アパートやマンションを借りる場合、当然ですが家賃や賃料がかかります。しかし市場競争が激しい場合や空室状態を避けたい時に、入居条件を緩和することも行われます。敷金や礼金をゼロにする、家賃を引き下げるなどの手段の他に、一定期間家賃を無料にすることもあります。賃貸住宅にとって空室状態が続くことは最も避けたい事態ですが、その最悪の事態を回避するための手段の1つがフリーレントと呼ばれる方法です。

フリーレントとは?

フリーレントは一定期間の家賃が無料になる契約のことを指します。新生活をスタートさせるにあたっては引越し費用や家具家電製品など様々な費用がかかりますので、入居時の家賃を無料にすることでより借りてもらいやすい状況となります。物件同士の市場競争が厳しい場合や駅から遠いなど条件面で劣る場合、どうしても空室を作りたくない場合などに利用される手法です。また新築の場合でもお披露目的な意味合いを含めて、使われることがあります。

フリーレントの期間

主にとっては入居時の初期費用を抑えることができる嬉しいフリーレントですが、ではその期間はどの程度なのでしょうか。

一般消費者向けの居住用不動産は1ヵ月程度が相場

もちろん無料になる期間は契約ごとに異なりますが、居住用の賃貸住宅だと一般的には1ヵ月程度という場合がほとんどです。ただ、賃貸住宅の入居時には敷金や礼金などの費用も発生しますから、たとえ1ヵ月分でも家賃が無料になるのは大きな魅力と言えるでしょう。

事業用物件ならフリーレント期間半年の物件もある

居住用ではない事業用の不動産の場合はどうでしょうか。オフィスやテナントなどの事業用物件の場合にももちろんフリーレントは利用されることがあり、その場合は長ければ半年程度の期間、家賃が無料になることもあります。新しく事務所を構えて事業を立ち上げる、新規出店を計画している場合など、出店に伴う費用はできる限り抑えたいのが本音ですので、フリーレントはそうしたニーズに応え得る方法だと言えます。

出店時のみだけではなく、事業が軌道に乗るまでには相応の時間がかかります。家賃や賃料は毎月確実に支払わなければならない固定費用ですから、これが一定期間無料になることは大きな意味を持ちます。こうしたフリーレントはさら大規模な契約に利用される場合もあり、事業用不動産用地の賃貸と定期借地契約を組み合わせて提供されることもあります。

なぜ大家さんはフリーレントにするの?

一定期間とはいえ家賃を無料にしたら収入が入らないのに、なぜ大家さんや貸主はフリーレントを行うのでしょうか。そこには貸す側の様々な事情があります。

空室率が下がる

近年、賃貸住宅市場は飽和状態、借手市場とも言われています。駅近で借り手ニーズが強い物件はともかく、賃貸住宅は大なり小なり市場競争に晒されています。こうした市場競争に勝ち残っていくために設備の更新や家賃設定の見直しなどを行いますが、それは全て空室状態を回避するためと言っていいでしょう。

空室のまま放置しておくくらいなら、1ヵ月分の家賃を無料にしてでも借りてもらいたい。借入金によって賃貸住宅を建築した場合などはその返済もありますから、空室リスクは主にとっては死活問題でもあるのです。また空室状態が長引くと賃貸住宅が寂れた印象を与え、他の部屋の退去を招くこともあり、そうした面でも空室は避けたいところでしょう。

このように、一定期間家賃を無料にすることで入居者を集めやすくなるという利点が貸主サイドにもあり、フリーレントは貸主・借主双方にとってメリットがある方法だと言うことができます。

資産価値が下がるより良い

入居者を集めるためには家賃を下げるという手もありますが、貸主にとってこれはできれば避けたいところでしょう。家賃のように毎月固定化された収入金額が想定されているからこそ借入金の返済や支払いのメドが立つものを、1部屋の家賃を下げるということはその前提を壊してしまうことにつながります。さらに家賃を下げると物件利回りに影響が出るため資産価値を下げることにもなり、それくらいなら1ヵ月分の家賃をゼロにする方が安心です。

家賃減額要求の回避

さらに現実的な問題として、1部屋の家賃を下げると既に入居している居住者から同様の要求が出かねないということがあります。不動産の募集要項はネットや折込広告などで公開されますから、貸主としては揉め事になりそうなシチュエーションは極力避けたいところでしょう。そこで資産価値を下げることなく、空室状態を回避したい場合に、有効な手段となるのがフリーレントなのです。

