資産運用として不動産投資をお考えの方、「デッドクロス」をご存知ですか?はまりこむと不動産投資が破たんしてしまうこともある恐ろしいデッドクロスの仕組みと、どうすれば回避できるのかを紹介していきます。

不動産投資においてのデッドクロスの基礎を解説

まずは不動産投資におけるデッドクロスという現象の基礎について説明します。デッドクロスという言葉は株取引やFX取引などでも耳にしますが、不動産投資に関してのデッドクロスの知識をしっかり身につけましょう。

デッドクロスは減価償却額がローンの元金返済額を上回った状態

デッドクロスとは、減価償却額がローン返済の元金返済額を上回っている状態です。見た目は黒字なのに、内情は赤字という不思議な現象です。不動産投資の初心者という方は、「減価償却?」「ローンの元金返済を上回る?」「それは何?」と混乱してしまうかもしれません。デッドクロスを回避するためには、デッドクロスがなぜ非常に危険なのか、そしてその基礎となる減価償却額とローンの元金返済額についてまず知っておく必要があります。

減価償却とは?

減価償却とは、固定資産の中でも経年劣化や使用による劣化が起こる物があるため、時間が経過するとともに価値が減少していく物を買った時に行う会計処理のことです。使用できる資産として価値があって利益を得られる期間のことを、耐用年数といい法律で定められています。

たとえばマンションなどの不動産の場合、建物が建っている土地は時間が経過しても劣化するわけではないので、価値は下がらないと判断されます。土地は減価償却の対象にはなりません。減価償却の対象になるのは、マンションの躯体や付随する施設や設備などです。減価償却では、会計処理として支払うべき全金額を購入したその年に支出として計上するのではなく、耐用年数に振り分けて毎年少しずつ計上することができます。すると現金の支出は伴わないものの、経費として存在する「帳簿の上だけの経費」となり、節税に役立ちます。

減価償却には、計算方法が二種類あり、それぞれ定額法と定率法と呼ばれています。実は現在新しく不動産を購入する際、定率法は適用できません。しかし平成28年4月以前に取得した不動産の場合、定率法を用いているものがまだ存在しています。

ローンの元金返済額とは?

不動産のような大きな買い物をする場合は、多くの場合、銀行ローンで支払います。ローンはもともとの金額である「元金」と「利子」とを支払う必要があります。しかしローンの支払い分のうち利子は経費として計上できますが、元金の返却分は経費として計上できません。減価償却は実際にお金が出ていかないのに支出として経費としてカウントされます。逆にローンの元金返済は、お金が出ていくのに経費としてカウントされません。そのため、節税効果はないのです。

なぜデッドクロスは発生するのか?

ではなぜデッドクロスが発生するのでしょうか。その発生のシステムについて順を追って解説していきます。

元金返済額が年々増えていく

ローンの返済にも、実は2つの方法があります。元金均等返済と(、)元利均等返済です。元金均等返済は元金が毎月均等に返済され、元利均等返済は元金と利息を合わせた返済費用の総額が、毎月均等に返済されるという返済方法です。元利均等返済は毎月支払う金額が一定なため返済計画が立てやすく、最初に大きな額を返済する必要もないため、多くの方が元利均等返済を選択します。額面上は同じ金額を毎回支払っているようですが、実は元金部分だけがどんどん増え、利子部分がどんどん減っています。

減価償却費は年々下がっていく

減価償却費は、元金返済額に対して年々下がっていきます。定率法で計算されている部分は変化しませんが、定額法で計算されている部分についてはどんどん金額が下がっていきます。金額が毎年下がるにつれてその分経費が減っていくことになります。

金利は経費として認められるが元金は認められない

ここで、先ほどご説明した経費の計算を一度思い出してください。ローンの利子の支払いは経費に計上できますが、元金の支払いは経費に計上できません。つまり、純粋な支出として出費が増えていくことになるのです。

3つの理由から現金支出が増えていく

これまでのお話をまとめてみましょう。

・元金返済額が増える

・利子の支払いは減り、経費計上できる分も減る

・減価償却費は減り、経費計上できる分も減る

これを合わせると、経費計上できる金額はどんどん減っていくのに、経費として計算できない現金支出だけが増えていくという現象が起こります。

減価償却費と利子が減ると、経費計上できる支出が減るので額面上黒字額が拡大します。すると黒字額が増えた分、所得税もそれだけ多く支払わなければならなくなります。しかし実際には入ってくるお金が増えたのではなく、逆に元本返却という現金支出だけがどんどん増えていきます。

元金返済額が減価償却費を上回ったときからこの額面上だけの黒字状態、実際は現金がどんどん減ってゆく状態が始まります。このように交差をする時点をデッドクロスと呼んでいます。いずれは現金支出が増え続け、手元にある現金が減り、ついには破たんや破産を迎えてしまうケースも少なくありません。

デッドクロスを回避するためにすべきこと

では、この恐ろしいデッドクロスを回避するためには、どんなことをすればよいのでしょうか。事前に予防策としてできることを挙げてみましょう。

繰り上げ返済で元金を減らす

預貯金にまだ余裕があるうちにデッドクロスの危機を察知して、ローンの繰り上げ返済を行うという方法が有効です。ローンの元金を一気に減らすことで、毎月の返済額を減らし、結果的に将来的な負担を減らすという方法です。

