税に関する法律は改正されることが多い分野ですが、2018年度の税制改正においては、相続税に関する制度の改正が多く実施されました。概要を素早く把握するために、2018年度の税制改正のポイントについてまとめました。

小規模住宅等の特例の改正

2018年度の税制改正の1つは、小規模住宅等の特例の改正です。 

小規模住宅等の特例制度について

小規模宅地等の特例は、被相続人(財産を遺す人)が居住していた土地や事業を営んでいた土地について、一定の要件を満たす場合に土地の評価額を減額するという制度です。

土地の評価額は相続税の額の基準となるため、土地の評価額が減額されることで、課される相続税も少なくなります。

被相続人が住んでいた土地や事業を行なっていた土地については、それを相続する相続人等の生活の基盤になる可能性が高いので、そのような重要な土地に高い相続税を課してしまうと、相続人等が生活しにくくなる恐れがあります。

そうした不都合を防止するために、一定の要件を満たす場合、課される相続税が少なくなる制度です。

【出典】小規模宅地等の特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

評価額の減額が行われる限度面積

小規模住宅等の特例によって減額される土地の面積には限度があり、限度面積と呼びます。

被相続人が居住するために使用していた土地については、限度面積は330平方メートルで、80%の割合で減額されます。

被相続人が事業を行うために使用していた土地については、以下のようになります。

・貸付事業以外の事業のための土地については、限度面積400平方メートルで、80%の割合で減額されます。

・貸付事業用の土地については、原則として、限度面積200平方メートルで、50%の割合で減額されます。

小規模住宅等の特例要件の見直し 

被相続人が居住するために使用していた土地において、被相続人の配偶者又は相続開始の直前に被相続人と同居していた一定の親族がいない場合の特例要件について、見直しが行われました。

見直しによる適用対象者の除外

被相続人が居住するために使用していた土地について、被相続人の配偶者又は相続開始の直前に被相続人と同居していた一定の親族がいない場合、従来は下記の要件を満たせば減額の対象になりました。

・被相続人の親族であること

・相続開始前3年以内に日本国内の自己又は配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと

・相続開始時から相続税の申告期限までの間に土地を有していること

今回の改正では、上記の要件を満たす場合でも、

・相続開始前3年以内に、3親等内の親族か、特別の関係のある法人が所有する日本国内の家屋に居住したことがある者

・相続開始の時点で、居住のために使われていた家屋を過去に所有していたことがある者

上記のどちらかに該当する場合は、減額の対象にならないことが規定されました。

適用時期

小規模宅地等の特例に関する2018年度の税制改正は、2018年4月1日以降に相続又は遺贈によって取得する土地について適用されます。

相続税申告の添付書類範囲の拡大

2018年改正では、相続税を申告する際に添付する書類の範囲が拡大されました。

戸籍謄本に代わる書類の添付が可能に

相続税の申告の際、被相続人の相続人全てを明らかにするために、従来は戸籍謄本の原本の提出が必要でしたが、改正によって、戸籍謄本の原本に代わる書類の提出が認められるようになりました。

【出典】国税庁https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2017/pdf/h30kaisei.pdf

改正内容について

相続税の申告の際に添付書類として認められていたのは、

① 被相続人に関する全ての相続人を明らかにした戸籍謄本の原本

のみでしたが、今回の改正によって、

② 図形式による「法定相続情報一覧図の写し」で、子の続柄が明記されているもの

③ ①または②のコピー

も添付書類として認められるようになりました。

相続税の申告のために戸籍謄本の原本を都度取得しなければならない負担を軽減するために、改正が実施されました。

法定相続情報一覧図の写しとは、2017年5月に全国の法務局(登記所)でサービスが開始された「法定相続情報証明制度」を利用することで、交付を受けることができる証明書です。

証明書を入手するためには、管轄の法務局に申請して手続きを行う必要があります。

【出典】法務省:法定相続情報証明制度についてhttp://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00284.html

適用時期

2018年4月1日以降に提出する相続税に関する申告書について、添付書類の範囲の拡大が適用されます。

事業承継税制の特例措置の創設等

事業承継税制の利用を促進するために、10年間の期間限定で特例措置が創設されました。

事業承継税制の概要

事業承継税制とは、中小企業の経営者が後継者に株式を贈与(相続)した場合に、後継者に課される贈与税または相続税の納税を猶予する制度です。

中小企業の円滑な世代交代を実現するための制度ですが、従来の制度は適用するための要件が厳しいという課題がありました。

10年間の期間限定で特別措置が創設 

事業承継税制について、10年間の期間限定で、従来よりも要件等が緩和された特例措置が創設されました。10年間限定の特例措置であるため、期間内に間に合うように事業承継の検討を行う必要があります。

