不動産投資が株式投資やFXなどと大きく違うのは、経営の要素が入っているところです。ただ資金を投入して様子を見るだけでなく、入居者という人間を相手に日々変わっていく状況に対応していかなければならないのです。

不動産投資には一棟所有と区分所有があり、それぞれに違ったメリットやデメリットがあります。いずれも所有する部屋に入居者が入らなければ大きなリスクとなってしまいます。不動産投資において、この空室リスクが一番大きな問題となります。そのリスクを回避するための対策や、一棟所有と言われる賃貸アパート経営の方法ついて詳しくお話ししていきます。

賃貸アパート経営とワンルームマンション投資の違い

不動産投資には一棟所有区分所有があります。一棟所有とは複数の部屋があるアパートを一棟丸ごと所有するもので、賃貸アパート経営と言われています。
区分所有とは、マンションの一室を所有するもので、ワンルームマンション投資とも言われます。

アパート経営とは

アパート経営とは、比較的耐用年数の短いとされる木造や軽量鉄骨造を一棟所有することを言います。この場合、一棟丸ごと所有のため建物だけでなく土地もオーナーの物となります。その為、購入価格が大きくなりますが、部屋をいくつか所有するため空室に対するリスクを分散することができます。入居付けや清掃などの管理を一部不動産管理会社に委託したり、サブリース契約を結んで全部を委託したりしながら運営していきます。

ワンルームマンション投資とは

RCと言われる鉄筋コンクリートのマンションの一室を所有することをワンルームマンション投資と言います。数千万円以上する一棟アパートに比べ、ワンルームマンションは一千万円程度から購入可能なため、比較的安易に購入することができます。ただ、購入価格が安いぶん家賃収入も低くなり、その中から管理費や修繕積立金が引かれるので、実質の収入をしっかりと計算する必要があります。

一棟物件と区分の利回り、リスクの違い

一般的に言われる利回りとは、年間の家賃収入を物件の購入価格で割ったもので、表利回り』と言われます。利回りは高い方がいいのですが、それが全て収入になるわけではないので注意が必要です。

一棟物件の場合は家賃の5%程度の管理費や固定資産税、共用部の電気、水道費、火災保険、防火点検費など、年間に様々な費用がかかります。なかには火災保険や管理費など、オーナーが費用を抑えることのできるものもあります。費用も大きいですが家賃収入も大きいので、手元に残る収入金額も大きくなります。

区分の場合は、管理費や修繕積立金が費用の大部分を占めます。これは決められたもので、オーナーにその費用を軽減する権利はありません。物件によってばらつきがありますが、一般的に家賃収入の1~3割 を占める事が多く、退去が出てメンテナンスを入れたら収支が一気に赤字になってしまうことがあります。

表利回りではなく、隠れた経費を拾い出し、家賃収入からそれらを合わせた金額を引いて、実質利回りで購入を検討するといいでしょう。

区分の場合は、金額的に投資しやすいのですが、一室しかないため空室になると収入がゼロになってしまうリスクがあります。

一棟の場合は、部屋がいくつかあるので収入がゼロになることはそうそうありません。しかし、木造耐用年数を超えて減価償却がなくなった場合、膨大な税金がかかることになります。ローンで購入する場合、ローンの支払い額と税金が家賃収入を上回るという逆転現象が起こることがあります。これはデッドクロスと呼ばれ、ローンの組み方や自己資金の投入などで調整しなければ、大きなリスクとなってしまいます。

賃貸アパート経営のメリット8つ

 

不動産投資と呼ばれる賃貸アパート経営は、株式投資などのハイリスク・ハイリターンと言われる投資に比べて、ミドルリスク・ミドルリターンと言われています。その賃貸アパート経営の魅力ともいえるメリットをみていきましょう。

(1)長期的な安定収入

賃貸アパート経営は1、2年で旨味のでるものではありません。そのかわり、10年先20年先まである程度シュミレーションすることができます。立地や建物の競争力に影響される入退居を完全に予測することは不可能ですが、最低限必要な経費などは最初から予測することができます。火事や災害などにあわない限り、想定外の出費に見舞われることはありません。しっかりと入居付けができていれば、長期にわたって安定した収入を得ることができるのです。

