リーマンショックから景気回復してきて、はや10年以上が経過しました。景気の最初のサイクルは7〜10年で一旦頭打ちと言われている中、そろそろ株の好況サイクルも変わる兆しが世界で出てきつつあります。
日本でも日経平均が伸び悩み、不動産市場も徐々に上昇幅が減少、来年の企業の景気見通しも悲観的なマインドが強くなってきている中で、投資家としてこの局面をどう乗り切るのかを、機関投資家が実際に行っているヘッジ手法をご紹介しながら解説していきたいと思います。
色々なパターンでヘッジが可能ですので、是非参考にしてみてください。
日本株保有時のヘッジ手法は?
①FXで円ロングのポジションを作成
これは一番手っ取り早く、実行している投資家も多い手法です。
投資家の間では有名ですが、日本株が下落すると、リスク回避通貨である日本円が上昇(円高)する動きが特徴としてあります。これは低金利の日本円を借りて、高金利通貨を買って金利収入を得る目的のキャリートレードが行われていること、そして、日本株全体で輸出企業が多いことから「円安=企業業績改善」という考えがマーケットで根付いていることから、日本株が下落すると逆の動きが発生すると考えられています。
日本株は特に米株との相関係数が昔から強いため、FXでもヘッジするならドル円のショートでヘッジする投資家が多く、海外勢が東京時間に日本株が下落すると、慌ててドル円を売ってくるフローというのが度々見られます。日本株は7割が海外勢で取引高を占めていると考えると違和感はない動きですね。
2017年あたりからは、一概に日本株との相関係数が強いとは言い難いかもしれませんが、心理的負担の抑制には繋がります。
②債券購入により金利と株の動きを利用してヘッジ
これはよく投資信託で安定運用することを目的にしたバランス型の投資信託で見られるポートフォリオです。
投資の世界では昔から「債券7割:株3割」と呼ばれています。
これは株が下落した際に、金利が低下(債券価格が上昇)することがマーケットの動きとして多いことから、日本株の下落局面では、債券や債券100%の投資信託を購入する(もしくは金利先物ロング【金利ロングとは金利低下に賭けているということ】をする)等で日本株のヘッジが可能となります。
個人投資家が行うなら、初心者は債券の投資信託購入、上級者なら金利先物を取引できる証券会社で金利先物を取引することでヘッジが可能となります。
金利が難しいのは短期金利から長期金利まであり、なかなか一概にヘッジすることは難しいため注意しましょう。
例としては、米株のポートフォリオを持っているポートフォリオマネージャーは米債金利の2Y、5Y、10Yを保有していることが多いです。(時期やマーケット環境によってもちろん変わります。)
ここで一つ注意すべきは「金融緩和の手法の内容によってはこのヘッジは機能しない」ということです。
教科書的には上のヘッジは伝統的なヘッジ手法を利用しつつ、ベースは「債券7割:株3割」としながらマーケット環境によってこの割合を変動させて運用収益を目指すものなのですが、リーマンショック以降はこのような手法を行うヘッジは機能していません。
下記のリーマンショック以降のチャートを見て頂けると理解できると思います。
白は米国債10年金利で、黄色がS&P株価指数です。
緩和政策を行うことで株が上昇しながら金利は低下 or 横ばい という状況が続いているのがわかるかと思います。
リーマンショック以降の政策は、中央銀行が債券を市中から買い上げる政策なことから、金利が上昇しない環境が恒常化し、現金が市中で余ってしまうため、その資金が株に流れた結果このようになっています。
このような環境では株と債券どちらも上昇しているためマイナスにはなりませんが、株の割合を高めるほうが得策なのはわかりますね。
③日本株先物をショート
これは日経平均株価の銘柄を保有していれば、日経平均先物をショートすることで、ある程度現物株で保有しているリスクを消すことができます。
マザーズの現物株を持っていればマザーズ指数をショートすることでヘッジできるということです。しかし、数千億規模で投資している日本株のファンドはこのヘッジ手法が利用しにくいと言われています。
理由として日経平均先物は上場商品のため、取引板で取引を行わなければなりません。
数千億円分ヘッジするために先物で注文を出すと、一気に板が壊れてしまい、コストの良い価格でヘッジが出来ないことになります。
また日経平均先物は売買後の各社の手口というのが見えてしまいます。
つまりヘッジを行ったかどうかというのが市場参加者に知られてしまうため、好んで使う大口投資家はあまりいません。
しかし個人投資家であればそこまでの大きな金額をトレードする方もいないことから、ヘッジをするにはコストが安く相関係数が高い先物が一番良いでしょう。
一つ注意点として間違えてはいけないのは、マザーズの現物株のヘッジとして日経平均先物を利用してはいけません。
新興市場の銘柄は指数に連動して動いているわけではなく、時価総額も低い銘柄となると、その個別銘柄の材料だけで動いているため、ヘッジは機能しにくいので、これは覚えておきましょう。
④日本株(リスク資産)を金でヘッジ
このヘッジ手法は昔から有名な伝統的なヘッジ手法ですね。
金は「リスク回避資産」とか「有事の金」とか呼ばれているほど、景気が後退する時に買われやすい資産となっています。
この理由は金が採掘できるのオリンピックプール1個分と言われているため、需要と供給で価格が決まるという経済的な考え方をすると、供給が決まっている以上需要は自然に高まるため、資金の流れが株から別のアセットへ移動するとき、債券に振り分けながらも金に向かう資金フローが出やすいと言われています。
そのため一時的にリスクヘッジのために金の先物を購入したり、金や銀を購入する機関投資家が現れることから、このヘッジが伝統的な方法として知られています。
⑤米国株指数の先物をショートしてヘッジ
これも日本株先物をショートするのと同様の理由で、日本株と米国株の相関係数が高いことから利用しやすいヘッジ手法となっています。
米国株を利用するメリットは、上級者になると日本株の上昇率と米国株の上昇率の乖離幅を利用して日本株と米国株のアービトラージを行うことも可能です。
つまり割安、割高を両者で計算し、割高な指数をショートして、割安な指数をロングすることで値幅のズレを利用して稼ぐ投資手法もあるということです。
【番外編】トルコリラをヘッジするには?
最後に番外編として日本人が大好きなトルコリラをヘッジする方法をご紹介します。
トルコリラと南アフリカランドは実は相関関係がとても高く、トルコリラが下落すると南アフリカランドが下落するという動きが見られています。
この理由は定かではありません。しかし相関係数が高い以上利用しない手はないでしょう。
ヘッジは常に利用して安定した運用を
常にリスクを取って投資をするというのはとても心理的ストレスが強いものです。
今年のGWは10連休ということもあり、旅行に行かれる方も多いのではないでしょうか?そういうときこそ、休みを満喫するためにもリスクはヘッジしておくことをおすすめします。
投資するタイミングはいつでもあります。管理ができないときにリスクを取る投資家は負けるということを意識して投資ライフを楽しみましょう。
資産管理が成功への第一歩であるため、リスクヘッジは常に頭に入れて、できるようにシミュレーションしておくと行動にすぐ移せます。
【記事筆者】

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学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行に入行し、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。
【保有資格】証券アナリスト
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