不動産投資を始めようとする人が、不動産会社で耳にしたり、ネットで目にしたりする事がある「不動産投資は節税になる!」という言葉。これは果たして本当なのか気になるところです。税金がそんなに安くなるなら不動産投資を始めてみようかなと思っている方は、ちょっと待ってください!本来の不動産投資の目的を見失っては、上手くいくものもいかなくなります。

節税目的の不動産投資について詳しく見ていきましょう。

なんで不動産投資で節税できるの?

 

不動産投資における節税とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

不動産投資は総合課税で損益通算ができる

サラリーマンも個人事業主も必ず支払う義務のある所得税と住民税。(法人の場合は、法人税と法人住民税)更に不動産投資を始めれば、その収入は不動産所得とされ、不動産所得税が課せられます。所得に関しては不動産と給与は分かれているのですが、損失に関しては1つと捉えられるのです。つまり、不動産投資で出た損失(赤字)と給与所得(黒字)を相殺(損益通算)することができるため、払い過ぎていた税金が戻ってくるのです。

では、不動産投資で赤字になるとはどういう事なのでしょうか?

経費を計上することで利益を圧縮する

初めから投資で損をしようとは誰も思わないでしょう。しかし、節税のためには不動産投資で赤字計上しなければなりません。この矛盾は不動産投資における実際の収支と帳簿上の収支に大きな違いがある事で生じるのです。

帳簿上で利益を圧縮するためには、上手く経費計上していくことが大切です。もちろん、何でもかんでも経費にできるわけではないので、できるものとできないものを具体的に見ていきましょう。

経費計上できる費用

経費計上できる費用には以下のようなものがあげられます。

賃貸管理会社へ支払う管理費

一般的にアパート経営者は、建物管理と賃貸管理は不動産会社に依頼することになります。(全て自分で行うことも可能です)建物管理とは定期清掃や必要に応じたメンテナンスなどのことで、賃貸管理とは入退去に伴う手続きや入居募集、家賃回収などのことです。これらは一般的に家賃収入の5〜7%程度で、その分は経費として計上できます。

修繕費

水漏れやシロアリ被害など、建物にトラブルが生じた際の修繕費は経費計上できます。しかし、集客アップのために建物の見栄えを良くするなどの理由による修繕は適用外となりますので気をつけてください。

管理費・修繕積立金

先ほどアパートの管理費の話をしましたが、ここでいう管理費・修繕積立金は、区分マンションの場合となります。区分マンションの場合、建物の管理会社を選ぶことはできません。そのため、管理費と修繕積立金は所有するマンションごとに決められています。家賃の回収やトラブル対応などのために賃貸の管理会社を選ぶことはできます。これらは全て経費計上することができます。

保険料

賃貸している物件にかけている火災保険料や地震保険料は経費となります。ただし、気をつけたいのが、5年や10年といった期間で前払いしますが、経費として計上できるのはあくまでその年にかかった分だけとなることです。

租税公課

不動産購入の年にかかる不動産取得税、登録免許税、土地や建物の評価額に応じて毎年請求される固定資産税などは、経費として計上できます。

利息

銀行の融資を受けている場合は、返済額のうち、利息分を経費として計上することができます。返済予定表に元金と利息の内訳が記載されています。元金の部分は適用外なので間違えないようにしましょう。

減価償却費

建物には種別によって法定耐用年数というのが決められています。建物の価値は経年劣化により下がっていきます。構造によってその価値がゼロとみなされるまでの年数が決まっていて、それを耐用年数と言います。木造22年、軽量鉄骨造19年、鉄骨造34年、RC(鉄筋コンクリート造)47年と決められています。(軽量鉄骨と鉄骨の違いは使用されている鉄骨の厚みによります)

新築建物価格2,200万の木造の場合

2,200万÷22年=100万となり、1年で100万円減価償却し、それを経費計上することができます。(中古の場合は、年数の計算が少し変わります)

これは帳簿上の収支の話で、実際の収支と異なるため、非常に節税効果が高いといえます。

通信費・交通費・書籍購入費

不動産会社に問い合わせの電話やインターネットでの物件検索といった通信費、現地に物件視察やセミナーに参加に要した交通費、不動産経営の本を購入したりした時などの書籍購入費などは、経費として計上できます。(ただし、不動産投資の事業に使用した分のみ )

税理士費用

税制上の優遇を最大限に受けるためには、税理士にお願いするのがベストです。その際、税理士費用は経費計上することができます。

仲介手数料

不動産を売買する場合、個人で直接取引する事はほとんどなく、大抵は売主側、買主側双方に代理となる仲介業者を挟むことになります。そのため、契約が成立した際には仲介手数料が発生します。国土交通大臣によって規定されている仲介手数料の最大料金は、売買価格の3.24%+6.48万円(消費税込み)と決められています。(ただし、売買価格400万円以上の場合)仲介業者によって料金は多少変わりますが、これは全額経費計上することができます。

 経費計上できない経費

私生活の費用

個人の利用と不動産事業に関わる利用をしっかりと区別しなければなりません。例えば、セミナー参加や物件視察で車を使用した場合の交通費として、ガソリン代を経費計上する際などは、個人的な利用の分ときっちり按分しなければなりません。

売却時の譲渡損

不動産の売却時に、損失が出てもその分を経費計上することはできません。それどころか、売却で利益(譲渡価額-取得費-譲渡費用)が出た場合は譲渡所得にあたり、5年未満の短期保有物件を売却する場合は40%程度、5年以上の長期保有物件の場合は20%程度の所得税・住民税が課せられます。(2018年5月現在)

もっと上手に節税する方法とは?

