不動産を売却したいと考えたとき、気になることはさまざまあると思いますが、やはり逃れられないのが税金です。難しそうに聞こえる税金ですが、実はとてもシンプルで、おおまかに言ってしまえば不動産売却時にかかる税金はたった三つです。しかし各項目、それぞれに条件や軽減する方法などたくさんのノウハウがあり、頭を悩ませる方も多いでしょう。ここでは、そんな不動産売却時の税金について細かくご紹介したいと思います。
不動産の売却に掛かる3つの税金とは?
最初に、不動産売却時にかかる3つの税金について取り上げて行きます。
印紙税
不動産売買には購入時にも売却時にも、共に印紙税があります。印紙税は、収入印紙を売買契約書に貼り、消印することで納めたことになります。契約書は通常売却側と購入側の2通作成し、それぞれに該当の印紙を貼りますが、節約のため1通のみ原本を作成し購入側が持ち、コピーを売却側が持つこともあります。なお、期間限定で以下の軽減措置がなされています。
2020年3月31日までは軽減措置あり
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
【出典】国税庁HP:https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/inshi/08/10.htm
抵当権抹消登記の免許税
不動産の抵当権の抹消登記にかかる登録免許税は、1物件につき1,000円と定められており、それほど高額になる心配はありません。ここで言う1物件とは、土地建物それぞれでのカウントとなり、土地建物を所有し売却する場合には2物件という計算になります。
司法書士に支払う費用
さらに必要となるのは、登記申請の手続きを代理で行ってもらった際の司法書士に支払う費用です。現在、抹消登記にかかる費用はほとんどの司法書士が5,000円~20,000円を相場としています。
譲渡所得に掛かる所得税と住民税
不動産売却にかかる税金の中でメインになってくるのが、不動産売却時の利益=譲渡所得の金額にかかってくる所得税と住民税です。売却物件を所有していた期間が5年以上の場合、税率は一律で約20.315%(所得税15%、住民税5%、復興所得税0.315%)です。ただし、所有期間が5年未満の場合に関しては、所得税30%、住民税9%+復興所得税0.63%で40.63%に増額されるので注意が必要です。また、次項でご説明しますが、売却時に利益が出なかった場合には当然この所得税・住民税・復興所得税はかかってきません。
譲渡所得に掛かる所得税と住民税
先ほど少し触れましたが、不動産売却にかかる税金の内、主な項目がこの所得税と住民税になりますので、ここでもう少し詳しく見ていくことにします。
譲渡所得とは?
譲渡所得とはその名の通り、不動産を売却、譲渡した際に出た利益=所得のことです。単純に言うと、物件取得の際800万円かかった物件を1,000万円で売却できた場合の譲渡所得は200万円ということになります。
取得費と譲渡費用の違い
譲渡所得を計算する上で、必要になってくるのが取得費と譲渡費用です。まず取得費とは譲渡所得を出すときに差し引いた購入価格です。購入価格には、物件の購入費用のほか建物の建築費や仲介手数料や登録免許税および契約書の印紙代まで物件を所有するにあたり支払ったすべての費用を計算する必要があります。所得税法基本通達が譲渡範囲として明記されているため、仲介手数料は売却に際しての経費になります。
出典:所得税法基本通達33‐7(URL)http://www.nta.go.jp/law/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
減価償却費とは?
先ほど取得費についてご説明しましたが、ここで重要になってくるのが減価償却費です。減価償却費とは経年劣化などで価値が減少していく資産価値の部分をその耐用年数にわたり少しずつ経費として計上していく際の費用のことを言います。不動産売却においては建物について適用されます。
例えば6,000万円で購入した建物が2,000万円減価償却された時点で、その建物の価値は4,000万円分残っていることになり、それが5,000万円で売れたとして1,000万円の利益が出たということになります。したがって、取得費を計算する上でこの減価償却費を加味しておかなければ、のちの所得税・住民税の費用に差が出ることになってしまいます。
譲渡所得税の計算方法とは?
