日本政府は経済成長の柱として、2020年までに訪日外国人旅行者数を4,000万人、2030年までに6,000万人まで増加させるという目標を掲げています。
また、2020年に東京オリンピックを控えた日本。オリンピック開催時には、海外から相当数の旅行者が日本に訪れます。
このままでは宿泊施設が不足してしまうと言われています。民泊は宿泊不足を解消するとともに、問題となっている空き家を有効活用できると言われていて、今注目されています。

民泊を始めるために必要な許可申請とは?

旅館業法とはどんな法律?

旅館業とはホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業のなどいわゆる宿泊料を受けて人を宿泊させる営業である旅館業に対して、公衆衛生面で必要な取り締まり、善良の風俗が害されることのないように必要な規制、経営を公共の福祉に適合させることを目的として1948年(昭和23年)に施行された法律です。

旅館業を経営する際は、この法律に則るとともに、都道府県知事の許可を受けなければなりません。

旅館業法に基づき、簡易宿所営業で許可取得が一般的

「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共有する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの(旅館業法2条4項)

なぜ簡易宿所営業で許可取得をするのが一般的なのか

「簡易宿所営業」は営業日数の制限がなく、宿泊日数の制限もないので年間を通して本格的に民泊サービスを営業したい人には、「簡易宿所営業」で許可取得することが良い選択肢です。
【出典】旅館業法:http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000138_20170401&openerCode=1

簡易宿所営業の構造設備基準

ホテル営業の構造設備基準

・客室が10室以上であること
・洋式の構造設備による客室は、1客室の床面積が、9㎡以上であること
・和式の構造設備による客室は、1客室の床面積が、7㎡以上であること
・宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場(フロント)その他これに類する設備を有す ること
・的朗な換気、採光、照明、防湿および排水の設備を有すること
・宿泊者の需要を満たすことができる適当な数の洋式浴室又はシャワー室を有すること

・宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること
・当該施設の規模に応じた適当な暖房設備があること
・便所は水洗式であり、かつ便座式のものがあり、共同用のものにあっては男子用及び女子 用の区別があること

など、以下省略

旅館営業の構造設備基準

・客室の数は、5室以上であること
・和式の構造設備による客室は、1客室の床面積が、7㎡以上であること
・和式の構造設備による客室は、寝具を収納するのに十分な広さの押し入れがあること
ただし、他の場所に寝具を収納するための部屋等が別にある場合は、この限りでない
・洋式の構造設備による客室は、1客室の床面積が、9㎡以上であること
・洋式の場合、寝具は洋式のものであること
・宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場(フロント)その他これに類する設備を有す ること
・適当な換気、採光、照明、防湿および排水の設備を有すること
・当該施設の近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴設備を有すること
・宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること
・適当な数の便所を有すること

など、以下省略

旅館営業の構造設備基準

・客室の延床面積は、33㎡以上であること
・階層式寝台(2段ベッド等)を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね1m以上 であること
・適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること
・当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、 宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること
・宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること
・適当な数の便所を有すること

など、以下省略

下宿営業の構造設備基準

・1客室の床面積は、7㎡以上であること
・適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること
・当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、 宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること
・宿泊者の需要を満たすことのできる適当な規模の洗面設備を有すること
・適当な数の便所を有すること

など以下省略

出典:旅館業構造設備基準(厚生労働省)
客室数の制限やフロント設置義務がない「簡易宿所営業」

上記であげた、4つの種別ごと構造設備基準を見ても分かるように、簡易宿所営業と下宿営業以外は客室数の制限やフロントの設置義務があります。
下宿営業は一ヶ月以上の期間を設けて宿泊料を取る営業と定義されていますので、民泊でこの許可を取得することはありません。

旅館業法の規制緩和

2016年4月に簡易宿所営業の許可基準が規制緩和され、従来の許可要件であった客室に必要な延床面積33㎡以上という基準が改正され、一度に宿泊させる宿泊者数が10人未満の施設であれば、3.3㎡に宿泊者数を乗じた面積以上であれば許可を受けられるようになりました

~許可取得までの流れ~

①事前相談

民泊を始めるにあたって、必要な設備、民泊の設置場所、設置する場所の用途地域、消防関係、賃貸契約、自治体の条例、申請者要件の中でどれか一つでも基準を満たされない場合は許可取得を出来ませんので、都道府県の旅館業法相談窓口へ相談・確認を必ずしましょう
マンションで民泊を始める際は、マンション管理規約などの確認が求められることがあります

②許可申請

許可申請に必要な、許可申請書、営業する施設の図面、自治体が条例で定める書類、手数料をもって保健所に申請します
自治体が条例で定める書類は自治体によって異なりますので、必ず許可を取る自治体に確認してください

