2015年に税制改正によって相続税における基礎控除額が大幅に引き下げられました。これによって相続税の納税対象となる方が大幅に増加しました。このような動きから相続税対策の重要性が増しています。

相続税対策の1つとして「控除」を知っておくことは大変有効です。相続税における控除の種類と税額に与える影響、それぞれの控除額の計算の仕方などを徹底的に解説していきます。

控除の種類は大きく分けて3つ

相続税における控除は、その控除の対象によって大きく次の3種類に分けることができます。

債務控除

相続の対象は、現金や不動産などのプラスの資産だけではなく、借金などのマイナスの債務も相続の対象となります。

債務はマイナスの財産にあたるので、プラスの財産から控除することができます。この控除のことを債務控除と呼びます。

遺産総額から差し引かれる非課税財産や債務

遺産総額から差し引くことができる債務は、亡くなられた方の債務であり、死亡時に既に存在し、返済しなければならないものであることが必要です。

また、債務ではありませんが、政策的な見地や国民感情への配慮などから、被相続人の死後に執り行われる葬式費用のうち、一定の要件を満たすものは遺産総額から控除することが認められています。さらに墓所、生命保険などのうち一定の金額は、相続税の課税対象から外すことが認められています。

基礎控除

相続税は相続する遺産があれば必ず課税が行われるというわけではありません。

課税価格の合計額から差し引かれる基礎控除

課税価格の合計額は、相続の対象となる資産の総額から債務や葬式費用などを控除して求めます。この課税価格の合計額から、一定の金額を差し引いた際にプラスである場合は相続税の申告が必要となります。この差し引く一定の金額のことを基礎控除額と呼びます。

税額控除

一定の条件を満たす納税者であれば、算出された相続税から税額を控除することができます。

条件があてはまる場合、各人の相続税から差し引かれる税額控除

各相続人が納める相続税は、相続税の総額を実際に相続する割合で按分した金額となります。この各相続人が納める相続税について、相続人が一定の条件を満たしていれば相続税額から一定の税額を控除することができ、この控除のことを税額控除と呼びます。

債務控除について

全ての債務が債務控除の対象となるわけではありません。

下記では債務控除の対象となる債務について個別にみていきます。また、相続税の課税対象とはならない非課税財産についてはどのようなものがあるのか具体的に見ていきます。

借金や未払い医療費などの債務

債務控除が認められる債務として、個人や金融機関などからの借金、未払いとなっている病院などへの医療費、生前の使用に対して発生した水道光熱費、電話代などの公共料金等のほか、被相続人が賃貸経営していた場合における敷金などの入居者からの預り金、事業を行っていた場合における買掛金などの未払金などが該当します。

なお、被相続人の債務であっても、住宅ローンの残債のうち団体信用生命保険で補填される部分、墓地などの非課税財産の未払金は債務として差し引くことができません。

また、死亡時に確定していない被相続人に課される所得税、住民税などの税金についても債務として差し引くことが認められています。ただし、被相続人に代わって納税手続きを行う相続人の落ち度によって発生した延滞税や加算税などは控除することはできません。

葬式費

被相続人の葬式の費用は、被相続人の死後に発生するものであることから被相続人の債務ではありませんが、遺産の総額から控除することが認められています。

しかし、全ての費用が控除の対象となるわけではありません。

対象になるもの

控除の対象となる費用には次のものが挙げられます。

  • 葬式のほか、火葬や埋葬、納骨を行うために要した費用
  • 遺体、遺骨の回送費
  • 葬式の前後において発生する通常欠かすことのできないお通夜などの費用
  • 葬式に当たって僧侶などに支払った読経料など
  • 死体の捜索費用、遺体や遺骨の運搬費用

対象外のもの

次に挙げる費用は遺産総額から控除することが認められません。

  • 墓石、墓地、位牌等の購入費用や借入料
  • 香典返しに要した費用
  • 初七日、四十九日、一周忌など法事に要した費用

非課税財産

被相続人が所有していた財産であっても、相続税の課税対象とならない財産を非課税財産と呼びます。

墓所、仏壇、祭具などの購入代金

墓地や墓石などの墓所、仏壇、仏具、祭具など日常的に礼拝をしている物については相続税の課税対象とはなりません。

しかし、骨董的価値が認められる場合や売買の対象として所有している場合には、課税対象となります。

国などに寄付した財産

相続人が相続によって取得した財産を国や地方公共団体等に寄付をした場合、非課税財産となります。ただし、寄付された全ての財産が非課税となるわけではなく、寄付を行う期限や寄付する先に条件があります。

