土地や建物などの不動産を所有している場合に課される税金として、固定資産税があります。固定資産税を期限までに納付せずに滞納を続けた場合、様々な不利益が生じることになります。支払いを促す督促状や延滞金が発生した後も遅延を続けると、ついには差し押さえによって手持ちの財産が強制的に処分されてしまう場合もあります。ここでは、固定資産税を滞納した場合に生じる事柄や対応策についてご紹介します。

納期限までに固定資産税を納めなかった場合

納付期限までに固定資産税を納付しない場合は、督促状の送付や延滞金の発生などの処理が行われます。それでも滞納が続く場合は、財産の差し押さえなどの強制処分に移行することになります。

督促状が発送される

納付しなければならない期限を経過した後も、固定資産税の支払いがない場合は、滞納について自治体の窓口などに相談に行かない限り、自治体から固定資産税についての督促状が発送されます。

地方税法371条の規定に基づいて、督促状は納付期限から20日以内に発送されてきます。督促状はハガキか封筒で発送されますが、記載されている内容はどちらも基本的に同じです。納付書が同封されている場合もあります。督促状の細かい書式は自治体によって異なりますが、主な記載事項は以下のようになります。

納税義務者の住所(固定資産税が共有の場合は、原則として代表者の送付先)、氏名、未納となっている税目、納付期限、税額、納付番号などです。

納付番号は、自治体のデータベースで情報を管理するための番号で、電話等で問い合わせる場合には番号を伝えると、問い合わせがスムーズに進みやすくなります。注意点として、期限経過後に固定資産税を納付済みの場合でも、発送手続きまでに納付データの確認が取れていなければ、入れ違いで督促状が発送される場合があります。

【出典】地方税法
URL:http://www.houko.com/00/01/S25/226.HTM#s3.2.3

延滞金がかかる

固定資産税の納付期限を過ぎると、期限までに収めた納税者との公平を保つために、延滞した期間の日数に応じて、元々の納税額に延滞金が加算されることになります。

延滞金の計算式は、以下のようになります。

(税額 × a × A ÷ 365) + (税額 × b × (B - A) ÷ 365)=延滞金

a:納付期限の翌日から、1ヶ月を経過する日までの間の延滞金の割合。年度によって異なり、平成30年中は年2.6%。

b:納付期限の翌日から、1ヶ月を経過した日以後の延滞金の割合。年度によって異なり、平成30年中は年8.9%。

A:納付期限の翌日から、1ヶ月の間の日数

B:納付期限の翌日から、納付した日までの日数

延滞金は、金額が1,000円以上になった場合に納付する必要があります。延滞金の金額は、100円未満は切り捨てます。延滞金の正確な金額や納付手続きの方法については、自治体に問い合わせると安心です。

滞納を続けると差し押さえられる

督促状が送付された後も固定資産税の未納が続いた場合、納税義務者の財産の差し押さえの手続きが進行することになります。

財産の差し押さえとは?

固定資産税の滞納が続くと、納税義務者の財産を対象に差し押さえが実施されることになります。差し押さえは強制処分であり、滞納者の同意や事前連絡なしで実施することが認められています。

税金の滞納処分における差し押さえとは、納付を怠っている納税義務者が有する財産の処分を禁止し、競売などに掛けて換金し、税金の支払いに充当するための行為です。

差し押さえが実施される時期は、滞納から数ヵ月以上経過してからの場合が一般的ですが、制度上は滞納から10日を経過すれば差し押さえが認められているため、差し押さえのタイミングは自治体によって異なります。

差押通知書・差押予告書が届く

差し押さえを受ける場合は、何の前触れもなくいきなり実行されるわけではなく、差し押さえの前に差押予告書などの書類が送付されます。固定資産税を滞納している場合には、差し押さえに関する書類が来ていないかきちんと確認しておくことが重要です。

税金を滞納している場合に自治体が強制的な差し押さえに踏み切るケースでは、滞納者から何の連絡もない場合が多くなっています。最終的な手段を実行される前に、自分から誠意を持って担当部署に連絡を入れることが大切です。

差し押さえられる財産

固定資産税を滞納している場合に差し押さえられる財産としては、不動産、銀行の預金口座、勤務先からの給与の一部、などがあります。

民事で差し押さえをする場合と異なり、税務署や市役所が差し押さえをする場合は、国税徴収法によって、身辺調査や財産調査などの調査権限が認められているため、比較的簡単に預金口座や勤務先の特定ができるようになっています。

自営業で給与の差押えができない場合や、預金口座にほとんど残高がないような場合は、実際に自宅に踏み込むことで、物(動産)を直接差し押さえる場合もあります。差し押さえの対象になる物は、基本的には貴重品です。例としては、車、バイク、貴金属、宝石、ブランド品、絵画、骨董品、高価なゲーム機器、などです。

固定資産税の滞納処分で差し押さえられた物品は、公売用のオークションによって売却され、現金化されて税金の支払いに充当されます。

【出典】国税徴収法
URL:https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tyousyu/mo
kuji.htm

差し押さえが禁止されている財産

差し押さえが実施される場合でも、全ての財産が差し押さえの対象になるわけではありません。最低限の生活が憲法で保障されていることを受けて、国税徴収法によって、差し押さえてはいけない財産(差押禁止財産)が定められています。

