毎年4~6月になると所有する建物や土地の固定資産税の納税通知書が自治体から届きます。納税通知書に記載されている納税額を見ることで固定資産税の額が分かります。ですが、その納税通知書の中には評価額や課税標準額、相当税額など、聞きなれない単語も多く、どのように固定遺産税が計算されているか分かりづらくなっています。今回は「評価額と課税標準の関係と違い」、また、「固定資産税の計算方法」が分かるように、詳しく解説していきます。

固定資産税と課税標準額について

納税通知書を見ると、土地や建物の価格と思われる固定資産税評価額と課税標準額という2つの金額を見て、混乱される方も多いのではないでしょうか。ここでは、固定資産税について説明するとともに、この2つの価格の違いや、固定資産税との関係について、解説していきます。

固定資産税とは

土地や建物、償却資産の1月1日時点での所有者に対して、固定資産の所在する各市町村が課税する税金のことを、固定資産税といいます。償却資産は、土地や建物以外の、事業に使用される資産です。受変電設備や、ブルドーザーなどの土木建設車両など、事業用の設備や備品が対象になります。

なお、課税されるのは1月1日時点での所有者ですので、1月2日に取得したとしても、その年の納税の義務はありません。ただし、売買で不動産を取得した場合、売主が支払った1年分の不動産の固定資産税について、引渡し日までの期間に応じて固定資産税相当額を按分することが通例となっています。

固定資産税評価額と課税標準額の違い

ここでは、固定資産税評価額と課税標準額の概要について見ていきます。

固定資産税評価額

固定資産税は、固定資産の価値に応じて課税されます。固定資産税評価額とは、各自治体が、総務大臣の定めた「固定資産評価基準」に沿って評価する固定資産の価値のことです。特に税負担軽減のための特例がない場合、この固定資産税評価額に、固定資産税率を乗じたものが固定資産税の納税額となります。

課税標準額

固定資産税評価額に、小規模住宅用地の特例や負担調整措置など、税負担軽減のための補正がされたものを、課税標準額といいます。逆に、特例などの補正がない場合、課税標準額=固定資産税評価額となります。

固定資産税の納税額は、下記のようになります。

固定資産税 = 課税標準額 × 税率

土地の負担調整措置とは

固定資産の評価基準の変更や地価の上昇などで、固定資産税評価額が急激に変化すると、過度な税負担が発生します。その負担を和らげるため、当年度評価額(住宅用地の場合、住宅用地の特例適用後)と前年度課税標準額を比較して負担水準を求め、その負担水準に応じて、固定資産税額の負担調整をします。

これが、土地の負担調整措置と呼ばれるものです。ここでは、この土地の負担調整措置について、詳しく解説してきます。少し難しい内容となりますので、簡単に概要を知りたい方は【固定資産税評価額の調べ方まとめ】まで進んでください。なお、当年度評価額を求めるのに必要な住宅用地の特例については、後ほど説明します。

負担調整措置導入のきっかけ

平成6年度の評価替えの際、宅地の固定資産税評価額が市場価格に比べて著しく低い状況を是正するため、固定資産の評価水準が、地価公示価格等の7割に設定されました。それにより、固定資産税の税額が急激に増えたため、その負担を緩和するために、負担調整措置が取られることとなりました(※1)。

※1 出典:武蔵野市役所 税負担の調整措置(http://www.city.musashino.lg.jp/kurashi_guide/zeikin/koteishisan_toshikeikakuzei/1004650.html

負担水準の計算式

負担水準の計算式は、下記となります。

負担水準 = 前年度課税標準額 ÷ 当年度評価額 × 100%

なお、当年度評価額は、小規模住宅用地の特例や一般住宅用地の特例を適用後のもので、自治体によっては本則課税標準額という項目で、納税通知書に記載してあることがあります。負担水準に従って、当年度課税標準額は下記のように調整されます。

