空き家の増加が全国で社会問題になっています。空き家が増加することは、限られた土地資源が利用できない、建物の老朽化による倒壊の危険、腐食による周辺環境への被害など、様々な問題の原因になります。空き家対策のための特別法が施行されるなど、国や自治体による取り組みも活発に行われています。一方、急な相続によって取得した家屋の処分に困るなど、空き家と関わる可能性は誰にでもあります。ここでは、空き家を有効に活用するために役立つ情報をご紹介します。

空き家の現状

まずは、空き家が増えている原因や問題点を探っていきます。

空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)とは

国が定めた空き家に対する法律として、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)」があります。平成27年2月26日に一部が施行された後、同年5月26日から完全施行されました。空き家の増加や老朽化を防止して生活環境の保全を図る、空き家の活用を促進して地域の振興に寄与する、などを目的に制定されました。同法を制定することで、地方自治体が実施する空き家対策に法的な根拠を与え、より効率的に活動できるようにしたものです。

【出典】国土交通省: 空家等対策の推進に関する特別措置法:
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

空き家が増えている原因

空き家が増加する原因は複数ありますが、原因の1つに核家族化があります。核家族化が進む以前は、複数の世代が1つの住居に同居することが多く見られましたが、近年ではそれぞれの世代が家を持つことが普及しています。そのため、相続などで空き家となった親の家を持て余すなどの問題が生じています。そのほかの原因としては、新築物件を好む日本の傾向、利幅の小さい中古物件に消極的な不動産業界の姿勢、などが挙げられます。

空き家の問題点とは

空き家の問題点としては、土地や家屋を活用できない、建物の倒壊や破損によって事故や災害のリスクが高まる、不法占拠や放火などの犯罪の温床になる、などが挙げられます。

空き家ビジネスの現状

ここからは、空き家を利用したビジネスやサービスを見ていきます。

空き家管理代行サービスとは

空き家管理代行サービスは、空き家を管理するために必要な行為を、所有者に代わって業者が実施してくれるサービスのことです。サービスの具体的な内容は業者により異なりますが、例としては、換気、通水、清掃、除草、雨漏り確認、郵便物の回収や転送、敷地内の見回り、などがあります。

空き家の買取・転売事業とは

空き家を買い取り、リフォームなどを施して転売するビジネスです。中古マンションを中心とする不動産投資方法の1つでもあります。空き家の中でも立地条件や状態の良いものが買い取りの対象となるのが一般的なので、全ての空き家において利用できるとは限りません。

空き家の賃貸・売買の仲介事業とは

空き家の賃貸や売買を希望する二者の仲介を行うビジネスです。空き家の物件情報をウェブサイトなどで提供し、希望者を募って物件の紹介や仲介を行います。

政府や自治体の空き家対策

政府や自治体が提供する空き家対策をご紹介します。

空き家バンクの活用

空き家バンクは、自治体や自治体から委託を受けた団体が運営する、WEBサイトを中心としたサービスです。地域の空き家物件を掲載することで、所有者と利用希望者とのマッチングを図ります。不動産会社による物件情報の掲載サイトに似ていますが、営利目的ではなく空き家の活用を目的としています。

宿泊施設として活用

空き家をリフォームして宿泊施設にすることで、地域への移住を希望する方などに提供するサービスです。空き家対策と地域の活性化の取り組みを同時に行うことができます。

公共施設として活用

空き家を改装して、図書館や公民館などの公共施設として再利用する取り組みです。既存の建物を活用することで、空き家の減少と公費の節約の2つを実現することができます。

空き家活用前に知っておきたい3つのポイント

空き家を活用する前に、予め知っておくべきポイント3つをご紹介します。

更地にすると税金が6倍になってしまう

不動産を所有していると固定資産税が課税されますが、税金の額は、不動産の価値を表す基準である、「課税標準」に基づいて算定されます。固定資産税については、住宅1戸につき200平米までの小規模住宅用地の場合は、本来の課税標準額の1/6に減額される制度が設けられています。住宅が建っていることが減税の要件のため、建物を取り壊して更地にしてしまうと、1/6の減税が受けられなくなり、課税額が増えてしまいます。

