財形貯蓄制度を利用している方は、マイホームを購入するための資金を調達する手段としては、銀行などの住宅ローン以外にも、「財形住宅融資」という制度が利用できます。財形住宅融資には、金利が安くなる可能性がある、融資手数料がかからない、他のローンと併用できる、などの特徴があります。ここでは、財形住宅融資の特徴、メリット、デメリットなどについて詳しくご紹介します。

財形住宅融資とは?

財形住宅融資は住宅資金を調達するための制度ですが、利用条件もあります。以下、財形住宅融資について詳しく見ていきます。

財形住宅融資とは

財形住宅融資は、財形貯蓄制度を利用している人を対象に、新築住宅の建築、新築住宅の購入や中古住宅の購入、リフォームなどを目的として、資金を融資する制度です。

【出典】住宅金融支援機構:財形住宅融資https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/zaikei1.html

財形住宅融資が利用できる人は限られている?

財形住宅融資を利用するためには5つの条件を満たす必要があります。以下、条件を順番に見ていきます。

条件13については、2つ以上の財形貯蓄を実施している場合は、いずれかの貯蓄について条件12を満たし、かつ、全ての貯蓄残高の合計額が50万円以上であれば、融資の対象になります。

【条件1】 一般財形貯蓄・財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄のいずれかを1年以上継続

一般財形貯蓄、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄、の3つを合わせて財形貯蓄といいます。これは、労働者の勤務先が金融機関と提携することで、給与やボーナスからの天引きによる貯蓄をしていく制度です。

財形貯蓄を利用することができるのは、勤務先が財形貯蓄の制度を導入している、会社員、公務員、契約社員、パートタイムなどです。勤務先が財形貯蓄制度を導入していない場合や、会社役員、自営業者などは対象外となります。財形住宅融資を利用するには、財形貯蓄を1年以上継続していることが条件になるので、財形貯蓄の対象外の場合は、財形住宅融資の利用はできません。

【条件2】申込日前2年以内に財形貯蓄の預け入れを行っている

財形住宅融資の申込日前の2年以内に、財形貯蓄(一般財形貯蓄・財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄のいずれか)の預け入れを行っている必要があります。2年よりも前しか財形貯蓄の預け入れをしていない場合は、財形住宅融資は認められないので注意が必要です。

【条件3】申込日における財形貯蓄残高が50万円以上ある

財形住宅融資の申込日の時点で、財形貯蓄の残高が50万円以上あることが条件になります。財形貯蓄の残高を確認するには、申込書類とともに渡される、「財形貯蓄残高計算依頼書」か、財形貯蓄を取り扱う機関から送付される、「財形貯蓄残高通知書」で行います。それぞれの書類は、発行日から7ヶ月間が有効期限になります。

【条件4】年収に占める全ての借入れの年間合計返済額の割合(総返済負担率)

1:全ての借入れの年間返済額の1/12 ÷ 年収の1/12 × 100 =総返済負担率(%)

の計算式の結果が、

2:年収400万円未満の場合は30%以下、年収400万円以上の場合は35%以下、であることです。

例えば、全ての借入れの年間返済額が120万円、年収が600万円の場合は、総返済負担率は120万円×1/12÷600万円×1/12×10020%となります。

年収400万円以上は総返済負担率が35%以下であればよいので、この場合は基準を満たしています。

【条件5】日本国籍の方、永住許可の外国人の方

財形住宅融資を受けるためには、日本国籍を有しているか、永住許可(特別永住者を含む)を受けている必要があります。

財形住宅融資の特徴

財形住宅融資の特徴を把握することで、民間の住宅ローンとの違いが見えてきます。制度の特徴を把握するために、手数料、融資額、返済期間などを見ていきます。

融資を受けることのできる住宅・土地

財形住宅融資を受けることのできる物件は3種類あります。いずれも住宅が存在している必要があり、土地のみでは融資の対象になりません。

1:新築住宅建設

2:新築住宅購入

3:リ・ユース(中古)住宅購入

1:新築住宅建設とは、新築の住宅を建築する場合

住宅部分の床面積が70㎡以上280㎡以下の住宅など、住宅部分と土地部分のそれぞれに条件があり、それらを満たす必要があります。

2:新築住宅購入とは、新築の住宅を購入する場合

融資の申込日の前2年以内に完成または工事中の住宅であること、まだ人が住んだことのない住宅であること、などの条件があり、全てを満たす必要があります。

3:リ・ユース(中古)住宅購入する場合

リ・ユース(中古)住宅購入とは、中古の住宅を購入する場合のことです。複数の条件の全てを満たす必要があります。

融資手数料、保証料が無料

財形住宅融資は、融資手数料と保証料が無料になるという特徴があります。金融機関により異なりますが、住宅ローンの場合は、事務手数料と保証料を合わせると、融資金額の2%程度かかるのが一般的です。例えば、住宅ローンの融資金額が4,000万円の場合、事務手数料と保証料に80万円程度かかることになります。財形住宅融資の場合は事務手数料と保証料が無料になるため、大きなメリットといえます。