負担水準表

やや難しいですが、下記の点を抑えておくとよいでしょう。

〔住宅用地の当年度課税標準額〕

・前年度課税標準額と当年度評価額を比較して、前年度課税標準額が高い場合、当年度評価額を固定資産税の計算に使用します。
・前年度課税標準額と当年度評価額を比較して、当年度評価額が高い場合、当年度評価額を超えるまで、毎年、当年度評価額の5%にあたる額だけ、増えていきます。
・当年度課税標準額の下限は、当年度評価額の20%です。

〔商業地等の当年度課税標準額〕

・固定資産税評価額の70%が上限で、評価に大きな変化がなければ、その額で安定します。
・前年度課税標準額と当年度評価額の60%を比較して、当年度評価額の60%が高ければ、当年度評価額の60%を超えるまで、当年度評価額の5%にあたる額だけ、増えていきます。
・当年度課税標準額の下限は、当年度評価額の20%です。

なお、後ほど行う住宅用地の特例に関する説明の際に、課税標準額の計算が出てきますが、この課税標準額は、今回の土地の負担調整措置の計算に用いられる、当年度評価額(住宅用地の特例適用後)にあたります。

住宅用地の特例の説明部分を読んだ後、再度こちらを読み直すと、より理解が深まるかと思います。

固定資産税評価額の調べ方まとめ

固定資産税を計算する上で、固定資産税評価額が必要になります。ここでは、その調べ方を解説します。

以上の負担調整措置をもとに、当年度課税標準額を求め、その課税標準額に、固定資産税率を乗じることで、土地の固定資産税額が算定されます。

固定資産税の課税明細書で確認する

毎年自治体から送られてくる納税通知書から、調べることができます。納税通知書の中に、課税明細書というページがあります。そのページ中に、「評価額」、もしくは「価格」というという表記で、固定資産税評価額が記載されています。

役所で固定資産税に関する証明書を申請する

市町村の窓口にて、固定資産評価証明等交付申請書にて交付申請することで、固定資産税評価額の記載がある「固定資産評価証明書」、「固定資産公課証明書」の発行ができます。「固定資産評価証明書」と「固定資産公課証明書」の違いとしては、「固定資産公課証明書」には固定資産税評価額に加え、課税標準額、及び固定資産税額の記載がある点です。なお、固定資産評価証明等交付証明書は、自治体によっては、固定資産課税台帳登録事項証明書という名称の場合もあります。

固定資産課税台帳を役所に行って閲覧する

市町村の窓口にて、固定資産税評価額の記載のある固定資産課税台帳を閲覧することができます。

知らないと損する!住宅用地の軽減措置!!

税金の負担軽減のため、住宅用地や新築建物について固定資産税軽減の特例があります。きちんと適用されると大きく減税されるため、適用の有無をしっかり押さえておきましょう。

固定資産税は各地で課税ミスが頻発!!

総務省の2012年の調査によると、2009~2011年度の3年間に、市町村の97.0%が、固定資産税の課税誤りをしていたという結果が出ています(※2)。そのうち、税金の過徴収、すなわち、税金を多く取り過ぎていたケースは、家屋については約6割、土地にいたっては約7割に及びます。2018年1月には、神奈川県横浜市にて、12年間に渡り、約7億円の過徴収が発覚し、返還されることとなりました。そのほかにも、多くの過徴収が、全国の自治体で発覚しています。

こういった過徴収を防ぐためには、自治体から届く納税通知書の確認が必須となります。特に、住宅用地の特例と新築の建物の特例は、納税額に大きく影響があるため、きちんと確認しましょう。

※2 出典:総務省 固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zeimu05_02000010.html

住宅地の軽減措置

住宅用地の減税には、「小規模住宅用地の特例」と「一般住宅用地の特例」の、2種類の特例措置があります。「小規模住宅用地の特例」は、住宅の敷地200㎡以内について、固定資産税が1/6となります。例えば、200㎡の土地について、更地の時の固定資産税が12万円だった場合、住宅を建てることで、土地の固定資産税額は2万円となります。「一般住宅用地の特例」は、住宅の敷地のうち200㎡を超える部分で、かつ、住宅の床面積の10倍までの住宅用地について、固定資産税が1/3となります

