こんにちは。
東京都内でワンルームマンション投資をしている、
個人投資家兼ファイナンシャルプランナーの川井えりかです。
今年4月、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズ社が破綻しました。このニュースと絡めて、家賃保証とローン借り入れの注意点をお伝えしたいと思います。
不動産投資の一番のリスクは「空室」
日頃FPの相談業務をしていて、
30~40歳代で不動産投資を検討している方の資産運用相談をお受けする機会が多いです。
これから不動産投資をはじめようと検討している方に心配事をお伺いすると、
「もう少し待てばもっと安くて良い物件が出るのではないか?」
「中古物件だと入居中で実際の部屋の中を見ずに購入することになるので怖い」
「借金をするのが怖い」
「大地震が来たらどうするのか」
「室内のものが壊れたとき等の急な出費が心配」
等々、たくさん出てきます。
なかでも必ず挙げられるのが、
「空室リスク」です。
30~40歳代で不動産投資をされる方は、ローンを組んで物件を購入し、その物件から発生する家賃でローンを返済するケースがほとんどです。
家賃(他人のお金)でローン(自分の借金)を返すので、
自分のお金を使わずに投資ができる点で非常に魅力的です。
一方で、家賃が入ってこない期間が続くと、自分のお金でローンを返済するので、
投資として成り立たなくなります。
「空室になってローンを自分で返済することになるのは嫌だ」
と空室の心配をするのは、ローンを利用する不動産投資家にとっては当たり前のことです。
そこで出てくるのが「家賃保証」です。
「空室リスクが心配なら家賃保証をつければ安心」は本当?
前述の空室リスク対策として、賃貸管理会社が【家賃保証】(サブリースとも言います)をつけることがあります。
賃貸管理会社とは、物件を購入したオーナーさんに代わって、家賃の集金や入居・退去の手続きをすべて代行してくれる会社です。
通常、賃貸管理会社は、物件を貸したい人(オーナーさん)と、借りたい人(入居者さん)の間に立って賃貸借の契約手続きをします。
たとえばこの場合の家賃が月10万円だったとします。
「空室が心配であれば、家賃保証をつけることもできますよ」
と賃貸管理会社から提案があった場合は、契約相手が変わり、
物件を貸したい人(オーナーさん)と、賃貸管理会社で賃貸借の契約をします。
通常、月10万円の家賃の物件を、月9万円の家賃で賃貸管理会社に借りてもらうイメージです。(※)
そして、賃貸管理会社はオーナーさんから借りた物件に住む入居者を、月10万円の家賃で募集します。
※この例の場合、家賃の10%分が賃貸管理会社の収入になる設定ですが、家賃保証のコストは賃貸管理会社によっても、物件によっても異なります。
仮に、募集してもなかなか入居者が入らず空室が続いても、オーナーさんには関係のない話です。
なぜなら、オーナーさんが物件を貸しているのは賃貸管理会社なので、入居者の有無を問わず、毎月9万円の家賃が入ってきます。
家賃保証のためのコスト(この例の場合は、本来の家賃10万円と実際の家賃9万円の差額1万円)と引き換えに、
「空室で家賃が入らず自分のお金でローンを返済する」というオーナーさんが最も心配する空室リスクを回避することができます。
ですが、家賃保証には注意点があります。
冒頭にお伝えした賃貸管理会社スマートデイズ社の破綻は、家賃保証がなくなり、自分のお金(給与収入)では到底返済できない額のローンに直面したシェアハウスのオーナーさんが多数発生した、大きな問題になっています。
家賃保証の注意点①家賃は永久には保証されない
家賃保証の契約期間は、2年が一般的です。
通常の不動産の賃貸借契約も、2年が多いですよね。
それと同じです。
2年経過する毎に、家賃保証の契約を更新するか、解除するかを決めます。
更新の場合は、同条件(同じ家賃)で更新になる場合と、
条件変更して更新になる場合があります。
経済情勢や家賃相場の変動に柔軟に対応するために、契約期間が定められています。
先ほどの家賃保証の例で考えると、
毎月9万円の家賃で賃貸管理会社が借りてくれたとしても、
2年後に契約解除になるリスクや、
9万円の家賃が8万円の家賃に変更して更新になるというリスクがあるということです。
家賃保証を、
「9万円の家賃が永久に入ってくる」と誤った認識していると、
想定外の損失を被る可能性があります。
リスクを知らないことが一番のリスクです。
家賃保証の契約が解除されたら、自分自身が住むことも検討できる物件を選ぶ。
家賃が減額になったら、売却を検討する。
など、家賃保証のリスクを想定して自分なりの解決策を事前に持っておくと良いですね。
こういった「出口戦略」を一緒に立ててくれる業者で購入を検討することが望ましいと思います。
家賃保証の注意点②入居者がいないと家賃が払えない
「入居者がいなくても家賃が入ってくるのが家賃保証でしょ!」
と思うかもしれません。その通りです。
ところが、4月に破綻したスマートデイズ社は、
賃貸管理しているシェアハウスの入居率が悪く(=賃料収入が少なく)、
その結果会社の資金繰りが悪くなり家賃保証ができなくなったのです。
実は2年ほど前に仕事で資産運用相談をお受けした際、
「かぼちゃの馬車で不動産投資をしようと思っているんです!」
と話していた女性がいました。
20歳代半ばの看護師さんです。
年収400万円で1億円超の借り入れ、自己資金なしの全額ローン、しかもこの女性は貯金がほぼゼロ。
心配に思うことがいくつもあったので、
「家賃保証があると言っても、年収に対して借り入れの額が多すぎます。
まだローンの契約手続きをする前なので、購入を再考されてはどうですか?」
と、思ったことを正直にお伝えしたら、
残念なことにその後その女性からご相談の依頼を受けることがなくなってしまいました。
シェアハウスの購入を非常に楽しみにされていたので、嫌われてしまったかもしれません。その女性が購入を思いとどまり、今回の被害に遭っていないことを願うばかりです。
「空室になりにくい物件」に家賃保証をつける
一般的な賃貸管理会社の視点に立って家賃保証について考えてみたいと思います。
オーナーさんに家賃の支払いを約束しているわけですから、
入居者がいないと大赤字になってしまいます。
そのため、家賃保証をしている物件は入居者が途絶えないよう積極的に募集をします。
そして何より、【空室になりにくい物件】に家賃保証をつけるのが当然です。
あなたが賃貸管理会社の社長だったら、1年以上も空室が続いている物件の家賃保証はしたくないですよね?
