相続税の申告と納税には期限があり、期限を守らないと加算税と延滞税というペナルティが課されます。また、相続税の申告手続きを税理士などの専門家に依頼すると報酬を支払わなければいけません。

もちろん自分自身で期限内に申告手続きができれば報酬も延滞税も支払うことはありませんが、税金のなかでも仕組みが難しいと言われる相続税でそれは可能なのでしょうか。

相続税の申告の必要性と期限、提出方法などについて解説します。

相続税の申告手続きが必要な方は?

人が亡くなると相続が発生しますが、相続が発生したからといって必ず相続税の申告手続きが必要になるという訳ではありません。

遺産が基礎控除額を超える場合

相続税は、被相続人が所有していた相続財産のうち、正味の遺産額(被相続人の死亡時に所有していた財産の総額に相続時精算課税の適用を受ける贈与財産を加えた額から債務、

葬式費用、非課税財産の額を控除した金額に、相続開始前3年以内の贈与財産を加えた額のことです。)が基礎控除額を超えると相続税の申告手続きが必要になります。

申告の結果、必要があれば納税をしなければなりません。つまり、このことは正味の遺産額が基礎控除額を超えなければ相続税の申告や納税の必要が無いことを意味します。

基礎控除額の計算方法

所得税などの計算で基礎控除額がありますが、相続税の計算にも基礎控除があります。

相続税における基礎控除額は一定額ではなく、法定相続人の数によって変わります。具体的には「基礎控除額=3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算されます。

法定相続人の数とは?

基礎控除額の算出で用いる法定相続人の数とは、法定相続人の人数のこととなります。法定相続人とは、民法で定められた相続人のことを意味します。

また、相続放棄をした場合には、その相続人は最初から相続人ではなかったこととなりますが、基礎控除額の算出では相続放棄に関係なく人数に数えます。

相続税がかからなくても申告が必要な場合

基礎控除額が正味の遺産額を上回る場合には相続税の申告が不要となりますが、

相続税を軽減させる特例は相続税の申告によって適用となりますので、特例によって相続税がかからなくなる場合も申告が必要となります。

配偶者の税額軽減の特例を受ける場合

配偶者の税額軽減の特例では、課税価格1億6千万円までの財産または法定相続分の範囲内であれば相続税が全額控除されることとなります。

この特例の適用によって相続税の納税の必要が無くなるケースがありますが、特例は相続税の申告によって適用となることから、申告が必要です。

小規模宅地等の特例の適用による場合

小規模宅地などの特例では、被相続人が居住していた土地などで要件を満たすものについては、相続税評価額を50%または80%減額できるというものです。

小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告時に必要な事項を申告書の書類に記載のうえ、一定の書類を添付する必要があります。

特定計画山林の特例の適用による場合

特定計画山林とは、特定森林経営計画対象山林のうち一定の要件を満たす立木及び山林のことをいい、さらに特例の適用要件を満たすものについては相続税評価額を5%減額できるというものです。

特定計画山林の特例の適用を受けるためには、相続税の申告時に必要な事項を申告書の書類に記載のうえ、一定の書類を添付する必要があります。

相続税の申告期限は?

相続税の申告期限はどのようになっているのでしょうか。

相続があったことを知った翌日から10カ月以内

相続税の申告は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。なお、相続税の納税期限は申告期限と同日となります。

期限を過ぎてしまうと延滞税がかかる

相続税の納期限を過ぎても完納されていない場合には、納期限の翌日から納付が行われる日までの日数に応じて延滞税が課されることになります。

期限に間に合わない場合の特例について

相続税は期限内に申告と納税を済ませないと、加算税と延滞税というペナルティが課せられることになります。

しかし、どうしても期限に間に合わない場合には、相続税の計算が間に合わなければ概算で多めの税額を納めておく、分割が間に合わなければ3年内分割見込書を提出して未分割申告を行うという方法があります。

なお、相続人となる胎児が実際に生まれた場合など特殊な理由がある場合には、税務署へ申請することで最大2カ月間の期限延長が認められることがあります。

相続税の申告書の提出先と提出方法は?