 

税金は所有する不動産の種類や年数、保有数などによって計算方法が異なり、申告も複雑です。更に、きちんと申告していなければ大きな損失となってしまいます。

変更も多く複雑な税制の中で、わかりやすく節税効果の期待できる方法を2つご紹介します。

青色申告にする

不動産所得は個人の所得と分けて課税されます。そのため不動産所得の部分は確定申告を行わなければいけません。確定申告の際、白色申告と青色申告という2つの方法があります。白色申告の場合は、簡単な申告内容で構わない反面、控除額が38万円しかありません。青色申告の場合は、貸借対照表と損益計算書の提出が必要な複雑な申請になりますが、65万円の控除を受けることができます。

白色申告:不動産所得100万-控除額38万=62万

62万円に対して所得税・住民税がかかる

青色申告:不動産所得100万-控除額65万=35万

35万円に対して所得税・住民税がかかる

青色申告にするだけで大きく節税できることがわかります。

戸建て5棟 or 区分10戸以上の不動産を持つ

上記で述べた青色申告をするには、事業的規模であることが必須となります。事業的規模とは、戸建てなら5棟、一棟アパートや区分マンションなら10戸以上保有している場合をさします。

費用をうまく計上する

経費計上できる費用内容をしっかりと把握し、可能な限り計上する事で、利益を圧縮して節税につなげましょう。

法人の場合は個人との税率の差を利用する

個人の給与所得などの収入が多く、所得税率が高い場合は、法人税との差額を確認しましょう。

例えば、中小法人税はおよそ20%で、法人住民税が年間7万円前後(赤字であっても黒字であっても必ず必要)となりますので、所得税率が33%以上の方は、節税につながります。

法人の場合:100万×20%+7万=27万

個人の場合:100万×33%=33万

※不動産所得が100万円の時の一例

  節税目的の不動産投資には落とし穴が

不動産投資における節税効果を見てきましたが、節税にばかり気を取られてしまうと、不動産投資全体を考えた際に、失敗に陥ってしまう事があります。

相続「税」対策で失敗

土地を更地の状態で相続するより、アパートを建てて貸家建付地にする事で、相続税は20%程度下がります。更に、アパートの建築費用を借り入れれば、その分相続財産からマイナスすることができます。また、土地建物評価額は実勢価格よりも下回るため、相続税を圧縮する事ができます。これだけを聞くととても有効的ですが、不動産投資はアパート経営です。きちんと経営できなければ大きな損失が出てしまうのです。空室により家賃収入がなくなるというリスクだけでなく、固定資産税や修繕などのランニングコストも大きくのしかかってきます。不動産投資=節税対策ではなく、不動産投資=経営ということをしっかり理解しておきましょう。

節税はできたけど、売却損が出てしまった

所有している間、節税の効果はあったものの、物件を売却する際にその効果を上回る損失が出てしまう事があります。建物の状態や不動産市場のあり方など、様々な要因によって左右されるため、売買価格を予測することは困難ですが、最低でも減価償却分は下がっていくものと考慮しておきましょう。売却には色々な税金や手数料もかかるので、節税効果を超える損失が出ることは十分に考えられます。

デッドクロスで税金が増えてしまった

先ほど減価償却のお話の中で、建物の種別によって法定耐用年数がある事を言いました。20年、30年も先の話なのであまり考えない人もいますが、長期保有した場合、法定耐用年数を超えると、そこから一気に税金が上がってしまうことを忘れないようにしましょう。法定耐用年数が終わり、減価償却分を経費計上できなくなると、黒字が増えてしまいます。これを不動産用語でデッドクロスと言います。返済比率が高いと、この黒字に対する不動産取得税・住民税がキャッシュフローを超えてしまうこともあるので、先々まで計算しておく事が大切です。

維持費がかかる

不動産を保有していると、土地の評価額に応じた固定資産税や、防火点検費用などを払わなければなりません。また、入退居の手配や建物の清掃などの管理費用といったランニングコストもかかります。不動産を所有しているだけで様々な維持費がかかることを念頭に入れておきましょう。

最後に

「不動産投資は節税になる!」という意味はご理解いただけたでしょうか?確かにメリットも多いのですが、不動産投資は株式投資などと違い、単に売り買いのキャピタルゲインを得るためだけのものではなく、上手に経営することでインカムゲインを得ることもできるのです。その分、維持管理の費用など、様々なコストが発生することを念頭に置き、オーナーは大家さんとして不動産経営の意識を持つことが大切です。