古いビルの外壁が突然崩れてきたり、老朽化した看板が突然崩れて落ちてきたというようなニュースをたまに耳にします。これらはたまたま通りかかった通行人の命に関わる極めて危険な事故です。建物は老朽化すると脆くなり危険なため定期的なメンテナンスが必要なのですが、これは民家でも同様です。昨今の日本は人口減少に伴い、家主のいない空き家が問題となっています。空き家の老朽化による事故対策として平成27年5月26日に施行されたのが「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空き家等対策特別措置法)」です。

なぜ空き家等対策特別措置法が必要なのか

日本はすでに少子化に伴う人口減少期に突入しており、昨今は空き家が急激に増加している状況です。そのような経緯から空き家等対策特別措置法は施行されました。

空き家の定義

空き家の定義とは、1年以上、住人がいない、または使われていない状態の民家を指します。例えば近所にある民家に誰も住んでいる様子がなく、その状態が1年以上続いているとしたらその民家は空き家に定義される可能性が高く、空き家等対策特別措置法の対象となり得ます。

空き家等対策特別措置法に基づく「特定空き家」の定義については後述します。

 空き家等対策特別措置法が制定された理由とは

基本指針の背景によると空き家等対策特別措置法が制定された理由は、以下の通りです。

地域住 民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、 あわせて空家等の活用を促進するため、空家等に関する施策に関し、国に よる基本指針の策定、市町村による空家等対策計画の作成その他の空家等 に関する施策を推進するため

民家が老朽化すると全体が傾き、倒壊する恐れがあります。日本は住宅と住宅との間隔が数メートルの場合も多く、老朽化した民家の倒壊や一部の崩れ落ちは近隣住民に危険を及ぼします。

【出典】国土交通省:http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

行政による空き家調査と現況の把握が進む

空き家等対策特別措置法とは簡単に解説すると、空き家と定義された民家を行政の主導で家主に必要な措置を指導、勧告、命令、などができる法律で、措置命令に応じない場合は行政代執行法に基づき、解体できる法律です。

行政代執行で解体が実施された場合も解体費用は空き家の所有者に請求されます。

空き家等対策特別措置法の施行によって行政主導で空き家を解体措置まで進めることが可能になったため、施行以来、各市町村行政によって空き家の調査が進められています。

空き家の影響が深刻な理由とは

空き家等対策特別措置法が適用され、解体が検討される空き家とは主に以下のような条件に当てはまる場合です。

・基礎部分の腐食などが原因で家全体が傾き、倒壊による被害が懸念される場合
・老朽化により屋根や外壁が剥離する可能性がありそれらの飛散による被害が懸念される場合
・ごみ等の長期間の放置、不法投棄による衛生上の被害が懸念される場合
・下水などの浄化槽の破損により、汚水が近隣に流出する被害が懸念される場合

対象の空き家に対し、家主に解体措置命令が出た場合、家主は実費で解体を行う必要があります。もし解体措置命令に応じない場合は行政代執行により、行政が主導で解体が行われます。この場合は原則的に家主に対して行政が許可を得る必要はありません。

その解体費用は家主に請求され、もしも支払いに応じない場合は行政代執行法に基づき、所有している財産を役所が差し押さえすることもできます。

全国で空き家が増える理由

空き家等対策特別措置法が平成27年に施行されたのは、日本に空き家が増加しているからに他なりません。全国で空き家が増加している一番の理由は日本の人口が徐々に減ってきているからです。

人口減少・世帯数が2019年でピーク

日本の世帯数は2000年以降も少しずつですが増えていました。しかしその世帯数の増加も2019年で頭打ちし、以降は減少していくことがほぼ確実視されています。これがいわゆる「2019年問題」です。

「国立社会保障・人口研究所」の調べによると、世帯数の伸びは2019年に頭打ち、つまりピークとなり、その状態が2023年ごろまで続き、それ以降は世帯数が年々減少すると予測されています。つまり2018年7月現在はまさに日本の人口増減の過渡期にあり、これから本格的な少子高齢化社会に突入するのです。

