相続税はというと「少し難しい」というイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。基礎知識さえ知っていれば、今後、自分が相続税を支払うときにしっかりとした対策を取ることが可能になります。そこで今回は、相続税の基礎知識「控除」についてご紹介します。控除とは、相続税がかかる対象のものから差し引くことができる金額のことを言います。この控除を正しく理解することで、ムダな税金を支払わずに済むことが可能になります。

相続税の控除は大きく分けて2つ


そもそも相続税の「控除」というのは、相続税から金額を引くことができることをいいますす。そして、控除は大きく分けて「基礎控除」「税額控除」の2つに分類することが可能です。それでは、一つずつ確認していきます。

基礎控除

基礎控除とは、相続を受けるときに必ず適用される一定額の基準額を控除する部分のことをいいます。その基礎控除の額は最低3,000万円+(相続人の数×600万円)となっています。そのため、相続される財産の金額がそれ3,000万円以下の場合は、相続税はかからないことになり、ます。また、3,000万円以下の場合は特に申告手続きなども必要ありません。そして、課税対象の財産が基礎控除を超える場合は次の「税額控除」への計算に移ります。

税額控除

税額控除とは、相続税にかかる金額が基礎控除を超えた場合などに控除することができる制度になっています。つまり、基礎控除では控除しきれなかったりした場合、の相続人の状況に応じて控除が適用される制度です。この制度の詳細な内容や計算方法については、後述します。

相続税の課税対象額の算出方法は?

それではまず最初に、相続税を計算するときの元になる課税対象についてご説明します。相続税の控除を知るうえでも基礎知識とになるもので、何が相続税の課税対象になるのか、また、その算出方法などもしっかりと確認しておきましょう。

①遺産総額と相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を合計

まずは、相続することになる遺産はすべてでどの程度あるのかを決定します。これを遺産総額といいます。そのために、自分が相続する土地や建物、現金など相続が発生した時点で財産的価値のあるもの全てが対象となります。すべてを合計します。そこに相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を合計することで課税対象額が決まります。今回は土地の評価について見ていきますが、相続財産には株式や生命保険、ゴルフ会員権などもあり、それぞれ評価方法が異なりますのでご注意ください。

土地宅地や建物の評価方法は?

それでは、課税対象となる資産の代表格である土地宅地や建物などの評価方法を見ていきます。まず、土地の評価方法ですが、は国税庁の路線価に基づいた「路線価方式」「倍率方式」のどちらかで計算いたします。
また、宅地の種類によって少し評価する方法が違ってきます。まずは
自分の土地に自分の家が建っている「自用地」について説明します。

この場合は、路線価か倍率方式によって評価することになります。さらに、他にも土地の種類はありますが、基本的にはこの自用地の評価額を元に計算します。

また、建物の場合は、固定資産評価額の価額がそのまま相続税のときの課税対象の評価額になります。

相続時精算課税とは?

相続時精算課税は分かりにくい制度なので、詳しく具体例を挙げてお伝えします。相続時精算課税とは「相続の時に精算する課税額」のことをいいます。これは、生前の贈与税を「23,500万円までを非課税にして、その後、相続時に課税対象とする」という制度です。
例えば、平成30年1月に父親から1,000万円の贈与を受けたとします。この場合に、相続時精算課税を選択していると、1,000万円の贈与に対しては23,500万円まで以内なので非課税なのでということになり、その時年は課税されません。

しかし、その後、平成32年に父親が死亡したとします。すると、そのときに生前、非課税になっていた1,000万円の贈与が課税対象になります。つまり、相続時精算課税は「課税の先送り」ともいえる制度です。

② 債務・葬式費用・非課税財産を差し引いて遺産額を算出

相続税で一番勘違いしやすいのが、保有している財産(遺産総額)に対して税金がかかると思ってしまうということです。例えば、家や預貯金などで遺産総額が1億円あったとしても、この1億円に相続税がかかるわけではありません。

資産だけでなく、債務などを財資産から引いたものが遺産額になりますくことになります。財資産から引くことができるのは債務や葬式費用、非課税財産などです。仮に、債務や葬式費用、非課税財産などが5,000万円あった場合は、資産の1億円から債務や葬式費用、非課税財産などの合計額5,000万円を引いた差額の5,000万円が相続税の遺産額になります。

債務とは?

一番分かりやすい例はのでいうと、「銀行などからの借金」です。いわゆるカードローンです。また、金融会社や勤めていた会社などからの借入金も含まれます。さらに、死亡する前に入院していたときの「未払い入院費」や、税金などの未払い分も債務に含まれます。

葬式費用とは?