【参考】みずほ銀行 保証料等:https://www.mizuhobank.co.jp/retail/products/loan/housing/new_branch/summary.html

融資額

財形住宅融資の融資限度額は、次の2つのうち低い方の額になります。

1:融資の申込日における、一般財形貯蓄・財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄の合計残高(財形貯蓄額)10倍の金額(最高4,000 万円まで)

2:住宅と土地の取得に必要な額の90%の金額

例えば、一般財形貯蓄・財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄の合計残高が300万円の場合、1:は3,000万円になります。住宅と土地の取得に4000万円必要な場合、2:は3,600万円になります。

1と2を比較すると、1の方が低いので、この場合の融資限度額は3,000万円になります。

【参考】住宅金融支援機構:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/zaikei2.html#SUB5

返済期間

財形住宅融資の最長返済期間は、次の2つのうち、短い年数のものになります。

1:申込区分及び住宅の構造による最長返済期間

以下の4つのいずれかになります。

・新築住宅建設融資、新築住宅購入融資は35

・リ・ユース(中古)プラスマンション、リ・ユース(中古)プラス住宅は35

・リ・ユース(中古)マンション、リ・ユース(中古)住宅は25

・リフォーム融資は20

2:年齢による最長返済期間

以下の計算式で期間を算定します。

(80){申込本人(または一定の基準を満たす収入合算者)の年齢(1歳未満切上げ)

例えば、申込区分が新築住宅購入融資で、申込本人の年齢が456ヶ月の場合の最長返済期間は、1:が35年、2:が34年なので、短い年数の2:が適用されて34年になります。

融資金利(金利は5年間固定)

財形住宅融資の融資金利は、返済期間中に5年ごとに金利を見直す、「5年固定金利制」を採用しています。融資開始後の最初の5年間は、金利が変動しません。6年目以降の金利は5年ごとに見直され、この見直しには上限・下限がありません。

フラット35や民間住宅ローンなどと併せて利用できる

財形住宅融資は融資の限度額がありますが、フラット35や民間金融機関の住宅ローンと併用することもできます。フラット35とは、住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して実施している住宅ローンの制度です。フラット35は全期間固定金利なのが特徴で、利用期間中に金利が変動することがありません。その点、5年毎に金利が変動する財形住宅融資とは異なります。市場金利が上昇した場合でも、金利が変動しないというメリットがあります。反面、市場金利が低下した場合にも、金利は高いままというデメリットもあります。

財形住宅融資のメリット

財形住宅融資には、一定の場合に金利が更に安くなるなどの様々なメリットがあります。制度を利用した場合のメリットについて、順に見ていきます。

子育て家族なら金利が0.2%引き下げられる

財形住宅融資では、子育て家族の金利について優遇措置が設けられているのが特徴です。18歳以下の子供を扶養している場合は、通常よりも金利が0.2%引き下げられます。子育てのためにマイホームを検討している場合などに有効です。なお、金利の優遇措置は融資開始から5年間です。6年目以降は通常の金利になります。

※平成31年3月31日までの新規申込みが対象。(この期間内でも、申込み状況などにより、特例措置を終了する場合があります。)

【出典】厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198087.pdf

公的なローンのため、融資金利が低水準

財形住宅融資は、金利が比較的低水準で設定されているのが魅力の1つです。これは、公的な融資制度として、低い金利水準でマイホームの取得をサポートするためです。中小企業の勤労者(常時雇用する労働者数が300人以下の企業に勤務する者)の場合は、最初の5年間は更に金利が0.2%引き下げられる特例措置も用意されています。

※平成31年3月31日までの新規申込みが対象。(この期間内でも、申込み状況などにより、特例措置を終了する場合があります。)

【出典】厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198088.pdf

病気や所得補償付きもある団信保険

財形住宅融資を受ける場合は、機構団体信用生命保険(機構団信)に加入することができます。機構団信は、加入者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、住宅ローンの残額が弁済される保障制度です。機構団信には、上記に加えて、がん・急性心筋梗塞・脳卒中の 3大疾病が原因で一定の状態になった場合にも、住宅ローンの残額が弁済される3大疾病付機構団信制度もあります。3大疾病付機構団信は任意加入ですが、万が一の場合のリスクに対する保証内容が手厚くなっているのが特徴です。