(2)生命保険代わりになる

現金で購入していれば、もしオーナーがなくなった場合、残された遺族が相続し、毎月の家賃収入が年金のように入ることになります。アパートローンの場合は、契約者死亡により残債がゼロとなる団体信用生命保険が付けられるので、オーナーが亡くなったらアパートは遺族のものとなり、ローンの支払い義務がなくなるため、生命保険代わりにもなります。(但し、法人契約の場合は団信に加入できません)

(3)節税効果が期待できる

不動産投資の場合、実質の家賃収入から諸々の経費を引いた金額を所得として申請します。減価償却期間の短い中古物件を購入したり、不動産取得税などのかかる初年度などは、帳簿上の収支がマイナスになることがあります。(これはあくまで帳簿上の事なので、実際には収入があるのですが…)このマイナスを申請する事で、払い過ぎていた所得税の還付を受けることができるため、節税効果が期待できるのです。

さらに、最も高い節税効果として相続税対策があげられます。相続税は、5,000万相続した場合は20%、3億相続した場合は45%といった超過累進課税方式で課税されています。つまり、相続する課税評価額が低ければ低いほど税率は下がるのです。では、何故不動産で相続した方が節税になるのでしょうか。それは、不動産の価値というものが、実際に取引される実勢価格と納税対象となる価格に大きな開きがあるからです。納税対象となる価格は、路線価と呼ばれる定められた基準価額により割り出される土地の価格と、築年数に応じて減価償却された建物の価格で、実際に取引される不動産の実勢価格よりかなり低くなるのです。そのため、1億を現金で相続するよりも、実勢価格で1億の価値のある不動産を相続した方が、相続税は低くなるのです。

(4)インフレ対策としての強み

インフレとは物価上昇により貨幣価値が下落してしまう事を言います。極端ではありますが、具体例を挙げるとすると、1個100円で買えていたものが、1個200円になってしまうという事です。

つまり、現金で所有していた1,000万はそのままなのに対し、所有していた1,000万の不動産は2,000万の価値になるのです。不動産は長期間保有するものなので、経済状況がインフレに傾いた時に高値で売り抜くなどの対策を取ることができます。

(5)銀行融資による投資のレバレッジ効果

不動産と同じく、金もインフレ対策になるのですが、金にはレバレッジを効かせることができません。レバレッジを効かせるとは、小さな元手で大きな利益を得ることを言いますが、金の場合は、現金でそれと同等の金を買うしかありません。しかし、不動産の場合は、自分の持つ元手の何倍もの価値の不動産を購入できるのです。銀行に融資してもらい、家賃収入から返済していきます。返済中に収入が見込めるうえに、返済が終われば建物の価値がゼロになっていたとしても(耐用年数を超えるという意味)土地は資産として残ります。

そのため、不動産投資はレバレッジ効果の高い投資と言われています。

(6)保有戸数分のリスク分散

6戸から12戸程度の部屋を所有する規模のものが多い、木造の一棟アパート。戸数が多くなれば空室のリスクが軽減されます。不動産経営をする場合、必ず毎月一定額のランニングコストがかかります。(退去や災害を除く)区分のように一部屋しか所有していないのにそれが空室になってしまうと、収入がゼロになるばかりか、ランニングコスト分をオーナーが手出ししなければなりません。しかし、一棟所有の場合は、部屋がいくつかあるので、そのうちの一部屋が空室になっても他の部屋の家賃収入でランニングコスト分をまかなうことができるのです。

入退去が頻繁にあればメンテナンス費用がかさみますが、空室リスクだけで考えると保有戸数は多いほどリスクが分散されると言えます。

(7)耐用年数を超えていればスピード償却できる

建物には構造別に法定耐用年数というのが決められています。木造の場合は22年となっているため、建物の価値は22年でゼロとなります。(入居が付いている場合、実際の取引においてゼロになる事はほとんどありません)

例えば、新築の建物価格が2,200万の場合、1年で100万ずつ減価償却していくことになります。
法定耐用年数超えの場合には、以下の計算式で耐用年数を算出できます。

耐用年数=22(法定耐用年数)×0.2=4.4(小数点以下切り捨て)

そのため、同じ2,200万の建物でも築年数が22年を超えていれば、4 年で2,200万を減価償却することができるのです。
つまり、黒字が大きくて税金が高くなりそうな年に、耐用年数を超えた物件を購入して赤字相殺する事が可能なのです。

