人生におけるもっとも大きな借金とも言われる“住宅ローン”。住宅ローンは、審査に通ればそれで終わりというわけではありません。しっかりとローンプランを検討し、総返済額が少なく、余裕をもって完済できるプランを選ぶべきです。賢く住宅ローンを選ぶために知っておくべき計算方法と、総返済額を減らすコツについて解説します。

総返済額を明確にするべき3つの理由

住宅ローンを選ぶ方法は多数ありますが、“総返済額”が安いものを選ぶことが分かりやすいお得なローンの選び方です。総返済額が明らかになると、次の3つのメリットがあります

理由その1:返済計画を立てやすくするため

住宅ローンを借りると、かならず利息が発生します。そのため、3,500万円の住宅ローンを借りて、300万円を返済しても、ローン残高は単純に3,500万円-300万円=3,200万円とはなりません。

しかし、総返済額が分かっているなら、ローン残高はシンプルに計算できます。総返済額が3,800万円のときは、今までに300万円返済しているのなら、残債は3,800万円-300万円=3,500万円です。返済計画を立てやすくするためにも、まずは総返済額を知っておくべきなのです。

理由その2:金利の負担が少ない支払い方法を選択できる

「年1.3%の金利で元利均等方式で返済するプラン」と「年1.5%の金利で元金均等方式で返済するプラン」。この言葉だけを聞けば、どちらがお得な支払い方法なのか分かりませんよね。しかし、金利や支払い方法ではなく“総返済額”だけに注目するなら、細かな理論が分からなくても確実にお得な返済方法を選択することができるのです。

理由その3:お得な金融機関が判別できる

複数の金融機関で見積もりをとるときも同様です。金融機関によって返済額の計算方法や返済プランが異なっても、全期間固定金利の場合では“総返済額”だけに注目すれば、簡単にどの金融機関がお得なのかを見分けることができます。ただし、金融機関によって保証料や事務手数料などの“諸費用”も異なりますので、かならず“総返済額”に“諸費用合計額”を加えた金額で比較するようにしてください。また、変動金利や期間選択型固定金利の更新の時期も返済総額が変わるため注意が必要です。

住宅ローンを借りる前の注意点

住宅ローンを借りるときは、いくつかの注意が必要です。総返済額と諸費用合計額からお得な住宅ローンを選択したとしても、いきなり申込んでしまうと後悔することになるかもしれません。住宅ローンを選ぶ前に、以下の3点に注意を払いましょう。

住宅ローンの借り入れは余裕をもつこと

総返済額が少ない住宅ローンプランであっても、あまりにも毎月の返済額が大きいと、返済し続けること自体が難しくなります。初期の内は無理に支払っても、徐々に返済が滞るようになり、高額な遅延損害金を支払わなくてはならなくなり、結果的に総返済額も高くなってしまうこともあるでしょう。

住宅ローンを組むときは、「このローンはお得か?」を考えることも大切ですが、「このローンを支払い続けられるのか」という点も重視して選ぶようにしてください。住宅ローン以外の借り入れがなかったとしても、マイホーム購入後に教育費が増えたり、老後の準備をしなくてはならなかったりし、家計が苦しくなる可能性があるので注意が必要です。

借入可能額を計算する

収入や頭金によって、借入可能額が異なります。年間の返済合計額が収入の20~30%くらいになるように抑えておくことが、無理なく住宅ローンを返済するコツでもあります。欲しい物件の金額から返済額を決定するのも悪い方法ではないのですが、無理なく返済できることに重きをおくなら、無理なく返済できる借入額を計算し、その金額に合う物件を選ぶ方が良いでしょう。

住宅ローン以外の借入金がない場合

では、実際に無理なく返済できる借入可能額を計算してみましょう。住宅ローン以外に借入金がない場合は、シンプルに次の式で借入可能額を計算できます。

  • 年収×20~30%×返済年数

年収が500万円なら500万円×20~30%×返済年数です。現在35歳で、60歳の定年退職までにローンを完済させたい方なら、借入可能額は2,500~3,750万円になります。

住宅ローン以外の借入金がある場合

住宅ローン以外に借金を抱えている人は、次の式で借入可能額が計算できます。

  • 年収×20~30%×返済年数-(現在の借金+借金にかかる利息)

例えば年収が500万円で、毎月15,000円の借金を支払い、60回で完済することが分かっている方なら、借入可能額は2,410~3,660万円と計算できます。ただし、住宅ローン返済中に新たな借金を増やしてしまうと、返済し続けることが困難になりますのでご注意ください。

返済方法を決める

返済方法には、“元利均等返済方式”と“元金均等返済方式”の2通りがあります。2つの方式から選択できますが、元金均等返済方式の方が初期の返済額が高くなるため、元利均等返済方式と比較すると借り入れ条件が厳しくなります。そのため、元利均等方式を選択する方が多い傾向にあります。

元利均等返済

借入元金と利息の合計額を均等に分けて支払う方式を、“元利均等返済方式”と言います。毎月の返済額が同じですので、返済計画を立てやすいというメリットがあります。また、毎月の返済額に占める利息は、返済回数が進むほど減っていくという特徴があります。