【出典】:国立社会保障・人口問題研究所、『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』
http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_PR.pdf

建物があると固定資産税が優遇される

固定資産税は土地や建物などの不動産を所有している場合に課せられる地方税です。

もしも土地を所有し、その土地に住宅がある場合、その土地は住宅用地となります。家が建っている土地の固定資産税は最大で6分の1になる住宅用地の特例措置対象となります。

老朽化した空き家でも、そこに家が存在すればその土地の固定資産税が安く済むのです。逆に考えると、空き家でも解体すると住宅用地の特例措置が除外され、その土地の固定資産税が6倍くらい上がる可能性があります。このような仕組みが空き家の解体が進まない要因になっています。

高齢化で介護施設の利用が進む

日本は、全人口の4分の1が高齢者である高齢化社会です。この傾向は今後も顕著になることが確実視されています。

高齢化社会においては、一人暮らしの高齢者や高齢夫婦だけで生活しているというケースが多くなっています。高齢者は自力での日常生活が難しくなると介護施設に移る場合が多く、高齢化社会の核家族構造が空き家の増加の要因になっています。

解体費用を負担できない

今後、使う予定のない住宅は、速やかに解体するのがベストなのですが、建物を解体するには費用が発生します。一般的な民家は30〜40坪程度の規模が多いと思いますが、その規模の建物の解体費用は少なくとも50〜100万くらいになり、決して気軽にできる捻出できる額ではありません。

使わない家を壊すために数十万円かかるなら、とりあえずそのままにしておこうと考えてしまうのも仕方ないかもしれません。しかし、自治体によっては、空き家を解体するにあたって工事費用の補助金をだしてくれる制度を設けているところもあるため、確認してみるとよいでしょう。

戸建は新築ニーズが高くて築古中古の価値が低い

住宅を購入する際は新築で建てる選択肢もあれば、中古物件を購入する選択肢あります。空き家に新しい持ち主が現れ、購入者の負担で老朽化をメンテナンスするのが理想的なのですが、中古住宅購入のニーズは価格差を考慮しても新築のニーズより圧倒的に低いのが現状です。

例えば欧米の住宅は石造りの場合が多く、築後100年でも丈夫で問題なく使える場合が多いのですが、日本の住宅はほとんどが木造や鉄筋コンクリート造のため、寿命が短いという点も中古住宅の需要の低さの要因かもしれません。

空き家対策特別措置法による影響とは

空き家等対策特別措置法は平成27年に施行された比較的新しい法律です。平成29年現在は施行から2年経ち、各自治体による空き家調査もそれなりに進んでいる状態です。今後、空き家等対策特別措置法が適用され、不要な空き家の数が順調に減った場合はどのような影響があるのでしょうか?例えば行政主導で空き家を解体するにしても、実際に解体を行うのは行政からの下請けの解体業者のため、土建業界の需要増加が見込めます。

【出典】国土交通省:空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

不動産市場に与える影響

空き家等対策特別措置法が順調に適用されれば空き家が解体されて更地になります。解体費用は基本的に家主負担となりますが、行政代執行で強制的に解体したとしても残った更地は家主の所有する不動産のため、多くの家主はその土地を売却することが予想されます。このような流れで、空き家等対策特別措置法の適切な運用によって不動産業界の流動性が高まることが予想されます。

しかし更地が増えて売り出される土地が増えたとしても、土地を欲しいと考える人が増えるわけではないため、需要と供給のバランスが崩れ不動産価格の下落も予想されます。

以上のことを考慮すると、これから土地を買い、家を建てたいと考えている人にとっては買い手市場の有利な状況になる見込みがあります。

自治体の税収への影響

空き家でも存在する以上は不動産です。そのためその空き家を保有する家主が亡くなった場合、その空き家は相続の対象となります。空き家等対策特別措置法の施行により、空き家は解体措置命令の対象になり兼ねない厄介な不動産です。もしも行政から解体措置命令が出れば、それに応じても拒否しても最終的には解体費用を負担する羽目になる仕組みです。