寄付した財産は相続によって取得した財産であることが必要であり、相続税の申告書の提出期限までに寄付を行わなければいけません。また、寄付を行う先については、国、または地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄付を行う必要があります。特定の法人には公益財団法人がん研究会、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンなど多数が該当しますので、非課税財産として認められる寄付先であるかどうかは事前に税務署などで確認をするようにしましょう。

死亡保険金の非課税金額

相続人が受け取る生命保険金で、一定の要件を満たした一部金額は非課税となります。

被相続人が自身を被保険者として保険料を負担していた生命保険の受取人が相続人である場合には、500万円に法定相続人の人数を乗じた金額までが非課税となります。

【出典】生命保険文化センター:http://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/succession/11.html

死亡退職金の非課税限度額

相続人が受け取る被相続人の死亡退職金についても、生命保険と同様に一部金額が非課税となります。

非課税限度額も生命保険同様に、500万円に法定相続人の人数を乗じた金額までとなります。
【出典】国税庁:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm

そのほか

上記で挙げたもの以外にも非課税財産となるものがありますが、該当するケースは少ないと思われますので列挙に留めておきます。

  • 宗教などの公益を目的とする事業を行う一定の個人などが、相続により取得した公益を目的とする事業に使用することが確実な財産
  • 個人で経営している幼稚園の事業に使用されていた財産のうち一定の要件を満たすもの
  • 地方公共団体の条例によって、身体などに障害のある方、またはその方を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づき支給される給付金受給の権利 など

基礎控除について

課税価格の合計額が基礎控除額を上回ると相続税の申告が必要となります。

基礎控除額の算出方法

基礎控除額は、「3,000万円+(法定相続人×600万円)」の計算式によって算出することができます。

法定相続人とは?

法定相続人とは、民法において定められている相続人のことを指します。

法定相続人の範囲は?

法定相続人の範囲は、民法で定められています。

まず、被相続人の配偶者は常に相続人となります。配偶者以外は次の順序で相続人となりますが、先順位の相続人が存在すると後順位の者は相続人となれません。

第1順位:被相続人の子及びその代襲相続人

第2順位:被相続人の両親などの直系尊属

第3順位:被相続人の兄弟姉妹及びその代襲相続人

なお、代襲(だいしゅう)相続人とは、相続人となるはずの人が被相続人よりも先に死亡した場合や、相続欠格などによって相続権を失った場合に、相続人となるはずであった方に代わって相続人になる人のことです。

子の場合には孫、ひ孫と代襲に制限はありませんが、兄弟姉妹の場合には甥、姪までとなります。

基礎控除額の具体例

具体例を挙げて基礎控除額がどのようになるのか見ていきましょう。

通常の場合

通常の場合は法定相続人の数で基礎控除額が決まります。

基礎控除額は「3,000万円+(法定相続人×600万円)」で決まりますので、1人なら3,600万円、2人なら4,200万円とひとり増えるに連れて600万円ずつ増えていき、制限はありません。

実子がいて養子がいる場合

被相続人に実子がいて養子がいる場合には、養子は1人まで法定相続人に加えることができます。なお、特別養子縁組のように実子とみなされる縁組のケースでは、養子であることによる数の制限を受けることはありません。

実子がいなくて養子がいる場合

被相続人に実子がいなくて養子がいる場合には、養子は2人まで法定相続人に加えることができます。なお、実子がいる場合と同様に、特別養子縁組のように実子とみなされる縁組のケースでは養子であることによる数の制限を受けることはありません。

相続放棄した人がいる場合

相続放棄をした場合には初めから相続人ではなかったものとして扱われますが、基礎控除額の計算においては、相続放棄が無かったものとして計算を行います。

相続税額控除について

相続税控除は上記の2つの控除と異なり、各相続人が納めることとなる相続税そのものから税金を控除することが認められる制度です。

相続税控除を受けるためには一定の条件を満たしていることが必要であり、条件を満たしていれば、複数の税額控除を受けることも認められています。ただし、税額控除を受けるためには相続税の申告が必要です。税額控除を受けることで納める税金が無くなるとしても相続税の申告をしなければいけません。

相続税額控除の種類と要件などの概要について以下に解説します。

配偶者の控除

被相続人の配偶者は配偶者控除を受けることができます。

配偶者控除の概要

夫婦が共に助け合うことで形成した財産が存在すると考えられます。このため夫婦の一方が亡くなった場合に、夫婦間の財産について明確に分離し難いことや、相続人となった配偶者の生活を保障すべきであることなどから配偶者控除が認められています。

配偶者控除は婚姻関係にあることが必要であり、内縁の妻などは配偶者控除を受けることはできません。

配偶者控除では、相続税が1億6000万円、または法定相続分のいずれか大きい金額までを納めるべき相続税額から控除することができます。相続税の金額が1億6000万円を超える場合でも、法定相続分を超えていなければ配偶者は相続税を納める必要はありません。

配偶者控除を受けるための手続きは?

