住宅ローンを組んで家を購入すると、住宅ローン控除が受けられることは、割とよく知られています。10年間で最大400万円の控除が受けられる、ありがたい制度ですが、1つ大きな手間があります。

それは、住宅に入居した年の翌年に、確定申告を行う必要があるということです。確定申告をすることがほぼない会社員の方は、戸惑うことが多いでしょう。今回は、そういった方のために、住宅ローン控除の確定申告手続きを解説いたします。

会社員も確定申告できる?

住宅ローン控除を受けるためには、確定申告が必要であることは、冒頭でお伝えしましたが、確定申告とはどういったものなのでしょうか。

確定申告ってそもそも何?

基本的に、給与や事業、不動産などにより所得を得ている方は、1月1日から12月31日に生じた所得金額に応じて翌年に納税する義務があります。1年間の所得金額とそれに応じた納税額を計算し、税務署に申告することを、確定申告と言います。

年末調整との違いは?

会社員などの給与をもらっている方も本来は個別に確定申告をする必要があるのですが、申告が集中することによる税務署の負担の軽減や、徴収漏れが起きにくいことから、給与を支払う会社が、社員の所得税の計算と納税をまとめて行います。

それが、月々の給与からの源泉徴収と、年末に行われる年末調整です。このうち源泉徴収は、扶養控除や生命保険控除などの控除を考慮せずに、月々の給与に応じた仮計算の所得税額を、給与から天引きします。

年末調整では、改めて一年間の所得金額を、様々な控除を考慮して、正確に計算し直し、すでに月々に仮で支払っていた所得税額との差額を調整します。

1年間の所得金額を計算し、最終的な納税額を確定する点では確定申告と同様ですが、年末調整はすでに支払い済みの所得税の微調整の役割が強いです。また、確定申告が2~3月に申告するのに対して、年末調整は通常12月に行われ、12月、または1月の給与に反映されます。

家を買ったらなぜ確定申告が必要なの?

さて、先ほど述べたように、年末調整では控除を考慮して所得金額を計算し直します。では、年末調整で住宅ローン控除もすぐに適用されるかというと、実は、初めて住宅ローン控除の適用を受ける際には、1度だけ確定申告が必要です。

正確に言うと、住宅を取得・入居した年の翌年に、確定申告をすることになります。

なお、2年目以降は、初年度の確定申告後に税務署から送付される所定の書類と、金融機関から交付されるローンの年末残高証明書を会社に提出することで、年末調整として控除を受けることができます。

住宅ローン控除の確定申告手続き

住宅ローン控除のための確定申告が、人生初めての申告という方もいらっしゃるかと思います。ここからは、確定申告の手続きについて、説明していきます。

時期(申請と還付の時期)

確定申告の期間は、毎年2月16日~3月15日です。事業所得や不動産所得がある方の場合、この期間に毎年申告をします。会社員などの給与所得者の場合は、住宅ローン控除の適用を受けるための、初年度のみの申告で大丈夫です。

なお、会社員などの給与所得者が、住宅ローン控除のように納め過ぎた所得税の還付を受けるために行う確定申告を、還付申告といいます。この還付申告は、通常の確定申告と異なり、申告する年の1月1日から5年間申告できますので、通常の確定申告の期間を過ぎても、諦めずに申告しましょう。(※1)

ただし、後ほど住民税に対しても住宅ローン控除が適用される旨をご説明しますが、住民税への控除適用は、住民税の納税通知書が送達されるまでに、確定申告書が提出されている必要がありますので早めの申告を心がけましょう。

還付の時期については、申告後、1ヵ月~1ヵ月半程度かかります(※2)。また、e-Tax(電子申告)を利用した際は、3週間程度に短縮します。ただし、あくまで目安のため、申告が集中した場合は、もう少し時間がかかります。

※1 出典:国税庁 還付申告(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
※2 出典:国税庁 税金の還付(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/qa/11.htm

申請場所

住所地を管轄する税務署で申告します。また、郵送による方法や、e-Tax(電子申告)を利用して、在宅での申告も可能です。

必要な書類一覧

住宅の売買契約書の写しや、源泉徴収票など、必要な書類が多いので、下記の表を参考に、早めに準備を始めましょう(※3※4)。

なお、以前は必要だった住民票の写しですが、マイナンバー制度の導入により、2016年分の確定申告からは、原則として不要となりました。申告書に、マイナンバーカード、もしくは通知カードを見て、マイナンバーを記入します。

