はじめまして。ファイナンシャルプランナー・一級建築士で、不動産投資家のあらい かずみです。

不動産投資を考えて、物件選びをしていると築年数によって利回りに差があることに気が付きます。築古と呼ばれる、築年数の経過した古い物件になるほど、建物価格は下がり利回は高くなる傾向があります。

一方、築古物件は、築年数の新しい築浅物件よりも修繕費用がかかる傾向があります。不動産投資では収益を上げることが目的ですから、将来発生すると見込まれる修繕費用を見込んだ上で物件を選ぶことも大切です。

では一体、築何年位の物件を選ぶのとよいのでしょうか。今回は、耐震性修繕サイクルから見えてくる、不動産投資における物件選びのポイントを解説します。

 

建物の耐震性とは?

構造によって異なりますが、耐震診断では下記3つの要素を診ています。

 1.地盤・基礎
 2.劣化状況・施工状態
 3.建物の構造

1.地盤・基礎

一つ目の地盤は、立地によっても異なりますが、どのような土地であったのかは調べることができます。各自治体で手に入れることのできるハザードマップには、河川が氾濫した場合の被害の範囲や、浸水した場合の水深が記載されています。古地図から過去の土地の利用形態を見ることで、埋立地や池・沼・田などであったかどうかがわかります。

2.劣化状況・施工状態

二つ目は劣化状況・施工状態です。築年数が経過すれば、どんな建物であっても経年変化や劣化があるものですが、人身に影響のある個所について、修繕を要する状態であるかどうかを診ます。施工不良は、設計図面に記された通りに構造上有効な耐力壁が設置されているかを診ます。

木造であれば、金物や筋交の配置や取り付け方等鉄筋コンクリート造であれば、コンクリート強度や鉄筋の量や配置等を確認します。図面上では強度が得られる計算になっていても、実際には正しく施工されていないために必要な耐力が得られないケースもあるからです。

3.建物の構造

最後に建物の構造については、何年に新築された建物かという点から、簡易的に判断することが出来ます。最終的には上記の3点を数値化して総合的に診断を行います。

 

新耐震基準と旧耐震基準

地震大国日本では、大きな地震が起こる度に建築基準法を改正してきました。その中でも耐震性に関わる大きな改正があったのが、1964年の新潟地震、そして1968年の十勝沖地震の後の1981年6月の建築基準法改正です。この改正前に建築された建物を旧耐震基準、改正後に建築された建物を新耐震基準といいます。

1995年の阪神・淡路大震災では、死者の88%が家屋や家具類等の倒壊による圧迫死と思われるもので、旧耐震基準で建てられた建物に被害が集中していたことが、国土交通省「阪神・淡路大震災による建築物等に係る被害」で報告されています。

つまり、耐震性については、1981年6月以降に新築された、新耐震基準が一つの目安となります。

また木造については、1995年の阪神淡路大震災を経て、地盤調査の実施や筋交いや金物の接合、耐力壁のバランスについての規定が追加された、2000年6月の建築基準法改正も目安となります。2000年の改正以降の建築物を、2000年耐震基準といいます。

 

旧耐震基準の建物は、耐震補強を

1981年の改正前に建築された旧耐震基準の建物は、現行の建築基準法に定める耐震基準を満たしていないため、耐震診断の実施が推奨されています。(※耐震改修促進法により定められた、不特定多数の人が利用すると想定される規模と用途の建物は義務化)耐震診断の結果により、耐震補強工事を行うことで、現行の耐震基準を満たす建物に改修することが可能です。

しかし、マンションやオフィスビルなどの規模の大きい鉄筋コンクリート造の建物では、耐震補強工事が多額となり、実施が見送られるケースも少なくありません。区分所有で複数のオーナーが一つの建物を所有していたり、賃貸していたりなど、関係者の合意や協力が必要な場合では、耐震診断を実施することも叶わないケースもめずらしくありません。

一方で、木造の戸建では、規模や工法によっても異なりますが、数十万~百万円単位での耐震補強工事が可能なケースも多く、補助金が出る自治体もあり、マンションやオフィスビルなどに比べれば実施しやすいといえます。水回りの改修や内装工事と共に実施すれば、耐震補強工事のみで行うよりもコストが抑えられる場合もあります。

耐震補強工事を実施するという前提に立っても、工事費用や実現可能性を考慮すると、新耐震基準の1981年以降が一つの分岐点といえるでしょう。

修繕サイクルとは?

エアコンや給湯器が突然壊れた経験はありませんか。建物の部位によって、故障して交換となる時期、手入が必要となる時期は異なります。マンションなどでは、長期修繕計画を立て、修繕積立金を積み立て備えています。同じ様に、どの様な建物であっても、部位ごとの修繕時期から長期計画的に、定期なメンテナンスをしていくことが推奨されています。

不動産投資の物件選びにおいても、あらかじめ修繕サイクルを知っておくことで、修繕費用と時期を概ね想定することができます。

主要な部位の修繕サイクル

建物も人の身体と同じ様に、年をとることで不具合が出てきます。定期的に健康状態の検査を実施し、適切なメンテナンスを行うことが長生きの秘訣です。不具合や老朽化はどんな建物でも発生しますが、早期発見、早期対処すれば傷は浅いものです。使用する材料や工法、立地等にもよりますが、一般的に修繕が必要となる時期の目安は以下となります。

【出典】国土交通省 民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック

上記の修繕を繰り返します。一般に、これらの中で大きな修繕費用の掛かるものとして、屋根・外壁の塗装や葺替があります。規模や工法により異なりますが、概ね築10年~20年頃までに1回、築30年~40年位までには2回目が実施されていることが望ましい工事です。

購入時点において、メンテナンス時期をむかえているにも関わらず実施されていない場合は、修繕費用を想定しておく必要があります。

修繕履歴と建物調査で確かめる

適切にメンテナンスが行われてきたかどうかは、過去に行われた修繕の記録(見積や図面・報告書)等の修繕履歴と、専門家のよる建物調査から確かめることができます。個々の物件によって差が出るポイントですので、しっかりチェックすることが大切です。

同じ築年数であっても、適切な時期に適切にメンテンナンスが行われてきた物件と、不具合が放置されたまま修繕のされていない物件では、将来かかる修繕費用に差があることはいうまでもありません。また、適切な時期に適切にメンテナンスが行われてきた物件は、手入れのされていない同じ築年数の建物と比べ、より寿命が長くなるといえます。

 

まとめ

 ・1981年6月以降に新築された新耐震基準かどうかが分岐点。
 ・修繕履歴と建物調査で個々の現況をしっかり確かめることが大事。
 ・適切な時期に適切なメンテナンスが行われきた物件は、修繕費用が抑えられ寿命も長くなる。

不動産は、二つとして全く同じ条件の物件はありません。ですから、同じ築年数や利回りであっても、修繕状況や賃借人、管理形態などの様々な要素によって得られる収益に差が生じます。その点が金融商品と不動産投資の大きな違いであり、面白さでもあります。

数ある物件の中から、より収益を上げられる可能性を秘めた原石を見分ける知識とスキルを高めることが、投資家への第一歩です。

【記事筆者】

あらい かずみ
あらい かずみ
ファイナンシャルプランナー・AFP、一級建築士、宅地建物取引士で不動産投資家。建築・不動産業界で10年勤務の後、フリーランスとして活動する2児の母。東京都在住。築40年になる小さな戸建に耐震補強含むリノベーションを行って住まう。“いい物件を選び、丁寧に手入れして、長く大切に住まう“ 家選びや暮らし方を提唱している。