空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)減税対象外へ

住宅が建っている場合でも、空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)における特定空家等に該当すれば、1/6の減税措置の対象外になります。特定空家等に該当する例としては、倒壊などの著しい危険がある状態、衛生上著しく有害となる状態、適切な管理が行われずに景観を損なった状態、などです。

自治体から補助金がもらえる場合もある

空き家増加への対策として、空き家のリフォーム費用などに自治体が補助金を出している場合があります。空き家物件を所有している場合は、物件の所在地を管轄する自治体の補助金制度を確認してみるのがおすすめです。

空き家の活用事例とメリット・デメリット

空き家を活用する方法は様々です。自分で楽しむ方法、他者に貸し出す方法、事業に活かす方法、などがあります。

居住用にする

空き家の活用方法の1つは、家屋をリフォームして自分で住むことです。自分で住むのであれば、必要な部分にだけ最低限のリフォームを施すことで、費用を節約することができます。また、建物の古さを生かして、昔ながらの温もりを感じられるレトロ調に仕上げるなど、工夫次第で自由に楽しむことができるのも魅力です。

賃貸物件として貸す

空き家を自分で活用することが難しい場合は、賃貸物件として貸し出す方法があります。空き家を貸し出すメリットは、家賃による収入で不労所得を得られることです。思い入れのある家屋を取り壊したくない場合にも、賃貸に出すことで収入を得つつ、家屋を残すことができます。居住者がつくことで、家も傷みにくくなります。貸し出すデメリットは、借り手を探すために労力がかかることです。また、経年劣化によって修繕やリフォームに費用が発生する場合があります。

改装を許可して店舗用に貸し出す

空き家の借り手を見つけるのが難しい場合は、大幅な改装を許可して店舗用に貸し出す方法もあります。借主に大幅なリフォームを許せば、店舗のために自由に改装できるメリットがあるので、借り手を見つけやすくなる可能性があります。

事業に活用する

空き家を貸し出す以外にも、様々な事業のために活用する方法があります。以下、事業ごとの活用方法を見ていきます。

【コミュニティスペース】

空き家の活用方法の1つとして、コミュニティスペースとして利用する方法があります。地域の人々が建物に集って、会話、食事、習い事など、様々な用途に使用することができます。公民館や公共センターも同じような使い方はできますが、もともと空き家であった物件を利用することでより気軽に利用してもらいやすくなります。

【移住者の体験用住宅】

空き家は、地域の移住体験用の住宅としても活用することができます。移住者用の体験住宅は、その地域に移住者を呼び込むための体験用の施設です。多くの場合は、都会からの移住者に田舎暮らしを体験してもらうために用いられます。細かい運用方法は様々ですが、地域の古民家を改修して体験施設にする方法が一般的なため、空き家との相性が良くなっています。

【会員制の民宿】

空き家を会員制の民宿に改装して運用する方法もあります。昔ながらの囲炉裏やかまどなど、その家が本来持っている雰囲気や魅力を活かして運用するのが一般的なため、最低限の改修だけで民宿として利用できる可能性が高くなっています。

【文化施設への提供】

図書館や資料館など、地域の文化施設として空き家を活用する方法があります。文化施設への提供という形になるため、個人の力だけでなく、地方自治体やNPO法人などと共同で実施する場合が多くなります。ある程度綺麗な状態で利用することになるので、改修や管理などに費用や手間がかかる場合もありますが、空き家を活用して地域に貢献できるという魅力があります。

【福祉・医療分野に提供】

福祉、医療分野に対して空家を提供する方法もあります。少子高齢化が深刻化する中で、特に田舎を中心とした地方において、福祉や医療に関連する施設が不足する傾向があります。空き家を活用することで、地域のデイサービスや診療所などに改装することができます。また、施設そのものでなくても、スタッフの宿舎などに利用する方法もあります。