ローンの借入期間を延長する

まずローンの見直しを行います。そして支払っているローンの借り換え手続きをおこない、借入期間を延長します。ローン期間が長くなれば、月々の支払額は少なくなるので、今よりも返済の負担が少なくなり、手元に残った現金が底をつくという事態を回避することができます。

新規物件の購入や買い替えを行い、減価償却費を計上する

減価償却期間が終了してしまった場合、減価償却の経費計上ができなくなります。こうなったときに収益性の悪い物件は物件を手放すことに決め、売却してしまうことも対策の一つです。その売却額を元手に新規に物件を購入こともできます。新規物件であれば減価償却費は当然高くなるため、デッドクロスを回避することができます。

デッドクロスにならない投資方法はある?

ここまではデッドクロスという未来が見えてきたときに回避する方法をご紹介してきました。しかしより安心できる、デッドクロスにならない投資方法はあるのでしょうか。

ローンの返済方法は元金均等返済を選択する

まず、ローンの返済方法を見直します。先ほどご紹介したように、ローンの返済方法には元金均等返済法と元利均等返済法があります。元金均等返済法は最初に大きな金額を返済しなければならないため、敬遠されがちな方法です。

しかし、一見「ずっと一律の金額を支払えばいい」方法である元利均等返済は、いずれ利息部分の支払い額が減り、元本部分の支払額が増えて、経費計上できる部分が減り続けていきます。額面上ではわからない「現金払い分の損」が生まれる返済方法なのです。

それにひきかえ、元金均等返済法なら、元金の返済額は一定で変化しません。元金返済額が増えることがデッドクロスを引き起こす一因になっているため、元利均等返済ではなく元金均等返済を選ぶことがリスク回避につながります。

中古物件の購入の場合はあまり古い物件を買わない

不動産投資として中古物件を購入することもあります。しかし、あまりにも古い物件を買ってしまうと、新築の物件を購入した場合と比べ、減価償却できる期間がとても短くなります。古ければ古いほど残った耐用年数は減っていくため、中古物件を購入するときは注意が必要です。

耐用年数が短ければ、デッドクロスが発生する期間も短くなります。あらかじめ耐用年数と減価償却額を計算し、デッドクロスが発生しないかどうか確認してから購入を検討するようにしましょう。

頭金(自己資金)を投じて借入額を小さくする

物件購入の際は頭金として自己資金を投入します。頭金が大きくなればなるほどローンの借入額は減り、返済する金額を減らすことも返済年数を減らすこともできます。元金返済額が減ることで、デッドクロスのリスクヘッジにつながります。

デッドクロスをシミュレーションして予防策を立てる

不動産物件の資産運用では、デッドクロスのリスクを常に頭に置いておくことが重要です。不動産を運用する場合は、減価償却額とローンの返済額、利子と元金の割合が将来的にどんなかたちになっていき、いつデッドクロスが訪れるかをしっかりシミュレーションする必要があります。

減価償却費は耐用年数に定額配分するため、事前に購入する不動産の価値が分かっていれば計算は可能です。ローン返済の方法を決める際も、頭金をいくら用意するか、元利均等返済と元金均等返済のどちらを利用するか、そもそも不動産投資にどれくらいのお金を用意するのかなどをシミュレーションし、余裕のある運用計画を立てることが重要です。

減価償却が定率法だった場合のリスク回避

減価償却の利用期間、つまり耐用年数に購入額を振り分ける方法は2つあるとご紹介しました。それぞれの方法について詳しく解説します。

収益不動産を利用できる期間は20年

不動産は、減価償却できる期間が法律上定められています。これを法定耐用年数と呼んでいます。

・軽量鉄骨造建築物 19年

・木造建築物 22年

・鉄骨建築物 34年

・鉄筋コンクリート造建築物 47年

一般的な木造住宅の場合、実質的に耐用年数はおよそ20年です。この場合、築20年程が経過した家は古い建築技術でもあり、ほぼ減価償却できる期間は無いと言えます。

マンションなどの場合は、実質的に50年近く耐用年数があります。築20年を超えたあたりから価値の変動が穏やかになるため、投資家には20年を超えたRC構造の物件を好む人もいます。しかしマンション購入の際は非常に大きな資金が必要となり、注意が必要です。

定額法とは?

定額法は、現行でも利用できる方法です。減価償却費を毎年一定額計上していく方法で、減価償却費は変動しません。

定率法とは?

定率法は、現行では利用できなくなった方法ですが、平成28年以前に購入した不動産の場合は適用している場合もあります。毎年一定の割合で経費を計算していく方法で、年数が経過すると金額が少なくなるため、デッドクロスは早く訪れることになります。

デッドクロスの仕組みを理解して不動産投資を始めることが大事

デッドクロスは、「黒字倒産」を引き起こす交差点ともいえます。賃貸経営者が恐れるこの交差点を避けるためには、事前にいつ起きるかをシミュレーションして、細かな点まで気を配りリスクをひとつずつ回避していく必要があります。また空室にしておけば当然現金収入が減ってしまうので、多くの人が借りたくなる魅力ある家や部屋を選ぶことも重要です。

監修者:大長 伸吉(不動産コンサルタント)