空室にならない物件とは、部屋を借りる人が条件に挙げることの多い
「駅近」「築浅」「(アパートではなく)マンション」、等ではないでしょうか。
あなたが部屋を借りるときも、
このような条件で検索しませんか?
そのように考えると、家賃保証のつけられる物件というのは、
プロ(賃貸管理会社)が空室になりにくいと判断していることがわかります。
であれば、家賃保証をつけることのできる物件を購入し、実際には家賃保証をつけずに運用するという選択も、空室リスクを下げることに繋がるかもしれません。
(家賃保証がない方が、オーナーさんに入る賃料収入は高くなります)
スマートデイズ社「かぼちゃの馬車」から学ぶ、不動産投資の教訓
では、シェアハウスかぼちゃの馬車を運営していたスマートデイズ社の賃貸管理はどうだったのでしょうか?
販売したシェアハウスの立地や空室状況等の条件を問わず、
オーナーさんへ家賃保証をしていました。
かぼちゃの馬車は物件により条件が異なり、
駅近で立地がよいものもあれば、駅から離れているものもあります。
若い女性に人気の渋谷区・目黒区などは入居率も高かったようですが、
それ以外では入居者ゼロの空き家シェアハウスも複数ありました。
空き家に家賃保証をしていては、賃貸管理会社は大赤字です。
一般的な賃貸管理会社は賃料収入を増やすために入居者を積極的に募集して赤字を解消します。
ですが、スマートデイズ社の赤字解消法は、「新しくシェアハウスを建築して販売する」ことでした。
Aというシェアハウスが入居率が悪く赤字なので、
Bというシェアハウスを新たに建築し、それを販売して生まれた利益をAの家賃保証の原資に。
今度はBの家賃保証のためにCというシェアハウスを新たに建築して販売。
という経営を続けていました。
このしくみが成り立っていたのは、投資家へお金を貸す金融機関の存在です。
スマートデイズ社のシェアハウスかぼちゃの馬車のオーナーさんへ融資をしていたのは、ほとんどがスルガ銀行です。
スマートデイズ社は、シェアハウスの販売を伸ばして利益を上げたい。
スルガ銀行は、たくさん融資をして利益を上げたい。
お互いの利害が一致した結果、
不動産の売買契約書やローン審査の書類を改ざんし、
年収400万円の人が1億円超のローンを自己資金なしで組めるような状況ができてしまったのです。
ところが2017年末、スルガ銀行が融資の方針を変更、
新たに建築されたシェアハウスかぼちゃの馬車への融資をやめました。
これにより、スマートデイズ社は、家賃保証の原資である「シェアハウスの販売による利益」がなくなり、間もなくオーナーさんへの家賃の支払いがとまりました。
もしあなたが、このシェアハウスのオーナーさんだったらどうしますか?
入居者の多い物件のオーナーさんであれば、家賃保証がなくなった時点ですぐに賃貸管理会社を変え、
家賃保証なしで運用を続けられるかもしれません。
万一、入居者ゼロの物件のオーナーさんだったらどうでしょう?
家賃保証がなくなったとたんに賃料収入はゼロです。
仮に、1億円を金利5%(スルガ銀行の融資金利に近い水準)、期間35年で借りていたら、
毎月の返済額は50万円を超えます。
一般企業に勤める30~40歳代の会社員が返済できる額ではありません。
自己破産する方が出るのは当然です。
かぼちゃの馬車の事件は、
賃貸管理をしていたスマートデイズ社も、不正に融資をしていたスルガ銀行も非常に悪質ですが、
少し注意を傾ければおかしな点がたくさんあることに気づき、被害を回避することができました。
・家賃保証の契約期間は何年か
・その物件の過去の空室の状況は(入居者が付きやすいのか)
・購入額は自分の収入に見合っているか
・借入額は自分の収入に見合っているか(年収×5倍までなら安心、多くても年収×8倍)
・不動産投資用の予備資金(空室時のローン返済、修繕費、固定資産税の支払い等)はあるか
・安心して任せられる賃貸管理会社か
「家賃保証があるから安心」ではなく、「家賃保証がなくても、この物件とローンのプランなら安心」と思える投資計画と出口戦略を立てることが大切です。
記事・監修 川井えりか(ファイナンシャルプランナー)
【記事筆者】
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ファイナンシャルプランナー、マネーセミナー講師。
「10年後にお金を2倍にするマネープランニング」
「給料+10万円の副収入を作る」をコンセプトに、お金、投資のご相談を受ける。首都圏と札幌を中心に活動。
我慢を伴う「節約」は苦手。「お得にお金を使う」ことでお金の管理を楽しく簡単にします。