先行き不透明な日本経済で、色々と将来が不安な昨今。最近、よく言われているのが「老後資金がいくら必要か」ということですよね。ライフプランナーやアナリストの間でもさまざまな意見があり、「必要なのは3,000万円」「豊かな老後暮らしを望むのなら4,000万円あっても足りない」など、専門家でも具体的な金額にはバラつきがあります。「いくら用意したらいいの?」と悩んでいる方に、知っておきたい老後のお金のアレコレについてお教えいたします。
老後生活は何年続くのか??
人生100年時代と言われ始めています。年金の受給年齢も60歳から65歳へと徐々に引き上げられ、60歳以上の雇用延長を取り入れる企業も増えてきました。それでも一般的にはライフプランを考えるおおよその目安として、60歳から亡くなるまでの期間が老後生活と言われています。
どんどん伸びる平均寿命 -平均80歳は当たり前?-
2016年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、いずれも過去最高を更新したことが、厚生労働省の調査で分かりました。過去最高の更新は女性が4年連続、男性は5年連続です。平均寿命はどんどん伸びていってるようですね。将来的には定年60歳から続く老後生活年数は平均20年は当たり前。もしかすると25年になるかもしれないと言われています。
出典:厚生労働省 平成28年簡易生命表の概況
(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life16/dl/life16-02.pdf)
何歳まで働くのか
この長い老後が待ち構えている我々の将来ですが、老後生活を考えるうえで「何歳まで働くのか」と決めることは非常に重要となってきます。60歳に定年を迎えた後、年金は65歳から受給開始となるため、5年間の空白期間があります。この間全く無収入になるわけですから、多くの人が不安を覚え、再就職もしくは再雇用制度に応募するでしょう。再雇用ですと年収は下がることが多いですが、この5年の間に足りない老後資金を貯めるという考え方もあります。
老後の支出には何があるか?
定年を迎えて完全リタイアした老後の生活。夫婦のみの場合や子供を持つ人、独身でそれぞれのライフスタイルは違いますが、共通しているのは老後は今までとは違う生活になるということです。違う生活になることで、支出もまた変化していきます。
老後の生活費はどうなるのか
結論から言うと、老後は支出が大幅に減ることはないようです。完全リタイアといっても、やはりある程度の支出は避けられないようですね。それぞれ細かい費目でどのように変化するのか見ていきましょう。
下の数字は、2人以上の世帯で世帯主が60歳以上の高齢夫婦無職世帯の支出の平均です。括弧の中は40歳未満の世帯の場合で、世帯人員3.57人で算出してあります。「家計調査報告(家計収支編)平成28年(2016年)」(総務省統計局)によると、以下のように生活費が必要になるようです。
【出典】総務省統計局
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gk02.pdf
*食費
6万4827円(6万3596円)→+1,231
食費は若干増えるようですね。夫婦二人だけだと、作るのが面倒でつい外食がちになるようです。
*住居費
1万4700円( 2万5345円 )→▲1万645
住宅ローンの返済を完了している方がやはり多いです。しかし持ち家でも修繕費や固定資産税がかかってきます。もちろん賃貸の方もたくさん居るので住宅費は必ずいるようです。
*光熱費
1万8851円(1万7691円)→+1160
子供世代が独立している家庭も多いですが、夫婦で在宅時間が長いせいか光熱費も若干上がっています。
*交際費
2万9033円(1万1026円)→+1万8007
リタイアすると友人同士の付き合いやコミュニケーションを取る機会が増えるでしょう。そのためにこちらも増えがちです。
*保健医療費
1万5044円(9347円)→+5,697
歳を取ると病院に行く機会が増えてくるのは仕方のないことですね。こちらも増える傾向にあるようです。
*教養娯楽費
2万6303円(2万6220円)→+83
子供たちの教育費がかからなくなったため、減る傾向にあります。しかしその代わり自分たち習い事や趣味にお金がかかりそこまで違いがありません。
その他の支出
シビアな話になりますが、現役世代と決定的に違うのは亡くなるまでにかかる費用が発生することです。体の自由が利かなくなってきたら介護費用、もしくは自分のお葬式代くらいは子供の負担にならないように残しておきたいと思うでしょう。そのような、この時期ならではのお金のかかり方があります。また、現役時代にはいけなかった旅行をに健康なうちに楽しみたい方も多いと思います。毎年、数回海外旅行をするシニア世代もめずらしくありません。さらにシニア世代の子供が結婚すると、なにかと費用を援助をしたくなるのも親心。そのような突発的な支出もかかることがあります。
介護費
シニア世代が全員介護が必要とは限りません。しかしリスクヘッジとしてある程度の準備が必要です。公的介護保険制度はありますが、やはりある程度の自己負担も発生しますし、もし介護施設や有料老人ホームに入所する場合はかなりの額が必要になります。実際にかかる費用を統計データから見てみると、一時費用は平均80万円。月額費用は平均7.9万円。介護にかかる期間が平均59.1ヶ月とおおよそ5年ほどになります。
以上から計算すると
80万円+7.9万円×59.1ヶ月=546.89万円。
およそ550万円必要となる計算です。
出典:生命保険文化センター「平成27年度 生命保険に関する全国実態調査」
http://www.jili.or.jp/press/2015/pdf/h27_zenkoku.pdf
葬儀費用
葬儀費用と一言で言っても、エリアや葬儀の形式、規模もありますから家庭によってさまざまです。しかし大まかな目安として平均額200万円と言われています。