差押禁止財産の例としては、以下のものがあります。

・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具

・生活に必要な給料の一部、児童手当、食料、燃料

・農業を営むものの農機具、漁業者の漁具、技術者や職人の器具など、業務に欠くことのできないもの

・実印、仏像、位牌など

固定資産税を支払えないときの解決策

手持ちの資金に余裕がなく、固定資産税を支払うことが難しい場合の解決策をご紹介します。

通常分納について

通常分納は、未納の固定資産税を分割して納付していく方法です。基本的には電話で担当部署に連絡をして、分活用の納付書を送付してもらいます。

もっとも、遅延の常習のような場合には対応してくれない場合もあるので、通常分納の相談は早めに行っておくことが重要です。通常分納のデメリットは、延滞税は免除されないことです。また、通常分納を依頼しながら期限までに収められなかった場合には、信用できないと判断されて差し押さえなどの手続きに移行する場合もあります。

急な入院など、やむをえない事情でどうしても今月は払えないという場合には、早めにその旨を相談しておくことが大切です。

納税の猶予について

災害や盗難にあった場合、家族が病気や怪我をしてしまった場合、事業の廃止や著しい損失を被った場合など、特別な事情がある場合は、納税の猶予の手続きが認められる場合があります。

納税の猶予は地方税法15条に規定されている制度です。認められると、返済期間の猶予、分割払いが可能、延滞金の5割~10割の免除、差し押さえの禁止、などの様々な効果を得ることができます。

納税の猶予は効果が高い反面、書類を作成して審査を受ける必要があるので、手続きは少し複雑になります。

【出典】地方税法
(URL:http://roppou.aichi-u.ac.jp/joubun/s25-226.htm

換価の猶予について

既に財産を差し押さえられている場合には、換価の猶予という手続きによって、処分が猶予される場合があります。換価の猶予が認められると、差し押さえによる財産の処分が猶予されるほか、延滞金の50%が免除されます。換価の猶予の要件は、財産の差し押さえが実施されていること、財産の売却によって生活の困窮や事業の継続の困難の恐れがあること、他に税金の滞納がないこと、などです。デメリットは、書類審査などの手間がかかるほか、換価の猶予を認めるかどうかの処分権限は行政にあり、必ず認められるとは限らないことです。

固定資産税を滞納することで発生するデメリット

固定資産税を滞納することで、財産の差し押さえや延滞金以外にも様々なデメリットが発生します。

督促による精神的苦痛

固定資産税の滞納が続くと、督促状が何通も届く場合が多くなります。届いた督促状を見るだけでも、精神的なプレッシャーを感じることがあります。また、督促状だけでなく、電話や訪問による催促が行われる場合もあります。どれも心理的な負担を感じることにつながるので、余裕があればできるだけ早く納付を済ませることが重要です。

経済的なダメージ

固定資産税の滞納が続くと、延滞金が発生してきます。遅延すればするほど延滞金の額も高くなり、支払いが更に難しくなる、という悪循環も生じてしまいます。延滞金が膨らまないうちに、納付の相談をするなどの対策が必要になってきます。

信用の墜落

滞納を続けていると、差し押さえと強制執行に向けて、納税義務者の財産の調査が行われます。行政による調査の権限は強く、銀行、保険会社、事業主の取引先など、隅々まで調査されることになります。取引先などが調査の対象になれば、信用を失うおそれがあります。事業取引の停止など、社会的な不利益につながる可能性もあります。

固定資産税からは逃れられない?

債務を免れる方法としては、自己破産や消滅時効などの制度が一般的ですが、固定資産税から逃れる方法としては実用的ではありません。

固定資産税は自己破産しても免責されない

自己破産の手続きをして、裁判所で免責決定がなされると、様々な債務について免責が認められることなります。ところが、固定資産税については自己破産をしても免責されません。住民税、健康保険税、年金など、公的な請求権については、破産法によって自己破産の免責の対象外として規定されているためです。

【出典】破産法
(URL:http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15920040602075.htm)

税金は他の納税者との公平性が重視

税金などの公的な請求権は、納税者間の公平性が非常に重視されます。自己破産などの手続きによって債務から免れることを認めると公平を欠くことから、免責される債務から除外されています。自己破産をする際のポイントとしては、手持ちの財産を優先的に税金の支払いにあてることが重要です。

固定資産税滞納金の時効は5年

固定資産税滞納金にも5年の消滅時効がありますが、事実上は5年の期間が満了することはほぼありません。

5年以内に差し押さえされる

固定資産税の時効は、期間中に請求や差し押さえなどが実施されることで中断し、事由が発生したときから新たに5年が経過する必要があります。行政もその点は把握しているため、時効が完成する5年以内に差し押さえを実行するのが通常です。

給料や銀行口座を簡単に特定される

固定資産税を滞納している場合は、行政に強力な調査権が認められていることから、給料や銀行口座は簡単に特定されます。それによって、5年の時効を迎える前に給料や銀行口座を差し押さえられて、未払いの税金の支払いに充当される場合が非常に多くなります。

時効消滅は事実上無理

以上から、固定資産税については5年の消滅時効が完成する場合は、ほぼないといえます。時効をあてにするのではなく、他の解決方法を探ることが建設的です。

まとめ

固定資産税を滞納してしまった場合の流れについてご紹介しました。税金を滞納し続けると、督促状、差押予告書、財産の差し押さえ、財産の強制処分、の順に手続きが進行していきます。滞納によって延滞金が発生するだけでなく、調査による信用の失墜などの不利益が生じる場合もあります。

固定資産税は自己破産をしても免責されず、5年の消滅時効も実質的に期待できないため、担当部署に早めに相談し、誠実に支払いを続ける姿勢を示すことが大切です。固定資産税の滞納による事柄を把握することで、万が一の場合を乗り切る一助となりましたら幸いです。

監修:添田裕美(税理士)