また、提出書類ではありませんが、申告書の提出時に、本人確認書類として、下記のいずれかの書類の提示(郵送の場合はコピーの添付)が必要となります。

  • マイナンバーカード
  • 通知カード + 身元確認書類(運転免許証、パスポート等)
  • マイナンバーの記載のある住民票等の写し + 身元確認書類(運転免許証、パスポート等)

※3 出典:国税庁 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm
※4 出典:国税庁 中古住宅を取得した場合(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1214.htm
※5 出典:国税庁 確定申告書(http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/02.htm
※6 出典:法務局 オンライン申請(http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html

2年目以降の手続きは?

2年目以降は、会社で行う年末調整によって、控除が適用されます。その際に、会社に提出する書類としては、下記のものがあります。

  • (1)給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
  • (2)年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書
  • (3)住宅ローンの年末残高証明書

(1)と(2)の書類は、2つ併せて1枚の書面となっており、初年度の確定申告を行うと、その年の10月頃に、税務署から以降9.年分の書類がまとめて送付されてきます。各年に対応する用紙を記入して、会社に提出します。下記は、(1)と(2)の見本(実物は(1)の部分が空欄)です(※7)。

住宅借入金等特別控除申告書の記載例

(3)の書類は、金融機関によって差がありますが、初回1年目は、ローン借入の翌年1月頃に、2年目以降は、10月頃に発送されるところが多いようです。下記は、(独法)住宅支援機構の年末残高証明書の見本です(※8)。

住宅支援機構の年末残高証明書1住宅支援機構の年末残高証明書2

なお、(1)と(2)の書類は、前述した通り、9年分まとめて送られてきますので、紛失に注意しましょう。再発行は可能ですが、書類の提出や、税務署に行く手間がかかりますので、しっかりと保管しましょう

※7 出典:国税庁 パンフレット・手引き(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/01.htm

※8 出典:(独法)住宅支援機構 「融資額残高証明書」の見本(https://www.flat35.com/user/genzei/genzei_mihon.html

確定申告申請方法

初年度の確定申告の手続きは、どのように行えば良いのでしょうか。

手続き

まず、管轄の税務署、もしくは国税庁のサイトより、申告に利用する確定申告書と、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書を取得します(※5)。

確定申告A(h29)1表目

確定申告書には、確定申告書(A)と確定申告書(B)があるのですが、会社員のような給与所得者は、確定申告書(A)を用いて申告しますので、ご注意ください。下記は、確定申告書(A)の一枚目です。

なお、確定申告書(B)は、自営業者や不動産所得のある方、また、給与所得者である会社員も含め、すべての方が利用できます。ただし、確定申告書(A)に比べて、記入する事項が多いため、会社員の方は、特にその他の所得が無ければ、確定申告書(A)を利用しましょう。

作成から提出方法

確定申告書(A)と、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(以降、計算明細書と呼びます)ですが、計算明細書で求めた金額をもとに、確定申告書(A)を記入するため、まずは計算明細書から記入しましょう。下記は、計算明細書の1枚目です(※5)。

住宅借入金等特別控除額の計算明細書(h29)1面

計算明細書記載時の必要書類

計算明細書は記載事項が多岐に渡ります。記入する際は下記の書類をお手元にご用意ください。

  • (1)建物・土地の売買契約書(請負契約書):「取得対価の額」等の記載時に必要です。
  • (2)建物・土地の登記事項証明書:「総(床)面積」等の記載時に必要です。
  • (3)住宅ローンの年末残高証明書:「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」等の記載時に必要です。

書き方が分からない場合、計算明細書に添付されている書き方の資料や、国税庁で公開されている手引きや、記載例を参考に、記載しましょう(※7)。また、税務署窓口でも相談に乗ってくれます。

確定申告書記載時の必要書類

確定申告書(A)を記入する際に必要な書類としては、下記のものがあります。

  • (1)計算明細書:「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額」の記載に必要です。
  • (2)源泉徴収票:「給与」や、「社会保険料控除」等の他の控除額を記載する際に必要です。