内訳として
葬儀一式費用
寺院費用
接待飲食費用
などがあります。
【出典】内閣府:第37回 消費者契約法専門調査会 資料
http://www.cao.go.jp/consumer/history/04/kabusoshiki/other/meeting5/doc/170428_shiryou5_1.pdf
旅行や子供の結婚などの突発的な支出
現役時代は仕事があり長期休みなど取れないため、旅行を我慢してきた方も多いのではないでしょうか。そのための費用もぜひ用意しておきたいところです。国内や海外など旅行スタイルにより費用も異なりますが、1回あたり国内旅行ですと平均5万~10万円。海外旅行はやはり高額で30~50万円です。これらを最低でも年に1回ずつ20年間行った場合、国内旅行で100~200万円、海外旅行では600~1,000万円となってきます。
また上記にも述べましたように、リタイアしたシニア世代の子供たちがそろそろ結婚する時期を迎えます。今は時代も変わって、結納などを行う家庭も減ってきましたが、それでも結婚費用や出産費用など何かと援助したいものです。孫が生まれればお祝いやプレゼントなどの費用がかかってきます。それらの突発的な支出のだいたいの平均額はトータルで200万円前後のようです。
老後に必要な金額とは?
医療技術が発達した現代、平均寿命もどんどん伸びています。老後生活は25年間を超えることも珍しくなくなるでしょう。仮に65歳から95歳まで生きると想定した場合、30年間の生活費はどうなるでしょうか。
平均的な生活だと1億円程度!?
総務省の家計調査で出た結果では高齢夫婦無職世帯(65才以上)の1ヵ月の平均支出は25万円です。これは住宅ローンが完済している前提の数字です。
25万円/月×12ヶ月×30年+予備費一人300万円×2人=9,600万円となりますね。
平均的と言われる生活でもこの金額です。
【出典】総務省統計局:http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gk02.pdf
ゆとりのある生活だと1億3200万!?
ではゆとりのある生活ではいくらかかるのでしょう。
生命保険文化センターの意識調査では「ゆとりある老後生活のための費用」の平均額は月額約35万円となっています。
これをもとに計算すると
35万円/月×12ヶ月×30年+予備費一人300万円×2人=1億3200万円です。
気が遠くなるような数字ですね。
【出典】公益財団法人 生命保険文化センター
http://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/7.html
老後はどのくらいお金が貰えるの?
しかしこの金額を全て自分たちで用意しなければいけないわけではありません。定年後、数年すれば年金がもらえるのです。仮に夫のみ会社員で厚生年金、妻は専業主婦で国民年金の場合は月額221,277円、30年間で7,965万円、夫婦ともに国民年金であれば1人あたり月額64,941円、30年間で4,675万円となります。上記のそれぞれの生活スタイルでの金額からもらえる年金額を引いた分を用意すればいいわけです。
【出典】厚生労働省:平成 30 年度の年金額改定について
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12502000-Nenkinkyoku-Nenkinka/0000192296.pdf
公的年金の種類は?
公的年金の種類は3つあります。
1 国民年金
2 厚生年金
3 共済年金です。
※以下日本年金機構公式WEBサイトより抜粋
国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、老齢・障害・死亡により「基礎年金」を受けることができます。
国民年金には、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」と3種類があり、どの制度に加入するかにより、保険料の納め方が異なります。
厚生年金保険に加入している人は、厚生年金保険の制度を通じて国民年金に加入する第2号被保険者に分類され、国民年金の給付である「基礎年金」に加えて、「厚生年金」を受けることとなります。
共済(組合)制度は、国家公務員、地方公務員や私立学校の教員などとして常時勤務する人は組合員(私立学校教職員共済では加入者)となります。
共済組合には、「短期給付」と「長期給付」があり、短期給付は、健康保険と同様の給付をおこない、長期給付は年金給付と同様の給付を行います。
出典:日本年金機構公式http://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/shurui-seido/20140710.html)
公的年金の相場はどのくらい?
ではそれぞれの公的年金の相場はどのくらいなのでしょう?その前に年金の仕組みについて簡単に紹介します。
年金とは、ざっくり言うと国民年金(基礎年金)と厚生年金の二階建てと言われています。年金を受給している場合はそれぞれの年金から受け取っているわけです。だいたいの平均額ですが、平成30年ですとそれぞれ国民年金64,941円、厚生年金221,277 円(※)が平均値なようです。総月額だいたい20万円弱というところですね。
※ 厚生年金は、夫が平均的収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)42.8 万円)で 40 年間就業し、 妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の給付水準。
【出典】厚生労働省 平成 30 年度の年金額改定について
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12502000-Nenkinkyoku-Nenkinka/0000192296.pdf
退職金の種類は?
