不動産投資とは不動産を利用した事業であり、経営です。収入とそれに対応する費用(経費)の管理を行って、不動産所得を申告する必要があります。

不動産所得の計算において経費の計上漏れは確定申告における所得額を大きくすることになり、納める必要の無い税金を納めてしまって損をしてしまいます。しっかりと節税ができるように、不動産投資における収入と計上可能な経費の種類を押さえておきましょう。

不動産所得について

不動産所得というと不動産を運用することで得られる収入のことをイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、収入と所得は異なるもので、不動産投資を行う場合には、この違いを正しく理解することが大切です。

不動産所得の計算式

不動産所得を計算式で表すと「不動産所得=不動産事業による収入―不動産事業に要した費用(経費)」となります。

不動産所得が少なくなれば納める税金は少なくなります。このため、収入から差し引くことができる経費は漏れなく計上することが節税につながります。しかし、収入や経費を独自の判断で増やしたり減らしたりすることは問題があり、税務署からペナルティを課されることもありますので、ルールに従った計上を行う必要があります。

収入として計上されるもの


不動産を賃貸して得られる収入には次のものがあります。

賃料

賃料とは、不動産の所有者が不動産を賃借人に賃貸し、賃貸借契約に基づき、賃借人が賃貸人に対して支払う不動産を使用することへの対価のことをいいます。

地代は土地を、家賃は建物を賃借することによって支払う対価の名称です。

共益費

共益費とは、マンションなどの通路、エレベーター、階段などの共用部分について発生する清掃費や管球費、電気代などに使用するという名目で賃借人から徴収する金銭のことをいいます。

共益費のことを管理費という名称で徴収するケースもあります。

返還しない敷金や保証金

敷金とは賃貸借契約の履行上発生する債務に備えた担保として賃借人から賃貸人に支払う一時金のことをいい、保証金も名称は異なりますが敷金と同様の一時金として取り扱われます。

一般的に敷金や保証金は預り金的性格を有しており、賃借人との賃貸借契約終了時に返還する一時金は不動産収入に該当しないため収入に計上する必要はありません。

しかし、敷金や保証金の名称で交付された一時金であっても返還義務を要しない(全部、または一部)という賃貸借契約が締結されている場合には、返還しない一時金は不動産収入として計上する必要があります。

更新料

更新料とは、契約期間の満了時に契約期間の更新を目的として、賃借人から賃貸人に支払われる賃料とは別の金銭のことをいいます。

更新料の授受は賃貸借契約の内容にも依りますが、賃貸人が受領した場合には不動産収入として計上する必要があります。

名義書換料や承諾料

名義書換料や承諾料とは、賃借人が土地や建物の賃借権を売却したり、転貸したりする際に受領する金銭のことをいいます。名義書換料や承諾料は名称に関わらず、不動産収入となります。

経費として計上できるもの

不動産の賃貸経営にあたっては建物などの維持管理や賃貸管理のために様々な費用が発生します。不動産収入を得るために発生した費用は経費として漏らさずに計上することで節税となります。

租税公課

賃貸人には、所有する土地や建物などについて課税された租税公課を納税する義務が生じます。

不動産事業で発生する租税公課には、取得時の登録免許税、不動産取得税、固定資産税及び都市計画税の精算分、運用時の固定資産税、都市計画税があります。

減価償却費

建物のように、時の経過に伴って価値が減じていく資産を減価償却資産といいます。

不動産事業では、建物などの減価償却資産は購入時に全額を費用計上するのではなく、取得金額を残存耐用年数に応じて費用配分します。この配分した費用のことを減価償却費といいます。

修繕費

入居者の退去に伴う内装や設備などの原状回復に要した工事費や資産の維持管理のための工事費などの修繕費を経費計上することができます。

なお、建物の使用可能期間を延長させるためや、資産価値を増加させるための支出は修繕費ではなく、資本的支出に該当するため、減価償却費と同じ扱いで使用可能期間に渡って費用配分して経費とするケースがあります。

管理費

賃貸用建物の保守管理を行うため、管理会社に支払う費用は、管理費として経費に計上することができます。

建物管理に要する費用には、建物の給排水、電気などの設備の保守点検、共用部分の清掃費などのほか、エレベーターや消防設備などの定期点検費用も含まれます。

修繕積立金

マンションの一室を所有して賃貸経営を行っている場合には、将来の大規模修繕に備えて修繕積立金を支払うことになりますが、この修繕積立金も経費に計上することが可能です。

なお、マンションの売却に際して修繕積立金が返還されるケースでは経費として計上することができないため、管理規約などを確認するようにしましょう。

賃貸管理代行料

賃貸管理を管理業者に委託する際に発生する賃貸管理代行料についても経費計上することが可能です。家賃徴収やクレーム対応などの賃貸管理業務をオーナーに代わって行ってくれます。

損害保険料

賃貸用不動産について支払った火災保険、地震保険を始めとした損害保険料を経費として計上することができます。

なお、保険料は複数年を一括して支払うケースがありますが、経費として計上できるのは単年度相当額となります。

借入金利息

賃貸用不動産の購入に際し、金融機関から購入資金を借り入れるケースが多いかと思いますが、この借入金の返済利息を経費として計上することができます。

融資保証料

金融機関から融資を受ける際に、連帯保証人を立てるかわりに融資保証料を支払って保証会社の保証を受けることができます。この融資保証料は不動産事業における経費として計上することが可能です。