財形住宅融資のデメリット

財形住宅融資には様々なメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットもあります。デメリットについてあらかじめ把握しておくことで、制度を利用するうえでより的確な判断ができるようになります。以下、財形住宅融資のデメリットについて見ていきます。

6年目以降は金利が変化する可能性がある

財形住宅融資の融資金利である5年固定金利制は、5年が経過する毎に金利が見直されるのが特徴です。見直しの基準となるのは5年経過時の市場金利のため、その時の市場金利が大幅に上昇した場合は、財形住宅融資の金利もそれに合わせて大幅に増加する可能性があります。財形住宅融資の金利制度については、5年が経過する毎に金利が上昇する可能性があることを知っておくことが重要です。

借入可能額に制限がある

財形住宅融資の融資可能額については、財形貯蓄額の10倍かつ4,000万円以下、という上限が設けられています。そのため、融資可能額は最高でも4,000万円まで、ということになります。物件の取得に4,000万円以上必要な場合は、フラット35などの他の住宅ローンと併用するなどの工夫が必要になってきます。

団信保険料は自己負担

団体信用生命保険とは、ローンの返済期間に債務者が死亡または所定の高度障害になった場合に、ローンの残額が完済される制度です。民間の金融機関の住宅ローンの場合、団体信用生命保険に加入することはほぼ必須の条件になっていますが、財形転貸融資を利用する場合は機構団信に加入しないことも選べます。民間の金融機関では、住宅ローンとは別に団信保険料を振り込む必要はなく、金融機関が保険会社に支払うのが一般的です。財形住宅融資の場合は、団体信用生命保険に加入するかは選べますが、加入する場合には住宅ローンとは別に団信保険料を支払うことになってしまいます。

【参考】住宅金融支援機構:https://www.simulation.jhf.go.jp/simulation_danshin/index.php

手続きの流れ

財形住宅融資の手続き全体がイメージできるように、申込みから融資までの流れ、申込先、必要書類などについてご紹介します。

申し込みから融資まで

新築住宅購入、リ・ユース(中古)住宅購入の場合の財形住宅融資の全体的な流れとしては、以下のようになります。

【申し込み】必要書類を揃えて申し込みます。

【融資の決定】申込み後に融資の決定を行います。

【適合証明書の提出】現地の検査や審査などを行い書類の提出をします。

【居・所有権の登記】物件の登記や住所での住民登録などを行います。

【契約・抵当権の設定登記】融資契約の締結し、抵当権設定登記を行います。

【資金の受け取り】諸費用を精算し、最終的な融資を受け取ります。

申込先

機構融資取扱金融機関の窓口か、郵送で申込みます。

取扱金融機関は、都市銀行、信託銀行、地方銀行、労働金庫などです。

【郵送での申込先】

112-8570 東京都文京区後楽1丁目410号 

独立行政法人住宅金融支援機構 本店 郵送申込係

【出典】住宅金融支援機構:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/zaikei4.html

申込用紙・案内の入手方法

財形住宅融資の申込用紙や案内については、機構のコールセンターに請求して入手します。

コールセンター:0120-0860-35

申込に必要な書類

提出する書類として、以下のものがあります。

・財形住宅資金借入申込書

・負担軽減措置等の証明書

・財形貯蓄残高計算依頼書(発行日から7か月以内のもの)、または財形貯蓄残高通知書(発行日から7か月以内のもので、貯蓄期間・直近の預入月・残高が確認できるもの)

・財形住宅融資の融資金利に関する確認書

・封筒(融資予約(承認)通知書送付用の封筒(82円切手)

・住宅金融支援機構 財形住宅融資商品概要説明書 

上記以外にも、融資の種類によって必要な書類を提出します。また、記載がなくても、審査に必要な書類(他のローンの申込書や預金通帳など)を提出する場合があります。

【出典】住宅金融支援機構:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/zaikei_doc.html

最後に

財形住宅融資の制度についてご紹介しました。財形住宅融資は、マイホームを購入するためのローンとして活用できる制度です。利用するためには、財形貯蓄に加入しているなどの条件があります。財形住宅融資のメリットとしては、金利が低めに設定されている、手数料がかからない、他のローンと併用できる、などがあります。他方、デメリットとしては、5年毎に金利が上昇する可能性がある、団信保険が自己負担になる、借り入れに限度額がある、などがあります。長所と短所の両方を把握、自分がマイホームを購入する際に、財形住宅融資を利用するかどうかを判断されてください。

監修:杉浦 詔子(ファイナンシャルプランナー)