「不動産投資を始めたいけれど、融資を受けて不動産を購入するのは返済できなくなった時のリスクが高い」と考えている方には、“不動産投資ファンド”がおすすめです。数多くの投資家から資金を集めて不動産に投資する“不動産投資ファンド”を利用すれば、個人の返済リスクを負うことなく、リターンを得ることが可能です。さらに、個人で不動産投資するよりも、手続きや作業の多さが少なくお手軽で魅力です。“不動産投資ファンド”の特徴やメリット、デメリット、そしてクーリングオフ制度についてまとめました。

不動産投資ファンドとは?

不特定多数の人が購入できる不動産投資ファンドには、“不動産特定共同事業”と“不動産投資信託(REIT)”の2つに大別することができます。

不動産投資ファンドの特徴とは?

不動産投資ファンドと一口に言っても、“不動産特定共同事業”と“不動産投資信託”とでは特性がまったく異なります。まずは、それぞれの特徴をしっかりと抑えておきましょう。

不動産投資信託(REIT)

“投資信託”とは、数多くの投資家から出資を募り、集めた資金で株式や債券を運用し、利益を出資者に分配する投資の手法です。少ない負担で投資を始めることができます。また、投資の専門家が運用しますので、投資家個人は運用にノータッチで済ませられるという利便性もあります。

投資信託の手法で株式や債券ではなく不動産に投資する商品を“不動産投資信託(REIT)”と呼びます。なお、日本の不動産を中心に作られた投資信託をJapanの“J”をつけて、“J-REIT”と区別することもあります。

J-REITは、数多くの投資家から集めた資金で、専門家が不動産を運用し、利益を投資家に分配します。一口1万円程度から投資することができますので、投資資金が少ない人も不動産投資が可能です。

不動産特定共同事業

複数の投資家から資金を集めて不動産投資を実施するという点は、“不動産投資信託”も“不動産特定共同事業”も同じです。しかし、“売買のしやすさ”という点においては異なります。不動産投資信託は証券取引所に上場していますので、取引口座さえ開設すれば簡単に取引することができますが、不動産特定共同事業を利用するためには、都道府県知事もしくは国土交通大臣の認可を得た業者を通して直接投資に参加することが必要になります。

不動産投資ファンドのメリットとは?

不動産投資信託と不動産特定共同事業には、次のようなメリットがあります。

不動産投資信託(J-REIT)

先ほども説明しました通り、不動産投資信託を利用すれば、少額の資金でも不動産投資が可能です。

また、“手軽さ”も不動産投資信託のメリットと言えます。不動産投資を個人で行う場合には、不動産購入の資金を借りることや投資に適した土地を購入すること、物件を建てること、入居者を探すこと、物件を維持すること、固定資産税などの税金を支払うことなど、さまざまな手続きや作業があり、決して簡単に始めることはできません。しかし、不動産投資信託なら投資家は「投資額を決めること」「適切なタイミングでファンドを購入・売却すること」の2つだけで利益が得られますので、非常に手軽に投資を実施することができるのです。また株式同様に分配金(株式でいうところの配当金)を受け取ることができます。

それに加えて、空室リスクや家賃滞納リスク等を考えなくてよい所も、不動産投資信託のメリットの1つです。不動産を1つだけ所有しているときは、貸借人が家賃を払わないときや火災により物件を失ったとき、オーナー自身が金融機関の返済に行き詰ったときなど、多大な損失を被ります。しかし、不動産投資信託なら1つのファンドで複数の不動産からの利益を得ることができますので、家賃の未払いリスクや災害リスク等も分散させることができるのです。

すぐに売却できることも不動産投資信託のメリットです。不動産は流動性が低く、売却したいときにすぐに売却できるとは限りませんが、不動産投資信託なら証券取引所で常に売買が可能ですので、資金が必要なときはすぐに売却して現金化することができます。

不動産特定共同事業

不動産特定共同事業は一人で不動産を所有することと比べると、少ない資金で参加できるというメリットがあります。投資に利用できる資金を不動産以外にも振り分けることができますので、投資リスクを軽減することができます。

また、不動産投資信託と比べると、不動産と個人投資家の間に入る業者が少ないため、収益のほとんどを利益として投資家が獲得できるというメリットがあります。不動産投資信託は手軽に利用できる分、上場基準を維持するなど様々なコストを要し、結果として投資家の配分が少なくことも考えられます

不動産投資ファンドのデメリットとは?

