土地の価格は一物四価と言われ、複数の価格が存在しています。これらの価格にはそれぞれに目的によって定められている価格水準が異なり、取引価格については取引の経緯や事情などにより価格水準に幅が生じます。一物四価と言われる4つの価格のそれぞれの意味と相互の関係性を知り、相続税路線価を使った宅地評価の方法を理解することで相続税対策に役立ち、土地の相場観を養うことにもなります。

路線価の概要と土地の4つの価格

土地の価格を表す指標のひとつに路線価があります。また、土地の価格は一物四価と呼ばれています。これらについて以下に解説します。

路線価とは?

路線価とは、不特定多数の人が通行する道路(路線)に面する宅地について1平方メートル当たりの評価額のことをいいます。路線価は、路線に面する標準的な宅地を前提とした価格で、相続税、贈与税、固定資産税などの課税価格の計算の基準として用いられます。

土地の4つの価格

価格はひとつの物に対してひとつ定められるというのが自由な市場経済における原則で、これを一物一価の法則といいます。しかし、土地の価格については同一の土地について4つの価格が存在しており、これを一物四価と呼んでいます。4つの価格には、「路線価格(相続税評価額)」「取引価格(実勢価格)」「公示価格」「固定資産税評価額」があります。

路線価格(相続税評価額)

路線価格とは、国税庁が相続税、贈与税の計算を行うため土地の価格評価の基準として公開している価格のことをいいます。毎年1月1日時点を評価時点として算定した価格を同年7月に公表しており、公示価格の80%程度を目安にした価格水準となっています。一般的に路線価格というと相続税課税のための路線価格を意味しますが、固定資産税課税のための路線価もあります。

取引価格(実勢価格)

取引価格とは、実際の不動産売買市場で取引される土地の売買価格のことをいいます。取引価格は売買において売り手と買い手で合意した価格であり、売買における事情が介在することもあるため他の評価額と異なり価格の幅が広いという特徴があります。4つの価格のうち次に説明する公示価格が土地の取引において指標とすべき価格であり、実勢価格に近い水準となります。

公示価格

公示価格とは、国土交通省に設置された土地鑑定委員会が地価公示法に基づいて公示する価格のことをいいます。公示価格は不動産の土地取引において指標とすべき価格であり、適正な地価の形成に資することを目的として公示されます。

毎年1月1日を評価時点として土地鑑定委員会から委嘱を受けた不動産鑑定士が評価した特定の地点(標準地といいます。)の価格を、土地鑑定員会が審査、調整を行った上で公示価格として公示しています。

固定資産税評価額

固定資産税評価額とは、市町村(東京都23区は都)が固定資産税を課税するための基準となる価格のことをいいます。固定資産税評価額は3年毎の1月1日時点に評価の見直しが行われ、公示価格の概ね70%を目安に評価が行われます。

2つの土地評価方式

相続税評価における土地評価方式には路線価方式と倍率方式の2つがあります。

路線価方式とは

路線価方式とは、路線価が設定されている地域において土地の相続税評価を行う方法のことです。

路線価は路線価が設定されている道路(路線)の区域において標準的な宅地を前提とした評価額です。このため、個別の土地評価を行う場合には対象となる土地の形状や間口、奥行きなどの個別的な特徴を反映させるための各種補正を行う必要があります。こうして求めた価格に土地の面積を乗じて相続税評価額を算定します。

倍率方式とは

倍率方式とは、路線価が設定されていない地域において土地の相続税評価を行う方法のことです。

倍率方式では固定資産税評価額に財産評価基準で定められている一定の倍率を乗じて土地の相続税評価額を算定します。固定資産税評価額では土地の形状などの個別的な特徴が反映されているために路線価方式のような各種補正を行う必要はありません。

路線価の調べ方と見方

路線価を使って相続税評価額を計算するためには路線価の調べ方と見方を知らないといけません。以下に説明していきます。

路線価図はネットで確認できる

路線価を知るためには路線価図を確認する必要があります。路線価図は最寄りの国税局や税務署に備え付けられたパソコンから確認することもできますが、現在はインターネットに接続できれば国税庁の路線価のページにアクセスすることで自宅などからでも確認することができます。

出典http://www.rosenka.nta.go.jp/

路線価図のどこを見ればいいのか

路線価図において調べたい宅地が面する道路上に記載されている数字が路線価です。数字は1平方メートル当たりの金額を1,000円単位で表しています。また、数字の後に記載されているアルファベットは、道路に面する宅地の借地権割合を表しています。

借地権割合とは建物を所有するために宅地を借りて使用する権利の更地価格に対する価値割合のことで、借地権割合が60%であれば、当該宅地の借地権の価格は路線価の60%ということになります。借地権割合はA~Gで表されており、Aが90%、Bが80%と10%刻みで下がっていきます。

したがって宅地が面する道路上に「200C」と記載されていれば、当該道路に面する標準的な宅地の路線価は1平方メートル当たり200,000円で、借地権割合は70%であることを示しています。

また、調べたい宅地の地区区分を確認する必要があります。地区区分とは路線価による評価を行うために定められた宅地の用途による分類のことで現実の使用方法とは関係がありません。これは宅地の価格は間口や奥行などの個別性によって影響を受け、その影響の程度は用途によって異なるためです。

丸や菱形などの記号によって地区区分を表していますので、路線価図の上部にある凡例と照合することで地区区分を確認することができます。

路線価図に何も書かれていないときの計算方法

路線価図で調べたい宅地が見当たらない又は道路の記載はあっても路線価が書かれていない場合には、当該宅地は倍率方式で相続税評価を行う倍率地域に存する宅地ということになります。倍率方式による相続税評価額を求める計算は、「固定資産税評価額×倍率」となります。