配偶者控除を受けるためには、相続税の申告期限までに遺産分割が完了し、申告期限までに申告書を提出する必要があります。このとき、必要事項を記載した「配偶者の税額軽減額の計算書」と共に、遺産分割の内容を明らかにするために遺言書の写し、または遺産分割協議書の写しを提出します。なお、遺産分割協議書の写しには、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。

贈与税額の控除

相続が発生する前の3年以内に、被相続人から贈与を受けて贈与税を納めた方は、贈与税額控除を受けることができます。

贈与税額控除の概要

生前贈与のうち、相続が発生する前の3年以内に相続人が贈与を受けた財産は、相続人の相続財産に加算することになります。したがって贈与を受けた財産を含めて相続税の計算を行うことになりますが、既に贈与を受けていた財産の贈与税を納税していた場合には、贈与税と相続税の二重課税となってしまいます。そこで贈与税額控除によって、ダブってしまう課税を排除するために、相続税額から贈与税額を控除するのです。

控除される贈与税額は?

相続税の課税価格に加算された贈与財産に係る贈与税の税額が控除される贈与税額となり、控除される贈与税額は贈与が行われた年分毎に計算が行われます。

未成年者の控除

法定相続人が未成年者である場合には、相続税について未成年者控除が受けられます。

未成年者控除の概要

未成年者は収入が無いのが一般的です。未成年者控除は、養育費を相続財産に頼らざるを得ない未成年について、手厚く保護するための制度です。

未成年者控除の控除額は?

未成年者控除によって相続税から控除できる金額は、相続人である未成年者が満20歳になるまでの年数(1年未満の期間については切り上げをして1年と計算します)の1年につき10万円で求めた金額となります。例えば相続開始時の未成年者が満20歳になるまで16年2カ月あるとしたら、2カ月を切り上げて17年となり、10万円×17年=170万円を相続税から控除することができます。

また、未成年者控除額が相続税額を超えるために控除しきれない場合には、控除しきれない金額を未成年者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。

障害者の控除

相続人が85歳未満の障害者である場合には、一定の金額を相続税から控除することができます。

障害者控除の概要

障害を持つと収入面などで不利益を受けることが多くなります。障害者控除は、生活費を相続財産に頼らざるを得ない障害者について、手厚く保護するための制度です。

障害者控除の控除額は?

障害者控除によって相続税から控除できる金額は、障害者が満85歳になるまでの年数(1年未満の期間については切り上げをして1年と計算します)の1年につき一般障害者は10万円で、特別障害者は20万円で求めた金額となります。

また、障害者控除額が相続税額を超えるために控除しきれない場合には、控除しきれない金額を障害者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。

相次相続控除

被相続人が10年以内に相続などによって財産を取得する際に相続税が課税されていた場合、その被相続人から相続した財産の相続税額から一定の金額を控除することができます。

相次相続控除の概要

短い期間で相次いで相続が発生することを相次相続といいますが、相次相続が発生すると同じ財産に短い期間で連続して相続税が課税されることとなります。相次相続控除は、相次相続による相続税の負担を軽減するための制度となります。

相次相続控除の控除額について

相次相続控除による控除額は、前回の相続のときに払った相続税と前回の相続から今回の相続までの期間によって決まり、期間が開くほど控除できる金額は低くなります。

具体的には次の計算式で求められます。

各相続人の控除額=A×C/(B-A)×D/C×(10-E)/10

A:今回の被相続人が前回の相続の際に課された相続税の額

B:被相続人が前回の相続の際に取得した純資産価額

C:今回の相続などによって財産を取得した全ての人の純資産価額の合計

D:今回の相続人の純資産価額

E:前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満は切り捨てで計算します。)
出典https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/souzo302.htm

最後に

控除といっても、何から控除するのか、いくら控除できるのかは相続人の状況によってさまざまです。控除を知ることは効果的な相続税対策にもつながります。控除できるものはしっかりと控除することが大切です。法定期限内に相続税の申告をしなければ受けられない控除がある場合は忘れずに申告を行いましょう。

監修者:添田 裕美(税理士)