通常、葬式をするときにかかる費用は遺産総額から控除することができます。しかし、 葬式費用のなかには、遺産総額から控除できないものもあります。それは、葬式費用には基本的に必要とされていないものです。例えば、香典戻返費用、墓牌などは遺産総額から控除されない葬式費用となります。

非課税財産とは?

非課税財産は、その財産の社会的性質として課税するのにそぐわない財産のことをいいます。例えば、生命保険の死亡保険金(限度額あり)などが該当します。また、墓石、仏具などの日常的にお参りなどをするものについても非課税財産になります。

③遺産額に暦年課税に関わる3年以内の贈与財産を加算

遺産総額から債務や非課税額などを控除して遺産額を算出した後は、暦年課税に関わる過去3年以内に贈与された財産を加算することになります。なぜこのような制度があるかというと、生前贈与で節税をさせすぎないためです。生前贈与は贈与税や相続税の節税対策として有効な制度のため、直近の3年は除外しています。ただし、3年以内に贈与された財産を加算する必要があるのは、相続や遺贈で財産を取得した人なので、相続人や受遺者でない孫への贈与は、原則として3年内加算の対象にはなりません。

暦年課税とは?

遺産額に加算される「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までに贈与された金額をまとめて計算する贈与税の計算方法の一つのことをいいます。もう一つは、上記でもご紹介した相続時精算課税となっています。この暦年課税は、特に何もしなければ自動的に選択されることになります。また、暦年課税の場合だと、年間で110万円以下の贈与は課税されません。生前に110万円以下を毎年贈与することで節税効果が期待されます。

④正味の遺産額から基礎控除額を差し引く

課税遺産総額の算出方法は、遺産総額から債務、葬式費用、非課税財産などを引き、正味の遺産額を求めます。さらにそこから、暦年課税に関わる3年以内の贈与財産を加算して基礎控除額を差し引くことで「課税遺産総額」が算出されることになります。

基礎控除額の計算方法

3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額

課税遺産総額がこの基礎控除額を超えない限り、相続税はかかりません。また、法定相続人とは、「法律で定められた相続人」のことを言います。遺産を相続するときに、優先順位を法律によって決められています。法定相続人の範囲は、配偶者、死亡した人の子供、死亡した人の父母・祖父母、死亡した人の兄弟姉妹になっています。

また、相続する優先順位は配偶者⇒死亡した人の子供⇒死亡した人の父母・祖父母⇒死亡した人の兄弟姉妹の順番になっています。

【出典】国税庁:
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

相続税の課税対象額から控除される税額控除とは?


それでは、相続税の課税対象額から控除される主な税額控除について詳しくご紹介します。

配偶者の控除

税額控除のなかでも一度ぐらい聞いたことがあるのが、この配偶者の控除ではないでしょうか。また、「配偶者は1億6,000万円までは相続税がかからない」と何となく知っている人もいると思いますが、その内容と手続きについて詳しくお伝えします。

配偶者控除の概要

配偶者控除は、相続における配偶者への優遇措置で、「基礎控除後の課税価格において、法定相続分と1億6,000万円のいずれか多い金額まで、配偶者が相続する財産への相続税が非課税」となる制度です。詳細は以下の記事をご確認ください。

配偶者控除の詳細⇒【相続税対策!】“配偶者控除”を有効活用しよう!

 

配偶者控除を受けるための手続きは?

配偶者控除の適用を受ける場合は、原則として指定の期間までに手続きをしなければいけません。申告の期限は、被相続人が死亡した日を知った日の翌日から10月以内で、「相続税の申告書(配偶者の税額軽減額の計算書含む)を提出します。また、未分割の場合には適用ができません。

贈与税額の控除

相続税と贈与税を2重で支払うことのないように定められている制度です。贈与税をすでに納めているのに、さらに相続税で税金を支払うことのないようにしています。

贈与税額控除の概要

上記でも説明しましたが、相続開始前の3年以内に死亡した人から贈与を受けた場合は、相続税の対象となります。このことを贈与財産の加算といいます。ただ、このときに、すでに贈与税を支払っている場合は、その分に限って相続税から控除することができます。これは、贈与税と相続税の2重での支払い(ダブり)を避けるために定められています。

控除される贈与税額は?