また、特例措置を適用するためには、経営の見通しなどを記載した特例承継計画を、2018年4月1日から2023年3月31日の間に管轄の都道府県に提出する必要があります。

【出典】国税庁https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201804/01.pdf

適用の拡充が目的

中小企業は日本の経済を支える基盤の一つですが、経営者の高齢化が急速に進んでいるという現状があります。

中小企業の後継者を獲得し、世代交代を実現できなければ、廃業などによって地域を中心とした経済に大きな打撃を与えてしまう場合もあります。

そうした問題を解決し、中小企業の円滑な世代交代を実現するために、従来の要件を緩和した特例措置が創設されることで、事業承継税制の利用の拡充を図ることが目的です。

創設された特例措置の主な拡充内容

特例措置によって拡充された主な内容として、以下のものがあります。

納税猶予の対象となる株式数の制限を撤廃

従来の制度では、納税猶予の対象となる株式数は、発行済株式の総数の3分の2に限定されていたため、猶予制度による税負担の軽減範囲は限定されていました。

特例が適用された場合、納税猶予の対象となる株式数について制限がなくなるため、従来よりも税負担の軽減範囲が広くなる可能性が高まります。

納税猶予割合の引き上げ

従来の制度では、納税が猶予される課税額は全体の80%に限定されていたため、税負担の軽減効果は限定的なものでした。

特例が適用されると、課税額の100%について猶予の対象になるため、従来よりも高い軽減効果が望めるようになります。

納税猶予を受けることができる後継者を増加

従来の制度では、納税猶予を受けることができる後継者は1名のみでしたが、特例措置では会社の代表権を有する複数人のうち、議決権総数の上位3名までに対象が拡大されています。

先代経営者以外から承継する自社株式も納税猶予の対象に

従来の制度では、先代経営者以外から承継する財産については、納税猶予の対象になっていませんでした。

特例措置においては、先代経営者以外の者を含む複数人の株主から承継する自社株式についても、納税猶予の対象に含まれています。

特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設

美術品を適切に承継するために、相続税の納税を猶予する制度が創設されました。

文化財保護法の改正を前提に創設

特定の美術品にかかる相続税の納税猶予制度は、文化財保護法の改正を前提として創設されたものです。

制度創設の主な理由は、下記の2点です。

・高齢化社会の進行によって相続の機会が多くなる中で、相続によって美術品が確実に次世代に継承されることを促進すること

・美術品が美術館に預けられて適切に公開されることで、市場の創出や地域経済の活性化を図ること

【出典】特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設https://www.yamada-partners.gr.jp/wp-content/uploads/2018/04/011.pdf

改正の概要

個人が美術館に特定美術品を預けた場合において、その個人の相続人が美術品を相続したときは、相続人が納付すべき相続税額の一部が猶予される制度です。

相続税の納付が猶予される恩恵を受けることで、美術品の適切な承継と公開を期待するものです。

相続税の猶予

美術品を相続した相続人が納付すべき相続税額のうち、美術品の価格の80%に相当する額の納税が猶予されます。

相続税額の免除

以下のいずれかに該当する場合は、猶予された納税が免除されます。

・美術品の相続人が死亡したとき

・美術品を預けている美術館に対して、美術品を寄贈したとき

・災害によって美術品が滅失したとき

納税猶予制度の注意点

納税猶予制度の注意点をご紹介します。

贈与税の納税猶予はない

制度によって納税が猶予される税の種類は、相続税に限られます。美術品の贈与を受けて贈与税が課されても、納税猶予の対象にはなりません。

美術品のみが対象、建造物は対象から除外

納税猶予の対象になるのは美術品のみで、建造物は除外されます。歴史的な意義のある建造物でも除外されるため、注意が必要です。

最後に

2018年度の税制改正の概要についてお伝えしました。

小規模住宅等の特例の要件の見直し、相続税の申告における添付書類の範囲の拡大、中小企業の事業承継を促進する特例措置の創設、特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設、などの改正が実施されました。

税制改正のポイントを効率よく把握していただければ幸いです。

監修者:添田 裕美(税理士)