相続税の申告書の提出先

相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署となります。相続人の住所地を所轄する税務署ではないことに注意が必要です。

相続税の申告書の提出方法

相続税の申告書は、税務署へ直接持参しても郵送で提出しても構いません。ただし、郵送の場合には申告期限のこともありますので、送付した日付と記録が残る特定記録などを使って提出するようにしましょう。

また、返信用封筒と申告書の控えも同封し、受領印を押印した控えを返信してもらうと安心です。

相続税の申告の際に必要な書類は?

相続税の申告に際しては、申告書の他に多くの書類の添付が必要になります。不慣れな方には、これらの書類を不備なく揃えて提出することは、なかなか難しいことと言えるかもしれません。

法定相続情報証明制度で手続きを簡易化

相続税の申告を行うためには、遺産分割を完了させるなどの多くの手続きを経なければなりません。

その際には、各種窓口に被相続人の相続人であることを証明するために、被相続人の戸除籍謄本などの書類の束を各種窓口に提出する必要が生じます。

手続きに必要な戸除籍謄本を使い回そうとすると手続きに大変な手間と時間が掛かり、同時に行おうとすると、その分戸除籍謄本が複数必要になるため費用が掛かります。

しかし、2017年5月29日から始まった法定相続情報証明制度によって、手続きが簡易化され、大幅な時間の短縮・費用負担の軽減が可能となりました。

法定相続情報証明制度の概要

法定相続情報証明制度は、収集・作成した必要書類を登記所に提出することによって、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを交付して貰えるようになります。

この写しは戸除籍謄本の束の代わりとして用いることができます。これによって相続による不動産や金融機関の預金の名義変更、預金の払い戻しなどが、

同時に手続きを進められるようになりました。また、法定相続情報一覧図の写しは無料で取得することができるため、何枚用意しても金銭的な負担はありません。

法定相続情報証明制度は、相続が発生しても不動産の名義変更が行われず放置されることが多いことから、相続による登記を促進することを目的に新設された制度ですが、

相続財産に不動産が無くても利用することができます。

①手続きに必要な書類について

法定相続情報証明制度に基づく法定相続情報一覧図の写しの交付を受けるために、登記所に提出する必要な書類は、法務省のホームページによると次のとおりです。

◎必ず用意する書類
  • 被相続人(亡くなられた方)の戸除籍謄本
  • 出生から亡くなられるまでの連続した戸籍謄本及び除籍謄本を用意
  • 被相続人の住民票の除票
  • 被相続人の住民票の除票を用意
  • 相続人の戸籍謄抄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本又は抄本を用意
  • 申出人(相続人の代表となって、手続きを進める方)の氏名・住所を確認することができる公的書類

具体的には運転免許証のコピー、マイナンバーカードの表面のコピー(これらには原本と相違ない旨の記載と申出人の記名・押印が必要です。)、住民票記載事項証明書(住民票の写し)などとなりますが、これら以外の書類については登記所に確認をしてください。

◎必要となる場合がある書類
  • 法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)
  • 委任による代理人が申出の手続きをする場合には委任状、加えて、親族が代理する場合には申出人と代理人が親族関係にあることが分かる戸籍謄本
  • 資格者代理人が代理する場合には資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等
  • 被相続人の住民票の除票を取得できない場合は被相続人の戸籍の附票

【出典】:http://www.moj.go.jp/content/001225651.pdf

② 法定相続情報一覧図を作成

法定相続情報一覧図とは、被相続人及び戸籍の記載から判明する法定相続人を一覧にした図のことを指します。

法定相続情報一覧図の作成の際には、法務局ホームページに掲載されている記入様式及び記載例を参考にするとともに、A4サイズの白い紙に記載するなどの決まりや、留意点などに留意しましょう。

【出典】:http://www.moj.go.jp/content/001225651.pdf

【出典】:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html

① ②とあわせて申出書を提出

法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書に必要事項を記入して、上記①②を合わせて登記所へ提出して申出を行います。

なお、申出をする登記所はどこでも良いというわけではなく、被相続人の本籍地の登記所など限られているので、事前に確認しておきましょう。また、申出は郵送でも行うことが可能です。

相続税の申告書に添付する書類

相続税の申告書は、第1表から第15表まであり、全てを使用するわけではないものの、数が多く、相続税に関する専門的な知識も必要とすることから、専門家以外の一般の方が作成するのは大変な作業となります。

