産というものは、夫婦の協力によって作られたものです。その財産に多額の相続税がかけられ、老後の生活も成り立たなくなったら、亡くなった夫は死んでも死にきれないでしょう。その様なことのないように夫婦だけに認められた優遇措置のひとつが相続税の配偶者控除です。この記事では、配偶者控除の内容や要件などについて詳しく解説をいたします。

配偶者控除とは

財産というものは、夫婦が協力して作り上げたものです。たとえ妻は外で働いていなくとも、子供を育て家事を行い家庭内での仕事を分担しています。それゆえ配偶者に大きな相続税負担がかかっては道理にかなわないでしょう。また配偶者は同世代である場合が多く、短い期間の中で二次相続が起こる場合には大きな税負担になってしまう可能性もあります。このような観点から、相続における配偶者控除という税制の優遇措置があります。

配偶者控除の内容

配偶者が相続した遺産について、下記のどちらか多い金額を控除できる制度です。よってこの金額を超えなければ配偶者に税金がかかることはありません。
1.1億6,000万円まで
2.配偶者の法定相続分(※)まで
※法定相続分とは相続人の範囲と配分のことを言い、民法で定められています。

①配偶者と子供が相続人の場合には配偶者の相続割合は1/2
②配偶者と直系尊属が相続人の場合には配偶者の相続割合は2/3
③配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合には配偶者の相続割合は3/4

相続税の基礎控除額の改正

基礎控除とは課税の対象となる全相続財産から控除できる金額を言い、基準内に収まる場合は相続税が課税されません。平成27年に改正になり控除金額が引き下げられました。

定額控除分 法定相続人一人当たり
平成26年まで  5,000万円  1,000万円
平成27年から  3,000万円  600万円

例えば妻と子供二人の場合、平成26年までは5,000万円+(1,000万円×3人=3,000万円)の8,000万円までは相続税がかかることはありませんでした。しかし平成27年1月1日以降は3,000万円+(600万円×3人=1,800万円)の4,800万円となり、控除金額は3,200万円減ることになります。それゆえ今まで相続税を払う必要のなかった人でも、課税される可能性が高くなりました。

相続税税率の改正

相続税率の区分が従来の6区分から8区分となり、6億円超の区分は最高税率が50%から55%に引き上げられました。
相続税の速算表

相続の取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

この速算表で各法定相続人の税額を算出し、それを足し上げたものが相続税の総額となります。

未成年者・障害者の相続税額控除の改正

未成年者及び障害者の相続税控除額が下記のように引き上げられました。

 税額控除項目  控除金額  対象年齢
 未成年者  10万円(20歳までの1年毎の金額)  20歳に達するまで
 障害者  10万円(85歳までの1年毎の金額)  85歳に達するまで
 特別障害者  20万円(85歳までの1年毎の金額)  85歳に達するまで

・未成年者控除の例:相続人が15歳の場合
20歳-15歳=5歳 ×10万円=50万円の控除
・障害者控除の例:相続人が60歳の場合
85歳-60歳=25歳×10万円=250万円
・障害者特別控除の例:相続人が50歳の場合
85歳-50歳=35歳×20万円=700万円

配偶者控除のメリット


配偶者が相続する場合には、1億6000万円または配偶者の法定相続分どちらか高い方を相続税の総額から控除できます。配偶者は、この制度を利用することにより土地や家を売り払うことなく住み続けられます。それゆえ、財産を配偶者に単独で相続させる場合には、大きなメリットがあると言えます。ただし二次相続が予想される場合には、相続税は財産が多いほど税率は高くなります。6億円超の相続があると、55%の税金がかかってきますので注意しなければなりません。

配偶者控除を受けるための要件


配偶者控除を受けるためには、次に挙げる要件を満たさなければなりません。

戸籍上の配偶者であること

内縁関係や事実婚では認められず、戸籍上の配偶者であることが要件となります。婚姻期間の長短は問われず、例え入籍して1日しかたっていなくとも、配偶者控除の対象となります。

相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること

相続税の申告期限までに遺産分割が完了していることも、配偶者控除を受ける要件となります。これは遺産分割が完了していないと、配偶者の相続部分がわからないからです。なお配偶者控除により相続税が0となった場合でも、必ず申告しなければなりません。それはどういった内容で遺産分割がなされてその財産を取得したのかを把握する必要があるためと単に申告漏れなのかを判別できないという理由で申告が必要となっています。

相続税の申告書を税務署に提出すること

相続税の申告書は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に税務署に提出しなければなりません。申告の期日を過ぎると納税額によっては延滞税がかかることとなります。配偶者控除の金額は、実際に配偶者が得た財産の金額をもとに算出します。