土地を活用する

空き家物件を建物付きのままで利用することが困難な場合は、空き家を解体して更地にすることも1つの方法です。更地にすれば、建物の管理や修繕などに神経を使う必要がなくなり、借地にして貸し出すなどの利用の可能性が広がります。反面、建物を解体するためにまとまった費用が発生するというデメリットもあります。

売却する

空き家物件を活用するのが難しい場合は、物件を売却する方法があります。メリットとしては、もし売却することができれば、売却代金としてまとまった収入を得ることができます。また、物件の管理費用や固定資産税などの支払いの負担からも解放されます。しかし、立地条件が抜群に良いなどの特殊な条件を除けば、空き家物件を売却するのは容易ではなく、労力や手間がかかるのが一般的です。

知っておくべき空き家の解体手順

空き家を解体するためには、必要な手順を踏む必要があります。ここでは、解体の流れを順番に見ていきます。

解体の届け出を出す

空き家の解体工事を実施する前に、工事に関する届け出を行うことが法律で定められています。(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)具体的には、解体工事を行う場合、着工の一週間前には管轄の役所に届け出る必要があります。多くの場合は解体業者が届出を代行するのが慣例ですが、法律上は施主本人にも届出義務が課されています。届出がきちんと行われなかった場合、行政による指導や処分の対象になる場合があるので注意が必要です。


【出典】建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律:
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/recyclehou/hourei_kokuji/houritsu01.htm

家具の処分

空き家を解体する場合は、家の中の家具、家電、日用品などの不用品を処分する必要があります。家具などの処分は一括で業者に依頼することも可能ですが、自分で処分したほうが費用を安く抑えられるものもあります。例としては、カーペット、カーテン、洋服などの紙・布製品は、通常のゴミ出しや資源ごみ回収などで処分することが可能です。また、家具や家電などは、リサイクルショップに持ち込めば買い取ってもらえる場合もあります。

電気、ガスを止める

空き家の解体工事の際には、電気やガスなどのライフラインの停止手続きを済ませる必要があります。停止手続きの方法は、サービスの供給業者によって異なりますが、電話やWEBで申請を行うのが一般的です。申請が遅くなるとすぐに対応できない場合もあるので、解体を実施する1週間ほど前を目安に、早めに連絡をすることが大切です。

浄化槽の汲み取り

浄化槽は、一般に庭や駐車場などの地下に設置されていることが多い設備です。日常生活の中で生じる排水を浄化するために用いられます。空き家に浄化槽が設置されている場合は、浄化槽の撤去や解体も実施することになりますが、浄化槽内にはこれまでの生活排水が溜まっているため、浄化槽の清掃業者に依頼して、汲み取りによる清掃を行う必要があります。

建物の解体

空き家を解体する場合は大掛かりな作業になるため、解体業の登録や許可を受けている業者に依頼するのが一般的です。建物の解体時によくあるトラブルは、見積書になかった様々な費用を後で請求されることです。解体を依頼する場合は、トラブルを防止するために、見積内容について入念に打ち合わせをしておくことが重要です。

建物を解体したことの申請

建物の解体が完了して、土地の上に建物が存在しなくなった場合は、建物が消失した旨の登記の申請を行う必要があります。(不動産登記法第57条)

消滅の登記は、解体工事が完了してから1ヶ月以内に実施する必要があります。建物の消失の登記を行う義務がある者が、その申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられる場合があるため、注意が必要です。(不動産登記法第164条)

【出典】不動産登記法:
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000123&openerCode=1#871

まとめ

空き家を有効に活用するための情報をご紹介しました。空き家を活用するための方法としては、空き家ビジネスを利用する、リフォームして自分で居住する、賃貸に出して家賃を得る、事業に活用する、などの方法があります。空き家を活用することが難しい場合は、解体の届け出や抹消登記などの手続きを済ませ、更地にして新たな活用方法を模索することもできます。活用方法は様々ですが、空き家をきちんと活用できれば、自分が利益を得られるだけでなく、地域や社会に貢献することも可能になります。