  • 毎月の返済額に占める利息=借入残高×金利×日数÷365(うるう年は366)

例えば、3,000万円を年1.5%の金利で借り、毎月120,000円ずつ返済しているときについて考えて見ましょう。うるう年以外でその月の日数が30日なら、返済額に占める利息は、3,000万円×1.5%×30÷365=36,986円になります。つまり、初月返済額120,000円のうちの36,986円が利息に充当され、83,014円が借入元金に充当されているのです。

元金均等返済

借入元金を均等に分けて支払う方式を、“元金均等返済方式”と言います。月々の利息が異なりますので、毎月の返済額が一定ではないという特徴があります。しかし、元利均等返済方式よりは借入元金が確実に早く減りますので、総返済額が少なくなるというメリットがあります。なお、毎月の返済額に占める利息の計算方法は、元利均等返済方式と同じです。

例えば、3,000万円を年1.5%の金利で借り、返済期間を25年に設定したとしましょう。毎月支払う元金は3,000万円÷25÷12=10万円となります。初月に支払う利息は3,000万円×1.5%×30÷365=36,986円ですので、初月は136,986円を支払うことになるのです。しかし、10年後には借入元金が1,800万円まで減っていますので、返済額も10万円+1,800万円×1.5%×30÷365=122,192円と減少します。

毎月の返済額を明確にするメリットと計算式

総返済額を明確にすることも大切ですが、毎月の返済額を明確にすることも大切です。主なメリットと毎月の返済額のシミュレーションツールを紹介します。

ライフプランが立てやすい

毎月の返済額を明確にすると、ライフプランが立てやすくなります。特に進学や自動車の購入などのまとまった出費があるときは、そのときだけ住宅ローン返済額を減らすなどの対策を打つことも可能です。

シミュレーションツールで毎月の返済額の目安を計算

返済方式と借入金額、返済期間を選択するだけで毎月の返済額を計算できるツールを2つ紹介します。ローンを検討する際に、ぜひ活用して下さい。

【参考】SBIホールディングス「一般ローン 返済額シミュレーション」
【参考】SUUMO「支払額シミュレーター」

借り換えの選択の前に計算をする

住宅ローンの返済中に、良い条件の住宅ローン商品に出会うこともあるでしょう。しかし、金利だけで借り換えを決めてしまうと、手数料や手間がかかって、返って損をしてしまうこともあります。次の手順で借り換えによるメリットを計算してから、本当に借り換えをするかどうか決定しましょう。

借り換えによる軽減額を計算する

住宅ローンの総返済額から借り換え予定の住宅ローンでの総返済額を引き、住宅ローン借り換えによる返済の軽減額を計算します。

借り換えで生じる諸費用を把握する

借り換えを利用するときには、新規ローンにおいては“事務手数料”や“保証料”“司法書士報酬”などが請求され、解約するローンにおいても“解約手数料”や“登記抹消費用”などがかかります。借り換えによる軽減額よりも諸費用合計額が少ないのか、必ずチェックして下さい。

手続きによる手間も考慮する

どのくらいの手間がかかるのかについても考慮して下さい。借り換えの際には住民票や印鑑証明書などの書類を取り寄せなくてはなりませんし、何度か金融機関の融資担当者や司法書士と話し合う時間も取らなくてはなりません。

住宅ローンの選び方の注意点とは?

住宅ローンを選ぶときは、次の3点に注目すると失敗を減らすことができます。

金利タイプに注目する

金利タイプには、固定金利と変動金利、期間限定の固定金利の3タイプがあります。まずは金利タイプから決めると、ローン選びがスムーズに運びます。

長期目線で金利タイプを検討する

現在は超低金利時代ですので、変動金利は固定金利よりも低金利に設定されていることが多いです。目先の金利に惑わされずに、10年後、20年後の金利についても検討しておきましょう。

諸費用から判断する

金利が同じでも、団体信用生命保険料や保証料などが高いとあまりお得とは言えません。諸費用が高過ぎないかもチェックして下さい。

総返済額を低くする3つの着目点

総返済額を減らすために、次の3点に注目して下さい。

保証料にも目を向ける

金利だけでなく、保証料を含んだ金額で住宅ローンを比較しましょう。保証料は金利に年0.1~0.2%ほど上乗せする形で支払うことが多いですので、保証料を上乗せした金利を“実金利”として計算するようにしてください。

事務手数料も考慮する

保証料がかからないタイプの住宅ローンもありますが、実際は事務手数料が高く、トータルで見ると諸費用が非常に高いというケースもあります。“無料”や“不要”といった言葉に踊らされないようにしましょう。

頭金を多くする

頭金を多くしておくと、借入金額を減らすことができます。借入金額が少なくなると総返済額も減り、お得です。できるだけ頭金を増やせないか、検討してみて下さい。

まとめ

住宅ローンを計算するときは、総返済額と月々の返済額に注目してください。また、住宅ローンの借り換えをするときは、返済総額の変化と諸費用に注目して下さい。正確に計算することで、後悔のない住宅ローンが組めるでしょう。

監修:吉野裕一(住宅ローンアドバイザー)