家計に余裕があるときは、住宅ローンの“繰り上げ返済”を実施する方も多いのではないでしょうか。なんとなく繰り上げ返済をすればローンがお得になるようなイメージがありますが、実際のところは繰り上げ返済には、「なんとなくお得」なだけではなく「はっきりとした節約効果」があるのです。住宅ローンを繰り上げ返済することでどの程度お得になるのか解説します。

繰り上げ返済の効果は非常に高い

住宅ローンの総返済額を減らす方法として、“ローンの借り換え”があります。現在利用中の住宅ローンよりも低金利のローンに借り換えれば、利息が減る分、総返済額を減らせるはずです。

しかし、実際には、借り換え手続きの際に50~100万円ほど諸費用がかかることもあります。しかも、諸費用を借り換え時に、全額一括で支払う手続きが必要な場合もあります。そのため、低金利の住宅ローンに乗り換えても、実際に利息が減るかどうかは、諸費用も含めた総コストを比較してみないと分からないのが本当のところです。また、借り換えの際にさまざまな書類を準備しなくてはならず、手間がかかってしまうことも借り換えのデメリットと言えるでしょう。

住宅ローンの繰り上げ返済は元金を直接減らせる

一方、住宅ローンの“繰り上げ返済”なら、手間や費用がほとんどかかりません。「インターネットバンキングで振込返済をすれば繰り上げ手数料無料」という金融機関も多く、繰り上げ手数料が請求される場合でも数万円以内です。しかも、住民票や印鑑証明書を準備したり、多くの書類に署名・捺印したりする必要もありませんので、気軽に行えることも“繰り上げ返済”ならではのメリットです。

また、住宅ローンの毎月の返済は“借入元金と利息”に充当されますが、繰り上げ返済したお金は“借入元金”のみに充当されることもメリットです。例えば、毎月の返済額が10万円だとしても、毎月、借入金額が10万円減るわけではありません。一部は元金に充当されますが、残りは利息の支払いに充当されますので、何ヶ月支払ってもなかなか借入金額が減らない状態になってしまいます。しかし、繰り上げ返済は全額元金に充当されますので、借入金額を確実に減らすことができるのです。

100万円を繰り上げ返済するだけで60万円以上の支払額減に

例えば、返済期間35年・借入額3,000万・金利が年1.5%の元利均等返済で住宅ローンを借りている場合に、1年後に100万円の繰り上げ返済をしたとしましょう。繰り上げ返済後も、毎月の返済額を変更しないとすると、返済期間は1年5ヶ月も短縮され、総支払額は60万円以上も減ります。

返済期間 利息総額 支払い総額
繰り上げ返済しない場合 35年 8,579,100円 38,579,100円
開始1年後に100万円を繰り上げ返済した場合 33年7ヶ月 7,965,000円 37,965,000円

 

【出典】三井住友銀行「一部繰上返済シミュレーション」

長期間のローンで、かつ早めに行うほどその効果は高い

早めに繰り上げ返済を行うと、早めに借入総額を減らすことができます。例えば、3,000万円を年1.5%の固定金利で借り入れると、元利均等返済の35年払いの場合は、1年間返済しても元金は656,763円しか減りません。しかし、1年後に100万円の繰り上げ返済をすると、元金は1,656,763円も減りますので、借金自体が100万円減ることになります。

つまり、なるべく早めに繰り上げ返済を実施すると、利息削減効果もその分、大きくなるといえるのです。住宅ローンを借り入れたときは、なるべく早めに繰り上げ返済を実施し、借入元金を少しでも減らすようにしましょう。

繰り上げ返済は貯蓄よりも積極的に狙うべき

「繰り上げ返済をして住宅ローンを減らしたいけれど、万が一のときに備えて貯蓄にも励みたい」という方も多いのではないでしょうか。しかし、現在のような超低金利時代に貯蓄をしたところで、メリットはほとんどありません。

例えば、三菱UFJ銀行の普通預金の金利は年0.001%(2018年7月時点)ですので、100万円を1年間預けても10円しか利息はつきません。しかも、利息に20%強の税金がかかりますので、実際に増えるお金は7~8円のみです。また、定期預金に預けたとしても金利は0.01%ですので、100万円を1年間預けたところで七十数円しか増やせないのです。100万円の資金で数十万円もの節約効果がある“繰り上げ返済”の方が、はるかに賢いお金の使い方と言えるでしょう。

参考:三菱UFJ銀行「円預金金利」

繰り上げ返済、期間短縮と返済額減額のどちらを狙うべきか

繰り上げ返済をするときに、以後の支払いプランを選択できることがあります。1つは期間短縮プラン。繰り上げ返済した後も、毎月の返済額を変えずに返済し続け、結果的には返済期間を短縮するプランです。もう1つは返済額減額プラン。繰り上げ返済した後も返済期間を変えずに返済し続け、毎月の返済額を減らすプランです。

返済期間が短縮されるのも返済額が減額されるのも、どちらを選んでも、それぞれメリットがあります。しかし、総返済額を減らす効果が高いのは、どちらのプランを選んだときなのでしょうか。

実際のシミュレーション結果は?

