不動産投資におけるリノベーションは、単にオシャレできれいに仕上がればいいというものではありません。どんなに素敵になっても、入居者が入らなければ意味がありませんし、費用を掛けすぎて収益性を圧迫しては、投資効率がよいとはいえません。

築年数の経った空き家や区分マンションを安く購入し、リノベーションで付加価値を高める投資手法も注目されていますが、投資効率を上げるリノベーションには欠かせない、3つのステップがあります。

Step1.入居者から選ばれるリノベーションプランを練る

不動産投資では、物件がいかに入居者から選ばれ、長く住み続けてもらえるかによって収益が決まります。家余りの時代ですから、満室経営を維持するために、入居者から選ばれるための工夫は欠かせません。

総務省統計局発表の平成30年住宅・土地統計調査(※1)でも、全国の空き家846万戸のうち、50.9%に相当する431万戸が賃貸用住宅となっています。地域によって差はあるものの、賃貸住宅においても依然として需要に対して供給量が多い状態が続いています。数ある空室対策の一つとして、入居者ターゲットのニーズに合致したリノベーションが効果をあげています。

(※1)総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_gaiyou.pdf

まずは、入居者ターゲットの設定から

たとえば、一口に単身者向けワンルームと言っても、会社員、大学生や外国人、高齢者など対象はとても幅広いものです。それぞれで好まれる部屋の傾向は少しずつ異なります。駅からの距離などの立地や周辺環境、間取や住宅設備、周囲にある競合物件の状況や家賃設定などから、どういった入居者をターゲットにした部屋にしたらよいかを検討し、明確にすることが大切です。

ターゲットによって、フローリングがよいのか、和室がよいのか、どんな設備が入居の決め手となるのか、部屋数が多い方がより好まれるのか、大きなワンルームタイプが好まれるのかなどには、違いがあります。

仮に単身の会社員女性をターゲットとした部屋を考えるならば、防犯性を高める、洗面化粧スペースの充実、収納、和室よりフローリングなどといった部屋がより好まれるかもしれません。高齢者をターゲットとした部屋ならば、室内に段差がないことや、和室が好まれるといったことが考えられます。

立地や周辺環境にあったターゲット設定、そしてターゲットのニーズに合致したリノベーションプランを練ることが、1つ目のステップになります。

進化する入居者のニーズを知る

入居者のニーズはライフスタイルの移り変わりなどと共に進化していることが、様々な調査からわかります。

首都圏で賃貸物件を契約した人を対象にした株式会社リクルート住まいカンパニーの調査(※2)では、次に引越す際に欲しい設備として「エアコン」、「独立洗面台」、「TV付インターフォン」が上位にランクイン。「24時間出せるゴミ置き場」や「浴室乾燥機」は前年調査よりポイントを伸ばしています。家賃が上がっても欲しい設備には、1位の「追い炊き機能付きのお風呂」の他、スマートキーや独立洗面台もあげられています。

満足度の高い設備は「24時間出せるゴミ置き場」が1位、「遮音性能の高い窓」が2位の他、ファミリー世帯には「宅配ボックス」も満足度が高いとされています。また、DIY・カスタマイズ実施経験者率も年々上昇傾向にあり、回答者の18.9%。特に2人世帯でDIY・カスタマイズの実施経験率が増加していることがわかっています。

こうした調査は、リノベーションの費用対効果を上げるヒントの宝庫です。

(※2)株式会社リクルート住まいカンパニー 2017年度賃貸契約者動向調査(首都圏)https://www.recruit-sumai.co.jp/data/upload/chintai_cyuosa_20180905.pdf

step2.リノベーションの投資効果を試算する

投資効率を考える上では「リノベーションを行うことによって増加する収益はいくらか」という視点は欠かせません。リノベーションを行わずに既存の状態で賃貸に出した場合の賃料とリノベーション後に想定できる賃料にはいくらの差がうまれるのでしょうか。これによってリノベーション費用を回収するために必要な期間が変わります。このように具体的に投資効果を数字で試算することが2つ目のステップとなります。

リノベーション工事費用 ー回収期間の算出例ー

具体的な算出例を見てみましょう。

下図のCASE:1では、現状で月額賃料6万円の部屋に、300万円のリノベーションを行い、月額賃料が8万円に上がる計算です。この場合300万円工事費用を回収するために12年6か月を要します。

一方でCASE:2では、200万円のリノベーションを行った場合の差額賃料は3万円となる計画で、工事費用の回収期間は5年7か月となります。工事費用の回収期間がより短くなる、CASE:2の方が投資効率のよいリノベーションといえます。