他に老後のにおける収入として、会社員の場合は退職金があります。会社によって金額のバラつきはありますが、退職金と言うとかなりまとまった額を皆さん想定しているのではないでしょうか。
しかし退職金も種類があります。以下、主なものを挙げて見ます。
1.内部留保型
2.企業年金型
3.共済型
4.確定拠出
内部留保型はいわゆる退職一時金と言われるものです。企業年金型は確定給付型とも言われ、企業が年金を積み立て、外部団体に運用させるものです。さらに損失を出せばそれを企業が補う制度です。比較的大きな企業が採用しているようです。共済型は企業年金型に近いですが、比較的小さい企業に多いです。共済型とは、独自の年金制度ではなく公的な団体によって設立された共済制度を活用して、年金を外部積み立てしていきます。
確定拠出型は最近話題ですが、積み立てされた年金をそのまま受け取るのではなく、預けている人が資産運用できる制度です。積み立てをしながら税制面で優遇があります。
退職金の相場はどのくらい?
勤続年数、学歴でも変わってくる退職金の相場ですが、平成25年に厚労省から発表された『就労条件総合調査結果の概況』によりますと、20年以上勤務45歳以上の退職者で、定年した人がもらった退職金(一時金・年金)の平均は、「高校卒(現業職)」1,128万円、「高校卒(管理・事務・技術職)」1,673万円、「大学卒(管理・事務・技術職)」1,941万円でした。相場はだいたい1,000万~2,000万円というところでしょうか。
しかし退職金の出ない企業が増えてきたという事実があるのです。「就労条件総合調査結果の概況」(平成25年・厚労省)によると、退職給付制度がある企業は75.5%、ないと答えた企業は24.5%です。その数は増え続けています。
【出典】厚生労働省 就労条件総合調査結果の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/13/dl/gaikyou.pdf
老後資金の不足分を補うには?
年金だけでは、平均的な老後の生活費でさえも不足が出る。退職金も当てにならない。この状況でどうすればよいか?多くの人が考えるのが資産運用だと思います。実際、現役時代からコツコツ資産運用している方は結構多いです。どんな運用の仕方があるのか簡単にご説明していきましょう。
老後に向けておすすめな資産運用
老後は収入が減るわけですから、なるべくリスクを負いたくないですよね。資産運用にはそれぞれ資産が減る可能性が大なり小なりありますが、リスクをきちんと理解したうえで始めることが肝心です。
確定拠出年金
確定給付型と似ていますが、確定給付型が外部団体(生命保険会社や信託銀行)が運営するのに対し、こちらは受け取る人本人が運用していきます。さらに自営業者も入れます。運用なので資産が減るリスクはありますが、何より運用益も利息も非課税で、積立金額は「所得控除」の対象となるので現役時代の節税効果があります。
つみたてNISA
2018年1月から開始された新しい少額投資非課税制度です。以前からあるNISAと同じく毎年の非課税投資枠から得た利益・分配金にかかる税金はかかりませんが、非課税投資枠が年間40万円になりで、投資期間も最長20年と長くなりました。一定の金額をコツコツ積み立てて、投資信託を購入するものです。元本割れのリスクはありますが、コツコツ積み立てしたい人には向いているでしょう。
保険
「終身保険」や「個人年金保険」などがあります。「終身保険」は掛け捨てではないものが多く入院保証もついてくるため、40代から始まる医療費増額のリスクに備えられるというメリットもあります。個人年金保険は若いうちから加入すると節税効果があります。
不動産投資
アパート・マンション経営などが有名ですね。もしくは土地などを購入して有料駐車場として運営していく方法もあります。いずれにしても長期にわたり毎月一定の金額が入ってくるのが魅力です。
ただ購入するのにまとまった資金が必要で、それを借り入れした場合、負債となって老後のリスクになります。またリフォームや建物自体の老朽化による修繕など、定期的にコストがかかってくるのがデメリットとなります。
最後に
以上、老後生活を送るために必要な資金、またそれにまつわるさまざまな制度をご紹介しました。最近はマスコミなどで老後の貧困などが叫ばれ、若い世代でも非常に危機感が強まり、30代から老後のことを考えていると言う人もめずらしくありません。実際に公的年金の減額や受給年齢の引き上げなどが行われているため、若い世代でも危機感を覚えるのは当然でしょう。しかし実際に不安に感じているだけで、老後どのような生活を送りたいか考えている人はあまりいないのではないでしょうか。
平均的な生活、ゆとりある生活で紹介しましたが、そういった生活は個々のライフスタイルによって変わってくるものです。人によっては旅行に毎月出かけたいと言う人もいれば、ずっと自宅でガーデニングをしたい人もいるでしょう。大事なのは不安材料ばかり見るのではなく、自分が老後をどう過ごしたいか考えることだと思います。そうなると現役世代にやるべきことが自ずと見えてきて、今現在も充実したものになってくるはずです。経済的だけでなく、精神的にも豊かな老後を送るために、現役時代から備えていくことが重要ですね。