総返済額を減らすためには、期間短縮プランと返済額減額プランのどちらを選ぶべきなのでしょうか。実際に金利年1.5%で3,000万円の住宅ローンを組み、元利均等返済方式で35年返済する場合について考えてみましょう。1年後に100万円の繰り上げ返済をしたとき、期間短縮プランと返済額減額プランでは総返済額が30万円以上も変わります。

繰り上げ返済後の返済期間 毎月の返済額 利息合計 総返済額
期間短縮プラン 32年7ヶ月 91,855円 7,965,000円 37,965,000円
返済額減額プラン 34年 88,725円 8,302,060円 38,302,060円

 

返済額を抑えるのであれば期間短縮型

総返済額を抑えたいのであれば、期間短縮プランが有利でしょう。利息は返済する期間が長くなれば長くなるほど比例して増加しますので、返済期間を短縮することで、利息を効果的に減らせるのです。

毎月の負担を減らすのであれば返済額減型額

毎月の返済額を軽減したい方は、返済額減額プランを選びましょう。期間短縮プランと比べると総返済額は増えてしまいますが、それでも、繰り上げ返済をしないときと比べると大きく節約することはできます。

ただし、100万円の繰り上げ返済をしたところで、34年も返済期間が残っているときは、毎月の返済額は3,000円ほどしか減らせません。「3,000円でも良いから毎月の負担を減らしたい」のか、「毎月3,000円の負担が減るよりも、長期的にお得な方が良い」と考えるかはご家庭の状況に合わせて検討してみましょう。

老後を楽にしたいならば、期間短縮を選択して退職前に完済を

個人年金で万全な老後対策をしている方や不動産収入などを安定して見込める方出ない限り、定年退職後は、急激に収入が落ちてしまいます。定年退職後も住宅ローンの返済が続く予定の方は、繰り上げ返済によって返済期間を短縮して、定年退職前の完済を目指してみてはいかがでしょうか。

先程のシミュレーションでも分かりますように、100万円繰り上げ返済するだけで、1年5ヶ月も返済期間を短縮することが可能です。こまめに繰り上げ返済を実施して、早期完済を目指しましょう。もちろん、返済期間を短縮すると、総返済額節約効果も絶大です。

繰り上げ返済の注意点

簡単な手続きで総返済額を減らせる“繰り上げ返済”ですが、適当に繰り上げ返済をすると返って損をしてしまうこともあります。繰り上げ返済前に注意すべき5つについてまとめました。

新築住宅のローンの場合は住宅ローン減税の効果が減る

新築住宅でローンを組むときは、10年間にわたってローン残高の1%(年間40万円が上限)を所得から控除することができます。例えば住宅ローンの残高が4,000万円のときは、最大控除額の40万円を所得から控除することができますが、住宅ローンの残高が3,000万円のときは、30万円しか所得から控除できません。そのため、最初の10年間に繰り上げ返済を何度も実施して住宅ローンの残高を減らし過ぎてしまうと、新築住宅のローン控除制度をフル活用することができなくなってしまうのです。

4000万円以上のローンが残っている状態なら積極的に返済するべき

住宅ローン控除の限度額は、年40万円(ローン残高の1%が上限)です。住宅ローン残高が4,000万円以上あるときは、積極的に繰り上げ返済を実施するようにしましょう。

中古住宅を購入時、住宅ローン減税が利用できない人は繰り上げ返済を行う

中古住宅を購入したときなど、住宅ローン控除制度が利用できない方は、積極的に繰り上げ返済を実施してローン期間を短縮し、総返済額も減らしましょう。また、新築住宅を購入したときでも、すでにローン開始後10年を過ぎていて、住宅ローン控除が利用できない場合も、繰り上げ返済を積極的に活用して総返済額を減らして下さい。

金融機関が繰り上げ返済にどの程度応じてくれるかに注意

繰り上げ返済のルールは、住宅ローンを組んでいる金融機関によって異なります。ローン開始後数年間は繰り上げ返済ができない金融機関もありますし、繰り上げ返済手数料が高額に設定されている金融機関や繰り上げ返済の最低金額が設定されている金融機関もあります。繰り上げ返済を利用する前に、かならず利用中の金融機関で適用されているルールについて融資担当者に尋ねておきましょう。

SBIネット銀行は繰り上げ返済を自由に行える

例えば住信SBIネット銀行では、繰り上げ返済をする際に手数料が請求されません。「今月は10万円だけ繰り上げ返済をしよう」「少しお金が貯まったから、30万円ほど繰り上げ返済をしよう」という風に、こまめに繰り上げ返済をすることができますね。ただし、残債を一括返済する場合は、固定金利で借りている方は32,400円の手数料が発生しますが、変動金利で借りている方は手数料は不要です。

参考:住信SBIネット銀行「繰り上げ返済」

最後に

繰り上げ返済をすることで、老後の返済が楽になるだけでなく、総返済額も大きく減らすことが可能です。貯蓄よりもはるかに節約効果が高いですので、住宅ローン返済中は、余剰資金を繰り上げ返済に回すことをおすすめします。