団信は住宅ローンにとって、借りる利用者側にも、提供する金融機関にも欠かせない保険です。ただ団信に加入していれば、住宅ローンユーザーには手放しで安心とはいえないこともあり、団信だけではカバーしきれないリスクもあります。ここでは団信の基礎知識を手始めにその全体像を解説するとともに、万が一の時の強い味方としての団信の活用方法について解説します。

団信についての基礎知識

 

団体信用生命保険の略

「団信(だんしん)」とは「団体信用生命保険」を略した表現です。この記事では「団信」という表現を使用していきます。

団信の内容

団信は掛け捨ての生命保険の一種で、団信の契約者(住宅ローンの申込人)は住宅ローン残債分を保険金額として加入する仕組みになっており、多くの場合その保険料は住宅ローンの金利に含まれています。また団信は生命保険ですので、保険契約者(住宅ローン申込人)に万が一のことがあった場合は、借入している金融機関に保険金が支払われ、残された家族は以降の住宅ローンの支払いを免除されます。そのため多くの金融機関は住宅ローンの利用者に団信への加入を義務付けています。なお国が主導するフラット35は、団信を任意加入としてますが、これについては後述します。

特約付き団信とは?

団信の保障範囲は、病気やケガによる死亡と所定の高度障害状態に陥った場合が基本です。ただ2000年代に入ると大手銀行を中心に「特約付き団信」の導入が相次ぎ、金利を上乗せすることで様々な種類の「特約付き団信」が選べるようになっています。ここでは代表的な「特約付き団信」を簡単に紹介しておきます。

がん保障特約付き団信

がん保障特約付き団信とは、団信の基本保障にがん保障を上乗せしたもので、保険料は金融機関により異なりますが、通常のローン金利に年0.2%前後上乗せすると当該特約を付加できます。

3大疾病保障特約付き団信

3大疾病保障特約付き団信とは、団信の基本保障に「がん、脳卒中、急性心筋梗塞」といった3大疾病保障を上乗せしたもので、こちらも保険料は金融機関により異なり、通常の金利に年約0.2%~0.3%ほどを上乗せすると付加できます。

8大疾病保障特約付き団信

8大疾病保障特約付き団信とは、団信の基本保障に「がん、脳卒中、急性心筋梗塞」三つの疾病と「高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎」という五つの重度慢性疾患を含む8大疾病保障を上乗せしたものです(「慢性膵炎」を除く7大疾病保障特約付き団信を扱う金融機関もあります)。保険料は通常のローン金利に年0.3%上乗せすると、当該特約を付加できるものが一般的です。

保険金の支払には、上記3大疾病保障特約の要件に加えて、責任開始日以降に五つの重度慢性疾患(糖尿病・高血圧症・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎)で「就業不能状」となった後、12ヶ月以上などの一定期間「就業不能状態」が続くと、その時点でのローン残債が全額返済となるものが多いようです。

団信のメリット

それでは団信のメリットにはどういうものがあるでしょうか。
以下に代表的なものをあげておきましょう。

団体契約扱いで保険料が安い

団信は保険会社が企業を通じて募集する団体保険の仲間で、その特徴として個人で加入する保険とくらべて年齢にもよりますが保険料が割安になることが多いです。

ローン残高が減ると保険料も減る

団信は通常の生命保険とは違い、住宅ローンの貸付保全という役割をもつ逓減型の保険です。そのためローン残高が減ると保険料も減る仕組みになっています。

団信の保険料がローン金利に含まれている(ローン残高に料率を掛けて保険料が計算される)のはそのためです。

年齢でなくローン残高で保険料が決まる

団信は通常の保険とは違い、保険年齢に関係なく、ローン残高によって保険料が決まります。おもに中高年の利用者にとっては、ありがたい仕組みといえるでしょう。

団信のデメリット

もちろん団信にもデメリットがあります。
団信を使う上で注意するべきポイントをあげておきます。

中途加入ができない

銀行など民間の金融機関では、概ね団信は必須加入となるため関係はありませんが、任意加入のフラット35のようなケースでは、団信は中途加入ができません。そのため団信の検討については、民間の保険を使って代替手段を考える必要があります。

貯蓄性がない(掛け捨て)

生命保険というと解約返戻金のある貯蓄性保険をイメージする方も多いでしょう。しかし団信は貯蓄性がある保険ではなく、いわゆる掛け捨て保険です。間違わないよう注意をしてください。

病歴によっては加入できない

団信は病歴によっては加入できないケースもあります。団信に加入できないと、いくら個人や勤め先の評価が良くても、ほとんどの民間の住宅ローンには申込めません。

「少しでも健康なうちに住宅ローンを検討したほうがいい」といわれるのは、あながち間違いではありません。

団信って入らないといけないの?