不動産投資信託も不動産特定共同事業も、いずれもメリットの多い投資方法です。しかし、デメリットがないわけではありません。それぞれ次のようなデメリットを有します。

不動産投資信託(J-REIT)

不動産投資信託は、前述したとおり、不動産と投資家の間に不動産を運用する業者や投資信託として運営する業者などさまざまな業者が入るため、その分投資家に還元される利益が少なくなるというデメリットがあります。

また、投資法人の破綻により上場廃止になるリスクもあります。J-REIT初の破綻例は、2008年10月9日、ニューシティ・レジデンス投資法人が民事再生法適用を申請し、破綻したケースが挙げられます。上場廃止となると、そのファンドを保有していた人はスポンサーが現れないと出資口の大半が毀損し、最悪のシナリオとして投資したお金が全く返って来ないことすらあり得ます。

一方、不動産という現物を所有している場合は、不動産自体が消滅することはありません。地域や投資した不動産のタイプにもよりますが、その価値が0円になってしまうことは考えにくいと思われます。反対に、価値が下落した後も所有し続けるなら、価値が再び上昇する可能性も期待できるでしょう。

不動産特定共同事業

不動産投資信託と比べると、購入できるファンドが少ないというデメリットがあります。いつでも募集をしているわけではないため、理想に合うファンドを見つけられないこともあります。

不動産投資ファンドのリスクとは?

不動産投資ファンドには、次の6つのリスクがあります。

元本保証されない

不動産投資ファンドは元本が保証されていません。投資する不動産や運営の方法によっては、元本割れすることがあります。

賃料下落のリスク

不動産投資ファンドで賃貸物件を運用する場合、景気や土地の価格変動、物件の劣化などのさまざまな要因により、賃料が下落するリスクを抱えます。

不動産ファンド運営者が破綻するリスク

不動産投資ファンドを運営する業者自体が破綻するリスクがあります。不動産の所有権を持たないときは、業者破綻により出資した金額が回収できないこともあります。

満期前に途中で終了するリスク

ファンド運営業者が運営継続が難しいと判断したときは、満期日までに投資が終了してしまうこともあります。

実物不動産投資と同じ!!物件の瑕疵・天変地異のリスク

物件が予想外の出来事で壊滅あるいは損傷を受け、資産価値を大きく落としてしまうことがあります。

建築・不動産関連の法令と税制改正による利回り変動のリスク

法改正などにより、利回りが下落してしまうこともあります。利回りが大幅に下落すると、受け取れるはずの利益も大きく下落してしまうことになります。

不動産投資ファンドの専門用語を理解する

不動産投資ファンドを始める前に、不動産投資ファンドでしばしば利用される専門用語について理解しておきましょう。特に“SPC”と“ノンリコースローン”の2つは使用頻度が高いですので、かならず意味を抑えておいてください。

SPCとは?

特定の目的を達成するために設立された事業者を、“特定目的会社(SPC、Special Purpose Company)”と言います。不動産投資ファンドにおいては、一般投資家から出資を募り、資金を集めて不動産を保有して運用を他社に依頼するなどの役割を果たす会社を“SPC”と呼びます。不動産投資においては、SPCは不動産を証券化して流動性を高める役割を果たしています。

ノンリコースローンとは?

融資を受けた金額に対して債務者が一切の責任を負うローン商品を“リコースローン”と呼ぶのに対し、債務者の責任を担保の対象となる不動産が生み出す収益の範囲に制限するローン商品を“ノンリコースローン”と呼びます。

一般的なローン商品は、ほとんどが“リコースローン”です。リコースローンで不動産を担保にした場合、債務者が返済に行き詰ると、債権者は不動産を売却することで債権を回収します。しかし、担保の売却額が残債に満たないときは、債務者はその足りない分に関しても返済する責任を負うことになっています。

一方、ノンリコースローンは、責任範囲が担保となる物件に制限されていますので、たとえ担保不動産を売却した金額が残債に満たないときも、債務者に差額についての責任が追及されることはありません。債権者は不動産を売却して、できるだけ多くの資金を回収できるように努めます。

不動産特定共同事業のクーリングオフと解約

不動産特定共同事業は、個人と不動産特定共同事業者との契約です。クーリングオフ制度と解約方法について見ていきましょう。

不動産特定共同事業のクーリングオフ

契約書面を受け取った日から8日以内なら、契約をペナルティなしでクーリングオフすることができます。なお、契約書面を受け取った日を1日と数えます。ただし、契約解除は書面によることが必要です。

不動産特定共同事業の解約(買い取り請求権)とは?

基本的には不動産特定共同事業をいつでも解約(買い取り請求)することができます。ただし、出資金に応じて解約手数料を請求されます。

不動産特定共同事業の解約(第三者への譲渡)とは?

不動産特定共同事業を解約する際に、権利を第三者に譲渡することも可能です。ただし、買い取り請求を実施するときと同様、出資金に応じて手数料が請求されます。

最後に

気軽に不動産投資を実現できる不動産投資ファンド。個人で不動産を運用するのと比べるとリスクは少ないものの、元本割れや価格下落のリスクがまったくないわけではありません。メリットとデメリットを把握してから着手しましょう。

監修者:田井 能久(不動産コンサルタント)