③施設の検査

営業する施設が、構造設備基準に適合しているか、許可申請後に保健所職員などによる立入検査がされます
旅館業法で定められた構造設備基準以外に、自治体が条例で定めた基準も満たす必要があります

④許可

上記記載の①~③の流れを全て終え、申請から約数週間ほどで無事に保健所の許可が下りれば営業を始めることができます
また、営業をする施設近隣に学校などの教育機関がある場合は、申請の受理後に保険所が意見を照会することがあり、その際は一般的に許可が下りるまでの期間より時間がかかりますので注意してください

~その他の手続き~

消防法について

簡易宿所営業の許可を取得して民泊の営業を始める場合、施設利用者や周辺住民の安全を確保するため、消防用設備や出火防止、避難、通報などの防火安全対策が求められます。

出典:消防庁「民泊リーフレットより」
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList4_19/pdf/minpaku_leaf_jpn.pdf
消防庁へ「消防法令適合通知書交付申請書」という書類を提出して、立入検査を受けます

排出水について

国では、2012年(平成24年)に水質汚濁防止法が改正されました。
年1回以上、旅館等からの排出水について、必要な項目の水質検査を行い、その記録の保存が義務付けられるようになりました。
また、各都道府県が定める条例に基づいて、排水口には防鼠設備をすること、悪質汚水を一定の基準まで処理して排水するようになど排出水の設備を整える必要があります。
下水浄化センターで確認をしましょう。
【出典】環境省 水質汚濁防止法の改正:https://www.env.go.jp/water/chikasui/brief2012.html

警察について

申請が受理されると、保健所の方から警察署など関係部署へ照会されます。
イベント民泊(イベント開催時に自治体の要請などにより自宅を旅行者に提供する営業)の際は、トラブル防止や事故防止の観点から警察に周知しておく必要があります。

今人気を集めている民泊の種類と注意点!!

マンション・アパートの一室

*注意点

マンション管理規約の内容を確認しなければなりません。
「マンション管理規約」とは、マンションの住民みんなが快適に暮らせるような禁止事項などマンションの住民は守らなければならないルールです。
マンション管理規約の中で、一般的に「専用部分をもっぱら住宅として扱い、他の用途に供してならない」とされ、民泊のような営業としての使用は禁止されています。
マンションやアパートの物件購入の際には規約の確認と管理組合へ民泊利用が出来るか否かの確認をする必要があります
また一室を民泊営業として使用する際に、共用施設の使い方や、ゴミ出し、騒音などの近隣トラブルが出る可能性があるので、宿泊する際の注意喚起やルールの徹底などをする必要があります。

一軒家

*注意点

民泊を始めるにはその土地の「用途地域」を確認する必要があります。
用途地域とは、都市を「住宅地」「商業地」「工業地」などいくつかの種類に区分をした都市計画で、その用途ごとに建てることができる地域とできない地域が決められています。
用途地域は12種類存在しますが、特に「住居専用地域」と「工業専用地域」には注意しなければなりません。
用途地域の中で民泊サービスが出来るのは、
・第1種住居地域
・第2種住居地域
・準住居地域
・商業地域
・近隣商業地域
・準工業地域
に限られます。一軒家がどの用途地域に当てはまるのか、自治体に確認をしましょう。

シェアハウス型

2018年(平成30年)6月15日から施工される民泊新法により、シェアハウスの住人を在宅管理人に登録することで「家主滞在型民泊」を始められるようになります。
基本はシェアハウスの運営をしながら、空き部屋を民泊として活用し、安定した不動産収入をと考える営業スタイルです。
シェアハウスの住民は、世代や価値観の違う人々が集うことで生じるトラブルに慣れている人や、特別な体験や交流に意義を持つ人が多いので民泊への理解が得やすいともいえます。

*注意点

必ず、他のシェアハウスの住民の理解を得た上で、シェアハウスの住人を在宅管理人にする際は許可を取りましょう。

最後に

ゲストが安心して快適に宿泊が出来るよう、国が定める法律や自治体の条例に沿った営業をすることは、民泊を始めるにあたってとても重要なことです。
民泊の許可を申請するまでたくさんの流れがあるように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
また、民泊を始めようと購入した物件が、実は民泊を始めることが出来ない物件だったという話もあります。必ず購入する物件、土地が民泊に適しているか必ず確認をしてから購入をしてください。賃貸借の場合は、民泊営業の許可がとれなかった場合は契約しないという条件で不動産屋と話をしておくといいでしょう。

各自治体にある相談窓口をうまく利用して、ゲストだけではなく、ホストも安心してサービスができるような民泊を始めましょう。

監修者:大江 亜里朱(行政書士)