書き方が分からない場合は、計算明細書と同様に、確定申告書に添付されている書き方の資料や、手引き、記載例を参考に、記載しましょう(※7)。

郵送で提出

管轄の税務署へ、郵送で送ることができます。源泉徴収票などの添付書類は、忘れずに同封しましょう。

収受日印のある控えが必要な場合は、複写(複写式でないものについては、ボールペンで記載した)の申告書控えと、返信用封筒(宛名記載、切手貼付け必要)を同封すれば、税務署より返送があります。

税務署へ直接提出

管轄の税務署へ、直接持って行く方法です。収受日印のある控えがその場でもらえますが、確定申告の時期だと、待ち時間がある程度ありますので、ご注意ください。

ネットで提出

e-Tax(電子申告)を利用して、国税庁へ申告データを送信することができます(※9)。申告書作成も専用サイトからすることができ、還付も紙媒体の申告に比べて、早いです。ただし、利用するためには、ICカードリーダーと、電子証明書内蔵のマイナンバーカードが必要となりますので、注意が必要です。

なお、機器等がない場合でも、e-Taxサイトは申告書の作成(印刷にはプリンターは必要です)が可能なので便利です。

※9 出典:e-Tax (http://www.e-tax.nta.go.jp/

控除額はいくらになる?

ここまでは、申告手続きについて説明してきましたが、実際、住宅ローン控除を活用することで、どの程度、節税効果があるのでしょうか。実際にシミュレーションしてみましょう。

対象となる住宅

住宅であればどのような家でも住宅ローン控除を利用できるわけではありません。以下のような適用要件があります(※10)。

新築住宅の取得時

新築住宅の建築・購入時は、下記が住宅ローン控除の適用要件となります。

  • 住宅取得後6ヵ月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住していること
  • 家屋の床面積(登記面積)が50㎡以上であること
  • 床面積の2分の1以上が、専ら自己の居住の用に供されるものであること
  • 控除を受ける年の所得金額が3000万円以下であること
  • 民間の金融機関や独立行政法人住宅支援機構などの住宅ローン等を利用していること
  • 住宅ローン等の返済期間が10年以上で、分割して返済すること

この中で特に、住宅の取得後6か月以内に入居するという条件は、家族の仕事・学校の状況によって超過しがちのため、注意が必要です。

また、住宅ローンを組む際に、全期間が10年未満の場合、住宅ローン控除の適用外となります。これは、繰り上げ返済をした結果、ローンの全期間が10年を割った際も同様なので、繰り上げ返済をする際は、その点を留意しましょう。

中古住宅の取得時

中古住宅の購入時は、下記が住宅ローン控除の適用要件となります。

  1. 建築後使用されたことがある家屋であること
  2. 前述した〈新築住宅の取得時〉の適用条件をすべて満たすこと
  3. 次のいずれかに当てはまる家屋であること
    • その家屋の建築された日から取得の日までの期間が20年(マンション等耐火建築物については25年)以内であること
    • 一定の耐震基準に適合するものであると証明されたものであること

中古住宅であるため、耐震性に対しての要件が厳しくなっています。購入時に、不動産会社に確認しましょう。

※10 出典:国税庁 マイホームを持ったとき(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_1.htm

控除になる条件

住宅ローン控除による控除額は、年末の住宅ローン残高に、一定の控除率(2017年分は1%)を乗じた額となります。

ただし、控除額は控除限度額(2017年分は40万円)を超えることはできず、また、あくまで支払った税金の還付・返還なので所得税額(一部住民税も還付対象)以上にはなりません。

つまり、住宅ローン控除額は、以下の3つの金額のうち、一番低い額になります。

  • (1)住宅ローンの年末残高×控除率
  • (2)控除限度額
  • (3)所得税(+住民税)

(1)の控除税率と、(2)の控除限度額については、下記の表のようになっています(※3)。入居を始めた年によって、控除率や控除限度額が異なるため、注意しましょう。

また、(3)の住民税についての控除額は、期間によって額は異なりますが、下記の2つの額のうち、小さい額となります(※11)。

〔居住の用に供した年:2014年4月1日~2021年12月31日〕

  • 所得税の住宅ローン控除可能額のうち、所得税において控除しきれなかった金額
  • 所得税の課税所得金額の7%(上限136,500円)

