戸建て住宅やマンション・土地等などの不動産を売却した際に得た譲渡利益は、確定申告をして所得税と住民税を納める必要があります。不動産の登記を行えば、その情報が税務署に行きますので、必ず申告をしなければなりません。また、売却して損失が出た場合でも確定申告をすることで、さまざまな特例を利用できる場合があります。この記事では確定申告の必要性や特例及び作成方法等について解説をいたします。

確定申告について知っておこう!


それでは始めに確定申告のとはどんなものなのか、必要な手続き等について解説をいたします。

確定申告とは

個人業者や給与所得以外に収入のある方は、自分で所得税などの税額を計算し確定申告により国に税金を納めます。会社などに勤めている給与所得者は、給料から所得税が天引きされます。したがって会社が年末調整により年間に支払った給与総額から所得税額を出し、源泉徴収分との過不足を精算してくれますので、原則として確定申告をする必要はありません。確定申告をしなければならない場合は次の通りです。

確定申告をする必要のある方

・不動産所得があった人
・配当所得のあった人
・給与所得が2,000万円以上ある人
・個人事業主
・退職金をもらった人
・譲渡益を得た人
・一時所得のあった人
・雑所得のあった人
なお多額の医療費を支払った方や寄付をした方、ふるさと納税を行った方、退職をしたが年末調整がされていない方などは、確定申告することにより税金の還付を受ける可能性があります。

確定申告の期間

例年2月16日~3月15日までが申告期間となっており、還付申告の場合は申告対象の翌年1月1日から5年間となっています。

確定申告をしないとどうなる?

期限に遅れて申告した場合及び無申告の場合には無申告加算税が課されます。この税率は50万円までの部分は15%、50万円を越える部分は20%とかなり高額になっています。
また期日までに支払わなかった場合には、納付期限の翌日から翌年の2月までは年7.3%と特例基準割合(※)+1%のどちらか低い割合を納める必要があります。2月以降は14.6%と特例基準割合+7.3%のどちらか低い割合の延滞税を支払わなければなりません。
【出典】国税庁ホームページ:https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm

確定申告の手続き

確定申告書の提出先は所轄の税務署ですが、提出の方法は税務署に直接・郵送・e-taxによる電子申告などがあります。また確定申告用紙は税務署や役所・申告相談会場でもらう方法、郵便で送ってもらう方法などがありますが、国税庁HPの確定申告書等作成コーナーで、画面の案内に従い作成することもできます。

税務署に直接提出

確定申告は、所轄の税務署や確定申告会場に直接提出するのが一般的です。税務署や確定申告会場には相談員がおり、はじめての人は相談をしながら作成できますので便利です。

郵送で提出

確定申告は所轄の税務署に郵送することも可能です。その場合切手を貼った返信用封筒を同封しておけば、受領印の押した控えを返送してくれます。

e-taxによる電子申告

e-taxを利用した電子申告ならば、自宅に居ながらにしてウェブで申告することも可能です。ソフトが自動計算をしてくれますので間違いがなく、書類を添付する必要がないなどのメリットがあります。しかしe-tax ソフトをインストールし、ICカードリーダーライターを用意し、マイナンバーに格納されている電子証明書を登録しなければなりません。パソコンに慣れている方でないと、最初は申告することが難しいでしょう。

不動産売却時に確定申告は必ずしなければならない?


それでは不動産売約時には、確定申告は必ず行わなければならないのでしょうか。

売却益が発生した場合

不動産を売却して利益が出た場合には、譲渡所得税を納める必要がありますので確定申告をしなければなりません。

損失が発生した場合

譲渡損失が出た場合には、確定申告をする義務はありません。しかし、確定申告をすることにより、給与所得など他の所得と損益通算をすることができます。なお、損益通算は3年間繰り返し行うことができます。

居住用の不動産も確定申告が必要

居住用の住宅であっても売却し利益を得た場合には、確定申告をしなければなりません。その場合には特例があり、不動産所有期間に関係なく、譲渡所得から3,000万円を限度として控除することができます。この特例を受けるためには、必要書類を添えて申告する必要があります。

不動産売却時に譲渡所得が発生した場合の確定申告と特例について


次に、譲渡所得の計算方法と確定申告の特例について解説をいたします。

譲渡所得税とは?

