相続を開始して半年ほど経過すると、所轄の税務署から相続税の申告書が送られてくる場合があります。

相続税の申告書は第1表から第15表までと多くの書類が存在し、記載する項目も多いため、全体の概要をスムーズに把握することが重要です。

申告書の内容や各表の目的など、相続税の申告に役立つ情報をご紹介します。

相続税の申告書は送られてくる?

税務署から送られてくる相続税の申告書についてご紹介します。

いろいろなケースがある

相続を開始した後の税務署の対応については、さまざまなケースがあります。

相続税法58条の規定によって、死亡届の提出を受けた市区町村の長は、死亡届の内容を所轄の税務署長に通知することになっています。

それによって、税務署は相続によって相続税が発生する可能性を知ることができます。

税務署は相続税が発生する可能性がある相続人に対して、相続税の申告書や相続税のお尋ねなどの知らせを送付します。

書類が送られてくるかどうかや、どの書類が送られてくるかはケースによって異なります。

【出典】相続税法http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC0000000073_20180401_430AC0000000007&openerCode=1

何も送られてこない

相続が発生した後も、税務署から何も送られてこない場合があります。

相続税の申告書や相続税のお尋ねなどの知らせが送付されるのは、それなりの財産を相続したことを税務署が把握している場合です。

税務署が相続された財産について把握していない場合は、相続後に何も送られてこないこともあります。

注意点としては、税務署から相続税の申告書などが送られてこないとしても、相続税の申告が不要であることを意味するわけではありません。

相続税は申告納税制度を採用しているので、相続税が発生する程度の相続財産を有する場合は、税務署からの知らせの有無に関わらず申告を行う必要があります。

税務署からの知らせの有無にかかわらず、相続税の対象となる財産があった場合に申告期限内に申告及び納税を行わないと延滞税がかかってくるので、相続税の対象となる財産が基礎控除額をこえるかどうかの確認を行ってください。

「相続税の申告書」が送られてくる

相続税の申告書とは、所轄の税務署に相続税を申告するために記入する書類のことです。

相続税の申告書は、相続を開始してから約半年後に届く場合が多くなっています。相続開始が6月であった場合、相続税の申告書が届くのは12月頃が多いようです。

相続税の申告書は、相続税の申告が確実に必要であると税務署が判断した場合に送付されるケースが多くなっています。申告書を受け取った場合は、相続税の申告の準備をきちんとすることが大切です。

「相続税についてのお尋ね」が送られてくる

相続税の申告書ではなく、「相続税についてのお尋ね」という書類が税務署から送付されることがあります。

相続税についてのお尋ねとは、相続された遺産の内容を税務署が確認し、相続税の申告を促すために送付される書類です。

市区町村からの死亡届が税務署に通知された場合、税務署は亡くなった方の過去の確定申告書や固定資産課税台帳などの情報をもとに、相続された財産がどの程度あるかを把握しようとします。

相続税についてのお尋ねは、税務署の調査の結果、相続税が発生するかどうか分からない場合に送るケースが多いようです。

申告書とお尋ねの両方が送られてくる

相続税の申告書と相続税のお尋ねの両方が送付されることもあります。両方が送付される場合は、相続税が発生する可能性が高いと税務署が判断していることを意味します。

申告が必要な方、申告が不要な方

相続税の申告が必要なケースと不要なケースを見ていきます。

遺産が基礎控除額を超える場合は申告が必要

相続税は、相続によって取得した遺産の総額が基礎控除額を超える場合に、超える部分について課税される税金です。

基礎控除額は、3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の人数)の計算式で求めることができます。

例えば、相続した財産総額が5,000万円で法定相続人が1人の場合、基礎控除額は3,600万円ですので、1,400万円の部分について相続税が課されることになります。

【出典】国税庁:相続税がかかる場合https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm

課税遺産総額がゼロ以下の方は申告不要

相続した遺産のうち、基礎控除額を超える部分を課税遺産総額と呼びます。

基礎控除額は相続税が課税されるかどうかのボーダーラインであり、ラインを超えた部分である課税遺産総額がゼロ以下の場合は相続税が課税されないため、申告は不要になります。

特例の適用を受ける場合は申告が必要

相続税の負担が軽くなる特例の措置として、「配偶者の税額の軽減」「小規模宅地等の特例」などの制度があります。

これらの特例の適用を受ける場合には、相続税の申告をする必要があります。相続税を計算する際に、特例の適用を加味して計算した結果、相続税がかからないとしても、手続きとしては相続税の申告が必要なので注意しましょう。

【出典】国税庁:配偶者の税額の軽減https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm

【出典】国税庁:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

相続税の申告書の概要と目的

相続税の申告書の概要と目的をご紹介します。

相続税の申告書は第1~15表と付表がある

相続税の申告書は第1表から第15表までと付表があり、多くの様式が存在します。全ての方が全部の書類を使うわけではありません。代表的なものについて、以下で解説いたします。

各申告書の内容と目的

各申告書の内容と目的は以下の通りです。

第1表 相続税の申告書
第2表 相続税の総額についての計算書
第3表 財産を取得した人に農業相続人がいる場合の計算書
第4表 相続税額の加算金額等の計算書
第5表 配偶者の税額軽減額についての計算書
第6表 未成年者や障害者の控除額の計算書
第7表 相次相続控除額についての計算書
第8表 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
第9表 生命保険金等の明細書
第10表 退職手当等の明細書
第11表 相続税が課される財産の明細書
第12表 特例農地等の明細書
第13表 債務と葬式の費用の明細書
第14表 純資産価額に加算される暦年課税について
第15表 相続の対象となる財産の種類別の価額表

【出典】国税庁:相続税の申告書等の様式一覧(2018年分用)https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h30.htm