〔居住の用に供した年:2009年1月1日~2014年3月31日〕

  • 所得税の住宅ローン控除可能額のうち所得税において控除しきれなかった金額
  • 所得税の課税所得金額の5%(上限97,500円)
居住の用に供した年 控除期間 各年の控除税率(控除限度額)
2007年1月1日から
2007年12月31日まで
15年 1から10年目
控除税率:0.6%(15万円)
11から15年目
控除税率:0.4%(10万円)
2008年1月1日から
2008年12月31日まで
 15年 1から10年目
控除税率:0.6%(12万円)
11から15年目
控除税率:0.4%(8万円)
2009年1月1日から
2010年12月31日まで
10年 1から10年目
控除税率:1%(50万円)
2011年1月1日から
2011年12月31日まで
10年 1から10年目
控除税率:1%(40万円)
2012年1月1日から2012年12月31日まで 10年 1から10年目
控除税率:1%(30万円)
2013年1月1日から
2013年12月31日まで
10年 1から10年目
控除税率:1%(20万円)
2014年1月1日から
2021年12月31日まで
10年 1から10年目
控除税率:1%(40万円)※個人の売主から消費税非課税で中古住宅売買を購入した場合、控除限度額20万円

※11 出典:東京主税局 個人住民税の税額控除(http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kojin_ju.html#gaiyo_07

控除額シミュレーション

ここで、2つのケースの控除額シミュレーションをしてみます。

ケース①

15年のローンを組み、初年度の年末の住宅ローン残高4800万円、所得税額等(住民税も含む)30万円とすると、住宅ローン控除額は下記の3つの金額のうち、一番小さい額となります。

  • (1)住宅ローンの年末残高×控除率=4800万円×1%=48万円
  • (2)控除限度額=40万円
  • (3)所得税(+住民税)=30万円

つまり(3)30万円が、住宅ローン控除額となります。

さらに、返済開始から5年(返済期間の3分の1)経ち、住宅ローン残高が、3200万円に減った時も考えてみましょう。所得税額等は所得の増加に従って、20%増加(36万円)しているものとします。

  • (1)住宅ローンの年末残高×控除率=3200万円×1%=32万円
  • (2)控除限度額=40万円
  • (3)所得税(+住民税)=36万円

この場合、(1)32万円が、住宅ローン控除額となります。年数がたち、所得の増加に伴って、(3)は増えていますが、住宅ローンの返済が進み、(1)の額が小さくなったため、結果として、控除額はほぼ変わっていません。

今後返済が進むと、残高減少に伴って(1)が徐々に減り、控除額も減って行くケースです。

ケース②

①のケースよりも返済期間の長い、30年のローンを組んだケースを考えてみます。初年度は①のケースと同条件のため、(3)30万円が、住宅ローン控除額となります。

返済開始から5年(返済期間の6分の1)経ち、住宅ローン残高が、4000万円に減った時を考えてみましょう。所得税額等は所得の増加に従って、20%増加(36万円)しているものとします。

  • (1)住宅ローンの年末残高×控除率=4000万円×1%=40万円
  • (2)控除限度額=40万円
  • (3)所得税(+住民税)=36万円

この場合は、(3)の36万円が、住宅ローン控除額となります。返済開始から5年経ち、住宅ローンの年末残高は減りましたが、借入期間が長いため、残高の減少速度は遅くなっています。そのため、最終的な住宅ローン減税の控除総額も、ケース①よりも多くなります。

ただし、ローンの長期化で住宅ローン控除によるメリットは大きくなりますが、ローンの利息負担は、ケース①よりも大きくなり、また、住宅ローン控除の適用期間10年を過ぎると、より一層利息の負担感が増すでしょう。利息とのバランスを考えて、返済期間を考えたほうが良いでしょう。

まとめ

住宅ローン控除の適用を受けるための確定申告の手続きの仕方を中心に説明してきましたが、いかがだったでしょうか。はじめての確定申告という方も多いかと思います。特に提出書類の多さや、適用要件の多さに戸惑われるかと思いますが、うまく活用すれば最大で400万円の節税効果があります。

大切なポイントは、住宅購入時に不動産会社から手渡される書類や金融会社から送られてくる書類、会社からの源泉徴収票をきちんと保管することです。その他、税務署での申告書や法務局での登記事項証明書があれば、申告書の記載に必要な書類はおおよそ揃いますので早めの準備を心がけましょう。

監修:尾山 道郎(ファイナンシャルプランナー)