基本的に住宅ローンを提供する金融機関はローン残債を回収するため、またローン契約者は残された家族に返済義務を残さないため、団信という生命保険は重要な位置づけとなります。ここでは団信が、民間の金融機関と国が主導するフラット35で、加入についてどう違うのかを整理しておきましょう。

ほとんどの民間の金融機関は加入が必須

団信はほとんどの民間の金融機関で加入が必須です。

これは金融機関独自の住宅ローンについて、ローン償還中の利用者に万が一のことがあった場合、ローン残債を回収できなくなる可能性があるからです。

住宅ローンは多額の資金を長期間にわたって返済しなければいけません。そのため民間独自の住宅ローンについては、貸付保全の観点からすでに貸出金利に団信の保険料が含まれていることが一般的なのです。

一部の民間の金融機関とフラット35は任意

これに対して、一部の民間の金融機関とフラット35は、団信を任意加入としています。フラット35が団信を任意加入としているのは、その前身である旧住宅金融公庫の住宅ローンが、健康状態により申込者を選別しない仕組みだったことが背景といえます。
従って民間の銀行で団信に加入できなかった方に、フラット35は別の選択肢とすることができます。

団信の保険料ってどうなっているの?

団信の保険料は大きく三つの支払い方法に分類できます。
以下に、三つの支払い方法について解説しておきます。

無料

団信の保険料が無料というのは、基本的に保障範囲が特約付きではないものに限定されます。なお利用者にとっては無料でも、引受保険会社に払い込む保険料は金融機関が負担しています。その意味で団信は全くの無料というわけではありません。

金利上乗せ型

団信の保険料は「特約付き団信」になると、一般的には「金利上乗せ型」となります。がん保障特約は無料のものもありますが、大体は0.2%前後が通常金利に上乗せされます。3大疾病特約や7大・8大疾病特約では、0.3%前後上乗せされます。

保険料支払い型

団信には保険料支払い型というものもあります。
保険料支払い型とは団信の保険料を年払い等で納めるもので、代表的なのはフラット35の機構団信です。

保険料支払い型は現在も継続していますが、平成29年10月から機構団信が生まれ変わり、新規に契約した機構団信では金利に含まれるようになりました。

これについては、次項で詳しく説明しましょう。

フラット35の団信が変わる

平成29年10月1日からフラット35の機構団信は新機構団信として生まれ変わりました。ここではその概要について解説してみます。

【出典】【フラット35】と【団信】が一つになってリニューアル :http://www.flat35.com/topics/topics_201703_danshin.html

平成29年10月以降、団信付きになった

従来の機構団信は旧公庫ローン時より、特約料(機構団信では保険料のことを特約料といいます)を年払い形式で納めていました。
しかし特約料の支払い期限を過ぎてしまうと団信から自動的に脱退となり、一度脱退すると再加入できないなどの問題点もありました。

そこで平成29年10月1日以降の申込分からフラット35は団信付きになり、銀行の住宅ローンと同じように特約料が金利に含まれるように変わりました。

ただし新機構団信になっても任意加入である点は変わりません。
そのため団信を付けない場合は、団信が自動セットされた金利から0.28%下がります。

機構団信の保障内容が充実

新機構団信のもうひとつの変更点として、保障内容の充実があげられます。具体的には団信の高度障害保障が身体障害保障に変わりました。これまでの団信は、死亡保障に高度障害保障をプラスしての保障が基本でしたが、新機構団信では高度障害保障を取り止め、代わりに身体障害保障をプラスしています。

「団信弁済パンフレット(平成29年11月版)」に書かれている「高度障害状態」には、たとえば「中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの」などとあり、これに該当しない具体例として関節リウマチ(慢性)、腎臓病による人工透析、心臓ペースメーカー等の埋めこみ、片麻ひがあがっています。これでは団信で「高度障害状態」に該当するにはハードルが高いことがわかります。

【出典】住宅支援機構:債務弁済(保険金請求)手続きのご案内 https://www.flat35.com/files/300105255.pdf

<新機構団信の身体障害保障とは?>

いっぽう変更となった身体障害保障は、保険金の支払い基準を身体障害者手帳の1級または2級の交付を要件とするため、公的制度とも親和性があり、保険契約者がどんな場合に保険金が支払われるのかイメージしやすくなっています。
「高度障害状態」では該当しない人工透析や心臓へのペースメーカーを植え込みも、身体障害保障では対象ケースとなっています。新機構団信が行った変更は、画期的な変更といっても過言ではないでしょう。

