「サラリーマンが不動産投資を行うと家賃収入も得られるし、節税にもなって一石二鳥です」というような不動産投資を薦める広告をよく見かけます。しかし、なぜサラリーマンが行うと節税に繋がるのでしょう?またどの程度の節税効果があるのでしょうか?

節税効果はどのくらいあるの?

節税と一口に言っても税金にはたくさんの種類があります。

どの種類の税金を節税することができるのでしょうか?
不動産投資によって節税効果が期待できるものは、所得税や相続税が挙げられます。これらに共通して言えることは、プラスの資産(収入や現金などの資産)からマイナスの資産(経費や負債など)を引いた金額(課税標準額)が多ければ多いほど税率が上がる累進課税方式を採用していることです。

そのため、節税の基本はどのようにして経費や負債などのマイナスの資産を上手に活用するかがポイントになります。マイナス資産を給与所得などの他の所得と損益通算することができるものには、不動産所得事業所得山林所得譲渡所得の4つしかありません。損益通算を行えるという理由でサラリーマンにもお薦めされているのが、比較的手間がかからず安定した収入も見込める不動産投資というわけです。

そこで、この記事では所得税の節税例について考えていきたいと思います。

例えば、サラリーマンの給与収入が500万円の場合における給与所得控除額は154万円ですので、その他の控除を計算に入れなければ、その年の課税総所得金額は500万円―154万円=346万円となり、納める所得税額は26.45万円です。

しかし、不動産投資を行った際の給与収入と家賃収入の合計収入が800万円で、給与所得控除や必要経費の金額が450万円だった場合における課税総所得金額は、700万円―400万円=300万円となり、納める所得税は20.25万円となります。この場合における所得税の節税額は年間6.2万円となり、確定申告を行うことで還付してもらうことができます。このように家賃収入が増えても、それ以上に必要経費(マイナスの資産)を増やすことができれば節税効果を期待することができるのです。

節税の仕組みとは

「必要経費を増やすということは、赤字にするということ?」と心配になってしまう方もおられるかもしれませんが、上手に必要経費を増やすことで実際は黒字になっているのに、帳簿上だけ赤字にするということができますので安心してください。
では、どのような経費計上の仕方をすればよいのでしょうか?

まず、賃貸マンションなどの不動産を取得した初年度はほとんどの場合赤字になります。この取得初年度の赤字は本当の赤字になってしまいますが、それは初期投資ということであきらめるしかありません。なぜかというと、確定申告を行う対象期間が1月1日から12月31日までの所得だからということと、取得初年度には次年度以降はかからない不動産取得税や登録免許税などの経費が多く必要となるからです。
家賃収入は取得してからすぐに発生するものではなく、入居者が見つかって入居してから発生するものなので、通常は年度の途中から発生します。例えば、7月に取得してすぐに入居者が決まったとしてもその年の収入は6ヵ月分しか計上することができず、1年分を計上できる次年度以降と比較すると収入が少なくなります。また、不動産取得税は取得価格の3%、登録免許税も固定試案税評価額の1.5%程度かかりますので、物件の価格にもよりますが数百万円単位になることが多くあります。

以上のようなことから、取得初年度は大きな赤字になることがほとんどで、その分還付額も大きくなる可能性がありますので確定申告は必ず行うようにしましょう。
では次年度以降はどのようにして、赤字を計上していけばいいのでしょうか?それには帳簿上の赤字を生み出す「減価償却」という費用を上手く活用することです。

減価償却を活用する

減価償却」とは、建物や車などの資産は「時の経過とともに徐々に資産価値がなくなっていく」という経費の計上方法で、建物を取得した初年度にかかった購入費用を全額その年の経費とするのではなく、徐々に費用としていこうというものです。その年数は構造や用途により法律で定められており、木造の住宅用は22年、鉄筋コンクリート造の住宅は47年などとなっています。

また、減価償却には、毎年一定の金額を経費とする定額法と、一定の割合で経費としていく定率法があり、例えば、4,700万円の鉄筋コンクリートのマンションを購入し、定額法を用いて償却した場合は毎年100万円を減価償却費として費用を計上することができるのです。この減価償却費は実際に返済している返済金とは何の関係もないため、実際には支出がなくても毎年費用とすることができます。
それでは、仮に上記の例で50万円の赤字がでていたらどうでしょう?

実際には支出されていないお金の減価償却が100万円計上されていますので、手元に残る資金は50万円の黒字です。さらに50万円の赤字があるため、給与所得と損益通算をすることが可能で、所得税の還付を受けることができます。
このように実際には支出していないが、帳簿上だけの赤字を生み出すことにより、家賃収入を得ると同時に所得税の節税も行うという一石二鳥を狙うことが可能となるのです。しかし、このような一石二鳥を狙うためには家賃収入の見込みや減価償却費だけでなく、その他費用の見積もりなど緻密な計算をした上で慎重に行う必要があります。

経費にできるもの

不動産における必要経費として認められるものには、先ほど述べた取得時にかかる不動産取得税や登録免許税などがありますが、その他にも修繕費や借入金の利子、不動産会社に管理をお願いしている場合の管理費などがあります。
一方、経費にすることができないものとしては、生計を同じくする親族への地代や給与(専従者給与を除く)です。また、不動産仲介手数料や不動産の業務が実際に始まる前の借入金の利子は建物の取得費に含まれますので気を付けましょう。

不動産投資の経費の注意点

経費にできるものの注意点としては、借入金の利子は経費となりますが、元本部分は経費とならないことです。また、土地の取得のために借入金をした場合も注意が必要で、先ほど述べた不動産所得と給与所得の損益通算は、土地の取得に要した借入金の利子を含むことができません。

例えば、家賃収入が300万円、土地の借入金利子が50万円、その他の経費が350万円で100万円の赤字が計上された場合、土地の借入金利子の50万円部分は損益通算を行うことができず、100万円(赤字部分)―50万円(土地の借入金利子)=50万円だけが損益通算の対象となります。上記例で赤字額が30万円だった場合は、土地の借入金利子より金額が少ないため、損益通算を行うことができません。もし、建物と土地の取得でローンを組むのなら、できるだけ建物だけのローンを組むようにしましょう。建物の借入金の利子については問題なく損益通算を行うことができますので、安心してください。

経費率とは

不動産投資を行う際にどの程度の経費がかかるのが適正で、また収益がでる基準であるかをしっかりと把握しておくことは非常に大切なことです。その目安として経費率という指標があります。
経費率は一般的に(経費÷売上)×100で求められ、不動産賃貸事業ではおおよそ20%程度の経費率が適正だと言われています。ただし、このような指標は東京のような大都市と地方都市の小さな街では、家賃相場自体が大きく異なるため、あくまでも目安の一つとして認識しておくといいでしょう。
また、税務署は業種ごとにおける経費率の平均値を把握しており、その平均値とあまりにもかけ離れていると税務調査の対象になることもあるようですので、頭の片隅にいれておいてください。