以上のことから空き家に定義されそうな不動産の相続は相続放棄する事例が増えることも予想され、行政には相続税の税収減が予想されます。相続放棄する事例が増えるということは必然的に不動産を相続して所有する人が減ることになるため、固定資産税の税収減も予想されます。

行政による空き家対策の段階的な措置

行政による解体措置命令は、いきなり命令から始まるわけではなく、指導、勧告、命令、の順で、段階的に働きかけが行われます。

最初は助言、指導

まず行政は空き家等対策特別措置法に基づき、独自の調査で誰も住んでいない住宅を空き家に定義します。そしてその空き家の所有主を登記簿などから洗い出し、本人にコンタクトを取ります。空き家の所有者を訪ね、持ち家が空き家に定義される「特定空き家」であることを告げ、解体や修繕するように助言します。助言とはあくまで解体や修繕を勧めるという感じです。

助言後も改善されず、一定期間が経過した場合は解体か修繕しないと危険であるといった助言よりも重い、やや強制のニュアンスが含まれる「指導」になります。助言や指導に応じないと次の段階の「勧告」になり、勧告になると固定資産税の特例対象から除外されます。

助言、指導に従わないと「勧告」

上記で解説した助言、指導に従わないと空き家の解体措置の「勧告」が下されます。「勧告」の段階になると固定資産税の特例措置が除外されるという実害が発生します。先ほど空き家が建っていればその土地は住宅用地の特例措置により、土地の固定資産税が6分の1くらい安くなると説明しました。

行政から特定空き家の解体の助言、指導を無視し続け、いよいよ解体措置の勧告を受けてしまうと住宅用地の特例措置が除外され、建物が存在しても固定資産税の軽減がなくなってしまいます。特定空き家の解体勧告が下されると、住宅用地の特例措置が失効するため、空き家を固定資産税軽減の目的で残しておく意義が失われてしまいます。

勧告でダメなら執行期限付きの命令、そして強制執行

勧告に応じない場合は執行期限付と併せて解体措置「命令」が下されます。命令が下された後、空き家の所有者にはどうしても解体できない理由を意見書や意見聴取などで述べる機会が与えられます。

行政との意見交換も折り合わず、執行期限までに解体、もしくは危険が無いような修繕が完了できなかった場合は行政代執行による、解体措置が行政主導で執行されます。つまり行政が独断で対象の空き家の解体作業を実施します。上記での解説したように、行政代執行で行われた解体費用はその空き家の所有者に請求されます。

特定空き家について

行政の調査で「特定空き家」に認定された住宅が空き家等対策特別措置法の対象になります。特定空き家の定義は本記事の前半の「空き家の定義」の項目でも簡単に解説しましたが、具体的には以下のような条件があります。

特定空き家等の定義

特定空き家に定義される条件は主に以下の4つがあります。

① そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

建物の基礎部分に経年劣化で腐食などが見られ、建物全体が傾いており、倒壊の危険性があると判断された場合。

② そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態

長期間、誰も住んでなく、管理されていない状態で、ゴミなどが放置されている場合は害獣などの繁殖が懸念されるため、特定空き家に認定される可能性があります。このケースは近隣住民から異臭がするというような連絡によって調査が始まる場合が多いようです。

③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

建物が長期間放置されている状態で敷地内に雑木が伸び放題になっていたり、落書きなどが目立つ状態なっていたりして、周囲の景観を著しく損なっている場合は特定空き家に認定される可能性あります。建物の周囲に家具や壊れた自動車、バイク、などが放置され続けている場合も該当します。

④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

建物に動物や不審者が住み着いている状態、敷地内の立ち木が伸びて道に枝や葉っぱが落ちてくる状態など、近隣住民の生活保安を妨げると判断された場合は特定空き家に定義される場合があります。

ポイントは「特定空き家等」に当てはあるのかどうか

いわゆる誰も住んでいない空き家状態だとしても、上記で解説した定義に当てはまらない場合は特定空き家に認定される可能性は低いといえます。しかし上記の定義は建物を長期間放置しておくと必然的に起こりえるケースのとも言えます。つまり、その建物に住んでいなくても、数カ月に一度くらい清掃するなどして、それなりに維持管理をすれば特定空き家に定義される可能性はかなり低くなると思われます。

売却中の特定空き家等の取扱いは?

