ホームインスペクターとは、住宅がどのような状態にあるかを調査してくれるプロフェッショナルです。住宅の劣化、欠陥、改修箇所の有無などの調査を行います。ホームインスペクターが実施する調査のことを、ホームインスペクションといいます。ホームインスペクションは、老朽化によって不具合が多くなる中古住宅の分野において、特に有効なサービスとして注目されています。ここでは、ホームインスペクターによるホームインスペクションについてご紹介します。

ホームインスペクターの仕事内容

ホームインスペクターの仕事内容、制度の普及の背景、ホームインスペクションを依頼するメリットなどを見ていきます。

住宅診断士と呼ばれ、物件の診断を第三者の立場で行う

ホームインスペクターは、住宅診断士とも呼ばれます。住宅がどのような状態にあるかを調査する職業で、不動産業者とは異なる第三者の立場から、客観的に住宅を診断するのが任務です。専門家の見地から、劣化状況、欠陥の有無、改善すべき箇所や時期、改善に必要な費用の概算などの調査を行います。

ホームインスペクターが実施する住宅の調査を、ホームインスペクション(住宅診断)といいます。ホームインスペクションは日本では歴史の浅いサービスですが、中古住宅の取引が盛んな欧米においては、ホームインスペクターは住宅調査のスペシャリストとして身近な存在になっています。

住宅の寿命や適切な使用法、修繕箇所の指摘をしてくれる

ホームインスペクターがホームインスペクションを実施することで、住宅の状態を適切に把握できるようになります。住宅の室内だけでなく、屋根、外壁、室内、床下、屋根裏など、様々な箇所について必要に応じて調査を行います。劣化状況からみた住宅の寿命、劣化の進行を防止するための適切な使用方法、修繕が必要な部分や緊急性の有無、などのアドバイスを受けることができます。

宅建業法の改正で2018年4月以降の中古住宅は住宅診断の説明が義務となった

20165月に国会で成立した、宅地建物取引業法の改正案の施行によって、20184月以降の中古住宅の取引において、ホームインスペクションに関する説明が義務化されました。

義務化されるのは、

1:インスペクション(建物状況調査)についての説明

2:インスペクションを既に実施した場合の内容についての説明

3:ホームインスペクターを紹介できるかの告知

の3点です。

義務化されるのは、あくまでホームインスペクションに関する説明についてです。ホームインスペクションを実施することが義務化されるのではないことがポイントです。また、義務化の対象は中古住宅のみで、新築住宅は対象ではありません。

中古住宅流通のためにホームインスペクターは今後不可欠となる

宅建業法の改正によって、ホームインスペクションに関する説明が義務がされた背景には、消費者が安心して中古住宅の売買ができるように中古住宅の質を高めて行くのが目的があります。買主の不安を解消することで、中古住宅の取引の信頼性を高め、中古住宅の流通を積極的に増加させようという流れです。中古住宅市場の活性化によって、ホームインスペクターの需要は今後さらに増加していくことが予想されます。

ホームインスペクターの診断結果により、安心して中古物件を売買できるようになる

ホームインスペクターは、住宅の状態を適切に把握して診断することができるため、「住宅のかかりつけ医」といった存在になっています。買主にとっては、専門家からのアドバイスを得ることによって、安心して中古住宅を購入できるようになる、というメリットがあります。建物に修繕すべき箇所が見つかった場合には、購入後のリフォームの計画を事前に検討することもできます。また、売主にとっても、ホームインスペクションによって修繕が必要な箇所を把握して修復を実施することで、買主とのトラブルを回避できるというメリットがあります。

ホームインスペクターの具体的な仕事内容

ホームインスペクターは、対象となる住宅の状態に応じて、様々な調査を実施します。ここでは、具体的なホームインスペクションの方法について見ていきます。

住宅の耐震性と工事の必要性の判断

ホームインスペクターは、現地調査を実施することで、住宅の耐震性や工事の必要性について判断することができます。建物の劣化具合を確認するだけでなく、図面などを手がかりにすることで、耐震性との関連性が高い箇所の重点的なチェックなどを行います。