(8)マンションに比べてリフォーム・リノベーションがしやすい

木造はRCと言われる鉄筋コンクリート造に比べて低コストでリフォームやリノベーションをする事ができます。RC造は骨格自体を変える事はできませんが、木造であれば必要最低限の柱を残してフルリノベーションできるのです。築年数が経ち時代遅れになった時、リノベーションで内装を一変すれば新築のように生まれ変わることも可能です。また、RC造の場合、解体にも莫大な費用がかかりますが、木造であれば100万程度で解体することができます。

賃貸アパート経営8つのデメリット

アパート経営は、不動産投資とも言われるように資産価値やそれに伴う収入が上下します。先にメリットを述べましたが、当然のようにデメリットもあるのです。アパート経営を始めるにはメリット以上にデメリットを熟知しておく必要があります。それを踏まえた上でメリットと照らし合わせて納得できる物件を探しましょう。

(1)家賃滞納リスク

オーナーさん自らが家賃の回収をするケースもありますが、大抵の場合は管理会社にお願いすることになります。自ら回収する場合は、滞納や催促により、入居者とのトラブルになる可能性などもあります。管理会社に委託していれば、それらの作業を管理会社が行い、滞納分の立て替えを行ってくれる場合もあります。

家賃滞納で家賃収入が入らず、ローンの支払いが滞れば、アパートを手放さなければならない事態にもなりかねません。

入居者との契約時に保証人や保証会社をつけるなどの対策が必要です。

(2)賃貸需要の変化による空室リスク

時代の流れとともに人の流れやニーズは移り変わっていきます。アパートも新築や築浅のうちは時代のニーズを捉えていて入居も付きやすいのですが、20年以上経ち老朽化してきた物件は、時代遅れとなり競争力を失ってしまいます。そうなるとどうしても空室が出てきてしまいます。

そうならないために大切なのが立地の選定です。以前は何もない田舎だったのに、駅前再開発で一気に活気付き、人が沢山流入してきたなどとよく耳にします。そのような流れを一足先に読む力が大切です。また、建物の造りや間取り、設備などを見て物件選びすることも大切です。部屋の広さや使いやすさなど、入居者目線で考慮するといいでしょう。

(3)金利変動リスク

銀行融資を受けてアパートを購入する場合に、気にする融資条件は金利と期間です。金利が低く借入期間が長いほど手元に残るキャッシュフローが多くなります。そのため、どのオーナーさんも低金利で貸し付けてくれる融資先を探すのですが、何十年もの期間があればその間に金利が上昇する可能性があります。金利が上昇すれば、返済金額が上がるのでキャッシュフローが減ってしまいます。借入が大きければ大きいほど金利変動のリスクを受けやすいので、頭金などを多めに用意して借入を大きくしすぎないようにしましょう。

(4)家賃と売却価格の下落リスク

長期間かけて運用していく不動産は、どんなに頑張っても経年劣化により価値が低下していきます。まず顕著なのが家賃です。3月4月の繁忙期の退去は、次の入居者が比較的決まりやすいので、築10年以内であれば家賃を下げずに募集が可能な場合もあります。しかし、7,8月など引越しシーズンでない時期の募集や、周囲に新しい競合物件が出てくるなどした場合は、募集家賃を下げなくては入居が付かない事があります。

オーナーとしてはその下落幅を少しでも小さくしたいものです。そのためには、居住空間に競合物件と差別化できるような工夫を凝らす(1Kエリアに1LDKを配置する。ハシゴではないロフトで空間と使いやすさを生む)など、物件に強みを持たせる事も大切です。しかし、最も重要なのは立地選定といえるでしょう。主要路線の徒歩圏内など、時が経っても変わり得ない条件を持つ土地を選ぶことは家賃や売却時の下落リスクだけでなく、空室リスクも緩和してくれます。

(5)老朽化と建て替えの難しさ

木造の耐用年数が短いというのは、それだけ老朽化が早いということになります。確かにRC造と比べると劣化は早いのですが、最近の木造アパートはしっかりとしたサイディングボードなどを外壁材に使用しており、入居者は木造である事に気が付かないことが多々あります。日頃の清掃やちょっとしたメンテナンスを行っていれば、そんなに見劣りする事はありません。ただ、RC造に比べると短いスパンで外壁や屋根の防水などの大規模修繕を行う必要があります。

