新年早々、大幅な円高と株安に疲弊した方も多いのではないでしょうか。
今回は、2018年に不動産投資を始めた方向けに、大まかに注意点をまとめてみましたので、皆様のご事情と照らし合わせながらお読み頂けますと幸いです。

収入の計上時期

まず、不動産賃貸による収入(家賃、更新料等)は、所得税法上の不動産所得となります。定期的に入ってくる家賃と、契約の時期に入ってくる礼金等では所得の申告時期が異なる点があります。

家賃

契約等で家賃等の支払日が定められている場合には、その支払日が収入の計上日となります。例えば今年の1月分の家賃を昨年の12月に受け取る契約になっている場合は、仮に入金が遅延していても、昨年分の確定申告に含めないといけませんので、注意が必要です。

礼金・契約更新料

礼金は、賃貸物件の引渡しのあった日を収入の計上日とします。こちらは家賃と異なり、仮に昨年に契約を締結し礼金が振り込まれていても、引渡しが今年であれば、今年の計算に含めます。

契約更新料も同様の考え方で、契約の効力発生日(契約更新開始日)に計上しますので、入金日とズレが生じる場合には注意が必要です。

敷金・保証金

敷金・保証金は預り金ですから、受け取っても収入にはならず、課税対象ではありません。しかし、返還を要しないこととなった場合、それが確定した日に収入に計上して確定申告の対象とします。

例えば、契約時に「退去時に敷金2か月分のうち1か月分を償却する」としていた場合、収入に計上するのは、退去日ではない点に注意です。入居という事実によって、将来の退去が確実に発生するわけですから、入居日等に計上すべきと判断されることがあるようです。

必要経費

家賃収入から必要経費を差し引いて、税額計算の基礎となる課税所得を算出します。以下のものが必要経費の代表例です。

・固定資産税
・損害保険料
・管理費
・減価償却費
・修繕費
・借入金の利息

このうち、減価償却費と借入金の利息について解説します。

減価償却(新築物件)

不動産投資は取得時に多額の支出があり、その後数十年にわたり家賃を回収するというビジネスであることから、1年毎に見ていくと、収入と支出がマッチしません。

従い、確定申告では、不動産取得時に一括で費用計上するのではなく、一定の年数で分割して費用計上します。これを減価償却といいます。

減価償却費は以下のように計算して、必要経費にします。

減価償却費 = 不動産の取得価額×耐用年数に応じた償却率

年の中途で不動産を取得した場合は、取得月ではなく、貸付月から12月までの月数を元に月割計算します。

新築物件のケースについて、対象資産別に具体的に解説します(地は減価償却対象ではないので、ご注意ください)。

建物

不動産を購入する際に不動産会社に支払った仲介手数料を取得価額に含めて、以下の償却率を乗じますが、住宅用建物は構造により償却率が異なります。

建物設備部分・器具備品

配送費や設置工事費等を取得原価に含めて、以下の償却率を乗じます。

なお、使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものは、減価償却せず、その全額を必要経費とします。

また、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部又は特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額を、その業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます。もちろん、耐用年数に応じた減価償却をしても問題ありません。

上記は定額法という償却方法を解説しましたが、建物以外は定率法も選択可能です。しかし、定率法を選択するためには税務署に届出が必要があり、計算も定額法より複雑なため、今回は詳しく紹介いたしません。

【参考】耐用年数と償却率の関係

余談ですが、「償却率」の考え方に触れておきます。電卓を片手に以下の計算式をご覧ください。

【例】鉄骨鉄筋コンクリート造 取得価額4,700万円のマンション物件(建物部分)
取得価額 4,700万円 × 償却率 0.022 =価償却費103.4万円
取得価額 4,700万円 ÷ 耐用年数 47年 = 100万円

このように、減価償却の計算は、実質的には不動産の取得費を耐用年数で分割して費用計上していることと同じ意味合いを持ちます。耐用年数毎の償却率は、国税庁のホームページに掲載されています。

減価償却(中古物件)