相続税の申告書の作成手順

相続税の申告書の作成手順についてご紹介します。

課税財産と債務について第9~15表を作成

課税財産と債務について記載する書類として、第9~15表があります。

第9表/生命保険金などの明細書

相続によって生命保険金や損害保険契約の死亡保険金などを受け取った場合に、その受取金額を記載する書類です。

保険会社の名称や所在地、受取年月日、受取金額、受取人の氏名などを記入します。

第10表/退職手当金などの明細書

相続人が相続によって取得したものとみなされる退職手当金、退職給付金、功労金などを受け取った場合に、受取金額などを取得する書類です。

勤務先の名称や所在地、受取年月日、退職手当金などの名称、受取金額、受取人の氏名などを記入します。

第11・11の2表の付表1、付表2など/小規模宅地等についての課税価格の明細

第11・11の2表の付表1は、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合に作成する書類です。

特例の対象となる宅地を取得した全ての方が特例の適用に同意する場合に、全員の氏名を記入します。

第11・11の2表の付表2は、相続によって取得した財産のうちに、特定計画山林又は特定事業用資産について特例の対象となる財産がある場合に作成する書類です。

第11表/相続税がかかる財産の明細書 

相続によって取得した財産のうち、相続税が課税される財産が存在する場合に作成する書類です。

記載する財産の種類は、売掛金、船舶、自動車、有価証券、預貯金、債権、保険金、退職金などがあります。

遺産の分割状況、財産の明細、財産を取得した方の氏名、各人の合計金額などを記入します。

第13表/債務及び葬式費用の明細書

被相続人(遺産を残した人)の債務と葬式にかかった費用について記載する書類です。

債務については、債務の種類、債権者の氏名と住所、債務の発生年月日と弁済期限、債務の金額、債務を負担する方の氏名などを記入します。

被相続人の葬式に要した費用については、葬式費用の支払先の氏名と住所、支払年月日、葬式費用の金額、葬式費用を負担する方の氏名などを記入します。

第15表/相続財産の種類別価額表

第11表から第14表までの記載に基づいて作成する書類です。機械で読み取るマークシート形式になっています。

土地、事業用財産、有価証券、その他の財産などの項目に分かれています。

土地の種類は、田、畑、宅地、山林などがあります。

事業用財産の種類は、機械、器具、農耕具、商品、製品、原材料、農産物などがあります。

有価証券の種類は、株式、公債、社債、信託の受益証券などです。

その他の財産としては、生命保険金、退職手当金、立木などがあります。

相続税額の元となる金額を出すために第2表、第1表を作成

相続税額の元となる金額を算出するための書類として、第2表と第1表があります。

第2表/相続税の総額の計算書

相続税の総額を計算するために使用する書類です。

課税価格の合計額、基礎控除額、課税遺産の総額、法定相続人などを記入します。

法定相続人の項目としては、相続人の氏名、続柄、法定相続分、相続税の税額などがあります。

注意点として、法定相続人の中に相続放棄をした方がいる場合でも、相続放棄がなかった場合の相続人の情報を記載します。

第1表/相続税の申告書

第1表は、これまでご紹介した各書類に記入した金額に基づいて、相続税の納付税額を計算する書類です。

氏名、個人番号、生年月日、財産の取得原因、法定相続人の人数などを記入します。

控除がある場合は第5~8表を作成

相続税に控除が適用される場合、第5~8表を作成します。

第5表/配偶者の税額軽減額の計算書

相続税法第19条の2第1項の規定によって、配偶者が相続によって取得した財産については、税額軽減の適用を受けることができます。配偶者の税額軽減の適用を受ける場合に、第5表を作成します。

配偶者の法定相続分の金額、分割財産の価格、相続税の総額などを記入します。

第6表/未成年者控除額、障害者控除額の計算書

遺産を受け取る相続人が未成年者や障害者の場合、税額の控除を受けることができます。

相続人の氏名、年齢、扶養義務者の氏名などを記入します。

【出典】国税庁:未成年者の税額控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm

【出典】国税庁:障害者の税額控除https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4167.htm

第7表/相次相続控除

第7表の相次相続控除とは、相続が開始する前の10年以内に、被相続人が相続によって財産を取得して相続税が課税されていた場合、その被相続人から相続を受けた方の相続税が控除される制度です。

例えば、2015年に祖父の遺産を相続して相続税を納付した父が2018年に亡くなった場合に、父の遺産を相続した子が納付する相続税が控除されます。

【出典】国税庁:相次相続控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm

第8表/外国税額控除

第8表の外国税額控除とは、外国に存在する財産を相続した場合に、外国における相続税に相当する税金が課税されていたときは、日本で納付すべき相続税額が控除される制度です。

例えば、英国に存在するマンションを相続した場合に、そのマンションについて英国で相続税を納付したときは、マンションについて日本で納付する相続税の控除を受けることができます。

税額控除額から相続税額を算定

各相続人に課される税額から、各種の税額控除額を差し引いた残りが相続税額になります。

相続税の申告書である第1表が完成

一番最初の第1表を一番最後に完成させるのが相続税の申告書の特徴です。

第1表を完成させるためには、残りの第2表から第15表までのうち必要なものを作成し、記載した事項を第1表に転記することになります。

最後に

相続税の申告書についてご紹介しました。

申告書は第1表から第15表まで存在しますが、全ての方が全部の書類を作成するのではなく、必要な書類を選んで記入します。申告書の種類としては、財産の種類等の申告書、税額等の計算書、税額控除の申請のための書類などがあります。

相続税の申告書の概要や種類を把握することで、スムーズな申告に役立てていただければ幸いです。

監修者:添田 裕美(税理士)