新築の建物の軽減措置

一定の条件を満たす新築住宅の場合、一戸あたり床面積120㎡までの部分については、固定資産税が1/2となります。

【条件】:床面積が50㎡以上280㎡以下(貸家の場合、40㎡以上280㎡以下)

新築の建物の軽減措置には、適用期間があり、建築後一定期間経過すると終了し、税額は元に戻ります。期間は構造によって異なり、3階建以上の準耐火構造及び耐火構造住宅については新築後5年間、それ以外の住宅については新築後3年間となります。

なお、「長期優良住宅」に認定され、一定の条件を満たすと、上記の期間はさらに延長されます。

丸分かり!固定資産税の計算方法まとめ

ここでは、固定資産税の計算方法について、例をもとに解説します。

土地の固定資産税を計算する

固定資産税評価額を2,700万円として、固定資産税を計算してみます。土地面積は300㎡、固定資産税の税率は1.4%とします。

更地の場合

更地の場合、特に減税措置はないため、下記のようになります。

固定資産税評価額 = 課税標準額 = 2,700万円

固定資産税額 = 2,700万円 × 1.4% = 37.8万円

住宅用地の場合

住宅用地には、先に述べたようにその土地面積に応じて、2種類の軽減措置が適用されます。まず、200㎡以内の土地について、「小規模住宅用地の特例」を適用し、課税標準額を求めます。

固定資産税評価額(敷地200㎡分)= 2700万円 ×(200㎡ / 300㎡)= 1800万円

課税標準額 = 1800万円 × 1/6 = 300万円・・・①

つづいて、残地100㎡について、「一般住宅用地の特例」を適用し、課税標準額を求めます。

固定資産税評価額(残地100㎡分)= 2700万円 ×(100㎡ / 300㎡)= 900万円

課税標準額 = 900万円 × 1/3 = 300万円・・・②

最後に、①、②の課税標準額をもとに、固定資産税額を計算します。

固定資産税額 = (① + ②) × 1.4% = 8.4万円

建物部分の固定資産税を計算する

ここでは、新築住宅について、その固定資産税額を計算します。固定資産税評価額は3000万円、固定資産税の税率は1.4%とします。

新築住宅の場合

新築住宅は、「新築の建物の軽減措置」が適用されると、床面積120㎡までの部分は固定資産税が1/2となるので、下記のようになります。

固定資産税額 = 3,000万円 × 1.4% × 1/2 = 21万円

気になる固定資産税の節税方法とは?

1筆の広大な土地に、(1)用途の異なる区画が複数ある場合や、(2)複数の貸地がある場合、分筆することで分筆後の土地ごと評価が行われ、評価額が下がることで固定資産税の節税につながることがあります。

(1)について、宅地と農地で1筆の土地が構成されており、土地全体が宅地として評価されている場合を考えてみます。

まず、宅地部分と農地部分の区画を分筆します。ついで、農地部分を宅地から農地へと地目変更することで、評価額が大きく下がる可能性があります。なお、固定資産評価は現況を重視するため、実際に農地であることが必要です。

注意点としては、建物のある宅地には住宅用地の特例が適用されますが、土地を一部分筆して切り離す場合、小規模住宅用地の特例等から外れることがあります。もし、切り離された側の宅地の固定資産税評価額が高い場合、特例から外れたことによって固定資産税が増える可能性がありますので、注意が必要です。

また、市街化区域内では、生産緑地法により指定を受けている生産緑地と呼ばれる農地以外は、宅地並みの評価がされ、分筆費用に見合った節税効果が得られないことがありますので、その点も注意が必要です。

(2)については、1筆の広大な土地を、複数の賃借人に貸し出している場合、それぞれの区画ごとに分筆することで、土地ごとに再評価され、評価額が下がった場合は節税につながることがあります。