住宅の断熱性や気密性の劣化判断

断熱材は、住宅の断熱性や気密性を確保するために重要な素材です。夏は熱が室内へ入るのを防止し、冬は外部の寒い空気を遮断します。断熱材に隙間が生じると、そこから熱が出入りして効果が減少してしまいます。優れたホームインスペクターは、わずかな隙間も見逃すことなく、断熱材の劣化をチェックします。

また、柱や梁部分によって断熱材が途切れることにより、外部の気温を影響を受ける「熱橋(ヒートブリッジ)」を発見するのも腕の見せ所になります。

屋根、外壁の破損や基礎などのひび割れのチェック

屋根や外壁の破損は、雨漏りや設備の漏水の原因になるだけでなく、放置すると建物の構造に影響を及ぼす場合もあります。戸建て住宅において昔のコンクリート基礎は「布基礎」と呼ばれる地盤から独立した基礎工法が多く、ひび割れや欠損などの劣化は耐震上大きな影響を及ぼします。ひび割れは後に破損の原因となるため、重要なチェックポイントになります。ホームインスペクターはひび割れの幅や大きさなどをチェックすることで、進行の度合いを把握し、修繕の提案なども重要なポイントになります。

木造部分の白蟻による腐食のチェック

住宅の木造部分の破損について、経年劣化のように見えても、実は白蟻の食害による腐食の場合があります。ホームインスペクターの手順は以下のとおりです。

  1. コンクリート基礎や土台・束に蟻道や蟻土がないかチェック
  2. 羽蟻の有無をチェック
  3. 建物の異常の確認(床や柱の腐食、建具の建てつけ異常など)
  4. ハンマーなどで叩いて、空洞部が無いか触診

することからシロアリによる被害を発見することができます。

バルコニーの錆、こけ、ひび割れによる腐食のチェック

バルコニーは風雨にさらされやすい場所のため、劣化や腐食によって、漏水などの思わぬ事故が発生しやすい部分になります。ホームインスペクターの視点では、目に見える劣化だけでなく、変色、錆、コケ、ひび割れなど、様々な特徴からバルコニーの劣化の程度をチェックします。

住宅の防水には「塗膜防水」「シート防水」「アスファルト防水」などが使われているので、ひび割れや劣化による漏水の有無の確認もポイントになります。

壁紙や床の剥がれやきしみなどのチェック

室内の乾燥などが原因で、壁紙に剥がれや割れが生じると、壁紙が劣化するだけでなく、壁自体の破損や腐食につながる場合があります。また乾燥は、床の剥がれやきしみを生じさせる原因にもなります。ホームインスペクターは、床の破損について、フローリングの張替えで対応できるか、根本部分の調整まで必要かの判断を行います。

ホームインスペクターに住宅診断を依頼する時の注意点

ホームインスペクターの制度は、日本ではまだ普及し始めたばかりのため、ホームインスペクションを実施する業者の質や信頼性は、千差万別となっています。ここでは、ホームインスペクターに住宅診断を依頼する際に押さえておくべきポイントをご紹介します。

費用は適切か、安さばかりを売りにしていたら要注意

ホームインスペクションを依頼した場合の費用の目安としては、基本的な目視の調査であれば、だいたい6万円前後が相場になります。床下や屋根裏などの細かい調査を含む場合は、高価な精密機器などを使用するため、10万円以上の費用がかかる場合もあります。過度に高すぎる、または安すぎる費用を提示してくる業者は、信頼性に問題がある場合があります。また、一部の業者では、ホームインスペクションを無料で実施するといっておきながら、診断後にリフォームや耐震補強工事などを無理に勧めてくる場合もあります。