税理士への手数料

賃貸経営の収支について、確定申告の手続きを税理士に依頼した場合の手数料は不動産事業の経費とすることができます。

その他不動産事業に関わる費用

上記以外でも不動産事業に関わる費用であることが明確であれば経費として認められます。ただし、これらの費用を計上する場合には税務署に対して十分に説明できるだけの根拠を持つことが大切です。

 

交通費

不動産事業に関連する移動に要した交通費は経費に計上できます。

例えば賃貸している物件の確認のため、管理会社や工事会社などとの打ち合わせのためなどに要した交通費が該当します。

新聞図書費

不動産投資のための情報収集などを目的とした新聞の購読や書籍の購入に要した費用は経費に計上することができます。

通信費

管理会社や賃借人との連絡や情報を収集するためにインターネット接続に要した通信費は経費として計上することができます。

接待交際費

不動産管理会社などとの打ち合わせの際の飲食費について経費として計上できます。ただし、過大な費用の計上には気を付けなければなりません。

消耗品費

不動産事業で使用するカメラ、パソコンなどの機材なども消耗品費として経費に計上することができます。

セミナー参加費

不動産投資や賃貸経営などのセミナーに参加するための費用は経費計上することが可能です。

売買の際に経費になるもの

賃貸用不動産を売却した場合の所得は譲渡所得となります。譲渡所得は不動産の売却金額から取得と譲渡に要した費用を差し引いて求めますが、譲渡に要した費用で経費に該当する主なものは次のとおりです。

仲介手数料

不動産売却の際に発生する仲介業者に支払う仲介手数料

印紙代

不動産の譲渡にあたり売買契約締結の際に売主が負担した印紙の代金

売るための測量費

不動産の売却時に土地の面積や境界線、権利関係を把握するための測量費用

売却の際の立退料

不動産売却のために賃借人などの退去のために支払った立退料

売却するために建物を解体したときの解体費

土地を売却するために土地上の建物を解体したときの解体費。また、建物を解体することで建物の損失額が発生する場合には、この損失額も経費として計上できます。

登記費用

不動産の売却に際して、抵当権抹消登記を行う場合に発生した登記費用。また、司法書士に登記手続きを依頼した際の報酬も経費として計上できます。

経費にならないもの

不動産事業と関係のない費用や借入金返済元本を不動産事業の経費として計上することはできません。

返済元本

賃貸用不動産の購入のために融資を受けた場合、返済に係る利息は経費となりますが、元本に該当する部分は経費として計上することは認められません。

私生活の費用

家族との食事や生活費などといった不動産事業と関係の無い私生活の費用は、当然ですが経費となりません。

過度な通信費

不動産事業のための通信費は経費となりますが、一般的に賃貸経営で通信費は大きな費用となることが想定されていないため過度な通信費を計上することは問題となることがあります。

特に私用でも利用している携帯電話やプロバイダーの料金は按分割合に気をつける必要があります。

自宅に関するもの

不動産に関する支出であっても自宅の補修繕などの費用は不動産事業とは関係が無いために経費とすることは認めらません。

不動産売却時の売却損

不動産を売却した際に発生した売却損は経費とはなりません。

不動産売却時の売却損は譲渡所得の計算結果に反映されますので、売却損を経費として計上してしまうと正しい譲渡所得の計算ができなくなるためです。

青色申告にすると経費計上できるもの

不動産投資の規模が大きくなり、事業的規模として認められると、不動産収入から経費を差し引いた不動産所得から、65万円の青色申告特別控除を受けることができます。事業的規模と認められる目安は、貸家であれば5件以上、アパートであれば10室以上、駐車場であれば50台以上となりますが、あくまで目安ですので、ある程度の投資規模になったら税務署に相談してみてください。

事業的規模と認められると次のものが経費として計上できるようになります。

青色事業専従者給与

配偶者などの家族へ支払った給与を青色事業専従者給与として経費計上することができるようになります。

白色申告であっても事業専従者控除が認められますが、事業的規模であることが必要です。

未回収賃料

賃料の滞納が発生した結果、回収することができなくなった未回収賃料を経費とすることができます。

事業的規模ではない場合には、未回収賃料を経費とすることができず、遡って計上していた賃料を差し引き、不動産所得の計算をし直すことになります。

地震、火災等で発生した損失

地震、火災等で発生した損失を全額経費として計上することが可能です。損失が発生した年の所得金額から控除しきれない場合には翌年以降3年間繰り越して経費とすることができます。

事業的規模でない場合にも経費とすることはできますが、当該損失額控除前の不動産所得又は雑所得の金額が限度となる上、繰り越しが認められません。

まとめ

以上のように不動産投資において計上できる経費の種類は多く、税法のルールを覚えるのもなかなか大変です。しかし、経費に対する理解を深め、漏れなく計上することが不動産投資における節税への第一歩だと言えます。