特に、土地が角地や準角地の場合、角地以外の土地や、路線価の低い道路に面している土地について、評価額が下がることが期待できます。

①、②の共通の注意点として、固定資産税評価額は、原則としては1筆の土地ごとに評価されますが、利用状況によっては、隣接する2筆以上の土地に関して、1画地としてまとめて評価される場合があります。

そのため、住宅用地内にある小さな家庭菜園や、狭い複数の貸地などを分筆した場合、個別に評価してもらえない可能性がありますので、事前に各自治体に確認を行ったほうがよいでしょう。

なお、1筆の土地について、一部が公衆用道路として使用されている場合(※3)や、形状・利用状況などにより2以上の部分に明確に区分できる場合(※4)、分筆せずに個別に評価してもらうことが可能な場合があります。自治体によって手続きが異なりますので、各自治体にお問い合わせください。

※3 出典:大阪市 私有道路の評価などについて(http://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/page/0000117924.html
※4 出典:大阪市 土地分割評価の届出について(http://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/page/0000006104.html

固定資産税評価額から計算できる税金まとめ

固定資産税評価額は、他の税金の計算にも利用されます。ここでは、その税金を紹介します。

都市計画税を計算する

固定資産税と同時に徴収される都市計画税も、固定資産税評価額をもとに計算されます。ただし、課税対象となる資産の範囲がやや狭く、市街化区域内にある土地と建物のみが対象となります。納税先は、土地・建物の所在する市町村となります。税率は、自治体によってある程度自由に決められますが、制限税率が定められており、0.3%が上限となります。

土地については、固定資産税と同様に、住宅用地の特例による軽減や負担軽減措置があります。住宅用地の特例による軽減割合は、固定資産税と若干異なり、小規模住宅用地では1/3、一般住宅用地については2/3となります。建物の税額軽減措置については、固定資産税とは異なり、特にありません。ただし、自治体によっては、独自の軽減措置を設けている場合があります。

計算方法は、下記となります。

都市計画税 = 固定資産税評価額(土地、建物) × 0.3%(※)
※自治体によって異なります。

不動産取得税を求める

不動産を取得した際に課税される不動産取得税も、固定資産税評価額をもとに計算されます。固定資産税は、「固定資産」に対する課税であり、保有する限り、毎年課税されます。それに対して不動産取得税は、「不動産を取得するという行為」に対して課税されるものなので、取得時の一度きりの納税となります。納税先は、不動産の所在する都道府県となります。

計算式は、下記のとおりです。

不動産取得税 = 固定資産税評価額 × 4%(※)
※土地及び住宅については、2021年3月31日まで、3%に軽減されます。

なお、一定の条件を満たす住宅や土地の取得時には、税額軽減措置があります。

登録免許税も分かる

登録免許税とは、不動産の売買や相続などの際に、不動産の登記を行いますが、その際に法務局を通して納付する国税です。

計算は、下記のとおりです。

登録免許税 = 固定資産税評価額 × 税率

税率は、登記を行う原因(売買、相続など)や、登記の種類(所有権移転登記、抵当権設定登記など)によって、異なります。

まとめ

以上、固定資産税や、固定資産税評価額、課税標準額などについて、その計算方法や減額措置を中心に解説しましたが、いかがだったでしょうか。課税標準額から固定資産税を計算するのは、比較的簡単です。しかし、そこに至るまでに、固定資産税評価額に住宅用地の特例や負担調整措置などを適用し、課税標準額を求める必要があります。この評価額から課税標準額を求める計算のうち、特に負担軽減措置の適用に、戸惑われた方も多かったのではないでしょうか。

納税額の確認で大事なのは、大きな課税誤りを防ぐことです。ですので、負担軽減措置の適用計算が難しいと感じられた方は、まずは、住宅用地の特例や、新築建物の特例のみを適用して、固定資産税を計算してみるとよいでしょう。

監修:添田裕美(税理士)