賃貸不動産経営管理士とは、賃貸不動産の管理を行う専門資格として、2007年から認定が開始された公的資格です。2018年7月1日以降は、賃貸住宅管理業務を行う事業所はかならず賃貸不動産経営管理士の有資格者もしくは6年以上の不動産管理実務者を配置し、重要事項説明等は賃貸不動産経営管理士等が実施することと定められました。今後ますます注目が高まる賃貸不動産経営管理士の業務内容と資格の取得方法、将来性について探っていきましょう。

どんな資格?賃貸不動産経営管理士について

賃貸住宅における管理業務の適正化を図るために、国土交通省は賃貸住宅管理業の登録制度を創設し、賃貸不動産の契約では賃貸不動産経営管理士の有資格者が必要となります。賃貸住宅は日本の住宅の約4割を占めていますので、賃貸住宅契約に欠かせない賃貸不動産経営管理士の資格は、ニーズが高くなっていく資格の1つと言えるでしょう。

賃貸管理業務のスペシャリスト

賃貸不動産経営管理士は、一言で言えば“賃貸管理業務のスペシャリスト”です。賃貸住宅のオーナーと入居者の双方にアドバイスを行う賃貸管理の専門家です。

賃貸不動産経営管理士の業務内容とは?

賃貸不動産経営管理士が担う業務には、賃貸借契約に記載されている業務と賃貸借契約関連以外の業務があります。

賃貸借契約に記載された業務内容

賃貸借契約時に交わした契約書に記載された以下の業務を実施します。

  • 管理受託物件の清掃や設備の点検
  • 入居や退去の立会い
  • 入居者からの建物や設備へのクレーム対応
  • 毎月の家賃や敷金の徴収業務
  • 契約の更新に関する業務
  • 賃貸借契約の解約に関する業務
  • 敷金の精算
  • 管理受託契約時、物件オーナーへの重要事項説明
  • 管理受託契約書への記名押印業務
  • オーナーに対する定期的な管理事務の報告業務
  • 賃貸経営に係る提案・コンサルティング

賃貸借契約関連以外の業務内容

上記の業務以外にも、次の業務を実施します。

  • 賃貸物件のニーズ等の市場調査
  • 賃貸用の建物に関する企画や提案
  • 空室の管理、維持
  • 入居者入れ替わりにおける原状回復工事の立ち会い
  • 不動産証券化業務

賃貸不動産経営管理士が求められている現場は?将来性は?

賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産の管理業務のスペシャリストという立場ですが、資格取得の上で求められる知識は賃貸不動産を扱う仕事全体と関わりますので、賃貸不動産業全般において役に立つ資格だと言えるでしょう。

不動産管理会社で活躍シーンが拡がる

“賃貸不動産経営管理士の資格”が求められるのは、やはり賃貸不動産管理業務においてです。不動産管理会社や管理業務も含めた受託会社では、今後ますます賃貸不動産経営管理士の有資格者が必要とされるでしょう。

不動産投資家もスキル向上のために取得する人が増加

個人的に不動産投資をする人の間でも、自身のスキル向上のために賃貸不動産経営管理士の資格を取得する人が増加しています。特に小規模不動産オーナーの中には、自分自身で不動産管理業務を行うことも少なくありません。入居者とのトラブルを回避するためにも、また、入居者の不安解消や入居者からの疑問にスムーズに答えるためにも、自発的に取得するオーナーが増えているのです。

賃貸不動産経営管理士になるには?試験制度について

2018年7月1日以降、賃貸不動産管理業務を行う事業所には1人以上の賃貸不動産経営管理士を配置しなくてはならなくなります。賃貸不動産経営管理士がいない場合は、6年以上の不動産管理業務実務経験がある人が代わりを務めても良いのですが、法施行の時点での経過措置である可能性もあり、将来的には賃貸不動産管理事業所には賃貸不動産経営管理士の配置が必須となることが予測されています。つまり、これから益々ニーズが高まる資格と言えるでしょう。