一軒の住宅診断にどれくらいの時間がかかるのか

一般的な住宅を対象とするホームインスペクションの所要時間としては、各階の合計床面積である建物面積が30坪で、建物の外部や内部を一通り調査する場合には、だいたい2時間程度が目安になります。所要時間は、どの程度の調査を行うかによって異なります。床下や屋根裏になどに直接侵入して詳しく調査する場合には、建物全体の調査時間では3時間を超えることもあります。上記に比べて調査時間が極端に短い業者の場合には、十分な調査を行っていない可能性があります。

問題があった場合の説明は初心者にもわかりやすいものか

その道のプロフェッショナルであれば、素人よりも詳しい専門知識を有しているのは当然ですが、それを素人に理解できるように説明する能力も、サービス業においては重要な要素になります。ホームインスペクターの場合も同様で、高度な調査を実施できるだけでなく、その内容を分かりやすく説明してくれる業者を選ぶことが大切です。住宅に問題が発見された場合は、問題を把握して除去した後、再発を防止する必要があります。防止のためには、問題の内容や対処法などを分かりやすく説明してくれる能力が非常に重要になってきます。

不動産業者に対し中立な立場の会社を選ぶ

ホームインスペクションを実施する場合は、不動産業者に対して中立な立場のホームインスペクターに依頼することが大切です。ホームインスペクションと名乗るサービスであっても、実際には、不動産会社が自ら実施する事前調査をそう呼んでいるだけの場合もあります。不動産会社が行う事前調査の場合は、建物に課題が見つかった場合でも、会社に不利になる場合には事実を報告しないケースもあります。

住宅診断の実績が豊富なホームインスペクターに依頼する

今までは統一資格が存在しないこともあって、ホームインスペクターの能力は千差万別なのが現状でした。しかし改正宅地建物取引業法の施行からは、インスペクション(建物状況調査)は、既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士が既存住宅状況調査方法基準に従って行うこととなりました。

ただし、住宅と一口に言っても、建物の工法には様々な種類があるため、ホームインスペクターによって得意とする工法は異なってきます。不安がある場合は、これまでどんな建物を何件くらい診断してきたのか、率直に訪ねてみるのも有効です。

2018年4月の改正法施行前までは、ホームインスペクションは、実施するために特別な国家資格が必要な行為ではありませんでした。。NPO法人をはじめとする民間の団体が、独自の基準を定めることで、ホームインスペクターとしての民間資格を発行している形になっていました。現在もホームインスペクターという国家資格は存在しませんので誰でも名乗れますが、宅建業法にある「既存住宅調査」の書類や検査は、建築士の資格条件が付いたので、ホームスペクターを名乗るかたが既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士か確認したうえで、依頼することが大切です。

【参考】国土交通省:http://www.mlit.go.jp/common/001201151.pdf(p10)

ホームインスペクターという国家資格はないので、誰でも名乗ることはできる

ホームインスペクションは、実施するために特別な国家資格が必要な行為ではありません。NPO法人をはじめとする民間の団体が、独自の基準を定めることで、ホームインスペクターとしての民間資格を発行している形になっています。ホームインスペクターという国家資格は存在しないため、厳密には、誰でもホームスペクターを名乗ることができるのが現状です。そのため、ホームインスペクターを探す場合には、能力や実績などをきちんと確認してから依頼することが大切です。

最後に

住宅の状態を調査するプロフェッショナルである、ホームインスペクターについてご紹介しました。住宅の劣化を診断し、必要な補修についてアドバイスをするホームインスペクターの業務は、欧米においては身近な職業として親しまれています。ホームインスペクターの業務であるホームインスペクションは、日本ではまだ普及が始まったばかりですが、宅建業法の改正による後押しもあり、今後増々普及していくことが予想されます。ホームインスペクターに診断を依頼する際の注意点についてもご紹介しましたので、お役に立てれば幸いです。

監修:斉藤 進一(一級建築士・一級建築施工管理技士)