以前、木造は解体費用が安いというお話をしました。確かに解体して建て替えるのは可能ですが、現実問題として入居者をゼロにしなければ取り壊せないため、どうしても時間がかかってしまいます。引越し費用を負担して転居を促すこともできますが、入居者が応じない場合は無理に追い出す事はできません。入居者をゼロにして建て替えるまでの期間、踏ん張れるだけの財力がなければ建て替えは困難となります。

(6)災害リスク

今やどこで地震が起きてもおかしくない日本列島。不動産を所有する場合、火災保険や地震保険などに加入しますが、損害と同額の補償を得ることは困難です。特に地震による倒壊や津波などによる浸水は、ほとんど補償されることはありません。

そのような災害リスクを少しでも軽減できるよう、物件購入時には川の氾濫履歴や地盤の強さなどがわかるハザードマップなどを確認し、リクスの低い土地を探しましょう。

(7)流動性が低い

マンションに比べれば安価な木造アパートですが、安いと言っても数千万円もするものなので、そう簡単に売却できるものではありません。

これが、よく言われる不動産投資の出口の難しさです。しかし、出口戦略も購入時にシュミレーションする事は可能です。10年後20年後30年後に売り抜くと想定して、その時々の残債とそれまでに得たキャッシュフローを計算すれば、売りたい価格が出てきます。木造アパートの実勢価格は利回りで割りもどして計算するので、入居がしっかりとついていれば、それなりの売値をつけることが可能です。

出口戦略では、売り急がずに市場の波にうまく乗れるようにしましょう。

(8)基礎や柱の白アリ被害、屋根の劣化・腐食などのリスク

木造で注意すべき点として、水漏れやシロアリ被害などがあります。これは素人にはわかりにくく、気付いた時には手遅れの場合もあるので要注意です。新築の場合は、メーカーの10年保証などが付いていますが、中古のアパートの場合は簡単に見抜けない部分にリスクが潜んでいるかもしれません。

シロアリに関しては発生しやすい地域とそうでない地域があるので、確認することやシロアリ駆除の塗布を行うなどの対策が必要です。屋根に関しては足場を組む必要があるので、10〜15年に一度ほど、外壁と合わせて大規模修繕工事を行うといいでしょう。

賃貸アパート経営の空室リスク対策3つの方法

物件購入時の立地選定が大切なことは言うまでもありませんが、どんなに好立地でも空室が生まれることもあります。そのような場合、どのような対策をとればいいのでしょうか。

空室リスク対策3つの方法

賃貸アパート経営において、最もオーナーを悩ます空室リスクに対応するための3つの方法をみていきましょう。

(1)募集条件を見直す

家賃設定や敷金・礼金などの募集要項はオーナーが決めることができます。春の繁忙期であれば敷金・礼金を取ることはできますが、入居が付きにくいと思った時はそれをゼロにするなどの工夫が必要です。家賃も時には上げることもできますが、厳しい時は家賃を下げるという決断も必要です。周辺の競合物件の状況などをリアルタイムで把握しておくと参考になります。

(2)物件のリフォーム、設備更新

築古でも手入れが行き届いていれば築年数を感じさせず、満室の物件も沢山あります。日常的に清掃や細かなメンテナンスを行うようにしましょう。

どんなに綺麗にしていても、時代とともに求められる物件の設備や間取りなどが変わってくるため、築年数が古くなるとどうしても競争力が落ちてきてしまいます。そんな時はリフォームで雰囲気を変えたり、水回りの設備を新品に取り替えたりする事で競争力を高めましょう。

(3)管理会社・募集活動を見直す

立地・物件の競争力ともに問題ないのに空室が続く場合は、管理会社を見直す事も考えましょう。エリアによって入居付けに強い会社や弱い会社があります。管理会社とのパイプを太くして関係を良くしておくことも大切です。

更に、入居募集は管理会社だけでなく仲介業者も共有するので、仲介業者への報酬となる仲介手数料を通常の一月分から二月分にあげることも有効です。

最後に

不動産投資という賃貸アパート経営。投資というからにはリスクは付き物です。しかしその反面、リスクを予測でき、対策を取ることができるというメリットもあります。メリットとデメリットは物件1つ1つ違うので、見極める力と踏み出す勇気が必要です。リスクやデメリットも想定内であれば容易に対応することが可能です。常にシュミレーションしながら物件を探していくといいでしょう。