【出典】新機構団体信用生命保険制度 – フラット35 https://www.flat35.com/files/400343852.pdf

すでにフラット35で借り入れている場合には借り換えで団信付きに

ただしこの新機構団信に加入できるのは、平成29年10月1日以降の申込分からになり、それ以前にフラット35に申込まれた方は該当しません。それでも新機構団信に変更したい方は、借り換えで団信付きへの変更手続きが必要です。フラット35の新機構団信は保障範囲からも良い制度といえます。金利を考慮の上、見直しを検討してみるのもひとつでしょう。

こんな場合は団信でカバーされない

せっかく団信を付けていても、病気やケガで働けなくなるだけでは団信が下りないケースが多々あります。

こんな場合は団信でもカバーできないという例をあげておきます。

死亡・高度障害以外の場合

新機構団信の説明にもあったように、団信はとくに高度障害状態に該当する基準が高いため、病気やケガで働けなくなるだけでは団信が下りないことがあります。自分や家族を守るために条件が見合うのなら、新機構団信を検討することや、民間の保険、例えば就業不能保険等でカバーする必要が考えられるでしょう。

診断時点で住宅ローンが半分になる団信が出てきた!

たとえば通常の団信では死亡や高度障害以外ですと保障の対象外です。じぶん銀行にはがんと診断された時点で住宅ローンの残債が半分になる「がん50%保障プラン」という団信があります。しかも「がん50%保障プラン」は住宅ローンに無料付帯となり、例えがんが完治しても、その後に返済を再開する必要もなく、引続き死亡・所定の高度障害状態時の保障は継続します。団信は万が一の時の強い味方ですが、他の保険との組み合わせで上手に使うことがいま求められています。

【出典】じぶん銀行:がん団信(がん50%保障プラン) https://www.jibunbank.co.jp/products/homeloan/insurance/pdf/shiori_gan50.pdf

告知義務違反があった場合

団信は告知義務違反が判明すると契約が解除され、残された家族は家のローンを相続しなければなりません。契約者に万が一のことがあれば、保険会社は当該事案に告知義務違反がないか調査を行います。嘘がばれずに団信に加入できても、一番困った時に告知義務違反で保障が受けられなければ何にもなりません。団信の診査では通常、3年以内の病歴を問われます。3年以内に病歴があった場合でも、その後の経過等によっては診査に通る場合もあります。保険は入口よりも出口が大切です。正直な告知が必須であることは押さえておきましょう。

団信に加入する際の注意点

最後に、団信に加入する際の注意点をまとめておきます。

年齢制限がある

保障範囲が基本ベースの団信では、年齢制限は大体満70歳未満の人となっています。また、特約付き団信の場合、年齢は50歳までに制限されるケースが多くなりますのでご注意ください。

同じ名前のプランでも金融機関ごとに保障内容は異なる

これも特約付き団信についていえることですが、同じ名前のプランでも金融機関ごとに保障内容は異な場合があります。保障内容を決めているのは引受保険会社だからです。団信も金融機関ごとに保険会社が違います。団信を検討する場合は保障内容をしっかり確認することが大切です。

健康状態が悪いと加入できないことも

団信は、団体信用生命保険というだけあって、言わずもがな生命保険です。生命保険ですから健康状態が悪いと加入できないこともあります。この判断は銀行ではなく保険会社が行っています。健康状態に問題がある方は、金融機関でワイド団信を用意していることもありますので確認してみましょう。また民間の保険会社の保険でカバーできそうならフラット35を選択してみるのもいいでしょう。

特約付き団信は途中加入ができない

これも勘違いしがちなことですが、特約付き団信は途中加入ができません。
加入の判断は団信をつける時点で決めなければならないので注意が必要です。

金利上乗せ型は途中で特約だけ外せない

また金利上乗せ型の特約付き団信は、途中で特約だけ外すこともできません。このため金利上乗せ分が無理な支払い負担とならないか、自分なりに納得の上、判断しなければなりません。

まとめ

団信を住宅ローンに組み込む方が大半です。そう考えると住宅ローン自体がひとつの保険商品に思えてきます。それだけ住宅ローンが、借りる人の生命に深く関わる長期ローンということにあらためて気付かされます。そして団信はいざという時に強い味方になる保険ですが、それだけではカバーできていないリスクもあります。今は、働けなくなる状態をカバーする安価な保険が手当しやすくなっています。余裕があれば、これらの保険と上手く組み合わせてみるといいでしょう。

監修:寺野 裕子(ファイナンシャルプランナー)