控除される贈与税額は、相続開始前3年以内に死亡した人から受けた贈与財産に係る贈与税です。この3年間の贈与税が相続税から控除されることになります。もちろん、相続税が基礎控除額以下の場合だと、相続税を支払っていないので、この適用を受けることはできません。

未成年者の控除

20歳未満の未成年者に対して適用される税額控除です。適用されるための要件や控除額の計算方法などを確認しましょう。

未成年者控除の概要

この制度は未成年者が相続をした場合に、教育等への支払いの負担を軽減するためのものです。また、要件としては下記の4つをすべて満たさなければいけません。

①財産を取得したとき満20歳未満
②日本国内に住所がある(※要件に合致すれば控除可能)
③法定相続人である
④相続で財産を取得している

【出典】国税庁:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm

未成年者控除の控除額は?

未成年者控除の控除額の計算方法は次の通りです。

(20歳-相続した時の年齢)×10万円=未成年者控除額

相続をしたときの年齢が、15歳10カ月だとした場合、月の単位の部分は「切り上げ」で計算します。上記の計算式に当てはめると、4歳2カ月となるので、2カ月を切り上げして「5年」になり、これに10万円をかけた「50万円」が未成年者控除額になります。

また、この控除を受けるためには「未成年者控除・障害者控除額の計算書」を提出する必要があります。

障害者の控除

障害を持っている人が相続をした場合に、満85歳まで一定の要件を満たしたときに適用される制度です。この制度は、障害を持っている人が日常生活を送るうえでの負担を少なくするために定められています。詳しい内容や控除額の計算方法などは次の通りです。

障害者控除の概要

障害者控除は、障害を持っている人が相続をした場合に日常生活などへの配慮から定められています。満85歳になるまで、それぞれの障害に応じて一定の金額が控除されることになります。この控除が適用されるためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

①障害者である
②日本国内に住所がある
③法定相続人である
④相続や遺贈で財産を取得した

障害者控除の控除額は?

障害者控除の控除額は、一般障害者と特別障害者によっても違います。

①一般障害者 (85歳―相続した時の年齢)×10万円=控除額
②特別障害者(85歳―相続した時の年齢)×20万円=控除額

また、障害者控除の控除額の計算方法は、未成年者の控除の計算の時と同じようように、月の単位は「切り上げ」て求めます。上記の計算式(一般障害者の場合)に当てはめると、65歳2カ月で相続を受けた場合、85歳‐65歳2カ月=19歳10カ月となるので、2カ月を切り上げて「20」になり、そこに10万円をかけた金額が控除額になります。

この控除を受けるためには「未成年者控除・障害者控除額の計算書」と「障害者手帳のコピーかその他、障害者であることを証明できる書類」を提出する必要があります。

相次相続控除

相次相続控除は、短期間の間に相次いで相続が発生した場合に適用される制度です。この制度を使わないと、余分な相続税を支払うことになるので、適用条件などを確認してください。

相次相続控除の概要

相次相続控除は、死亡した人が過去10年以内の間に相続を受けていた場合に適用される制度です。相次いで相続が発生すると、相続税が2重に課税されているのと実質的に変わりません。これを避けるために、相次相続控除が定められています。この制度は「申告しないと適用されない」ので、しっかりと確認するようにしましょう。相次相続控除は次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

①法定相続人である
②過去10年以内に相続で財産を取得した人が被相続人
③前回の相続のときに被相続人が相続税を支払っている

相次相続控除の控除額について

相次相続控除の計算は少し難しく感じるかもしれませんが、一つずつ数字を当てはめていくことで、計算することは可能です。次の計算式を参考にしてみてください。

A×C/B-A×D/C×10-E/10=相次相続控除

A(被相続人が前の相続で支払った相続税)
B(被相続人が前回の相続でもらった財産価額)
C(相続における財産価額の合計)
D(相続人が取得した財産価額)
E(前回の相続から今回の相続までの経過年数(1年未満は切り捨て))

具体例を挙げて、数字を当てはめていきます。

A=2,000万円
B=2億円
C=1億5,000万円
D=1億円
E=2年

2,000万円×1億5,000万円/2億円―2,000万円×1億円/1億5,000万円×10―2/10=889万円(万円以下は切り上げ)が相次相続控除額となります。

【出典】国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/souzo302.htm

まとめ

今回の記事では、相続税の基礎知識「控除」について、どういう流れで計算されるのか、また、適用条件などをご紹介しました。なかには、自分から申告しないと「税金の2重支払い」になるものもあります。相続税の仕組みをしっかりと押さえることで、相続税のムダな支払いを節約することが期待できるようになります。

監修:添田裕美(税理士)