譲渡所得とは、土地や建物・株式などの資産を譲渡することによって発生する所得を指します。譲渡所得は、他の所得とは分離して課税される分離課税制度が適用されます。譲渡所得が損失であった場合には、課税されることはありません。

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税の金額を算出するためには、まず譲渡所得を出し、次に譲渡所得税を計算します。

譲渡所得金額の計算式

・譲渡所得=譲渡金額-取得費-譲渡費用
※取得費=不動産購入代金
※譲渡費用=仲介手数料や建物の取り壊し費用など売却に要した費用
・課税譲渡所得= 譲渡所得-特別控除
※居住用住宅を売却し得た利益3,000万円などの特別控除を除した金額に課税

譲渡所得税の計算式

住宅や土地を売却して発生する譲渡所得は、他の所得とは合算せず、個別に計算する分離課税方式が採られています。
所有期間が5年を越えるか否かで納める税率が変わってきます。
・短期保有(5年未満)の譲渡所得=譲渡所得×30.63%(別に住民税9%)
・長期保有(5年以上)の譲渡所得=譲渡所得×15.315%(別に住民税5%)
なお、10年超所有軽減税率の特例があり、居住用の不動産を10年以上保有し利益を得た場合、課税譲渡所得6,000万円以下の部分は、所得税が10.21%(住民税4%)に軽減されます。
図にまとめると次のようになります。

※10年超所有軽減税率の特例については後述します。

3,000万円の特別控除の特例とは?

自分の居住用のマイホームを売却して利益を得た場合には、条件が満たせば最高3,000万円までを控除できます。

特例を受けるための条件

・所有者が生活の拠点としていた住宅及び敷地であること
・住まなくたった日から3年目の12月31まで建物を譲渡(居住期間は問われません)
・不動産を譲渡する人が親族など特別な関係でないこと
・不動産を譲渡した年に住宅ローン控除を受けていないこと
・売却した前年、前々年にこの特例以外に特定居住用財産の買換え特例や特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例などの適用を受けていないこと。

必要とする書類

この特例を受けるためには、次の書類を添付し確定申告をする必要があります。
・土地、建物の譲渡所得の計算明細書
・住民票あるいは住民票除票
住民票の写しを添付できないときには次の書類が必要
・戸籍の付票のコピー(譲渡した日から2ヶ月を経過した後に交付を受けたもの)
・売却した家に住んでいたことを証明するもの(公共料金領収書・郵便物など)

所有期間が10年以上の場合の特例とは?

居住用の不動産を売却し利益が出た場合に、不動産の所有期間が10年以上のときには軽減税率の特例を利用することができます。

この特例は前年及び前々年にこの特例を受けていないことが条件となります。
また3,000万円特別控除の特例とは重ねて適用することが可能です。

買換えの特例とは?

「買換えの特例」は、マイホームを売却して新たな住宅を購入した場合に利用できます。売却金額が3,000万円以内の場合には、「3,000万円の特別控除」を使えば事足ります。しかし売却金額が3,000万円以上で、「買換えの特例」の要件に合致した場合には、どちらかを選択することができます。この特例は、買い替えに充当した金額部分については、譲渡しなかったとされ、課税されません。しかし、買い替えた住宅を再度売却した場合には、前回売却した住宅の取得費を引き継ぎ継ぐこととなります。

買い替え特例の要件

・自分が居住していた住宅と敷地の譲渡
・譲渡する年の1月1日時点で、住宅と敷地所有期間がいずれも10年を超えている
・譲渡する住宅の居住期間が通算して10年以上
・譲渡する人が、血縁関係や特別な関係者にないこと
・前年、前々年に他の居住用財産の課税の特例を受けていないこと
・譲渡価格が1億円を超えないこと
・購入するマイホームの敷地が500平方メートル以下
・購入する住宅の床面積が50平方メートル以上