譲渡所得税の計算式は、【課税譲渡所得×所得税・住民税の税率】です。
課税譲渡所得の求め方
課税譲渡所得とは、譲渡所得から特別控除を差し引いた金額です。特別控除の金額は800万円~5,000万円の幅がありますが、一般的な自己居住用財産(マイホーム)の売却においては3,000万円の控除となっています。
保有期間で変わる譲渡所得税の税率
譲渡所得にかかる所得税と住民税の項でも触れましたが、不動産を売却する時点でのその物件の保有期間によって、譲渡所得の税率には違いがあります。
売却した年の1月1日が保有期間の基準
不動産所有期間を計算するにあたっては、その基準日を譲渡(売却)した年の1月1日を基準にすることになっています。
長期譲渡所得(5年超え)
物件を所有した期間が譲渡した年の1月1日時点で5年を超えるものを長期譲渡所得と、税率は約20.315%(所得税15%、住民税5%、復興所得税0.315%)です。※復興所得税は平成49年までとされています。
短期譲渡所得(5年以下)
物件を所有した期間が譲渡した年の1月1日時点で5年以下の物を短期譲渡所得と言い税率は、40.63%(所得税30%、住民税9%+復興所得税0.63%)です。※復興所得税は平成49年までとされています。
サラリーマンでも確定申告が必要な理由
普段会社の年末調整で手続きをしてもらってるサラリーマンであっても、給与以外の所得がある場合確には定申告を行う必要があります。もちろん不動産売却によって売却益が出た場合によるのですが、損益が出たとしてもケースによっては税金還付などの措置がなされる場合もありますので申請はするようにしましょう。不動産売却で所得があったにも関わらず、万が一確定申告を怠った場合、法廷納税期限の翌日から完納日までの計算で延滞税がかかってきます。必ず期限内に申告と納税を済ませましょう。
所得税と住民税の支払い時期について
所得税は、その年の確定申告書の提出期限と同じ日までに納付する必要があります。
住民税は、6月末、8月末、10月末、1月末と4期に分けて納税しますが、もちろん一括納税も可能です。
不動産売却シミュレーションと特例について
これまで、不動産売却にかかる税金についてご紹介してきましたが、譲渡所得税の計算の項でもご紹介したように節税になる特例が何パターンかあります。一般的な不動産売却の例と合わせてさまざまな特例についてもご紹介します。
よくある売却事例でシミュレーション
ではまず、一般的な不動産売却について具体例を挙げて見ていきましょう。
7年居住した都内マンションを売却
所有期間:7年
売却額:4,000万円
取得費:800万円(減価償却した価格)
譲渡費用:100万円
として税金総額を算出していくと
譲渡所得=3,100万円【4,000万円ー(800万円+100万円)】
譲渡所得税=6,297,650円【所有期間は7年の長期譲渡所得のため3,100万円×20.315%】
印紙税=1万円【1千万円を超え5千万円以下のもので軽減税率適用】
上記条件で不動産売却を行った場合の税額は、6,307,650万円となります。
特例を活用して節税する
次に、特例を使って節税ができるパターンをご紹介します
居住用財産の3,000万円特別控除
個人が居住用の住居を売却または譲渡した場合、譲渡所得から最高で3,000万円まで控除する特例があります。
この特例においては居住の期間は関係しませんが、所有者が生活するために居住していた物件であることが条件であり、一時的な居住やセカンドハウスなどの売却時には適用されません。また、居住用ではなくなった日から3年経過する年の年末までに売却することも前提条件のひとつです。
居住用財産売却の軽減税率の特例
居住用住居としての前提条件は3,000万円特別控除と同じですが、所有期間が10年を超える物件に関しては、
課税譲渡所得が6,000万円以下の場合、譲渡所得税は14.21%に、6,000万円を超える場合は20.315%に軽減されます。
居住用財産の買い替え特例
この買い替え特例は、居住用住居を10年以上所有していて、別の住居に買い替える際、買い替える物件が前不動産の売却価格より高額な場合に適用される特例です。
本来なら売却の際の利益に譲渡所得税がかかってくるのですが、この買い替え特例を使うと、売却益はなかったとされ、売却した際の譲渡所得税がかかりません。後日、買い替えた不動産を売却することがあった際、前不動産を保有したまま売却したとみなして譲渡所得税が課せられることになります。
空き家に係る譲渡所得の特別控除
空き家の譲渡所得から3,000万円控除する特例で、相続の問題により空き家が増加している事案の打開策として空き家を売却しやすくするために設けられた特例です。
分からない事はプロに相談する
ここまで不動産売却にかかる税金について詳しくご紹介してきましたが、やはり税金の算出や節税の問題など、まだまだ分かりにくく専門的な知識も必要になる場面が多いです。分からないことは思い切って不動産売却の専門家に相談し、アドバイスをもらったり手続きの代行をしてもらったりすることが大切です。
最後に
いかがでしたか?不動産売却にかかる税金について、意外と知られていないことが多くあるのがお分かりいただけたでしょうか。人生でそう何度もない不動産の売却ですから、戸惑う方も多いでしょう。特例控除などを賢く利用し、スムーズにそしてお得に進めていくために参考になれば幸いです。
監修者:添田裕美(税理士)