配偶者控除の計算の順序


次に計算の順序についてご説明致します。配偶者控除の計算は、相続税の計算の最終段階で行われます

1.遺産総額を算出

相続税の計算はまず、被相続人の土地や住宅・預貯金などの財産の全てを算出します。次に葬式にかかった費用や借入金・未払金などの債務を財産から引き、正味の遺産総額を算出します。なお生命保険金や死亡退職金については、非課税限度額をオーバーしたものが加えられます。

2.基礎控除額を差し引いて課税対象となる額を確定

次に遺産にかかる基礎控除額を引いて、課税対象となる額を算定します。平成27年1月以降の相続については3,000万円+(600万円×相続人数)の数式で計算をします。

3.各人の法定相続分に基づく相続税額を算出し、合計する

次に各相続人の相続税を法定相続分に基づき個別に算出し、これを合計します。これがトータルの相続税額となります。

4.3の合計額を、各人が実際に相続した遺産の割合で割り振る

3で算出したトータルの相続税額を、各相続人が実際に得た遺産の総額で割り振ります。次いで相続税の速算表に当てはめて、各法定相続人の課税額を算出します。

5.各人ごとに事情に応じ増額・減額して最終的な相続税の額を確定する

最後の段階で各人の相続税から、控除額を引いて自分の相続税金額を算出します。配偶者控除の計算は相続税の計算の最後の段階で行われます。前述しておりますが、配偶者が相続人の場合には下に記したどちらかの多い金額までは相続税がかかりません。

  • 1.民法の定める法定相続分
  • 2.1億6,000万円のいずれか多い金額

例えば2億円の財産を配偶者と二人の子供と相続した場合では相続した場合に配偶者には課税価格1億6,000万円までは税金がかかりません。

具体的計算例

・相続人:配偶者と子供A と子供Bの3名
・遺産総額:2億円
・借金:2,000万円

1.正味遺産総額を算出

この場合遺産総額か2億円から借金の2,000万円を引いた1億8,000万円が課税対象金額となります。

2.課税対象となる額を確定

まず正味遺産総額から基礎控除額を差し引いて課税対象額を算出します。
3,000万円+(600万円×相続人数)を引くことができますので、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円が基礎控除額となります。よって1億8,000万円から4,800万円を引いた1億3,200万円が課税対象額となります。

3.各人の法定相続分に基づく課税価格の算出

配偶者:1億3,200万円×1/2=6,600万円
子供A:1億3,200万円×1/4=3,300万円
子供B:1億3,200万円×1/4=3,300万円

4.相続税の速算表に当てはめ各法定相続人の課税額を算出します。

配偶者:6600万円×30%-700万円=1280万円
子供A:3300万円×20%-200万円=460万円
子供B:3300万円×20%-200万円=460万円
法定相続人の課税額を合計すると
1280万円+460万円+460万円=2200万円になります。

5.これを法定相続分に基づき分配すると

配偶者:2200万円×1/2=1100万円
子供A:2200万円×1/4=550万円
子供B:2200万円×1/4=550万円
この場合1億6000万円以下ですので、配偶者には相続税はかかりません。
配偶者:2200万円×1/2=1100万円 ⇒ 0円
また全額配偶者が相続しても、基準内に収まりますので配偶者には税金はかかることはありません。

配偶者控除に必要な手続きと方法


配偶者控除を受けるためには、申告期限までに次の書類を添付して申告をする必要があります。

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

被相続人が死亡してから、10日を経過した以降の戸籍謄本を添付しなければなりません。相続税額を計算するためには、相続人の人数を確認しなければならないので必要になります。

遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

配偶者控除の額は、配偶者が相続した遺産総額をもとに算出します。それゆえ申告期限までに遺産分割が完了していることが必要であり、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写しが必要です。

遺産分割協議書の写しを添付するときは、相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書が提出されても、相続人の中で一人でも印鑑証明書がなければ効力がありません。

配偶者控除を適用する際の注意点は?


配偶者控除を適用する際には注意しなければならない点があります。

誰にどの資産を分割するか決定しているか

配偶者控除を受けるためには遺産の分割についての話し合いができ、誰がどの遺産を取得するかが決まっていないと適用することはできません。

二次相続も考慮しているか

一次相続で配偶者のみが相続した場合には相続税は金額によってはかかりませんが、その分二次相続では全額に税金がかかってしまいます。一次相続がゼロでも、一次二次合わせた遺産の総額では多額の相続税を納めることになってしまうこともありますので注意が必要です。。

最後に


いかがでしたか。
財産と言うものは夫婦で築いたものであり、そのために税制の優遇措置が講じられています。相続税の内容・仕組みを理解し、配偶者控除をうまく活用して税金を納めるようにしましょう。

監修者:添田裕美(税理士)