必要とする書類

・譲渡所得の内訳書(計算明細書)
・譲渡したときの売買契約書の写し
・譲渡した資産の登記事項証明書
・住民票の写し、または戸籍の附票の写し
・買換え資産の売買契約書、領収書の写しなど
・買換え資産の登記事項証明書
・耐震基準適合証明書、住宅性能評価書の写し、
・住民票の写し

不動産売却時に譲渡損失が出た場合の確定申告と特例について


今まで述べてきたように、不動産を売却し利益が出た場合には必ず確定申告をしなければなりません。しかし、損失が出た場合にも、確定申告をしなければならないのでしょうか。

損失が出た場合でも確定申告をするメリット

不動産物件を売却し損失が出た場合、確定申告をする必要はありません。しかし、確定申告をすれば、給与などの所得と損益通算し、税金を安くすることができる可能性があります。住宅を売却しただけの時は「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例」を利用でき、買い替えの時は「居住用不動産に買い換えなどでの譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例」を利用することができます。

特例その1居住用不動産に買換え等の場合

居住用不動産を売却して買換えを行い損失が出た場合には、ほかの所得と損益通算をしたり繰越控除を受けたりすることができます。

特例を受ける条件

・売却した不動産に5年以上住んでいたこと
・買い替え不動産の床面積が50平方メートル以上
・不動産を売却した年の前年から翌年までの3年間に取得した不動産であること
・購入した年の12月31日で10年以上の住宅ローンが残っていること

必要書類

・居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
・居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書
・売却した不動産と買い替えた不動産の売買契約書
・売却した不動産と買い替えた不動産の登記事項証明書
・住民票除票及び住民票
・年末時点のローン残高証明書

計算方法

譲渡損失額=売却した物件の購入価格-(売却した物件価格∔売却した物件購入時の諸経費)
たとえば5,000万円の住宅で150万円の諸経費が掛かった住宅を購入し、4,000万円で売却した時の損失額は次のようになります。
譲渡損失額=5,000万円-(4,000万円+150万円)=850万円。

特例その2損益通算や繰越控除

居住用不動産を売却し譲渡損失が発生した時には、条件を満たせば特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を利用できます。

特例を受ける条件

・売却した不動産に5年以上住んでいたこと
・売買契約締結の前日で、10年以上の住宅ローンが残っていること

必要書類

・居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
・居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書

計算方法

譲渡損失額=売却した物件の購入価格-(売却した物件価格∔売却した物件購入時の諸経費)
不動産売却価格が住宅ローンの残高よりも少ない場合には、損益通算と繰り越しできる譲渡損失額に限度が生じます。その場合には下記の算式によります。
譲渡損失限度額=住宅ローンの残高-売却した価格
たとえば3,800万円で購入した物件を2,500万円で売却し住宅ローンの残高が2,900万円とするとこの特例で受けられる譲渡損失の限度額は次のようになります。
譲渡損失限度額=2,900万円-2,500万円=400万円

確定申告書の作り方

会計ソフトを利用する

会計ソフトを使用すれば、知識がなくとも手順に沿って入力することで、簡単に確定申告書を作成することができます。

税理士に依頼

忙しい人や自分で確定申告書を作成する自信のない方は、税理士に依頼するとよいでしょう。税理士の報酬は自由に決めることができますので、費用は依頼する税理士によって異なります。一般的に個人の場合には3万円~10万円程度が相場になります。

税理士ドットコムの活用

知り合いに税理士がいたり、自分で探せたりする場合にはよいですが、探せない場合には税理士ドットコムなどの紹介サイトを利用するのが便利です。無料で税理士を紹介してくれます。
【出典】税理士ドットコム:https://www.zeiri4.com/

まとめ


不動産を売却し利益を得た場合には、確定申告を行わなければなりませんが、ご紹介したようにさまざまな特例もあります。特例を利用して間違いのない確定申告をするようにしましょう。

監修:小林 弘司(不動産コンサルタント)