賃貸不動産経営管理士試験の受験者数と合格率の推移

賃貸不動産経営管理士試験は、受験者数も年々増加しています。2017年11月19日に実施された賃貸不動産経営管理士試験の受験者数は16,624名で、2016年の受験者数と比べて3,475名も増加しました。

2017年の賃貸不動産経営管理士試験の合格率は48.3%で、合格率が55.9%であった2016年と比べると低下したと見ることができます。この原因としては、受験者数が増えて充分に勉強していない人も受験した可能性があること、また、問題自体の難易度も2016年より高かったことなどを推測することができます。

参考サイト:賃貸不動産経営管理士協議会「平成29年試験結果統計」

2016年8月に賃貸住宅管理業者登録制度の一部が改正!受験者数が急増

先ほどもご説明しましたが、2017年の受験者数が急増した理由の1つとして、2016年8月の賃貸不動産管理業者登録制度の改正を挙げることができます。制度の改正によって、2018年7月1日以降は、賃貸不動産経営管理士を賃貸不動産管理業務に携わる事業所に1名以上配置しなくてはいけなくなりました。

そのため、賃貸不動産管理業の事業所に勤務する人や個人で不動産投資をしている人、今後、賃貸不動産関連の業務に関わる可能性がある人などが賃貸不動産経営管理士の資格取得を目指すようになったのです。なお、制度改正によって賃貸不動産経営管理士に義務付けられた役割には、次の3つがあります。

1. 賃貸住宅管理に関する重要事項説明および重要事項説明書の記名・押印

賃貸不動産経営管理士は、登録事業者が貸主との管理受託契約を締結するときは、賃貸住宅管理に関する重要事項を貸主に説明し、重要事項説明書に記名・押印しなくてはいけません。重要事項説明と重要事項説明書への記名・押印は賃貸不動産経営管理士に定められた“専門業務”ですので、賃貸不動産経営管理士と6年以上の不動産管理業務実務経験がある代理人が担当することが可能です。

2. 賃貸住宅の管理受託契約書の記名・押印

賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅の管理受託契約書へ記名し、押印しなくてはいけません。この業務も、賃貸不動産経営管理士と代理人のみが担当できる“専門業務”です。

3. 事務所における資格者の設置義務

登録事業者の事務所ごとに1名以上の賃貸不動産経営管理士等を設置しなければなりません。

試験内容や出題範囲、合格するためのポイントは?

賃貸不動産経営管理士の資格試験は、毎年11月に実施されます。受験資格は特に定められていませんので、賃貸不動産経営管理士に興味がある人なら誰でも受けることができることが特徴です。

受験の申し込みは8月、試験結果発表は翌年1月、合格者は賃貸不動産経営管理士として登録してから“賃貸不動産経営管理士”を名乗ることができるようになります。なお、賃貸不動産経営管理士の試験は誰でも受けることができますが、登録する際には、宅地建物取引士もしくは賃貸不動産関連業務に2年以上従事している(過去に2年以上従事していた場合でも可)ことが求められます。

賃貸不動産経営管理士の試験内容

賃貸不動産経営管理士の資格試験では、90分で40問の問題を解きます。いずれも四肢択一です。ただし、受験する前に2日間の“賃貸不動産経営管理士講習”を修了しておくと、40問中4問が免除されますので合格しやすくなります。なお、2017年に実施された賃貸不動産経営管理士試験では、40問中27問以上正解した人が合格となりました。一方、賃貸不動産経営管理士講習を修了した場合は、36問中23問以上の正解で合格となりました。

賃貸不動産経営管理士の出題範囲

賃貸不動産経営管理士の資格試験においては、賃貸不動産管理業務に関して幅広い知識が問われます。具体的には以下の内容が含まれます。

  1. 賃貸管理の意義・役割をめぐる社会状況に関する事項
  2. 賃貸不動産経営管理士のあり方に関する事項
  3. 賃貸住宅管理業者登録制度に関する事項
  4. 管理業務の受託に関する事項
  5. 借主の募集に関する事項
  6. 賃貸借契約に関する事項
  7. 管理実務に関する事項
  8. 建物・設備の知識に関する事項
  9. 賃貸業への支援業務に関する事項(企画提案、不動産証券化、税金、保険等)
  • 問題中法令に関する部分は、平成30年4月1日現在施行されている規定に基づいて出題する。ただし、同日以降に施行される法令に関する問題を、その旨を明示したうえ出題する場合もある。