さらに申告書に記載した内容を証明する書類の添付が必要であり、税金の軽減を受けるためには別途必要な書類を添付しなければいけません。

特例等の適用を受けない場合(一般的な相続)

一般的な相続で、特例などの適用を受けない場合には、次の書類が必要になります。

  • 被相続人の全ての相続人を特定するための戸籍の謄本(相続の開始日から10日経過した日以後に取得した謄本)
  • 図形式の法定相続情報一覧図の写し(子の続柄が実子または養子のいずれかが分かるように記載されたもの)
  • なお、被相続人に養子がいる場合には、その養子の戸籍の謄本または抄本も添付する必要があります。

上記のいずれかをコピー機で複写したものが必要です。

また、添付が要請される書類として、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し、相続人が遺産分割協議書に押印した全員分の印鑑の印鑑証明書があります。

これら以外で相続財産に応じて必要となる書類を下記に挙げていきます。

不動産を相続する場合

  • 固定資産税評価証明書
  • 公図、地積測量図
  • 実測図
  • 貸家、借地、貸地などの場合には賃貸借契約書等 など

株式等を相続する場合

  • 上場株式を相続する場合証券会社の預かり証明書
  • 株式登録証明書
  • 配当金の通知書
  • 被相続人の最近5年間における取引明細 など

非上場株式を相続する場合には過去3期分における決算書、税務申告書の写しなどが必要です。

生命保険等を相続する場合

  • 生命保険証書の写し
  • 生命保険金の支払通知書
  • 火災保険等の保険証書の写し
  • 解約返戻金の明細 など

 配偶者の税額軽減の適用を受ける場合

配偶者の税額軽減の適用を受ける場合は、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し、相続人全員の遺産分割協議書に押印した印鑑の印鑑証明書の添付があれば、別途特段添付する書類はありません。

ただし、相続税の申告期限内に遺産の分割が出来ない場合には、申告期限後3年以内の分割見込書を添付することで、遺産分割がまとまった後に更正の請求等を行うと配偶者の税額軽減の適用が可能となります。

小規模宅地等の特例の適用を受ける場合

住民票の写しのほかに、別居の親族が適用を受ける場合には、戸籍謄本の附票の写し、相続家屋の登記簿謄本、借家の賃貸契約書などの添付が必要になります。

また、被相続人が老人ホームなどへ入所していた場合には、被相続人の戸籍の附票の写し、要介護認定証などの一定の障害の状態であることが分かる書類、福祉施設の入所時の契約書の写し等の添付が必要になります。

なお、申告期限内に遺産分割が間に合わなかった場合には、申告期限後3年以内の遺産分割協議の分割見込書の添付が必要になります。

特定計画山林の特例の適用を受ける場合

市町村長などの認定を受けた森林経営計画書の写しのほか、そのほか特例の適用要件を確認することができる書類の添付が必要になります。

また、申告期限内に遺産分割が間に合わなかった場合には、申告期限後3年以内の遺産分割協議の分割見込書の添付が必要になります。

相続税の申告書に記載されたマイナンバー(個人番号)について

相続税の申告書に記載されたマイナンバー(個人番号)について、税務署では本人確認を行うために下記の書類を添付する必要があります。なお、本人確認には番号確認と身元確認があります。

番号確認のため下記のいずれかの書類
  • マイナンバーカード裏面の写し
  • 通知カードの写し
  • マイナンバーの記載がある住民票の写し
身元確認のため下記のいずれかの書類
  • マイナンバーカード表面の写し
  • 運転免許証の写し
  • 身体障害者手帳の写し
  • パスポートの写し
  • 在留カードの写し
  • 地方公共団体発行の顔写真付き住民基本台帳カード

【出典】:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2017/pdf/all.pdf

まとめ

相続税の申告手続きを行うためには、上記のように相続財産の整理、分割、相続税の計算を行った上で申告書を作成し、必要な書類を添付しなければいけません。

これらを10カ月という期間で行うのは大きな負担となります。専門的な知識も必要になることから、不安がある場合には税理士など専門家への早めの相談をおすすめします。

監修者:矢崎 雅之(ファイナンシャルプランナー)