例えば家を建てるための土地を探している人が、空き家の解体費用も払う約定でその土地を購入するケースはよくあります。

もしも買い手がみつかって解体の目処がたっている状態ならば特定空き家の認定は免れることでしょう。しかし、売り出し中の状態でも買い手が未定の場合は通常通り、特定空き家に認定され、解体措置命令の流れになる可能性が高くなります。

売り出し中の場合はその事情を説明し猶予期間に余裕を持たせてもらえるように交渉をしてみましょう。

空き家に対する行政指導を回避するには

特定空き家に認定されてしまうと最悪の場合は行政代執行で建物は解体され、解体費用の負担が空き家の所有者に求められます。このような事態を避けるには、どうすれば特定空き家に認定されずに済むのでしょうか?

基本は物件を管理して活用すること

空き家状態だとしても、数カ月に一度、定期的に掃除などをして最低限の衛生状態を保てば特定空き家に定義される可能性はかなり減ります。掃除は建物内だけでなく、敷地内全般を綺麗に保ち、外観も違和感が無いように配慮することが大切です。

管理代行サービスの利用を検討してみる

定期的な管理が自分でできない場合は管理代行サービスを利用するのも一案です。管理代行サービスとは建物の所有者の代わりにその建物の掃除などを代行してくれるサービス、いわゆる管理人さんです。管理人といっても常駐して管理するわけではなく、月に一度の清掃を頼む程度の管理代行も可能です。

管理代行サービスの内容は、家の中に入り、異常が無いか点検し、窓を開けて換気をして水回りに異常が無いかチェックする、といった内容の「巡回サービス」が人気です。「巡回サービス」の場合は月に一度の点検で5,000〜10,000円程度で依頼できます。換気は1時間程度行ってくれます。多くの巡回サービスは玄関先の簡単な清掃や雑草の処理も行ってくれます。敷地内には入らず、敷地の外から目視で異常が無いかの点検を一回数百円で行ってくれる、通称「100円管理サービス」も人気です。

【出典】全国空き家管理ナビ:http://akiya-kanri.biz/

賃貸・売却・解体を視野に入れて総合的な判断を

もしも特定空き家に認定されてしまうと強制的に解体命令が出たり、固定資産税の優遇措置が解除されたりと、所有者に不利益が発生します。このため現在使っていない住宅、いわゆる空き家を所有している人は、その空き家を最終的にどうするのかを検討する必要があります。

もしも売却や賃貸で運用できる見込みがある場合は、たとえ相場よりも安くなっても検討してみてはいかがでしょうか。利用者がいれば古い建物でも特定空き家には定義されにくくなるからです。

自治体の助成制度の有無の確認

特定空き家の処置は空き家等対策特別措置法に基づいて行われますが、各自治体によって個別の助成制度が適用される場合もあります。例えば自治体によっては特定空き家に認定された家で、所有者が空き家の修繕の意思がある場合は修繕費の一部を助成してもらえる場合もあります。まずは自身の住む自治体に特定空き家に関する助成制度の有無を問い合わせてみるといいでしょう。

まとめ

空き家等対策特別措置法は日本の人口減少に伴って増加傾向にある空き家問題を解決するために施行された法律です。また、施行により、著しく劣化が見られ、近隣住民の生活に支障をきたすと判断された空き家は行政の判断で「特定空き家」に認定され、最終的には行政代執行で解体できる法律内容です。行政代執行で解体されても解体費用は空き家の所有者に請求される仕組みであることがこの法律の肝であり、強制力の要といえるでしょう。

空き家は自身が所有する不動産でも放置できない存在であり、空き家の所有者は対策を検討していくことが必要です。