倍率方式では調べたい宅地の固定資産税評価額が必要になりますが、市町村から送付されてくる納税通知書や市町村の役所や役場などで閲覧したり、固定資産評価証明書を発行してもらうことで確認できます。また、固定資産税評価額には宅地の個別性が反映されていますので、路線価方式のように個性による各種補正を行う必要はありません。

土地評価額の計算方法

路線価方式による宅地の評価額の計算方法について説明します。

路線価方式の計算式

路線価方式による宅地の評価額は、「1平方メートルあたりの評価額×宅地面積」の計算によって求めることができます。1平方メートルあたりの評価額は路線価が標準的な宅地を前提とした価格であるため、土地の間口や奥行などの個別性を地区区分に応じた各種補正率を用いて反映させる必要があります。

奥行価格補正率とは

宅地について一方のみが道路に接している場合、奥行の長短は宅地の利用価値に影響を与えるため奥行の長さに応じて価格を調整する必要があります。奥行価格補正率とは、奥行の長さに応じて価格を補正するための率のことで、相続税評価では法令解釈通達による奥行補正率表にまとめられています。

宅地の奥行は長すぎると道路から離れた部分の利用効率が劣るために価値が減じる要因となり、短すぎると思うような建物が建てられないことなどもあり同様に価値が減じる要因となります。また、宅地の用途が商業適地か住宅適地かなどによっても奥行の長さが価格に与える影響の程度も異なってきますので相続税評価では用途による地区区分ごとに奥行価格補正率が定められています。

相続税評価では「土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表」で各種補正率がまとめられており、奥行価格補正率のほかにも不整形補正率、間口狭小補正率、がけ地補正率など宅地の価格に影響を与える要因別に地区区分ごとに補正率がまとめられています。

路線価方式の計算例

路線価方式を適用する宅地で奥行価格補正を行う必要のある場合の計算例を提示すると次のとおりです。なお、平成30年以降用の調整率表から数値は採用しています。普通住宅地区で路線価200,000円の間口20m、奥行30m、面積600㎡の宅地を例として計算をします。

間口20mは間口狭小補正率の適用は無いために減価はありませんが、奥行30mは0.95の奥行価格補正率による価格調整が必要になります。
以上から宅地の評価額は、路線価に奥行価格補正率と面積を乗じて、

200,000円×0.95×600㎡=114,000,000円

となります。

【出典】土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表:
http://www.rosenka.nta.go.jp/docs/h30_thyousei.pdf

自用地か貸宅地かによって計算方法が異なる

同じ宅地でも自用地か貸宅地かによって相続税における宅地の評価の計算方法が異なります。

自用地の場合

自用地とは、所有者が自分の意思で自由に使うことができる宅地のことをいいます。路線価は自用地の価格であることから、路線価に各種補正を行った1平方メートルあたりの評価額に宅地面積を乗じて宅地の評価額を求めます。

貸宅地

貸宅地とは、借地権などの使用収益を制約する権利が付着している宅地のことをいいます。借地権が付着することで宅地の所有者は自分の意思で自由に使用することは出来なくなるため自用地に比べて価値が減ることになります。

貸宅地のうち借地権が付着している宅地の評価額は、自用地としての価額から自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めた価額を控除して評価額を求めます。

借地権とは?

借地権とは、建物等の所有を目的として宅地に設定した地上権又は賃借権のことをいいます。借地権は取引慣行等により権利割合が異なり、借地権に対する権利が強い地域ほど借地権割合が高くなります。相続税評価のため路線価図では取引慣行等を勘案して借地権割合を路線ごとに定めています。

接面する道路状況によっても計算方法が異なる

宅地は接面する道路が一方のみとは限りません。側道があったり、背面道があったりします。接面する道路が増えることで宅地への出入りの利便性が増すことになり利用効率が高くなります。

このような接面する道路状況による価値の増分を反映させるために加算率を用いて計算を行います。

角地の場合

角地とは、正面と側方に道路がある土地ことをいいます。

角地による価値の増加を反映した価格は「(正面路線価×奥行価格補正率)+(側面路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率)」によって求めることができます。高い路線価のほうを正面路線価とし、側道による価値の増分は奥行価格補正が行われた側道の路線価に側方路線影響加算率を乗ずることで求められます。

側方路線影響加算率は地区区分によっても変わりますが、平成30年分以降用の調整表では0.02~0.1の加算率となっています。

準角地の場合

準角地とは、一本の道路が折れ曲がり、角地の状態となっている土地をいいます。準角地も一方のみが道路に面する土地と比べて価値は上がり、角地と同じ計算式で価値の増分を反映させることになります。ただし、角地ほどの効用増は認められないために側方路線影響加算率は低くなり、0.01~0.05となっています。

二方路地の場合

二方路地とは正面と裏面に道路がある土地のことをいいます。

二方路による価値の増加を反映した価格は「(正面路線価×奥行価格補正率)+(裏面路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率)」によって求めることができます。角地と同様に高い路線価のほうを正面路線価とし、裏面の道路による価値の増分は、奥行価格補正が行われた裏面道路の路線価に二方路線影響加算率を乗ずることで求められます。

二方路線影響加算率も地区区分によって変わり、平成30年分以降用の調整表では0.02~0.07の加算率となっています。

まとめ

土地の4つの価格はそれぞれ関係性を有しており、土地は間口、奥行や道路の状況によって価値の増減があることを理解していただけましたでしょうか。これらの知識を相続税対策や土地の相場価格の把握などに是非お役立てください。

監修:添田裕美(税理士)