中古物件を購入した後、物件を貸し出すために支出した改装金額により、耐用年数が異なってきます。

改装工事は、税法上、資産の使用可能期間を延長させる、あるいは価値を増加させるような「資本的支出」と、不動産の維持管理や修理などの「修繕費」の2つに分けられます。

まずは、中古物件を貸し出すにあたり改装工事をした場合、その支出がどちらに該当するのか、税務署や税理士と相談しながら仕分ける必要があります。用途変更のための模様替えやリノベーション、増築は修繕費にならず、資本的支出となるケースが多いようです。

資本的支出の金額を集計したら、ややこしい計算をしなければなりません。
中古物件の再取得価額(物件が新築だったときの相場価格)の50%より、資本的支出のほうが大きければ、法定耐用年数で償却します。大掛かりな改装工事は、新築したも同然と考えるのです。

中古物件の再取得価額の50%より、資本的支出のほうが小さければ、使用可能年数を見積もるのが原則ですが、難易度が高いので、以下のような簡便法が用意されています。

築年数が法定耐用年数を超えている•••法定耐用年数×20%
築年数が法定耐用年数を超えない•••(法定耐用年数-経過した年数)+経過した年数×20%

※1年未満の端数は切り捨てます。

ただし、資本的支出の金額が、中古資産の取得価額(再取得価額ではなく、実際の購入金額)の50%より大きい場合、上記の算定式を用いることはできず、以下のように算出されます。

(中古物件の取得価額+資本的支出)÷{(中古物件の取得価額÷簡便法の耐用年数)+(資本的支出÷中古物件の法定耐用年数)}

非常にややこしいので計算例を掲載します。

【前提】
築7年の鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションの耐用年数
(取得価額1,900万円、再取得価額3,000万円、資本的支出500万円、法定耐用年数47年)

【計算例①】
判定:中古物件の取得価額1,900円×50% = 950万円 > 資本的支出 500万円
※通常、中古物件の再取得価額>取得価額のため、こちらの判定だけでOK
⇒簡便法で償却年数を算出
法定耐用年数47年 - 築7年 + (築7年 × 20%) = 41.4年 ⇒ 41年で償却

【計算例②】
◎資本的支出が1,000万円だった場合
・中古物件の償却年数
判定:再取得価額3,000万円 × 50% = 1,500万円 > 資本的支出1,000万円 > 取得価額1,900万円×50%=950万円
⇒(1,900万円+1,000万円)÷{(1,900万円÷41.4年)+(1,000万円÷47年)}≒ 43.2年
⇒ 43年で償却

【計算例③】
◎資本的支出が1,600万円だった場合
判定:中古物件の再取得価額3,000万円 × 50%= 1,500万円 < 資本的支出 1,600万円
法定耐用年数47年で償却

修繕費

不動産の維持管理や修理などの費用(修繕費)は資本的支出とは異なり、減価償却の対象外で、支出した年の必要経費に算入できます。概ね3年以内周期の修理、一つの修理、改良などの金額が20万円未満の場合は修繕費とされます。

修繕費か否かが明らかでない費用はその金額の多寡で判断します。具体的には、60万円未満のときか、また60万円以上でも対象資産の前年末の取得価額の概ね10%以下であれば、修繕費となります。

借入金の利息

不動産取得のための借入金の利子は必要経費になります。ただし、不動産所得の金額が赤字となった場合には、その赤字のうち、借入金の利子分は他の所得金額(例えば給与所得)の黒字との損益通算はできない点に注意です。

終わりに

不動産所得の確定申告は、契約書や収入・支出を示す通帳、必要経費の領収書などを用意して、収支内訳書(不動産所得用)を作成する必要があり、自力でどこまでできるのか不安だと思います。また、判断を伴う論点も多く裁判事例もあります。少しでも悩んだら税務署、地元の青色申告会、税理士などに相談しましょう。
※なお、いわゆる「5棟10室基準」と呼ばれる、戸建住宅を概ね5棟以上またはマンションを概ね10室以上貸付けており、事業的規模で不動産賃貸業を営んでいる方の場合は、本記事の説明と一部異なる箇所がありますので、ご注意ください。

【記事筆者】

黒沢 雅俊
黒沢 雅俊
【公認会計士】
会計監査、内部統制監査、SIerを経験。経済から家計まで幅広くカバーするライターとして活動。株式や投資信託、FXや先物等、自分の身銭で得た多くの経験を基に、ポイントを絞った記事作成が特徴。得意分野は会計・税法・金融・経済・家計管理。