フリーレントにしてもらうためには

それでは自分が借りたい部屋をフリーレントにしてもらうことは可能でしょうか。賃貸物件の募集要綱にはフリーレントを謳うものもあれば、公にはしていないものもあります。しかし貸主は空室状態を嫌いますから、交渉の余地がないわけではありません。

引越しの時期を見計らう

一般的に異動の時期とされる春先などは、賃貸経営にとっても繁忙期です。この時期であれば空室が出ても、すぐに入居者を見つけられるという安心感があります。裏を返せば、この時期以外の退去はできれば避けたいところですし、入居は歓迎される可能性が高いということですから、このような時期を見定めて交渉を行うことが重要なポイントです。

交渉できる可能性を確認する

とはいえ、そもそもフリーレントの可能性があるかどうか、確認しておくことが最重要であることにかわりはありません。仲介業者にさりげなく打診してみる、物件全体の入居率を調べておく、周辺の賃貸物件の競合状態をチェックしておくなど、事前に情報収集をしておきたいところです。

交渉は申し込みの直前にする

どうしてもその物件に住みたいと確信できたなら、フリーレントを申し入れる段階に入ります。その場合、ダラダラと曖昧に交渉するよりも、入居希望を明確に表し、フリーレントを申し込む方が効果的です。いくら空室を回避したいとはいえ、借りるかどうかも不明な人間と具体的な条件交渉を行うほど管理会社も暇ではありません。

具体的な金額を提示する

交渉にあたり、期間や金額などの数字は明確に提示することが重要です。入居希望の時期、フリーレントの期間など、後々後悔しないために希望として率直に伝えることが大切です。言うまでもなく、フリーレントにするかどうかは貸主サイドが決めることです。空室にしていたくはないが、そこまで借主寄りの条件にはしたくはないと考える可能性も当然あります。フリーレントの希望を申し込むことで、逆に貸主からお断りされてします可能性があることを理解しておく必要があります。
明確に示す必要があるのは、借りたいという意思です。駆け引きのつもりで曖昧な物言いに終始したり、明言を避けるのはお勧めできることではありません。貸主には貸主の都合があり、仲介業者も貸主に対する責任を負っています。フリーレントになれば必ず契約することを明確に伝えることで、初めて相手も検討してくれるのです。

フリーレント物件の注意点

借主・貸主双方にとってメリットがあるフリーレントですが、注意すべき点ももちろんあります。フリーレントで契約する場合、どこに注意していけばいいのか見ていきましょう。

途中解約すると違約金が発生する

フリーレントは初期の家賃が無料なこともあり、契約期間中の退去に違約金が課せられている場合がほとんどです。

これは貸す側の立場になって考えてみれば分かることですが、フリーレントをつけることによってフリーレントの期間だけ使用してすぐに退去されるリスクを貸主は負うことになります。(安易な入退居を防ぐためにも必要なストッパーだと言えるかもしれません。フリーレントで借りる際には退去時期の確認と共に、違約金について明確にしておくと安心です。違約金としては、フリーレント期間の家賃相当額が設定されることが一般的です。

管理費または共益費が発生する

フリーレントで契約した場合に無料になるのは家賃です。賃貸では家賃の他に管理費や共益費などの費用が毎月発生しますが、家賃以外の費用は通常通り支払わなくてはならないことが多いです。またこれも当然ながら、水道代などの光熱費などの費用は支払う義務があります。

相場より家賃が高い可能性がある

主がフリーレントを行うにあたり、リスクを負うことは先に述べた通りです。違約金条項が盛り込まれているとは言え、通常の賃貸契約に比較すると心理的、経済的な負担があることは否めません。こうしたリスクに対処するために、フリーレントで契約する場合の賃料を高めに設定することがままあります。入居しやすい代わりに、多少高めの家賃を支払うことになるわけです。

仕事ややむを得ない事情によってフリーレントを選択する場合はともかく、契約前に周辺の家賃相場を調べておくことによって、高い家賃を払う羽目に陥る事態を防ぐことができます。フリーレントになるのは家賃1ヵ月分程度ですが、毎月発生する家賃はこれから長きに渡って支払っていくことになるものです。フリーレントはあくまでも入居時の初期費用を抑えるために有効な契約手法であることを理解した上で、臨機応変に利用することが重要です。

最後に

時代の変化は私たちの暮らし方、働き方にも影響を与えます。働き方の変化が移動のあり方を変え、カバン1つで日本中どこにでも動いていける社会を作り上げました。その受け皿となる住まいも家具付き物件や短期貸し専門など、多様化しています。借手市場とはいえ、借主側も情報収集などを積極的に行なって自分に合った物件を見定めることが必要になっていくのではないでしょうか。