長期的視点での投資判断を

リノベーション費用の回収期間が長くなる場合や、リノベーション費用を回収する前にその他の大規模な修繕工事などが生じる場合には、計画の見直しが必要です。将来、建替えや売却を考えている場合にも慎重に検討する必要があります。

リノベーションの計画段階で、物件の将来を長い目で見て投資に見合う効果が得られるのか、他に効果的な対策はないかなど、しっかり吟味することが大切です。

step3.既存を活かせないか、精査する

新築とリノベーションの一番の違いは、新築は0から建物を建築することに対して、リノベーションは既存の建物がある点です。

今あるものの一部は残し、一部は解体し新たにする、その境目の多くは施主が決めます。費用を掛けて大部分の改修をすることも可能ですが、その分投資効率は低下します。活かせる部分は極力活かすよう考え、手を入れるところを取捨選択することで、工事範囲が限定され工事費用を抑えることができます。

リノベーションの範囲や計画を念入りに精査し、より投資効率が上がる計画を練りあげることが3つ目のステップです。更に2~3社の業者からの提案見積を比較検討することで、費用を抑えられるポイントを探ります。

建物の部位毎で耐用年数は違う

リノベ―ションの範囲を考える際に参考になるのは、建物の部位毎に異なる耐用年数です。

建物の構造上の主要な部分とされる、基礎、壁、柱、小屋組、土台、斜材、床、屋根、梁などは、より長く持つように考え造られています。一方で、キッチンやトイレ、風呂といった設備は15年以上経過していれば更新を検討する時期といわれています。

内外装の壁や床では、使用されている素材によって寿命に差があります。木や石、タイルなどの素材は、経年変化はあるものの、破損や変形などしていなければ、手入れをして長く使える場合が多いものです。クロスやクッションフロア、じゅうたんといった素材は、状況にもよりますが概ね10年~15年前で交換時期を迎えます。窓や建具は、性能向上を考える場合を除き、できるだけ活かせる様に検討するとよいでしょう。

価格だけで判断してはいけない

リノベーションでは、同じ工事内容で見積依頼をしても、金額をはじめ、項目や内訳に差があることが多く、比較が難しいものです。前提としている工事範囲が異なる場合もあります。項目として明記されていない内容の中に差はないか説明を受け、各社の提案内容の違いをしっかり把握することが重要です。

見積依頼に際しては、現況の図面や考えているリノベーションの範囲、要望の優先順位、概算予算など、必要な情報を同じ条件で提供した上で、提案される内容を比較します。各業者が各々どの様に考えるのかを比べ、出来るだけ一回目の提案で業者を選定しましょう。

提案内容に加えて、現場調査時の様子や、意思疎通はスムーズか、担当者の対応、会社の体制、保証の有無などヒアリングし総合的に判断することが大切です。いくら提案内容が魅力的であっても、コミュニケーションがうまくいかない相手への依頼は、行き違いが発生しトラブルのもとになります。

価格も、投資効率の点で考えれば安いに越したことはないと考えがちですが、根拠のない安さは望ましいとはいえません。極端に安価な見積は、手抜き工事や欠陥工事が起こる可能性や、業者の経営状態の悪化により工事中に倒産するリスクも高まります。

2~3社で比較の上、高すぎず安すぎない業者を選ぶとよいでしょう。

まとめ

今回は、投資効率を上げるリノベーションに欠かせない3つのステップについて、解説しました。

step1.ターゲットのニーズに合致した、リノベションプランを練る

step2.リノベーションの投資効果を試算し、長期的視点で判断する

step3.できるだけ既存を活かし、念入りに計画を精査、相見積で費用を抑える

いかがでしたでしょうか。賃貸住宅のリノベーションでは「自分が住む家でないからこそ」難しい部分があります。一方で「賃貸住宅だからこそ」客観的にコーディネートを楽しめる部分もあります。リノベーションの費用対効果を厳しく精査し、時には思い切ったアイディアを取り込み、考えに考え抜いて、想定した賃料アップが実ったときの喜びは、とても大きいものです。そんな喜びや楽しみのある手法といえるかもしれません。

【記事筆者】

あらい かずみ
あらい かずみ
ファイナンシャルプランナー・AFP、一級建築士、宅地建物取引士で不動産投資家。建築・不動産業界で10年勤務の後、フリーランスとして活動する2児の母。東京都在住。築40年になる小さな戸建に耐震補強含むリノベーションを行って住まう。“いい物件を選び、丁寧に手入れして、長く大切に住まう“ 家選びや暮らし方を提唱している。