【出典】一般社団法人 賃貸不動産経営管理士協議会
http://www.chintaikanrishi.jp/exam/summary/

合格するためのポイント

合格率50%前後の試験ですので、資格の難易度としては特別難しいものではありません。賃貸不動産管理業務に携わったことがある人なら、特に苦も無く合格することができるでしょう。

不安な場合は賃貸不動産経営管理士講習を受けて4問のアドバンテージを獲得しておくことが勧められます。毎年6月~9月に開催されている賃貸不動産経営管理士講習は、資格不要の講習ですので、誰でも申し込めば受講することができます。ただし、開催地によって講習のスケジュールが異なりますので、かならず講習スケジュールを確認し、期日までに申し込み手続きをするようにしてください。

【参考】賃貸不動産経営管理士協議会「賃貸不動産経営管理士講習のご案内」
https://www.chintaikanrishi.jp/measure/course/

今後の試験の難易度はどうなる?

2017年は2016年と比べて、賃貸不動産経営管理士の合格率が低下しました。賃貸不動産管理の業務に精通していない人も多く受験したことも合格率低下の一因と考えられますが、試験問題自体が難しくなったということも合格率低下の原因と見ることができます。

試験問題自体が難しくなった理由としては、賃貸不動産経営管理士が賃貸住宅管理業者登録制度に欠かせない資格となったことで、社会的責任も重くなり、それ相応の深い知識が求められるようになったことが挙げられます。2018年7月に本格的に改正後の賃貸住宅管理業者登録制度が始動しますので、2018年の賃貸不動産経営管理士資格試験も高い難易度になることが予想されるでしょう。

賃貸不動産経営管理士は今後、国家資格になる?

現在は、賃貸不動産経営管理士は、一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が主催する公的資格です。公的資格とは国家資格と民間資格の中間的位置づけで、民間団体や社団法人が実施する資格(賃貸不動産経営管理士の場合は一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が実施)でありながらも、公的役割(この場合は賃貸不動産管理業者登録制度上の役割)を担うものを指します。

しかし、今後、賃貸不動産経営管理士に大きな責務が課せられるようになったことを背景に、賃貸不動産経営管理士が国家資格として承認される可能性があります。国家資格になるとさらに資格取得の難易度が上がる可能性があるので、駆け込み的に公的資格の段階で受験しておこうとする人も多いようです。

賃貸不動産経営管理士を取得するメリットとは?

賃貸不動産経営管理士を取得すると、どのようなメリットがあるでしょうか。また、賃貸不動産経営管理士と併せて取りたい資格についても紹介します。

宅建士とのW取得で受託業務の幅が拡がる

宅地建物取引士とW取得すれば、賃貸借契約から賃貸管理までオーナーと入居者に対してワンストップでサービスを提供できます。不動産業務に関わって行くなら、ぜひ賃貸不動産経営管理士の資格だけでなく宅地建物取引士の資格も取得しておきたいものです。

社内評価が高まる可能性も

これからますますニーズが高くなると予想される賃貸不動産経営管理士の資格。取得しておくことで資格手当が支給されたり、会社内の重要なポストに就いたりできる可能性も広がります。

就職・転職での武器になる

賃貸不動産経営管理士の資格を保有していると、不動産関連の職場への就職や転職の際の大きな武器になります。また、不動産関連の職場以外でも、これから賃貸不動産事業に参入しようと計画している職場なら、賃貸不動産経営管理士の資格を持っている人が有利になる可能性もあるでしょう。

最後に

今後ますます注目が高くなる賃貸不動産経営管理士の資格。取得しておくことで就職活動や転職活動が有利になることは疑いようがありません。また、個人的に不動産投資をしようと考えている人にも必要な資格となります。不動産関連の知識を習得するためにも、賃貸不動産経営管理士の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。