不動産投資を行う場合、個人事業主として行う方法と法人を設立して行う方法の2つがあります。どちらが有利なのか、いつ切り替えるか、どんなことを考慮して判断すればよいのかわからず悩んでいる人もいるでしょう。そこで、個人と法人を切り替えるポイントやデメリットをご紹介します。また、個人と法人の両方を行うという選択肢についてもお伝えします。

☆個人と法人を切り替えるポイントとは

不動産投資を行う場合、個人と法人を切り替えるポイントはいくつかあります。
例えば、人員や事業規模の拡大です。事業規模が多くなってくると雇うべき従業員も増加します。そうなると就業規則や社会保険、人材育成制度などの整備が必要になり管理が複雑になります。そういったことに対処する体制を整えるためには法人化した方がよいでしょう。一般的には採用をする場合も法人の方が優秀な人勢が集まりやすく、また、法人化した方が融資を受けやすくなるケースも多いので、事業規模の拡大のために多額の融資が必要となる前に法人化することも考えられます。ただし、「従業員が50人になったら」「投資物件が20棟を超えたら」などのように数字で切り替えポイントを示すことは難しいでしょう。
しかし、数字で示すことができる切り替えポイントもあります。それは所得の大きさです。個人事業の場合は、事業による利益には所得税や住民税がかかります。一方、法人化した場合は、利益にかかる税金は法人税と法人住民税そして事業税です。所得の計算方法に細かい違いはありますが、単純に個人事業と法人事業の所得が同じだったとした場合、税率の差によって税負担が変わってきます。具体的には、所得が少ないうちは個人の方が税負担は少なく、所得が増加してあるポイントを超えると法人の方が税負担は少なくなっていくのです。
その理由は、所得税が超過累進税率をとっているのに対し、他の税率は比例税率だからです。超過累進税率は、所得が増加すると税率があがるタイプの税率構造です。

比例税率の場合は、所得にかかわらず税率は同じです。

個人の場合、所得税と住民税を単純に合わせた税率は、

所得195万円以下の場合15%、

195万円超330万円以下の場合20%、

330万円超695万円以下は30%、

そして695万円超900万円以下だと33%、

900万円超1,800万円以下は43%、

1,800万円超4,000万円50%、

最高税率は4,000万円超の55%となっています。

一方、法人所得にかかる税率は一般的に実効税率と呼ばれています。平成28年度でみると、資本金1億円以内の中小法人の場合、例えば所得400万円以下は約21%、400万円超800万円以下は23%、800万円超34%となっています。個人と法人の所得別の税率を比較すると、所得900万円までは所得税の税率が低くなっています。そのため、税負担の観点から考えると、所得が900万円を超えるタイミングで法人化すると節税効果があるといえるでしょう。

☆個人と法人を切り替える場合に発生するデメリットとは

個人から法人に切り替えるためには、有利になるタイミングだけでなく、切り替えることによって発生するデメリットも知っておく必要があります。発生するデメリットは大きく分けると2つあります。

1つは、切り替えにかかるコストです。もう1つは、法人特有のデメリットが発生することです。

まず、切り替えにかかるコストについてです。不動産投資を行う場合、スタート段階から法人を設立して行う方法もありますし、税負担などを考えながら途中で法人に切り換える方法もあります。どちらが有利かを判断する場合の要素となるのものが、最初から法人で事業を行っていればかからなかった切り替えにかかるコストです。主なコストは不動産取得税と登記費用です。個人事業で不動産投資を始める場合、物件を手に入れた都度、不動産取得税と登記費用を支払うことになります。その後、法人を設立した場合は、投資物件について個人から法人に名義を書き換えることになります。その時に、同じ投資物件に対して、もう1度不動産取得税と登記費用を支払うことになってしまいます。その負担が問題だと考える場合は、最初から法人で事業を行う方がよいでしょう。

もう1つのデメリットは法人そのものが持つデメリットです。こちらは、最初から法人で事業を行っていても避けることができないデメリットですので、法人化を考えている場合は、しっかり理解しておく必要があります。1つ目は、管理コストが増加するというデメリットです。法人化すると会計や会社法が求めるレベルが上がります。そのため、会社組織をしっかりし、コンプライアンス対策を行い、決算処理などの精度を上げる必要があります。税務調査も定期的にくるようになる可能性が高いのでその対応も必要です。社会保険の手続きも必要になります。そのため、管理コストと手間の増加がデメリットになります。

2つ目は、法人住民税という税金が課されることです。個人にはない税金ですし、赤字でも最低7万円の負担が求められる点はデメリットといえるでしょう。3つ目は、税務上のデメリットです。個人の場合は事業に必要な交際費については全額必要経費にできますが、法人の場合は、接待飲食費の50%などの上限が定められています。また、役員への給料は事業年度の途中で変更してしまうと損金算入できなくなる可能性があります。さらに青色申告特別控除が法人にはない点もデメリットでしょう。

☆個人と法人の両方で運営する方法とは

一般的には、所得が少ない間は個人事業の方が税務面で有利ですが、所得が大きくなれば税負担を考えて法人化するというパターンが多いでしょう。しかし、法人になると受け入れざるを得ないデメリットも生じてしまいます。どちらかを選ぶしかなければ、ある程度のデメリットは我慢するしかないでしょう。しかし、個人と法人の両方で事業を行うという選択肢もあります。法人を設立したからといって、個人事業を廃業しなければならないという決まりはありません。個人と法人の両方を運営することによって、それぞれのよいところを上手く活用できるようになります。
まず、賃貸物件の収益率によって個人か法人かを選択する方法があります。収益率が高いものは法人で行うことによって税負担の軽減を図ることができます。一方、収益率が低い物件は個人で行い、赤字になったら損益通算などを活用して節税できるようにしておきます。また、物件を出し入れすることで収益をコントロールできるメリットもあります。交際費が発生する場合は、明らかに法人としての活動でなければ、個人事業主として接待や飲食をすることで、全額を損金に算入することができるといった税制上の選択肢が広がる余地も生まれます。事業主本人が受け取る報酬にしても、個人事業からの所得と法人からの役員報酬、そして法人からの配当金という3種類のルートが確保できることになりますので、税負担などを考慮しながら最善の方法を選ぶことができるようになります。

さらに、相続を考えた場合、個人事業として保有している不動産はそのまま相続の対象となります。一定程度の財産については小規模宅地等の特例などを活用し評価額を下げられるメリットを享受し、それ以外は法人所有にして法人の株式の形で相続させる方法がとれるようにもなります。不動産投資を個人と法人の両方で運営することによって、個人として自分を守ることと、賃貸不動産事業の効率的な拡大を両立することができるようになるでしょう。